俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
自分が〝破滅の光〟以外の原初の魔力を宿していると知らされ困惑するドライズに、セレナ先生が告げる。
「それが、そもそもの勘違いの始まり。盲点だったのです」
「どういう事ですか!?」
「ドライズ君が〝破滅の光〟を宿している事は事実。けれどそれは正式な〝継承〟では無かった。だからこそドライズ君の〝破滅の光〟は正式な継承者であるルクシエラさんやイクリプスさんの持つモノよりも規模が小さく、制御が効きやすい状態だったのです」
「それってつまり……」
ティアロ先生がセレナ先生に続く。
「ドライズの宿す原初の魔力、〝明鏡の氷〟の特性とは即ち〝他の原初の魔力をその身に宿し、扱う事〟だと我々は判断・認定した」
校長先生の言葉に、校長室は一瞬だけシンと静かになった。みな、視線はドライズに向いているそして同時に、これまでのドライズの功績や戦いを思い返しているのだろう。
「情報の整理により、ドライズ先輩自身は自身の氷の魔力を行使した前後の記憶が曖昧であると聞いていますが記録を確認させていただいた結果『明鏡雪華』『明鏡暗夜』といったそれまでドライズ先輩が使用した事のない魔法の発動を確認しました。〝明鏡の氷〟という名前はそれを参考に付けられたものです」
沈黙を破るシジアンの情報を受けて俺はドライズに問いかける。
「お前、そんな魔法使ったのか?」
「みたい、なんだ。正直あのときは目の前の事に精一杯で細かい所を覚えてないんだけど、イクリプスさんとリーゼの証言、それからシジアンちゃんの能力から確認されてるんだ」
ドライズの言葉を裏付けるように、部屋の隅から低い声が聞こえてくる。
「俺は今まで、ドライズの〝破滅の光〟が俺やルーシーに及ばないのはまだ未熟だからと捉えていた。しかしそれが〝別の原初の魔力の効果による模倣〟であったとすれば。〝明鏡の氷〟が、〝対象の原初の魔力を100%模倣出来るわけでは無い〟とすれば、説明が付く」
イクリプス先輩の考察は非常に興味深い。
……が。正直、ずっと思って居た事が気になって仕方ない。
今更かも知れないし、空気を読めてないかも知れないけれど。
俺は遂に言ってみた。
「あの、イクリプス先輩。ここまで本格的に会議に参加するんならそんな部屋の隅じゃ無くて円卓に着いてはどうかなぁ、なんて?」
校長室の片隅、様は角っこで壁に背を預け腕を組み目を閉じ俯きながらちょいちょい会議に口を挟
むイクリプスさんの姿は、その、何というか。かっこいいんだけど、何か凄く違和感がある。
「……」
ひえっ!! 俺の言葉に、閉じられていたイクリプスさんの片目が開き、眉間に皺を寄せて視線が俺に飛んで来る。やっぱり余計な事を言ったかもしれない!
けれど、イクリプスさんは。
「良い機会だ。他の皆にも知っておいて欲しい」
と言って壁に預けていた背を離し、真っ直ぐ立って円卓を見渡した。
「俺は、姉貴とは真逆だ」
「ふんっ」
突然引き合いに出されたルクシエラさんは、続く言葉を理解しているようで不機嫌そうにそっぽを向く。
「大切なモノほど、遠くに置いておきたい。輪の中に入るなんて、柄じゃ無い。だからこの場はここで良い。姉貴やアイルは切っても切り離せない以上の繋がりがあるからな、そこは半ば諦めているが。他の八天導師の皆は俺の事は仲間だとは考えないでくれ。ただ、偶然目的が一致している他人が同席している、そう受け取って欲しい」
レンほどでは無いにしろ口数が少ないイクリプスさんにしては饒舌に、その胸のウチを言葉にしてくれた。
「それって、つまり私たちの事を〝大切に想ってくれている〟という事でしょうかぁ……?」
おずおずとアーシェが確認すると、
「……好きに解釈しろ」
イクリプスさんはぷいっとそっぽを向き、元の部屋の角っこに戻って壁に背中を預けた。こういう細かい仕草がルクシエラさんにそっくりで流石は双子だと思う。
そんなイクリプスさんの姿を見つめるアーシェの瞳には何処か憂いが感じられた。アーシェは生真面目な性格だから、仲間は仲間としてきちんと輪を作って行動したいのかもしれない。
「……話を元に戻すぞ。シジアン、頼む」
ティアロ先生の呆れた声が聞こえてきてハッとした。
「情報を整理した結果〝明鏡の氷〟の効果は現時点では〝他の原初の魔力をその内に宿す代わりに効力をやや低下させる〟モノだと考えられて居ます。根拠は、ドライズ先輩が〝破滅の光〟を最大出力で扱えない事の他、先輩が開発した『フェア・クリスタル』の材料となっている事が挙げられます」
言われてみて、俺は納得がいったが、ドライズの方はバッと俺の方へ顔を向けて。
「待ってッ!? ファルマが倒れてる間に実際に使ったから『フェア・クリスタル』っていうマジックアイテムは知ってるけど僕の魔力が関わってるなんて初耳なんですけど!!」
と、捲し立てる。
「あーっと。『フェア・クリスタル』は〝破滅の光〟を限界に希釈する為に作った器だ。でもソレ単体だと〝ただの器〟だろ? 〝希釈する〟っていう事は〝薄めるために同時に入れる魔力〟が必要になる。それで手持ちの魔力で色々試してみたら、お前の氷の魔力を足していく事でドンドン〝破滅の光〟が薄まっていく事を発見したんだ」
と、説明してみたら。
「手持ちの魔力って何!? 僕、君に氷の魔力を直接手渡した記憶無いんだけどなんでそんなモノ持ってるの!! いつ、どうやって採取したの!? ねぇっ!!」
とドライズは凄く驚いた様子をみせるものの。
「話が逸れてきていますので、続いて〝拒絶の闇〟の情報共有に移りましょう」
と、シジアンが口を挟み。
「まってっ!! これ、僕の何かしらの権利が侵害されてる気がするから流さないで欲しいんだけど!!」
と、納得のいかない様子のドライズに。
「……痴話喧嘩は後で」
とレンが少しだけ口元をにやけさせながら言った。
「痴話喧嘩!? これ痴話喧嘩なの!? 違く無い!!?」
と、ドライズは納得いかない様子だったが会議は次の情報へと移行した。