俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~   作:岩重八八十

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シジアン視点


外伝95.4話 ボクがこの世界で〝願う〟事は。〝ファルマ先輩の幸せな生活〟ただ一つ

 部活動の時間、普段なら先輩はアイテム一つの制作に着手して大体時間の半分を目安に作業を切り上げて、残りの時間はボク達と適当なお話をしたりして過ごす。

 しかし今日の先輩は違った。額に汗を滲ませながら、マジックアイテムを2つ、3つと作り上げ。そして活動時間が残り半刻になったところで。

 

「あーッ疲れたっ! 流石レンの魔法陣、一筋縄じゃアイテム化できねぇよ」

 と少しだけ目減りした山積みの設計図の束を撫でるように触りながら言う。

 そして。

 

「ごめんシジアン、今日の活動はここで切り上げて、帰っても良いか? 他にやりたい用事があるんだ」

 と切り出してきた。ボクは即座に答える。

 

「はい。今日もお疲れ様です先輩。ですが病み上がりですので、あまり無茶な事はしないでください」

 

 と、無難な受け答えをして。

「ああ、判ってるよ。俺にできる範囲で、できる限りの事をやるだけさ」

 部室を去って行く先輩の背中を見送った。

 

 数秒の間。

 

 ボクは、もう今日何度目かも判らないが椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。

「追いますッ!」

 と言って先輩の後に続こうとするボクのローブをアリシアさんが摘まんで止める。

 

「ま、まって部長さん!」

「何故止めるのですか!?」

「確かにハル君の様子がおかしいのは気になるけど、保健の先生も許してる事なんだし、これ以上詮索するのは、なんていうか、私たちストーカーになっちゃうよ……。ハル君にはハル君の考えがあるみたいだし、暫くそっとしてあげるのも一つの道じゃないかな?」

 アリシアさんは迷うように目を逸らしながら言う。

 

 ボクは一旦深呼吸して、

「ボクの目を見て下さい、アリシアさん」

 と、言った。アリシアさんはおどおどしながら、目を合わせてくれる。

 

「アリシアさんだって本心では心配しているんでしょう? 何が正しい行動なのか判断できないから、迷って、目を逸らした。違いますか?」

「それは、そうだけど……」

 

 図星だったようでアリシアさんの目が泳ぐ。

 

「なら、ボクは行かせていただきます。アリシアさんがどういう選択をするのかは自由です。が、少し前にお話した事、忘れてる訳ありませんよね?」

「勿論、覚えてる。部長さんにとってハル君がすっごく大切な人だっていう事は」

「以前に伝えた言葉に付け加えます。ボクにとって先輩は、好きだとか嫌いだとかそう言う次元に存在していません。〝シジアン〟という存在の前提なのです。先輩はボクの父であり、兄であり、仲間であり、先輩なのです。ボクにとっての幸せは――ボクがこの世界で〝願う〟事は。〝ファルマ先輩の幸せな生活〟ただ一つ」

 

 例え、この世界に居るファルマ先輩が、ボクの記憶の中にいるファルマ先輩と違う存在であるとしても。あの人が〝ファルマ〟という人間である限り。ボクはあの人の幸せを〝願い〟続ける。

 

「今の先輩の状況は明らかに健全ではありません。口ではできる範囲でなんて言っていますがあの様子では本当にできる限り、力尽き倒れるまで何かをやり続けます。そんなモノ、幸せである筈がありません。ボク達の知らない何かが、先輩を縛り付けています。ボクはそれを解明し、先輩を救う。この意志は、堅く、真っ直ぐなモノだと自負しています。迷いのある言葉で引き留められるだなんて思わないでください」

 と、アリシアさんに伝えた。

 

「……ごめんね、部長さん。私が悪かった。ハル君が何をするのも、部長さんが何をするのも、二人の自由だよね」

「その通りです。先輩はいつも言っていました。ルクシエラ先輩の受け売りで、〝自分がしたい事をやってこその人生〟との事です。アリシアさんも、迷っているのならば。答えを考えてみて下さい。周囲や他人など余計な事を一切省いた、〝自分の素直な気持ち〟を」

 アリシアさんは自分の心と向き合うように目を閉じた。

 

 そして、数秒も経たないうちに。

 

 再び開かれたその瞳からは、迷いが消えていた。

「私だってハル君が心配なんだからねッ! 私もついて行く、良いよね、部長さん!」

「はい。すぐに先輩の後を追いましょう!」

 ボク達は二人揃って、部室を後にした。

 

 先輩の匂いを辿って行き先を推察する。先輩は学園の校門に立っていた。ボクとアリシアさんは先輩に気付かれないように近くの茂みに身を隠す。すると、

 

「あっ」

「えっ」

「……考えることは皆同じ、ですか」

 と、水色のポニーテールを揺らす中性的な顔立ちの先輩。ドライズ先輩と鉢合わせた。

 

「い、いやこれは別に、部活の時間なのにファルマが外に居るのを見かけて気になっただけであって、決してのぞき見とか監視とかそういう意味じゃなくてだね、ただ朝から様子がおかしいからなんだろうなって――」

 慌てて言い訳を連ねるドライズ先輩の肩にボクは手を乗せる。

 

「ドライズ先輩。言い訳など無用です。ボク達みんな、同じ気持ちですから」

 暖かい表情を作ってそう伝えると、

 

「えっ、あ……そっか」

 ドライズ先輩は戸惑いつつも、納得した様子を見せた。

 ボクの横ではアリシアさんが気まずそうに余所を向いている。

 

「同じ穴の狢ってヤツだよね……」

 と、一言だけこぼした。

 

 ボク達はお昼休みの時の様に三人頭を並べて、先輩の動向を探る。

 すると、校門から学園内にある人物が入ってくる。

 

「ん。ファルマ、起きたのか。そんなところで何をしている? まだ休んでおくべきだとおもうがな」

 それは、この学園で最も強い魔法使い。〝破滅の光〟の継承者にして〝英雄〟と呼ばれる存在。イクリプス様だ。

 

「いえ、ジン先生から許可は貰っています。それよりイクリプスさん、お待ちしていました。一つだけ、お願い事があるのですが、聞いて貰えませんか?」

 先輩は緊張した様子で、やや声を震えさせながら言う。

 

 先輩に取ってイクリプス様は〝特別な存在〟そのものだ。ルクシエラ先輩とは長い付き合いがあるからこそ砕けたやりとりができるモノの、付き合いの薄いイクリプス様を相手にすると気が引けてしまうのだろう。

 

「お前が、姉貴ではなく俺にか? 珍しいな。耳を貸そう」

 イクリプスさんがそう答えたのを確認して。先輩は即座に――

 

「俺に、槍術――いえ武術を教えて下さいッ!!」

 と素早く慣れた身のこなしで土下座した。

 

「……ハル君ってば私以外にもするんだね、土下座」

「あいつは何かあるととりあえず土下座するよ」

 と、語る両脇の二人はおいておいて。イクリプス様は先輩の言葉に。

 ため息を零して、先輩から目を離す。視線が、ボク達のかくれる茂みへ移った。

 

「っ!?」

 アリシアさんがドキッとしたように胸に手を当てる。

 

「ありゃーバレてるな、これ。後で怒られるかも」

 ドライズ先輩の言うとおりだろう。イクリプス様はボク達が先輩を見張っている事に気付いて。その上で。何かを思案し、答える。

 

「悪いが、他を当たれ」

 それがイクリプス様の解答だった。

 

「やはり、迷惑ですよね――ですが、俺にも引けない理由があるんです。そこは無理を通してでも、どうか、お願いします!」

 先輩は土下座したまま、再度希うが。

 

「そういう話では無い。百聞は一見にしかず、だな。顔を上げろ。そして見ていろ」

 イクリプス様はそう言うと、近場の樹木へと近寄る。先輩は言われたとおり、土下座したまま顔を上げてイクリプス様の行動を見ていた。

 

 イクリプス様は手頃な太さ長さの枝を選び、一言「悪いな」と言って簡単に手折る。

 そして折れた枝の棒を握って、その木から距離を取り。

 構えを作り、一振り、木の枝で一閃した。

 

 すると。その軌跡は白い尾を引き、〝木の枝を振るっただけなのに〟元々枝が付いていた木を、そのまま。幹からまるっと一刀両断してしまった。

 

「見ての通りだ」

 その有り余る破壊の力に、先輩も、そしてボク達三人も口を開けて呆然とする。

 

「日常生活の行動は問題無い。だがな、俺は少しでも〝戦闘態勢〟を取ってしまえば力の加減が効かなくなる。これはもう、戦い続けてた結果染みついてしまった癖だ。今更どうにもできん。これでは、訓練用の木刀ですらお前の腕を切り飛ばしかねん。お前も、一月のウチに二度も腕を飛ばされたくは無いだろう?」

 

 と、先輩に歩み寄りながら、イクリプス様は語った。

「そ、そうっすね……」

 先輩は冷や汗をたらし、真に〝特別な存在〟の圧力を知らしめられた様に困惑していた。




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