俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~   作:岩重八八十

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途中からドライズ視点


95話 ふぁ、へ、は、ハル君!?

 ああ。長い、とても長い夢を見ていた気がする。

 身体が重い。けど、そろそろ起きなければ。

 

 みんな、心配してるだろうな。――心配、してくれてるよね?

 

 ちょっと不安だ。案外、平気な顔してたりして。

 だって俺は。特別な人間じゃ無い。俺なんかが居なくったって世界は変わらず、回っていくんだ。

 

 ……でも、なんか。手が暖かった気がする。

 聞こえないけど、沢山言葉が投げかけられた気がする。

 ……うん。もう大丈夫だよ。起きるからさ。

 

「ぅ、ぁ……」

 俺は重たい瞼を開いた。

 

「懐かしい夢だったな……八天導師に入ってすぐの事だから……10何年か前?だっけか……」

 寝起きでぼーっとする頭で滑り出る言葉。ぼんやりと周囲の様子を確認する。

 

 部屋はほの暗い。僅かに明かりが付いているがあれは保健室の役員さん達の為のモノ。恐らく、夜。いや、夜中だ。俺は寝返りを打って周囲をさぐる。

 

 携帯端末、どこだろうか。きっと誰かが側に置いてくれている筈だ。探すと、ベッドの横にあるテーブルとか棚とかを兼用している台に俺のポーチがそのまま乗せてあった。

 身を乗り出してポーチを取り出す。身体が重い。だるい。どれくらい寝ていたのだろうか。形態端末を取り出して、日付と時刻を確認する。

 

 夜中の1時……二度寝したらまた朝に起きれる時間ではあるな。

 

 日付は――え、マジで?

 

 ひぃ、ふう、みぃ、と俺が最後に覚えてる日付から指折り数えてみて。

「俺――13日も眠ってたのか!?」

 思わず、叫んでしまった。すると、シャランとカーテンが開き。

 

「やーやーファルマくぅん。おはよぉ。その様子だと平気そうだねぇ」

 現れたのは初等部の生徒よりも更に小柄な桜色の髪をツインテールにし、だぼだぼの白衣を引きずる回復魔道士兼保険医兼この学園の最高権力とされる三賢者が一人、ジン先生だ。

 

「お、おはようございます……」

「これでみんな、漸く安心できるねぇ。色んな人が、君の事ぉ心配してたよぉ」

「そうですか……」

 みんなに心配をかけた事に申し訳なさを感じつつも、心配してくれた事に少し嬉しさを感じてしまった。

 

「シジアンちゃんから大体のお話は聞いているけどぉ、大変だったみたいだねぇ」

「ははは、俺は殆ど何もできませんでしたけどね」

「またまたぁ。君が居たから〝拒絶の闇〟を追い払えたでしょぉ? シジアンちゃんは、そう報告してたよぉ」

「――〝拒絶の闇〟」

 その単語が、脳裏に引っかかる。あの戦いのあと、何か、大変な事になったような。

 

「トーラ、って名乗ってたんだっけぇ? まさか〝原初の魔力〟に人格があるなんてねぇ」

 ジン先生の言葉に、俺の記憶は鮮明に蘇っていく。

 

 ――そして、思い出した。

 

「――ジン先生。俺、体調多分大丈夫です」

「ん? うんー。そうみたいだねぇ。でも念の為に検査を――」

 その言葉を遮って。

 

「いや。大丈夫なので。明日から学校、復帰させてください。お願いします」

「えっ、いや、流石に数日はぁ様子見をぉ――」

「約二週間も遅れをとってるんですッ! 検査なら今すぐ受けますから! お願いしますッ!」

 俺は頭を下げて懇願する。

 

「――悪いけど、君はぁ、そんなに熱心な生徒じゃ無かったよねぇ? なのに、どうしたのぉ?」

 ジン先生は困ったように、そして俺の心の内を見定めるように首を傾げた。

 

「無駄な時間を、生きる訳にはいかなくなったんです。だから……お願いします」

「……これはぁ、重症だねぇ。でもぉ、カウンセリングは専門外だぁ。仕方ないしぃ、いいよぉ。検査してあげるぅ。後は君なりにぃ、やりたいようにやってごらん」

 ジン先生は俺が何かを抱え込んでしまった事を確認して、要望を受け入れてくれた。

 

     ◆  ◆  ◆

 

 僕はその日も、中々寝付けない夜を過ごしていた。そして漸く寝付いたと思ったら。

 ガチャガチャと何が玄関から音が聞こえる気がする。

 こんな夜中に、誰だろう。でも部屋に入って来れるって事は、先生か、師匠とか、それか……ファルマ?

 

 ぼんやりと、夢とうつつの境目でそんな事を考えながら。

 ごそごそ、がさがさ聞こえる物音。でもそれは、生活的で。そして僕が起きないように最小限に配慮されているように感じた。

 

 誰かな……ファルマな訳、無いよね。あいつが起きたとしても数日は保健室で経過観察だろうし。師匠がこんな気配りするかな? って、流石に失礼か……。でも、多分、敵じゃない。大丈夫……寝よう……。

 僕はそんな風に思って、睡魔に身を委ねまどろんでいった。

 

 次の日の朝。

 日の出前、いつもの時間に目が覚める。

「んーっ、快眠とはいかないけど。いつも通りの――え?」

 朝を迎えたと思って居た。電気を付けようとしたら。

 

 下の方で明かりが灯っている。僕は二段ベッドの上段から身体を乗り出し、下をみおろした。するとそこでは。

 

「えっ」

 

 ファルマが、スタンドライトだけを照らして机に向かって勉強している姿があった。

 

「えええッ!? ファルマ!?」

「ああ、ドライズ。おはよう。もうお前が起きる時間か」

 ファルマは背中で、何事も無かったかのように答える。

 

「いや、おはようはこっちの台詞って、何してるの!?」

「見たら判るだろ? 二週間近く寝込んでたんだぞ。遅れる授業範囲の確認だよ」

「ええっ!? なんで!? 病み上がりな上に勉強嫌いの君が、どうして!?」

「俺の事はいいから、早く支度しろよ。弁当とか作ってるんだろ? 間に合わなくなるぞ」

 ファルマは僕の疑問をことごとくスルーして、当たり前の様に勉強を続ける。

 

 確かにファルマの言うとおり、いつも通り活動しないと、時間がずれてしまう……。僕は釈然としない気持ちのまま、いつも学校に行くとおりの準備を始めた。

 

 それから数時間後。お弁当の用意もできたし、朝ご飯も食べた。制服にも着替えた。普段は朝ご飯は食べずにギリギリまで寝ているファルマにも、今日ばかりは朝ご飯を渡してみたら、勉強しながら食べていた。

 

 そして、僕が出発する時間。僕はいつも、ファルマより先に寮をでて師匠の部屋の掃除や、早めに教室について自習などを行っている。

 

 そして。

 

「あ、出るのか。じゃあ俺も」

 と、ファルマも立ち上がる。ファルマは勉強中既に制服だったから、普段持ち歩いてるポーチを携えて、開いていた教科書をリュックにしまい背負うだけで準備完了だ。

 

「え、あ、一緒に出るの?」

「早いに超した事は無いだろ? 時は金なり、だぜ」

 ファルマらしくない事を言う。いつものファルマなら、だからこそ〝睡眠時間は何よりも大事なんだ!!〟って言ってギリギリまで寝るのに。

 

 二人で並んで歩きながら、寮の玄関に着くと。ファルマはそこで立ち止まった。

「どうしたの?」

「ああ、いや。こっちの用事だよ。お前は先に行ってて良いぞ」

 と言われたモノの。今日のファルマは様子が明らかにおかしい。

 

「用事って? ていうか本当にもう動いて大丈夫なの?」

 と、ついつい尋問みたいに問いただしてしまう。

 

「大した事じゃ――あ、来た来た」

 詰め寄る僕からファルマは視線を背けた。

 

「ふわぁ」

 視線の先では眠そうに大きなあくびをしていたアリシアさんの姿があった。

 

「おはよう、アリス。眠そうだな」

「ほわぁっ!!?」

 ファルマがアリシアさんに語りかけると、アリシアさんは目を白黒させて飛び上がるほど驚く。

 

 当然だ。だって昨日まで昏睡していた人間が突然朝っぱらから元気そうに語りかけてくるのだから。しかもそれが普段の素行が悪いファルマ! 

 2度、3度驚いても仕方が無い。

 

「ふぁ、へ、は、ハル君!? 本物だよね!? 夢じゃないよね!?」

 アリシアさんはわたわたしながら慌てて身なりを整える。

 

「お、おはようアリシアさん。多分、本物だと思うよ」

 僕はアリシアさんの方に寄り添って、語りかけた。

 

「にしても、アリスってばいつもこんなに早くから起きてるのか? 俺が登校する時間より随分早いけど」

「いや、だって一応、ハル君がいつ起きるか判らないから早めに起きてきた時の為にできるだけ早く――じゃなくて! ここしばらくはハル君が居なかったから、その、一緒に学校に行けないのが寂しくて、早く教室に行っちゃおうって――でも無くてッ!! ああっ私何言っちゃてるんだろう!? 今すっごく恥ずかしい事言わなかった!? ていうかあくび見られたぁ!」

 アリシアさんは表情をコロコロ変えながらわたわたと戸惑うばかりだ。

 

「見られて恥ずかしいものだったのか? それは、ごめん。無神経だった」

「いや、そりゃ女の子は異性にあくびしてる所なんて見られたくないでしょ。ファルマ、相変わらずデリカシーなさ過ぎだよ」

「だから悪かったって」

「ああ、ドライズ君とのそのやりとり、やっぱり本物のハル君……!?」

 

 未だ混乱が収まらないアリシアさんを微笑ましく見つめ、ファルマは僕達より一歩前に出る。

 

「ま、みんな揃ったんだし登校しようか」

 

「ファルマの用事ってアリシアさんの事だったの?」

「ああ。いつも待って貰ってる側だったからたまには待つ側をやってみたくてさ。まさかこんなに早く来るとは思わなかったけど。でも、嬉しいな。久しぶりにアリスと一緒に登校できるなんてさ」

 と、普段なら恥ずかしがって絶対言わないというか言うまでにだいぶんもじもじするような台詞をすらすら吐く。

 

「……ドライズ君、これ、ホントにホントのハル君?」

「……僕も、自信無くなって来た」

 明るいファルマをよそに、僕とアリシアさんはお互い、眉をひそめて向き合っていた。




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