俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
大の字で倒れる俺の横に座ったナギは言葉を続けてくれる。
「それでは、本題といきましょう」
「えっ今までのが全部導入だったの!?」
力尽きて身振りのリアクションは出来ないが俺は思いっきりびっくりした声で言った。
「貴方の強さを踏まえた上で――果たして武術が必要なのか? それが私の考えた事です」
「なんで? 曲がりなりにも槍を握ってるんだ。習得するに超した事は無いだろ」
「果たしてそうですか? 貴方の戦い方は、基本的に魔法道具を駆使して貴方に繋がる人達の力を借り、時と場合に応じて使い分ける臨機応変なモノ。そして、攻撃手段はその場によって決めます」
「まぁ、確かにそうだけど」
「この決闘の最後、気付きませんでしたか? 貴方は『神威』を纏って、槍術としてはデタラメな槍の振るい方をしました」
自分でやった事だ。忘れる訳も無い。
「ああ」
「あれは、実は私のように〝型にはまった人間〟を相手にする程効く行為なのです。素人が見よう見まねで〝型〟をなぞるより、ただ力任せに、がむしゃらに攻撃した方が〝型〟が存在しない為攻撃が読みにくい。〝型〟を習うという事は同時に〝その型の弱点〟も身につけてしまいます。そこまでして正式な武術を覚える必要性が貴方にあるのか、甚だ疑問です」
「そういう、もん……なのか? 武道には詳しく無いから、俺には理解できないけど」
頭がこんがらがってくる。強くなるために、武術――槍術を覚えるべきだと思ったが、ナギはその必要性に疑問を感じているとの事だ。
「これは、ファルマ君が特殊なのです。何故なら、貴方は――圧倒的に攻撃への対応能力、『受け』が上手い。それはもう、武術を嗜んだ事のない人間としては異常な程に」
「『受け』……?」
何だか、何処か、遠い昔の記憶に同じ言葉を使った気がする。
「模擬戦も含めて、私が何度貴方の急所を狙って攻撃したか判りますか?」
「ええ、ナギって基本的に急所狙ってくるだろ。首とか心臓とか肝臓とか。回数なんて判らないよ」
「その通りです。私は〝全て人体の急所〟を狙って攻撃しました。これは、私達はこの国の人々と違い魔物では無く人間同士で戦を行っていた為に付いた癖です。そして貴方はそんな私の急所攻撃を、ほぼ全て『受けきって』います。そして『受けきれなかった』としても反射的に〝致命傷を避ける〟レベルです。決闘の最後、私の『神刺(かんざし)』は心臓を狙って放ちましたが貴方が受けたのは左の二の腕。急所は外れ、もし実戦であれば腕は跳ねられてもまだ、命は残ります。魔法使いならば片腕でも魔法で戦えますし逃走も狙える。実に理に適った『受け方』です」
言われて、思い出す。
そう言えばトーラとの戦いもそうだった。トーラ曰く『結構本気の攻撃』で俺の首を狙ったところ、俺は身躱してなんとか致命傷を避けて腕だけの被害で済ませたのだ。無意識のうちに同じ事をナギとの決闘でもやっていたのか。
「特定の流派に属さず、このような『受け方』を身につけているという事は――恐らく、あなたは我流で長い時を経てその技を磨いていったものだと思われます」
「それ、少し前に別のヤツにも言われたけど身に覚えは無いんだがな……」
トーラも言っていた。俺は場数を踏んでいるから弱く無いと。でも実戦で戦っている回数なんて他の生徒とそこまで大した差は無いはずだ。
「その辺りはこの学園、というかこの国に生きる人々全てに言える事なので、あまり深く考えなくても良いでしょう。ともかく、ファルマ君という一人の戦士は臨機応変な攻撃能力と、十二分に備わった防御能力を兼ねた存在である、と私は判断しています」
「自分の事、そうやって評価されるの照れくさいな……俺は、俺の事弱いと思ってたし」
なんとか腕だけを動かして頬を掻く。
「それから、私が新兵にいつも言っていた事は『まずは何でもできる様になれ。出来ない事を減らしていけ』です。兵士に求められるのは孤立した状態でも生きて行ける能力。それは戦闘能力だけではなく最低限のサバイバル知識や医療知識なども含めてあらゆる能力が求められるので」
ナギの、教官としての一面と。そして。苛酷な〝戦乱の世界〟で新兵を指導するナギの姿が思い浮かぶ。
「しかし新兵を卒業し、一兵士に昇格した後は逆に〝個性を伸ばす〟事が求められます」
「どういう事だ?」
「生き残る為にはあらゆる能力が必要で、まずは平均的に。なんでもできる様に教育する。それが終わった後は、個々の適正を伸ばし、それらを組み合わせて部隊を組みます」
「へー、そういうもんなんだ」
俺は知らない知識に感心して零すが、
「他人事の様に言っていますがファルマ君――というかこの学校の四年生以上の生徒は授業の一部として実戦で戦っていますし座学や訓練などで生存の為の基礎知識もしっかり身につけており新兵のレベルには無いと見受けられます。その上で、果たしてファルマ君の個性を考えて。戦闘において攻撃も、防御も十分に能力を備えている今のファルマ君に武術が必要なのか。ファルマ君が目指すモノが武術の先にあるのならば、それも一つの道かと思いますが、どうですか?」
ナギの問いかけに、俺は素直に答えた。
「何にも考えて無かったよ。ただ、槍を握ってるから槍術も覚えるべきなんじゃないかって漠然と」
「でしょう。で、あるならば。武術は貴方に不要かと。ヘタに新しい分野に手を伸ばすのでは無く貴方の得意分野を伸ばすべきだと考えます」
そこまで言われて、本当に、本当に、ナギが俺という一人の人間を見てくれて。俺に寄り添い、何が俺に適切な行為なのが全て考え尽くされて居た事に気付くことが出来た。
「ありがとう、ナギ。俺の為に、そこまで考えてくれて。ここまで、付き合ってくれて」
まずは感謝を伝えなければと思った。
「いえ。こちらこそ。いつか恩を返したいと思って居たので、お力になれて何よりですよ」
いつの間にか夜になってしまっていた空は、満天の星が広がっていた。
一つ一つが綺麗に煌めく満天の星空。
その星空に手を伸ばして。
「俺の得意なこと――マジッククラフト、か」
そう言って見たら。
「クスッ」
ナギに笑われてしまった。
「え、なんで笑うの?」
「いえ、すみません。悪気は無いのです許して下さい」
「いや全然怒っては無いけどさ」
ナギは俺を諭すように言う。
「魔法道具の制作技術も確かに貴方の得意分野ですし、結果的にそれも伸ばす事になりますが――それよりももっと大切な。貴方が守り、育むべきものがあるでしょう?」
「……え、なにソレ知らない」
言われて、考えてみても思いつかなかった。マジッククラフトに関しては触って数ヶ月しか経ってないのにシジアンにはプロ級って言われたし確かになんとなくなれた感覚があるから得意だと思ってたのだが。それよりも大切なもの?
ナギさんは俺が答えにたどり着けなさそうな事を予感して、言った。
「貴方が。〝仲間〟と呼ぶ人々との絆ですよ。貴方の魔法道具は、そんな人々が貴方に〝力を貸しくれる〟から作り上げる事ができるのでしょう? 貴方が私とレンさんを引き合わせ、繋げる事で『神威』を作った様に。ファルマ君はファルマ君自身と、誰かと繋がり、その誰かの〝力を借りる〟。そうやって〝借りた力〟を魔法道具という形にする事で自分を強くする。それがファルマ君のスタイルで、得意分野です」
……今日で、もう、何度目だろうか。
また、俺は大粒の涙を流していた。脳裏にはドライズ、ルクシエラさん、アリス、シジアン、レン、それだけじゃ無い。次から次に、俺に関わって。俺に力を貸してくれて。俺のマジックアイテムを作る事に協力してくれる人達の顔が浮かび上がってくる。
「最後に、あの時言った言葉をもう一度ファルマ君にお伝えしましょう。今日こそは素直に受け止めてくださいますよね?」
ナギはそうやって前置きした後、あの日。ナギが言ってくれた言葉を繰り返してくれた。
「貴方の作る道具は、貴方にしか作れない物です」
嘗て言われて目を背けたその言葉は。俺の胸の中に溶けてゆき、暖かさが全身に広がっていった。