俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~   作:岩重八八十

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103話 〝究極のイーヴィル〟を産み出す!?

 八天導師と三賢者が円卓を囲う。イクリプスさんだけは依然として部屋の片隅の壁に背中を預けたままだ。

 

 いざ会議が始まるという雰囲気に俺はハッとなって手を上げた。

「あ、あの! そういえば俺、トーラに見張られてるんですけど会議とか参加しても大丈夫なんですかね? 敵に情報が筒抜けになっちゃうんじゃ……」

 

 俺の言葉に、ティアロ先生は落ち着いた様子で答えた。

「その件についてもシジアンより聞き及んでおる。厄介な事ではあるが、だからといって八天導師内でお主だけ情報を共有しない訳にもいくまい」

 

 更に、部屋の片隅から。

「〝拒絶の闇〟が超常的な存在である事は戦ったお前が一番よく判っているだろう? お前に限らずとも相手は常にこちらの動向を捉える事ができる可能性は捨てられない。ならば、〝相手に傍受されている事を前提に〟会議をすれば良いだけだ」

 とイクリプスさんが語った。

 

「のぞき見している輩がいると言うのなら見せつけてやれば良いのですわ!」

 続くルクシエラさんの言葉。

 

 そして、

 

「今後に関してはイクスの言う方針で行く。こちら側の戦力、武器、作戦は全てカイに把握されている前提で、最大限の警戒を行い対応をする。最も恐ろしいことは不意を突かれる事じゃ。初めから判っている事であればある程度の対処はできる筈じゃ」

 というティアロ先生の言葉に、アーシェがおずおずと

「え、えっとぉ、つまり、相手がこちらの弱点を把握しているのならその弱点を庇うような行動を心がければ良い、という事ですね?」

 と言って話を纏めてくれた。

 

「うむ。それでは会議を始める。今回は主に、各々手に入った情報の共有が目的じゃ。シジアン、後は任せる」

 名指しされたシジアンは落ち着いた様子ですくりと立ち上がった、

「皆様から提供して頂いた情報を整理しました。まずはそれをこの場で共有します」

 シジアンはモノクルをキラリと輝かせいつも抱えている巨大な本を開いて堂々と語り始める。

 

「まず第一の情報です。〝第四の賢者〟こと敵対魔道士カイの目的が推察されました。彼は人を故意にイーヴィル化させる魔法、『クラウンド・ダークマター』によってアイル先輩をイーヴィルへと変じさせ、更に〝拒絶の闇〟を付与する事で既存のイーヴィルの枠組みをはみ出した脅威、〝クラス4〟のイーヴィルを発生させました」

 慣れた様子でその手に抱える巨大な本の、ページをめくった。とても最年少とは思えない貫禄だ。

 

「アイル先輩の記憶から聴取した情報により〝第四の賢者〟カイの発言を整理した結果、彼の目的は『究極魔導』を作り出す事である、という結論に至りました」

「ふむ、なんだその『究極魔導』とは? 言葉の通り受け取るのならば最も優れた魔導、なのだろうが大の大人が使う表現としては随分と単純というか、稚拙に感じるな」

 イルゼルナ先輩が何気なくそう首を傾げた瞬間。

 

「「「うぐぅッ!!?」」」

 

 三つのうめき声が重なって校長室に響いた。思わず、シジアン以外の俺を含めた八天導師皆が驚いてざわめく。何事かと思い円卓に座る面々を見渡すと、胸に手を当て苦悶の表情を浮かべていたのは、この学園のトップたる三賢者達だった。

 

「ちょ、先生達大丈夫ですかッ!?」

 びっくりした様子でドライズがガタッと立ち上がるが、

「ふ、古傷が痛んだだけです。気にしないでください」

「『究極魔導』の事は、追々伝える、今はカイの目的を聞いてくれ……」

「誰だってぇ若い頃はぁ色々やらかすものなのさぁ~」

 と三者三様に目を泳がせていた。

 

 こほん、とシジアンが咳払いをひとつした。それで皆一息吐いて乱れた場の空気が整えられる。

 

「〝第四の賢者〟カイが目指す『究極魔導』とは、即ち〝究極のイーヴィル〟を産み出す事である、というものがボクと三賢者の皆様の見解になります」

 

 「〝究極のイーヴィル〟を産み出す!? なんじゃそりゃ!!」

 俺は思わず口をあんぐり開けてしまう。

 

「驚くのも無理は無い。ワシ等とてそう仮定して尚信じられぬ気持ちもある。が、カイがアイルにした事、そして一連の行為を〝臨床試験〟と称している事からそうとしか考えられぬのじゃ」

 校長先生も、腑に落ちて居なさそうな様子だ。

 

 改めて考えてみてもやはり、意味がわからない。〝究極のイーヴィル〟なんて作り出して、一体どうするつもりだというのか。

「〝究極のイーヴィル〟を産み出す、ねぇ。私も研究者の端くれですけれど、まるで意味が判りませんわ。そんな事をして、なんのメリットがあるのだか」

「……同意。意味不明。あんなの何の役に立つの?」

「ルーシー達の言うとおりだ。しかも〝第四の賢者〟はそれを『究極魔導』などと称するつもりなのだろう? 魔導とは魔力を持って人の世を良くしていくものだというに。イーヴィルなどとは真逆の存在ではないか」

 ルクシエラさん、レン、イルゼルナさん達が首を傾げて言葉を交わしていた。

 

「イーヴィルを育むだなんて、それじゃあまるで――」

 いつの間にか口に出ていた俺の言葉に、シジアンが重ねて言う。

「はい。先輩のご想像の通りです」

 

「そうか、そういう事か!!」

 

 〝究極のイーヴィル〟を産み出す事そのものの意味は判らない。しかし一つだけはっきりと見えてきたモノがあった。

「だからトーラは〝第四の賢者〟に自分の原初の魔力、〝拒絶の闇〟を貸し与えているのか!!」

 

 確信を持った俺の言葉に、自然と視線が集まる。そして、

「ファルマ。一人で納得してないでどういう事か説明してくれない?」

 とドライズに言われる。

 

「〝第四の賢者〟の思惑は全く判りませんけど、俺はトーラと戦って、言葉を交わして、あいつの考えてる事なら嫌って言うほど判るようになりました」

 俺は立ち上がってみんなに説明をした。   

 

 トーラはイーヴィルの様な人の心の欠片からこぼれ落ちた醜く歪んだ願いであっても〝叶う権利がある〟〝人間と対等である〟としてイーヴィルを育んでいた。

「トーラは人間の全てが大好きなんです。良い所も、悪い所も、本当に、全てが。俺達がイーヴィルと呼んでいる魔物は、トーラ曰く〝叶えられなかった人の願いが吹きだまりになって淀んでしまい産まれる存在〟だそうです。簡単に言ってしまえば、人間の負の感情そのもので、本来ならば認めてはいけない存在――でもトーラはそんな〝人の醜さ〟すら愛するが故に、俺達が〝悪〟だと思って切り捨ててしまった感情も報われるべきだと主張していました」

 

 俺の言葉に、シジアンが付け加えた。

「だからこそ〝第四の賢者〟の目的が〝究極のイーヴィル〟を産み出す事ならば、それはそのままトーラが〝第四の賢者〟に力を与える理由になります。〝第四の賢者〟カイが何を考えて居るかまでは当人にしか知り得ません。ですが、カイとトーラの結びつきを見いだす事ができました」

 

 もっと踏み込めば、〝第四の賢者〟がこうやって争いの火種を産み出している事実そのものがトーラにとっては最高の娯楽である〝人の営みそのもの〟だ。トーラは俺達と〝第四の賢者〟との戦いを俯瞰して、楽しんでるに違いない。

 

「カイとトーラの関係性は不明です。正式に契約を取り交わし結託しているのか、それともトーラが気まぐれに〝拒絶の闇〟を貸し与えているだけなのか、この辺りは追って情報を集めるべきでしょう。ひとまずは、一つ目の情報はここまでです」

 

「ご苦労であった、シジアン」

 ティアロ先生がそう言うと、シジアンは軽くお辞儀をして席につく。

 

「それでは、一旦休憩と致しましょう」  

 セレナ先生がそう言って端末を取り出し指を数回動かす。

 

 すると。

 

「お疲れ様です。マスターそして八天導師の皆様方。お茶とお茶請けをお持ちしました」

 と、校長室に数段の棚の中に人数分の食器やティーポット、クッキーなどが乗せられたカートを押して白と紺色のスーツを着た男性が一人入ってくる。確か、高学年を担当している教員の一人だ。

 俺は紅茶とクッキーを受け取って、一つ口に放り込んだ。

 




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