俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
学園全体を巻き込んだあの事件が収束して3週間。
目を覚ました後も一悶着あった俺が落ち着きをとりもどすのを待っていたかのように。
クサさんと言葉を交わしたその日の昼に、八天導師は全員校長室に集められていた。
「うむ、漸く皆揃ったな」
ティアロ校長は、割と広い校長室内に並ぶ俺達八天導師と、部屋の隅っこの方で壁に背中を預けて目を閉じているイクリプスさんへと順に目をやり、頷く。
校長先生の両サイドには俺のクラス担任であり三賢者の一人であるセレナ先生と同じく三賢者の一人であるジン先生が寄り添っていた。
「事件から暫く〝第四の賢者〟の動きは無い。ひとまずは現状で知り得た情報を八天導師とイクス達、そして我々三賢者で共有したいと思って集まって貰った」
と、言った後校長先生はコホンと咳払いを一つして。
「が、その前に。どうしても一言、言いたいという者が居るので聞いてやって欲しい」
とアイルさんに目配せをする。
するとアイルさんは並んで立っていた俺達の列から踏み出し前に出て。
真剣な眼差しをぐるりと俺達や、先生達に向けた後。
すぅ、と大きく息を吸い込んで――
「マジすんませんでしたァッー!!」
と豪快に土下座をした。その勢いたるやぶわりと風が部屋の下から突き上げる程だ。
その場に居た大半の者達は苦笑いを浮かべてアイルさんを見下ろしている。俺はと言えばこの土下座参考になるなと思って居た。
すると、そんなアイルさんの目の前にルクシエラさんが仁王立ちして。
「全く。まんまと敵の術中に嵌まるとは情けない事ですわっ」
と、悪い笑顔を浮かべると。靴を脱いで土下座するアイルさんの頭の上に片足を乗せた。
「ちょ、や、やり過ぎじゃないですかぁ……!?」
真面目なアーシェがあわあわと取り乱して、止めようとするが。
「なぁに、気にすることは無い。あれはルーシーなりの気遣いだ」
と、イルゼルナさんがぽんっと肩に手を乗せ嗜める。
あの事件の中心にイーヴィルと化したアイルさんが居た事は聞いている。が、聞く限りそれは〝第四の賢者〟による謀略の結果だ。
アイルさんは自身が原因で学園全体を巻き込む大事件を起こした事を悔やんでいる様子だが本当に悪いのは〝第四の賢者〟である。それは本人が一番よくわかっている筈。それでも尚こうして頭を下げるのは、自分自身を許せないという気持ちが。負い目が残って居るからだろう。……その気持ちは、俺にも覚えがある。
そんな中。ルクシエラさんは事件そのものでは無く〝敵の術中に嵌まった〟事を責めた。
そうやってアイルさんが背負い込んでしまったモノを半ば強引に削りとったのだ。
「八天導師総帥の名が泣いてますわ! けれど、相手は生意気にもティル爺達と同格、〝賢者〟を名乗る存在。口先だけではないようですわね」
アイルさんの頭に片足を乗っけたままルクシエラさんは続ける。そう。〝決して踏みつけては居ない〟。ただ、乗せているだけだ。
「これに懲りたら、今後一人で交戦するような真似はしない事です」
言い切ると、足をどかし靴を履きなおして。ルクシエラさんは元の位置に戻る。
「姉貴の言うとおり、相手が悪かっただけだ。そう思い詰める必要は無いと思うがな」
部屋の隅から、目を閉じたままイクリプスさんがそう付け足した。
ルクシエラさんとイクリプスさん、そしてアイルさんはティアロ校長先生を師とする兄弟弟子だ。
負い目を感じているところを、ただ言葉だけで許されたとしても自分自身を許せない事がある。絵面は酷いモノだったがルクシエラさんはああやって〝見せかけの罰〟を与える事でその気持ちを少しでも晴そうとしたのだろう。
相変わらず、不器用な人だ。
「今回の一件、アイルに落ち度は無かったと他の皆も納得してくれるな?」
ティアロ様の言葉に、その場に居た全員が頷き肯定した。
「と、言う訳じゃ。気は済んだか、アイル?」
校長先生の言葉を受けて、アイルさんは少しだけ黙り込んだが。
「みんなが、そう言ってくれるならー……」
と、立ち上がり、俺達の元へ戻ってくれた。完全に吹っ切れた様には見えないが、少しは心が軽くなったように見えた。
「会議を始める前に、もう一件だけ付き合って欲しい」
このまま会議が始まるモノかと思って居たら校長先生がそういうモノだから驚く。
「ドライズ、ファルマ。前に出て貰えぬか」
そこから更に、名指しされたモノだから俺もドライズも、
「ふぇっ!? あ、は、はい!」「う゛え!?」
と変な声を出してしまった。ただ、呼ばれた以上は前に出るしか無い。
突然の事なのでこれから何を言われるのか判らず、ドキドキして緊張の汗が滴る。
チラリと視線だけ送ってみるとそれはドライズも同じようだ。
そして、今度はティアロ校長先生が土下座までとは行かずとも、深々と頭を下げた。
「事件の収束に大いに貢献してくれた事、誠に感謝する。お陰で生徒の全てを守る事が出来た。学園を管理する者として改めて礼を言わせて欲しい」
その言葉に俺は半歩ずりさがって、当惑した。
「そんな、ドライズはともかく俺何もしてないっすよ!? 腕斬り飛ばされて眠り込んでただけなんすけど!?」
そんな俺に、ティアロ先生は頭を上げて真摯な瞳を向け。
「シジアンから仔細報告を受けて居る。お主が未知なる原初の魔力〝拒絶の闇〟と交戦し、更なるイーヴィルの顕現を食い止めた、とな」
「アレは俺じゃ無くてシジアンやアリス、ハルカやキータ達が頑張ったからで――」
「じゃが、その中心に居たのも。その皆を率い、導いたのもお主であると〝拒絶の闇〟自身が言ったのであろう?」
トーラに言われた言葉とナギに教えられた事を想いだして俺は反論の言葉を失う。
「他ならぬ、相手がそう認めたのじゃ。誇れ。これはお主の功績である」
ただ、やはりまだ俺は校長先生の顔を直視できなかった。やっぱり、俺としては大した事が出来なかったと思って居るから。
でも、ナギのお陰で俺はほんの少しだけ、進めた気がするんだ。
俺の強さ――大切な仲間や、友達との繋がりを大切にするって決めたから。
「あ、ありがとうございます。でも、その言葉は俺個人では無く、一緒にトーラと戦ったみんなのモノとして受け取らせて頂きます」
と、お辞儀を返した。
「やれやれ。礼を言うのはこちらだと言っておるのに、ままならんヤツじゃ」
ティアロ様は俺のそんな態度をクスリと笑い、
「ドライズは素直に受け止めてくれるな?」
と視線をドライズに移す。
「え、えー、その、この流れで振られるのはもう、言外の強制では」
俺はまだ詳しくは知らないがドライズの方も色々あったようだ。トーラとの戦いの最中〝拒絶の闇〟が一度だけ振り払われ、トーラが退いた瞬間があった。俺はあれをドライズの成果だと考えていたがやはり間違いでは無かったようだ。
「トドメを差したのはイクリプスさんですけど……」
ドライズは視線を部屋の隅にいるイクリプスさんに向けるが、
「お前が居なければ俺はアレをアイルごと斬っていた。アイルを守れたのはお前が居たからだ」
と、イクリプスさんが補足する。どうやらアイルさんは人質のような状態になっていた所をドライズが救い出したらしい。
「なんだ、やっぱりやる事やってんじゃねぇか。流石〝主人公〟」
俺はにやっと、いたずらに笑ってドライズをからかった。
「イクリプスさん!? ファルマまで!」
逃げ場がないと悟ったドライズは恥ずかしそうに呼吸を整えて。
「ティアロ様のお言葉、確かに受け取りました……」
と、お辞儀した。
「うむ。それでは、会議を始めるとしよう。立ち話もなんじゃ。ファルマ、円卓を作ってくれぬか?」
「あ、はい」
ティアロ校長先生が突然指示を出してくるが、その手の無茶ぶりはルクシエラさんでなれているので。俺は手持ちの魔石を使って、校長室の中心に大きな円卓と座席をマテリアライズする。
あっという間に終わらせられる仕事だったので何も考えて居なかったが。
「うむ。良い手腕じゃ。ファルマ、この規模と速度のマテリアライズは学生の領分を外れている事を自覚しておけよ? お主の武器の一つじゃからな」
と、校長先生に褒められて俺はまたもや、
「うぇ!?」
と変な声を上げてしまった。