俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
結局。次に目が覚めた時俺は保健室に転がされていた。今度こそ数日間の検査入院との事だ。でも、今の俺には目覚めた時の様な焦燥感は無かった。
全部、ナギのお陰だ。ナギは恩返しだなんて言ってたけれど。『神威』は俺も利用している魔法だ。『神威』の開発と改良は俺にもメリットのある行為である。なのに恩返しなんてされては――恩返し返しをしないといけないな。
俺は安静に寝てろと言われているのでベッドに寝転んでずっとそんな事を考えて居た。
ナギだけじゃない。ルクシエラさんや、アリス、シジアン、レン、勿論、ドライズ。俺を助けてくれる、支えてくれる人達の絆を大切にする為に。
もっと、色んなアイテムを作ろう。俺は天才じゃ無いから、画期的な新発明なんてできないけれど。日常生活のささやかな助けになるような、そんな便利なモノを作れば少しは喜んでくれるかも知れない。
「あ、でもその前にレンから貰った魔法陣全部アイテム化しないとだったな。結局部活は当面忙しいままか」
なんて、自分で言って笑ってみる。
そして数日の検査期間を経て。まぁ元々元気に決闘なんてできる程完全復活していたのでマジでただ寝かされていただけなんだけど。
俺は改めて、学校に復帰した。
もう、無茶な勉強なんてしない。とはいえ、〝八天導師〟になった以上は最低限の努力はする。普通の授業はサボらない。サボるのは自習だけだ。
いや自習も頑張れよッ! て言われたら返す言葉も無いけれど。
復帰1日目の授業はあっという間に過ぎていった。
自習時間を跨いだ昼休みに、いつも通り木陰でお昼寝をする。
目が覚めた時にはまた、いつも通り俺を挟んでハルカとキータが眠っていた。
あれだけの事件があったのに、この二人は気持ちよさそうにお昼寝をしている。
そんなありふれた光景を見るだけで。
ああ、幸せだな。
って、思えるようになった。
俺が今まで、無価値だと思っていたモノ。俺が今までずっと直視できなかった光に、漸く足を踏み入れることが出来た気がする。
ここは、優しい世界だ――。
だからこそ、守りたい。
俺の胸では紅い羽根の勲章が今も輝いている。
〝第四の賢者〟はこの幸せな時間を、優しい世界を、めちゃくちゃにする。
看過することは出来ない。
ナギは俺を強いって言ってくれたけど。イクリプスさんが言ったとおり戦う度に寝込んでばかりじゃいざって時に困るだろう。前回寝込んだのがたしか3日。今回が13日。これだと次は23日くらい寝込むかもしれない。そうなったらもう、ルクシエラさんが何をしでかすか判らない。くわばらくわばら。
俺は強くなる。ならなきゃいけない。その意志は変わらない。ただ、もう手段は間違えない。
復帰二日目の朝。
「ファルマー僕はもう行くよー? 病み上がりで無茶するのも良くないけど、ソレを言い訳にだらけるのも良くないからねー?」
と言って早い時間に出ていく相棒に。
「うあー」
と適当な返事を返して二度寝する。
そして時間ギリギリになってから速攻で着替えて、寮の玄関へ。
入り口では、いつも通りアリスが待っていてくれた。
「おはよう、ハル君! 昨日も今日も、いつものハル君で安心しちゃった!」
とアリスは笑ってくれた。
「ああ。もうあんな無茶はしないよ」
そして二人で、短い道のり、僅かな時間を並んで歩く。アリスとの関係性も、一旦整理しなきゃいけないな。
俺は友達としてやり直そうって言ったけどアリスの態度は相変わらず思わせぶりで、植え付けてしまった偽りの恋心は多分そのままだ。いつか、清算しなければならない。だというのに、この登校時間すら愛おしく思ってしまう俺は、相変わらず意志が弱いな。
だって俺は未だにアリスの事好きだからさぁ……嬉しいか嬉しくないかで聞かれれば嬉しいに決まってる。けど、それは醜い自作自演。アリスにしてしまった行為への罪滅ぼしは、アリスが正気に戻るまで永遠に続く。今はただ、その時になるまで。嬉しい気持ちと罪悪感に挟まれながら、耐えるしか無い。
楽しいのも、苦しいのも。全部含めて俺の人生なんだ。
その時だった。
快晴だった空、丁度太陽を雲が遮って影が差す。少しだけ昏くなった世界で。
俺はふと、足を止めた。
「ごめん、アリス。時間ギリギリだけど少し待っててくれるか?」
「え、良いけどどうしたの、突然」
「いや。あいつに少し、言ってやろうと思ってさ。アリスは先に行ってて良いぜ?」
俺は少しだけ後ろに下がりつつ、そう言ってみるが。
「ううん。待ってる。だめかな?」
と、アリスは付き合ってくれるみたいだった。なら、仕方ない。アリスにも聞かれるのは少し恥ずかしいけれど、でも。大事な事だ。
俺は影が差した空を見上げて、声を張り上げて言った。
「今も見てるんだろ、トーラッ!!」
アリスは驚いた様子で、口元に指を当てる。
「起きてからの数日、俺が悩んだり泣いたり、笑ったり、全部見て、楽しんでたんだろ?」
返答なんて無い。でも判ってる。あいつは。トーラは。歪んだ価値観を持っているが〝嘘〟は吐かなかった。だから、俺を大好きだと言った言葉も、ずっと見てるって言葉も真実に違いない。だから、返事なんてなくても、続ける。
「あんたの好きは歪んでるから嬉しくないって、前には言ったけどさ。俺も、前言撤回してやるよ」
トーラが使っていた言葉を借りて、俺は俺の意志を示す。
「俺なんかの人生を、見ててそれでも〝楽しい〟ものだって思ってくれるのなら。それはそれで喜んで受け止める。見たいなら、好きなだけ見てくれればいい。それで楽しんでくれるなら、それはそれで嬉しく思うよ」
「ハル君!?」
アリスは俺の言葉に戸惑うが、もう心の中で整理を付けた事だ。問題はない。
「だってそれは、道ばたの石ころでしかない俺を拾い上げて〝特別だ〟って思ってくれたって事なんだろ? 俺に、俺の人生に、価値を見いだしてくれたって事だ」
俺はもう、自分や、自分の人生を無価値なモノだなんて思わない。
ナギが気付かせてくれた。俺を〝特別扱い〟してくれる人が居る限り、俺はその人にとっての〝特別な存在〟なんだ。例えその実態が、何の変哲もない石ころであるとしても。
だから。
「俺は、俺を受け入れてくれる人を、認めてくれる人を、〝特別だ〟って言ってくれる人を、拒まない。その気持ちを、大切にする。その気持ちに、応えたいと思う」
例えトーラの考え方や愛し方が歪んでいるのだとしても。俺なんかを〝大好き〟だといってくれた言葉が本心なら、その気持ちには応えなければならない。
「だけどッ! お前がまた、俺達の前に敵として現れるのなら。イーヴィルを育み、平穏を壊そうとするのなら。俺は〝八天導師〟の一翼としてお前と戦う」
俺はこの優しい世界と、平和で、楽しい学園を守ってみせる。ドライズ達と、肩をならべて。俺なりの力で、俺なりの強さで。
「悩んだり、迷ったり、空回ったり、苦しんだり。俺は主人公じゃ無いから色々回り道をするかもしれない。だとしても俺はいつだって――」
ギュッと拳に力を込めて。
太陽を隠し影を作る雲へ向けて、俺はいつの間にか口癖になっていた言葉を言った。
「俺に出来る全てをやるだけだッ!!」
俺が叫んだ言葉は、木霊となって消えていく。
最初から最後まで、返事が返ってくる事は無かった。
やがて。雲は流れ、影は消えて再び太陽が顔を出す。
「……それだけだ」
俺は空を見上げていた頭を戻して、アリスの横にならんだ。
「時間取らせちゃってごめん。行こう、アリス」
「ううん。良い言葉だったね。私ちょっと感激しちゃった。ハル君、立派になったね……」
「アリスは俺の親なの??」
「ちょっと! 女の子を子持ち扱いするのは失礼なんだけどね!?」
「ごめんごめんっ! 早く学校へ行こう! 遅刻するって!」
俺はアリスの手を引いて、学校へ駆けだした。
何よりも優しく、楽しいこの世界で。
平凡な俺の非凡な日常(コメディ)はこれからも続いていく――。