俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
それは、瞬く間の出来事だったみたいだ。
何年前かも判らない過去の記憶。思い返して見れば、ほんの一瞬だ。
「無事か、ドライズッ!」
心配したイクリプスさんの声が聞こえ、空を駆けて寄ってくる。今ココで僕が答えるべき言葉は。
「はい。問題ありません。そして、イクリプスさん。最後のチャンスを下さい」
イクリプスさんの前に手を出して、待ってて下さい、と手振りで伝える。
「最後の、チャンスだと?」
「まだ、一つだけ。試してない事がありました」
そうだ。あの青白い光が何だったのかは判らない。でも垣間見た記憶は、確かに僕のモノ。大切な、思い出。
「待て、なんの事だ!? お前の〝破滅の光〟はもう殆ど残って居ないはず――」
イクリプスさんの言葉を遮って、さっきまでとは全く逆の気持ちで剣の柄を強く握りしめて言い放つ。
「確かにその通りです。でも、僕はルクシエラさんの弟子である前に。〝破滅の光〟の継承者である前に――八天導師が一翼。氷の魔導を管理し司る者、〝氷天〟ドライズッ!!」
ファルマが僕のために作ってくれた剣。〝氷燐剣(中略)〟、正しくは『原初の魔剣ギャラクシーライト氷燐飾剣零式(ひょうりんかざりつるぎぜろしき)』。変な名前だけど、でも、大事な、僕の相棒。
「リーゼッ! アイルさんの元へ突撃して欲しいッ!」
僕の要請に、リーゼも、イクリプスさんもぎょっとした様子で答える。
「ドライズッ!? 何をするつもりだッ接近してもあの暗紫色の魔力に阻まれ、刻まれるだけだぞッ!」
「ドライズ、何か閃いたの!?」
二人の言葉への答えは、ただ一つ。
「僕はまだ『僕に出来る全て』をやっていない。諦めるのは。賭けに出るのは、その後でも遅くない。違いますか、イクリプスさん?」
「何を言う!? 今のお前に何が出来るというのだ!?」
「イクリプスさんの言うとおり、もう僕には〝破滅の光〟が殆ど残って居ません。でも――氷の魔力は、一切使って無い!! 全力を以て扱えます!!」
親友に貰った愛剣。〝破滅の光〟を刀身としていたその刃を、僕の氷の魔力へと切り替える。この剣の略称が〝氷燐剣〟である事、その由来は。僕が扱える属性が光と氷だから。氷はそのまま、燐は光を表す言葉だ。
「正気かッ!? 相手は未知の原初の魔力、通常の魔法が通じるとは考えにくいぞ!!」
「でも、まだ試していませんッ!! やれる事があるのに、やりもしないで諦めるんですか!? 諦めるのは、やってみてからでも遅くない――僕の相棒はいつもそう言ってました!!」
あいつは。ファルマは。僕を『主人公』と呼ぶ。
重い過去を背負っているから? それでも必死に努力して、生きているから?
師匠に恵まれ、仲間に恵まれ、色んな功績を残したから?
何だか、昔から、僕が何かをやる度にそれにかこつけて『さすが主人公』なんて言われてきた気がする。僕はただ、目の前の事に必死だっただけで。
もう二度と、大切なモノを失いたくなかっただけで。がむしゃらに生きてきただけなのに。
だから自分が、特別な存在だなんて考えた事は無い。
でも、ファルマが僕を『主人公』と呼ぶのは、あいつなりの最大限の祝福であり、信頼であり、憧れである事は判ってる。
その想いに、応えたい。
僕は、ファルマと出会えたから前を向けたんだ。
僕は、ファルマが居てくれるから戦えるんだ。
あいつが僕を『主人公』だと呼ぶのなら。
あいつの思い描く『主人公』であって見せようッ!
それが、僕を支え続けてくれるファルマへの――せめてもの恩返しだ。
「こんな時、最後まで諦めないのが『主人公』なんですッ!!」
僕の決意に呼応するように、胸に溶けていった筈の青白い光が再び輝き出す!
「ドライズ……?」
「これは――イーヴィルとは真逆の、暖かい、優しい願い……」
ああ。力が漲ってくる。僕の想いに、世界が応えてくれている。
「ドライズ、貴方、気付いたの……?」
気付いた? 何のことだろうか。そう言えばリーゼは〝僕のお陰〟とか〝僕じゃなきゃいけない〟って言ってたっけ。
「ううん。何も。リーゼがどうして僕を特別視してくれるのか。この光、この力がなんなのか全然判らない。でも――できる気がする。大丈夫だって、誰かが応援してくれてる気がする! だから、行くよ、リーゼ!!」
氷の刀身を最大限まで巨大にして、構える。
リーゼは見蕩れるように少しだけ間を置いて、答えた。
「最高速度で駆け抜けるッ! ドライズをアイルの所へ連れて行くんじゃ無い。お願い、ドライズ。私をアイルの所へ導いて!! 邪魔するモノを、切り開いて!!」
言葉と共に、ギュンと身体に重みを感じ、風景が無数の線へと変化する!
「待てッ二人ともッ!」
僕達の後ろを、イクリプスさんが付いてくる。これなら、もししくじっても大丈夫だ。
「ダメだったその時こそは、イクリプスさんに任せます! これが僕の、最後のあがきだッ!!」
背中でイクリプスさんに伝えると、イクリプスさんは――。
「ッ、良いだろう見届けてやる。やれるだけやってみろッ氷天ドライズッ!!」
背中から、応援してくれた。
目の前に、巨大な十字架に磔にされた上に鎖に縛られるアイルさんの身体が迫ってくる。そして、僕達の邪魔をするように暗紫色の魔力が立ちはだかった。
「負けるもんかッ! 助けられる〝かもしれない〟なんて許さない――」
僕は氷の剣を大きく振り上げて、全身全霊の魔力を剣に託す。
――力を、勇気を貸してッファルマッ!!
この剣を作ってくれた親友への想いを乗せて。
「絶対に助け出すッ!! 〝誰一人欠けることの無い学園生活〟、リーゼのその願いを、叶えて見せる!!」
ファルマが望む、『主人公』として。
僕は多くの願いが託された剣を振り上げた。