俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
俺は星にはなれない石ころだ。そんな俺なんかでも〝八天導師〟に入った以上はその職務を全うしなければいけない。その義務感、責任感がどこから来るモノなのかよく思い出せないけれど。俺は〝八天導師〟という組織が大好きだ。
ついこの間できたばっかりなのに、何故か。
だから。〝八天導師〟である事に恥じない為に。強くならなきゃいけない。トーラは俺を常に見ていると言った。このちっぽけな俺の、くだらない人生を見続けると。
もう、無駄な時間なんて過ごせない。俺は俺に出来る全ての事をやる。見られてるっていうのなら、尚更。〝八天導師〟の名に。そして俺を支えてくれる人達の顔に泥を塗る事なんてできない。俺は〝立派な人間の人生〟をトーラに見せつけてやらなけばいけないんだ。
『二連朱槍ッ』!!
挨拶代わりに繰り出す、俺の得意技。ハルベルトを投げて、二つの火炎弾に変換し攻撃する魔法だ。
「『刻印よ。我が命、魂を薪とし、炎を灯して燃え上がれ。この身朽ち果てるまで、その炎に風を送り続けましょう』」
胸と局部にしか装甲の無い半裸の装備であるナギ。その左胸側が胸のプレートを突き破る程に目映い鮮血の様な紅い輝きを放つ!
「『サクリファイスの刻印』」
言葉と共に、ナギの四肢に血管の紅い筋が浮かぶ。次の瞬間には、目に追えない速さで
火炎弾を回避する。気がつけば一気に間合いを詰められていた。
――想定通りッ!!
『刻印』を使用したナギの強さなんてクラスメイトの誰もが認める所だ。初撃が躱される事も、一瞬で間合いが詰められることも、折り込み済み。
その上で――賭けに出る。
序盤も序盤、始まったばかりで賭けなきゃいけないなんて、俺の弱さが浮き彫りになってしまうが。ここで賭けにすら負けるようなら。運にすら見放される程度であるならば。
俺の人生なんて結局その程度のモノだ!!
辛うじて見えた刀の軌跡は、右から俺の首へ真っ直ぐ向かってきていた。
――なら、左だッ!
理屈も、根拠も無い。ただの勘。これが、賭けだ。俺は白い石で出来た盾を左側面に構えて防御を固める。
ナギが目を剥くのが見えた。何故ならその瞬間に。ナギの刃は〝左から〟俺の首を狙って振られていたからだ。
フェイント攻撃である。右からの斬撃に見せかけ、途中で柄を手放す。そして下方に構えた左手で刀の柄を〝逆手に〟握り、左から逆手で斬りかかる。
人間元来の筋力で逆手を以て刃を振るう事は非効率的とされるが『刻印』によって強化されたナギの力なら、多少威力が落ちても十二分に致死的な一撃になり得る。
それを、凌いだ。
盾は鈍い音を立てて一瞬で砕け散る。そう設計した。砕け散る事で斬撃の威力を分散させる。『刻印』付きのナギさんなら〝盾ごと首を〟切り兼ねないと考えたからだ。
同時に。俺へ向けられた渾身の一撃、その力を利用する。
盾が砕けると共に俺は左から右へ大きく吹き飛ばされた。踏ん張ることも、立ち向かうことも無く、ナギの力に身を任せたからだ。宙を舞いながら、唱える。
「『破魔のルクスエクラ』ッ!!」
盾に使った石。それは贅沢にも巨大な『フェア・クリスタル』である。それがバラバラになってナギの周囲に舞ったのだ。範囲や強度の指定なんて要らない。ただ適当に希釈した破滅の光を放出するだけで。バラバラになった石の一粒一粒が白い光の球を広げていく。流石のナギも光の速度からは逃れられない!
『破魔のルクスエクラ』には攻撃力が無く、代わりにエンハンスやエンチャントと言った〝魔力を付与する事で効果を発揮する魔法〟を分解し、無効化する。ナギの左胸で紅く輝いていた『刻印』がその効力を失い、曇る!
「ッ『神威』!!」
『刻印』が使い物にならなくなったと判断したナギは即座に二の矢、『神威』を発動する。これは胸を中心に四肢へと筋が伸びていく、鎧と呼ぶにはあまりにも特殊な形状をした具足に『刻印』を応用した魔法陣が埋め込まれたマジックアイテム。
鎧としての物理的質量の奥に『刻印』を改良した魔法陣が刻まれ、内側から鎧に強力な筋力補助能力をもつ『神威』は『破魔のルクスエクラ』単体だと鎧そのものに阻まれて内部の魔法陣まで光が届かない。故に、『破魔のルクスエクラ』だけでは失活する事が出来ない。
――だとしても!
『刻印』が切れたら『神威』を発動する事は判っていた。『刻印』だけでなく『神威』の対策まで、俺は考えて居た。
理屈は単純。薄い光が届かないなら、濃くしてやれば良いだけの事。光は、反射と屈折によって、同じ量であったとしても一点に集中させる事が出来る!!
「『ミラーズ・ミラージュ・リフレクション』ッ!!」
これは、アリスの魔法の改造版。本来は鏡を生み出し鏡に映った鏡像を幻影として出現させ相手を惑わせ、鏡そのもので攻撃も防御も出来る。それを逆に〝鏡〟としての性能に振り切った魔法。
ナギの周囲ではバラバラに砕けた『フェア・クリスタル』が個々に球状に光を展開して、その光の多重結界にナギは取り込まれている状態だ。そこの結界の八方に〝鏡〟を出現させる。するとどうなるか。
個々に輝く希釈された〝破滅の光〟が、8枚の鏡によって反射され、中央のナギへと向かう。単体の『破魔のルクスエクラ』では届かない物理的な壁も、8倍以上に一点集中された光の棘なら突き刺さる!!
「名付けて、『
俺は今なお空中で吹き飛ばされつつも指先では魔法陣を描き始めつつ伝えた。
ナギは膨大な光の球と反射する光の棘に刺され、『神威』がボロボロと崩れ落ちる。
それでも、
「ハァッ!!」
刀の一振りで8枚のウチ目の前を塞ぐ一枚の鏡を叩き割った。ナギが光の結界から飛び出すが、もう遅い!
一度失活した『刻印』も『神威』も再利用するにはしばらくの時間がかかる。少なくとも今の戦闘が数時間にも及ばない限りは二度目は無い。
たとえ『刻印』や『神威』が無くとも、身体能力で俺はナギに負けている。三日前に嫌というほど思い知らされた。だから、この〝距離感〟が大切だった。ナギが吹き飛ばしてくれたお陰でおれは今彼女の間合いに居ない。
そんな空中で魔法陣を描き、詠唱を唱える。
「『求めるは第四の叡智、督するは炎。原初の炎を宿す者。擬えうるは人智の極致。蜷局を巻きて悉くを滅却せよ』」
それは、俺が使える魔法のなかでもっとも威力が高く、射程も長いモノ。
槍、ローブ、魔石、そしてこの身体全てを触媒にして、めいいっぱい背伸びして習得した、本来なら〝プロ級〟の魔法使い達が扱う『第四階級』の基礎魔法!
「『
炎で構成された龍が、蜷局を撒いて俺の周囲に現れ、ナギめがけて一直線に空を駆け抜ける!
これは常識だ。火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。四大元素の四すくみ。
ナギが持つ属性は風と土。土属性は堅さと癒やしを司る属性。ナギがクラスに置いて土属性専攻なのはその癒やしの性質を応用した『回復魔法』を習得する為だ。故にナギの土属性の魔力は攻撃としては考慮しなくて良い。そもそも土魔法は基礎魔法も岩石による物理的攻撃を目的としているせいで射程が短く、これだけ離れていれば問題無い。
そして、度々口にしたり、使っているように。ナギが本来得意とする攻撃属性は〝風〟属性だ。俺の火属性魔法との相性は最悪である。
賭けに勝った。メタも貼って、『刻印』も『神威』も封じた。
そして、相性に勝る俺の最大限の火力を放った。
――勝てるッ!! 他人の力、魔法ばっかりだけど、それでも、ナギに! 特別な才能を持つ星に、並ぶ事が出来るッ!!
俺は全ての炎の魔力を『
攻撃として扱う風の魔法は『
ナギに相性不利の第四階級基礎魔法を打ち破る術など無い。炎の龍の規模は大きく、躱すことも出来ない。
けれど――
向かってくる炎の暴力に対してナギは。冷静に見つめて刀を構えていた。
「っ!?」
――ああ、そうだ。俺は、やっぱり強く無い。どうして、こんなに簡単な事に気がつかなかったのだろうか。俺は散々、ナギが使う『刻印』や『神威』にメタを貼る――対策を講じて、戦ってきた。
相手の手の内を知っていたからこそだ。
なのにどうして――
〝ナギが火属性魔法への対策を持っていない〟
と決めつけてしまったのだろうか。俺がクラスで火属性専攻である事。ナギ自身がその属性の相性が悪いこと。それを知った上で向こうから決闘なんて仕掛けて来たのだ。
――ナギだって、火属性にメタを貼っていて当たり前じゃ無いか……。