俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
暗紫色の強大な魔力、原初の魔力が一つ〝拒絶の闇〟と。
『ドリーム・ディメンション』によって増幅された〝破滅の光〟がぶつかり合い、拮抗する。どちらも一歩も退かない、せめぎ合いだ。
「諦めが悪いだの執念深いだの、胸を張って言い張る事じゃねぇーんだよッ!!」
俺は最後の力を振り絞ってハルベルトを投げた。
「『ヒーローズ・ヘイロー』ッ」
ハルベルトは光の粒子へと分解され、キータの身体に取り込まれていった。そしてキータの頭上に光輪が現れる。対象の身体能力を上昇させる、ちょっとした『エンハンス魔法』だ。効果は光属性が司る破壊と速さ。ハルベルトを触媒に発動する事で詠唱などを省略しているだけで、内容自体は基礎魔法の『第一光属性強化魔法(エンハンス・ライト)』と大して変わらない。
少しでも、キータ達の力になれればそれでいい。
「援護しますッ『異伝の39章外伝、勝利への希望』ッ!!」
シジアンが本のページを1枚めくる。壁状に展開され、攻撃を防いでいた〝破滅の光〟がキータの背を押す翼となる。
「私も、全力で応援するからね! 限界まで輝いてッ『ドリーム・ディメンション』!」
壊れていく飢えた世界を消し去るように、黄金色の優しい光に包まれた夢の世界が広がっていく。
みんなの思いを乗せた星の輝きは。
暗紫色の魔力を少しずつ、少しずつ押し返してゆき。
『うぐぐ、まさか、そんなっ』
一線を、超えた。
拮抗していた力が、一気に傾く。
星の輝きが瞬く。
『う、わぁーッ!!?』
〝破滅の光〟は、悪辣な〝拒絶の闇〟を撃ち払った。
暗紫色の魔力が光に呑まれて消えていく。
阻むモノの無くなった星型の魔力がトーラの身体を飲み込んだ。
同時に『エンデオブ・ダークゼロ』が構築していた世界がひび割れ、完全に壊れて消えた。『ドリーム・ディメンション』も限界を迎えた様で、黄金色の光も消えてゆき周囲の景色はすり鉢状に抉り取られた〝永久の森〟へと戻っている。
やがて星形の魔力が弾けて、消えた。
キータは真下の地面に着地する。
俺たち全員の視線が、トーラに集まる。
身体が半透明になり、ノイズのようなモノが走り。
足先から少しずつ、黒い粒子になって崩壊していた。
『あぁ……あー……』
仰け反り、空を見上げるトーラの、弱々しい声が――。
『ああっ! くふふ、あははははッ!!』
狂気的な笑い声で上書きされた。
『すごい、すごい、すごぉぉぉいッ!!』
最早質量も存在しないのか音はしないが、パチパチ拍手をしながら。
屈託の無い、けれど寒気を感じる凶悪な笑顔で俺達を見下ろしていた。
『負けるつもりなんてぜーんぜんありませんでしたー。あっちもこっちも、大敗北でーす』
未練も、後悔も、執着も無さそうに、楽しげな口調で続ける。
『心と心のぶつかり合い。命と命のせめぎ合い。くふふ、あはははッ! まさに人間の営みそのものッ!! とぉぉぉっても、楽しかったでーす!!』
トーラは俺達一人一人へと視線を移していった。
『〝世界の中心〟、でしたかー? あの子がそこそこやれるのはまぁ想定内だったのですがー。いやいや、現代(いま)を生きる他の皆さんも素晴らしーですね! こんな人間の営みを視られるなんて人類を守ってきた甲斐があると言うモノでーす』
もう下半身が完全に消滅し、腹から上へとどんどん崩壊していく。
『みんな、みんな、かわいーしかっこよかったでーす。でも――』
笑顔によって細められていた目を見開いて。
そのおぞましい視線が俺へと刺さった。
『やっぱり一番は君でーす。ちっぽけな魔力しか持ってないクセに、何度も傷つき、ボロボロになっても立ち上がるその姿! 人と人を結びつけ、絆を紡ぐその姿ッ! 見蕩れずにはいられませんでしたー』
トーラは残された両手を頬にあてて。恐らく、身体が残っていたらもじもじと腰をくねらせて居たのだろうなと思えるような動きで頭を揺らし。
『トーラちゃん、ファルマくんの事を好きだと言いましたがー。またまた前言撤回しちゃいまーす』
頬を赤らめ、恍惚で恐ろしい笑顔を向けて言い放つ。
『ファルマくんの事、だい、だい、だぁぁぁぁぁい好きでぇすっ!!』
「なッ!?」「ちょっと何言ってるのかなッ!?」
シジアンとアリスが仰天して一歩後ずさった。
俺は頭を抱えて、答える。
「言っただろ。アンタの〝好き〟は、歪み過ぎてて嬉しくねーよ……悪いけど他をあたってくれ」
『まーまー、そんな事言わずにー。えっへへへー!』
きっぱり断ってるのに聞く耳を持ちやしない。諦めの悪さと執念には定評があるとは本人の談だが……。
『トーラちゃんの目的は変わりませーん。これからも〝叶えられるべき願い〟さん達に力を貸していきまーす。きっと皆さんとはまた、戦う事になるでしょーね。次は負けませんよー』
遊び終わった友達でも相手にしているかの様に、トーラは気楽に手を振って。
『ファルマくーん、キミの事――ずぅぅぅっと、見てますからねぇー? もっともぉっと可愛くて、いじらしくて、かっこ良くて、素敵な所、みせてくださーい』
と言うだけ言って。
「はぁッ!? ふざけんな、おいッ!!」
『それでは今回はこの辺でー。ばいばーい』
トーラの姿は完全に消えて無くなった。
永久の森に降りた静寂が、戦いの終わりを教えてくれる。
その余韻を破ったのはシジアンだった。
「全く! 一体なんなんですかあの捨て台詞は!」
大層機嫌が悪そうに頬を膨らませている。いつも冷静沈着で凜々しいシジアンにしては年相応で可愛らしい表情だった。
「完全にストーカーじゃないですか! 先輩っ今後は身辺に気をつけてください!」
「お、おう……」
今まで戦って来たトーラの能力や口ぶりを見る限り〝気をつけて〟どうにかなるモノなのかは甚だ疑問なのだが……。
「……部長さんがそれ言うんだね」
何故かアリスはシジアンに呆れた視線を送っていた。
そして。
「まぁ、これで漸く――あれ?」
視界が揺れる。四肢から、力が抜ける。
「ハル君っ!?」
崩れ落ちる俺を慌ててアリスが受け止めてくれた。
「ご、めん、アリス、また迷惑――」
呂律が、うまく回らない。
「ハル君ッ! しっかりして、ハル君っ! やっぱり無茶だったんだぁっ! 身体左半分ちぎれてたんだからね!?」
「もしもし、ジン先生ですかッ!? そちらの状況はどうですか!? 重症患者を一名、早急に救援を要請したいのですがッはい、よろしくお願いしますッ!!」
緊張が解けたせいなのか。
俺の意識は一気に深く沈んでいった。