俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「……残念。噂は噂だった」
なんとか俺とドライズに意味深な関係はないとレンに理解して貰ったが何故残念勝手居るのかは理解出来ない。
「ていうか噂って何だよ」
「……四年に咲く〝丹青の薔薇〟」
「OK、碌な噂じゃねぇ事だけはなんとなく判った」
俺は漫画とかゲームとかそれなりに嗜んでいるので〝薔薇〟の意味は理解している。そして丹青は――赤と青だ。
「一体誰が流したんだそんな噂……」
頭を抱えると、
「……我ながら良いセンスと思ったのに」
「お前かーいッ!!」
出所がすぐ側にいて思わずツッコんだ。
「噂もクソもマッチポンプだろそれ!!」
「……違う。噂は元々あった。〝破滅の光〟、〝生ける天災〟その弟子二人の信頼関係は全ての学年にある程度知れ渡っている。私は噂に名前を付けただけ」
ずずーっとお茶を飲みながらレンはいつもより口数多めで説明してくる。
「俺は初耳なんですけど!!?」
「まぁ、そういうのって当事者は意外と気付かなかったりするよね……。でもハル君とドライズ君の噂、私だって知ってたからね?」
アリスは物憂げに言った。
「……ルクシエラさんは有名人。調べれば弟子が誰かなんてすぐ判る」
「あぁ……そういえばルクシエラさんが勝手に俺の事公的文書に弟子として登録したってティアロ先生から聞いた気がする……」
「……ルクシエラさん自身がことある毎に弟子自慢で公言してるのも要因」
「ルクシエラさーんッ!!」
もう、詳しく言われなくてもあの人が嬉しそうに誰彼構わずドライズや俺の自慢をしている姿がありありと浮かんでくる。
「……少しでも興味を持って調べてみれば。美少年、ドライズの顔が出てくる時点でそれなりの人数が釣れる」
「まぁあいつは顔立ちが整ってるから目立つよな……」
「……で、その片割れがこのファルマだから妄想が捗る」
「どういう事だってばよ!?」
この〝ファルマ〟ってどの俺だよ!!
「こちらがその証明写真になりますが」
スッと机の上に写真を1枚出すシジアン。そこには、
ムスッとした不機嫌そうな表情でポケットに手を突っ込み空を見上げる赤髪短髪の姿が。
「俺、柄悪く無い!?!?」
なんか、自分のめっちゃ不良っぽい写真が出回っている事に戦慄した。
「……? いつも通り」
「ハル君一人の時はこんな顔してるよね」
「先輩はさみしがり屋なので一人でいる時に表情に出てしまうのでしょう」
「嘘でしょ!?」
今まで全く自覚が無かっただけに女子達に一斉指摘されて驚いてしまう。
そしてレンはお茶とお茶菓子を更に口に含み、十分味わって飲み込んだ後に。
「……優等生美少年と不良男子の凸凹コンビ。そんな二人が大親友。これはもう捗るしか無い」
と満足そうに微笑みを浮かべて言う。普段無表情の癖に。
「何が捗ってるのか、聞きたくないね……」
なんだか、そう呟くアリスの表情がどんどん曇っていっている気がする。
「ていうかこの写真何時、誰が撮ったんだよ!?」
「アングル的に隠し撮りでしょうから、ルクシエラさんがプロの方に依頼したのでは?」
「写真のプロと隠し撮りのプロは訳が違うんだが!!」
ゾゾッと今になって悪寒を感じる。
「俺、トーラに見張られるよりずっと前からプライバシーとか言う概念存在してなかったのかな……」
過ぎたことを騒ぎ立てても仕方が無い。ただただ呆然と俺は力なく呟いた。
そこへ、改めてレンが顎に手を当てて言う。
「……冷静に考えたらドライズとファルマが意味深なのは変わらない」
ピクッとアリスの肩が跳ねた。
「待って、レンちゃんそれどういう意味?」
声を震わせて、アリスがレンへと問いかける。どこか、焦りが感じられた。
「……未だ咲かずとも、その蕾みは尚も膨らんでいる。開花を待つのも、悪くは無い」
レンがまた余計な妄想を始めたところ。
「そんなもん咲――ッ」
俺が言おうとした否定の言葉を。
「そ、そんなの咲かせないからッ」
俺よりも先に、遮ったのは顔を真っ赤にして叫ぶアリスだった。
俺を含めて三人。みんなの視線が自然とアリスに集まる。
しばしの沈黙。レンの表情が僅かに変わった。探るような、試すような、少しだけ嫌らしい目つきになって、言う。
「……ドライズもファルマもフリーなのは事実。事の成り行き、部外者が止める権利は無い」
と挑発するように言う。〝部外者がありもしない未来を期待するのもおかしい〟と言ってやりたかったがレンは完全にアリスしか見ていない。俺が何を言っても聞く耳をもたなさそうだ。
そしてそんな事を言われたアリスは。
「ぶ、部外者じゃないもん」
小刻みに震えながら、頬を紅潮させ、目尻に涙を浮かべて、意を決したように言う。
「私は私の気持ちをハル君に伝える権利くらいあるもんッ!!」
俺は。止めようとした。
待ってくれ、それ以上言ったら引き返せなくなる。
でも。――気持ちを伝える事を止める権利なんて誰にもない。
「は、ハル君ッ! 私、今でもハル君の事好きだよッ。だから、その、変な噂立つのが嫌なら、付き合っちゃわないかな!?」
その気持ちは。偽物の筈だ。
受け入れてはいけないモノの筈だ。
だけど俺の全てを懸けて償うと決めた。
だから俺にはアリスが望むことを拒絶する権利なんて無い筈だ。
俺は――どうしたら良い?
「あ、アリス、落ち着けって。確かに変な噂されるのはいい気はしないけど、こんな場の勢いだけでそんな大事な事決める訳には――」
それは逃げの言葉だった。けれど。ここでまさかの人物が逃げ道を塞ぐ。
「この場だけの話では無いかと。アリシアさんの気持ちなら、先輩は誰よりも良く判っている筈です。今こそ、向き合う時が来たのでは?」
「シジアン!?」
突然俺の退路を断ったシジアンに困惑を隠せない。
え、俺今ひょっとして孤立無援なの?
「……やっぱり、そういう? ふーん」
んで。着火元のレンはと言えばイタズラな笑みを浮かべてお茶菓子を食べている。今日のレンはいつも以上に本当に何を考えてるのか判らない!
「ハル君……迷惑、かな?」
アリスの潤んだ瞳に、俺は。
目を背けそうになって、だけど。
「――迷惑なんかじゃない。でも、やっぱり少しだけ時間をくれ」
俺は観念して、そう答えた、大きな葛藤と苦しみを抱きながら。
これは俺の罪。
シジアンの言う通りかも知れない。
今度こそ向き合う時が来たのだろう。
アリスの気持ちなんて、ずっと前から判っている。
――答えを、見つけなくてはいけない。