俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「それでは、今回の会議で共有する最後の情報です」
説明しっぱなしで流石に疲れてきたのかシジアンの額に汗が滲んでいる。シジアンは袖で汗を拭い巨大な本のページをめくった。俺はその様子を、何故か保護者みたいな気持ちで〝あとちょっと頑張れ!!〟って思っていた。なんで? 我ながら何様だよ。
「〝世界の鍵を握る者〟ユウさんについてです」
記憶喪失の少女、ユウ。
ドライズ曰く、突然空から降ってきた記憶喪失の女の子。白から黒へとグラデーションしている彗星の尾の様に長く美しい髪が印象的で、神秘的な見た目とは裏腹に子供っぽい、あどけなさの残る無邪気な性格……くらいが俺の知っている情報だ。クラスメイトの詳細を殆ど把握していない俺にしては頑張っている方だと思う。
「私、彼女の護衛をしていたのですけれどイクスとドライズがイーヴィル化していたアー坊と交戦していたと思われるタイミングで、突然別人の様になって青白い謎の魔力を空へ放ちましたわ。その一連の行動を本人は覚えていない様子でした」
ルクシエラさんの言葉で、ドライズとイクリプスさんがハッとした。
「あの光はユウ由来のモノだったのか。なるほどな……」
「あの光景はユウさんが見せてくれたんだ……」
どうやらユウさんの行動がドライズ達に影響を与えたらしい。
「ドライズ先輩の記録・証言によればユウさんの放った青白い魔力はドライズ先輩に〝過去〟の記憶を垣間見せた様です。それが結果としてドライズ先輩が氷の魔力を使用するきっかけ。ひいては〝明鏡の氷〟を宿していると自覚するきっかけになりました」
「〝過去の記憶〟?」
このメンバーの中でドライズと特に付き合いが長いのは間違い無く俺とルクシエラさんだ。気になって聞いてみると。
「うん。ファルマが水性魔物に『第一火炎魔法(フレイム)』を撃ってほぼ無効化されて泣きついてきた時の記憶」
ガンッと俺は円卓に頭をぶつけた。
「何時の話だよ!! 突然人の黒歴史を掘り返すな!!」
「僕も何年前かなんて覚えてないよ。でもお陰で、諦めなくて済んだ」
ドライズは嬉しそうにニコニコ笑っていた。
「あのとき、あの子は〝ドライズが願う限りこの世界ではなんでもできる〟とおっしゃってましたわ。あとは〝頑張って応える〟とも」
ルクシエラさんの言葉に俺は目を丸くした。
「え、ドライズ何でも出来るの? マジかよドンドン主人公になっていくな」
と、我ながら羨望と期待を込めた眼差しを送るが。
「なんて言葉で言われても、全然思ったとおりになんてならないからね? 情報整理の過程で色々試してみたけど別に〝存在しないモノ産み出す〟とかそんなのは出来なかった。ユウさんの言葉の意味は僕にも判らないよ」
と言ってドライズはおれの視線を振り払った。
「……そもそも、ユウは何者?」
ここで、レンが至極真っ当な謎を提示する。
「それが判っていたらこうして話し合いなどしていませんわ」
ルクシエラさんがフッと少し楽しそうに苦笑する。あれは〝面白い研究対象〟を見つけた時のリアクションだ。
「情報の共有は以上です。後はティアロ様、よろしくお願いします」
シジアンはふぅ、と一息ついて。丁寧な仕草で席に座った。最年少、一年生の八天導師というのが大きいのかもしれないが俺は娘の授業参観に来ている親みたいな気持ちで、〝よく頑張った!!〟なんて気持ちを持っていた。ホントなんなんだこの感覚は。
「ユウはこの世界を左右するだけの強大な可能性、謎を秘めている事だけは確かじゃ。そして、今までそれをカイが知っていたのかどうかは判らぬが、こうしてトーラの監視下で議題に挙げた以上カイにも気取られた前提で行動する必要がある」
ティアロ先生の言葉に、うっと居心地が悪くなった。俺がトーラに監視されているせいで情報が筒抜けになってしまっているのが申し訳無い。
「ユウは最優先警護対象として常にイクスかルーシーを付けておく。そこで申し訳無いのじゃが、これまで近隣諸国に発生していたイーヴィルの討伐をイクス達に変わって八天導師の皆に手がけて貰いたい」
そう言えば元々この八天導師はティアロ先生の弟子だけでは手が回らないイーヴィルの討伐や魔法悪用者の摘発などを補佐する目的で設立された事を思い出す。
「流石に、クラス3イーヴィルの討伐はワシ等や配下の教員達で行う。ドライズを中心として、中学年組の八天導師にはクラス2のイーヴィル討伐を要請しようと考えて居る」
〝第四の賢者〟カイのせいで新たに〝クラス4〟という新たなくくりが生まれてしまったが。本来のイーヴィルの階級分けは三つ。
クラス1は4学年以上の学生が実習兼地域貢献で討伐する、イタズラ程度の被害しか起こさない小物。クラス2は主に6年生が対応する人間社会における軽犯罪程度の被害を起こしうる存在。そしてクラス3は基本的に教員やその地域の自警魔法団、年齢に対して例外的な戦力を持つティアロ様直属の弟子であるルクシエラさん達が対応する〝災害〟規模の被害を出すイーヴィルだ。
俺達は四年生なので本来戦うのはクラス1が適正なのだが〝八天導師〟として特別な戦力として見いだされている為クラス2の討伐を引き受けて欲しい、との事である。
「勿論、引き受けさせていただきます」
ドライズは迷い無く答えた。流石主人公だ。
「……特別労働手当」
レンがぼそっと言うと。
「無論出す」
とティアロ先生が即座に答え、
「……百体でも倒してみせる!!」
レンは目をキラキラさせて、今まで見せたことの無いような嬉しさ満開の笑顔を作った。
魔法陣の開発に、そのアイテム化、その際の材料費は共同開発と言う事でレンも少なからず負担している。魔法陣の研究が大好きなレンにとって追加報酬というのはそれだけ魅力的なのだろう。
「流石に一人は不安なんですけど相方は付きますよね?」
俺は不安を込めて問いかけるが。
「判っておる。基本的には2人以上のチームを組んで貰うつもりじゃ。ここでこの学園最高戦力である〝八天導師〟に無茶をさせて何かあっては〝第四の賢者〟カイとの戦いにも支障がでるからのう。希望があれば〝八天導師〟外からの救援も認める。言うまでも無いがこの任務の危険性を十分に説明した上で了承を得るように」
つまりクラスメイトも一緒に戦って良いとの事だ。
良かった。それならこっちにはチート級戦略兵器並みの戦闘力を持つナギさんを誘える。彼女と同じくらい強いマナトも居る。二人とも、この事情を聞いて断るような人柄でも無いし一安心だ。
円卓の上に置いてあった飲み物を一気に飲み干して、付け加えるようにシジアンが再び口を開いた。
「事件収束から一ヶ月が経過しようとしていますが、現時点で〝第四の賢者〟側からの目立った動きはありません。事件を経て手に入れたデータの解析、研究などを行っている可能性が高いです」
そして、ティアロ先生が続ける。
「あくまで、一時ではあるが向こうも手が離せない状況にあると見た。この束の間の平穏を維持しつつ、次の出方を探って行きたい。当然、この期間がブラフである可能性も考えられる。ワシからはただ頭を下げる事と対価を与える事しかできぬが皆、学園を守る為に尽力して欲しい」
と、ティアロ先生は立ち上がり、深々と頭を下げた。
「はいっ任せて下さい!! この学園は僕も大好きなんです、絶対守って見せます!」
俺達、他の八天導師を代表するように。
ドライズは主人公らしく頼もしい返事をし、俺達は同調するように頷いて今日の会議は幕を下ろした。
◆ ◆ ◆
会議が終わった後、三賢者とシジアン、イクリプス、アイルが部屋に残って居た。
会議中、最初に謝罪をして以降一切口を挟まなかったアイルが長くぶりに口を開く。
「なぁ、ティル爺。ホントにあの事は伝えなくて良かったのかー?」
アイルの言葉にティアロではなくイクリプスが応えた。
「混乱を招くだけだ。今はまだ、知っている者だけが知っていれば良い」
続いて、シジアンもまた、
「はい。ただでさえ〝第四の賢者〟の騒動とその対応で皆さん苦労なされています。その上で〝この世界の真実〟に関する情報まで共有するのは少々リスクを伴うかと。我々は大丈夫でしたが人によっては己のアイデンティティに苦しむ可能性があります」
シジアンは顔色を変えずにそう言ったが、
「シジアンちゃん、完全にぃファルマくんの事言ってるよねぇ」
と、ジンに指摘されて頬を染め、視線を泳がせた。
「と、言う訳じゃ。アイル。お主がイーヴィルとなった事で知った――いや、〝思い出した〟事実はまだ、胸の中に秘めていてくれ」
ティアロがそうなだめるとアイルは。
「ティル爺がそう言うなら。……俺も、今回の失態した分を取り戻さねーとな!」
とアイルは気合いを入れ直し、校長室を後にした。