俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
何度かアリスの私服を目にした事はあるが普段はもっと露出の少ない大人しい服装をしていた筈だ。解決したはずの疑問が再び湧き上がる。
「ハル君ってば。まだ約束の時間より30分も早いよね? 遊園地、そんなに楽しみだったのかな?」
アリスはニヤニヤして俺をからかおうとするが俺はそれどころでは無い。
「え、あ、いや、まぁ、う、うん」
と、しどろもどろな返事をしてしまう。
「んーどうかしたの、ハル君?」
アリスはなんて事ない風に聞いてくるがッ! 今の俺は大絶賛混乱中で思考回路が働かない!
「いや、えっと、」
うわ、うわ、頭が回らない! 言葉が出ない!
ドキドキする。
アリスが。
アリスがいつも以上に可愛いッ!!
顔が熱くなっていく。
何か、何か言わなければ! 今の俺は挙動不審だ!
「ご、ごめん、見慣れない服装だったから、その、びっくりして」
なんとかひねり出した言葉。
「あ、そうだね。私もこの組み合わせは初めてだよ。ちょっと気合い入れちゃった」
アリスは少しだけ照れ笑いを浮かべた。
俺は〝気合いを入れた〟という言葉に戸惑ってしまう。
「そ、そうなんだ。その、凄く似合ってると思います……」
「ありがと! でもなんで敬語なのかな?」
なんで敬語なのかって?
――やっぱりデートなんじゃないのかァァァァァ!!?
って心の中で叫びながら後悔してるからだよ!!
とは本人には言えない。
初デートに制服で来る彼氏……うっ、自己嫌悪がこみ上げる。
気付いたら頭を抱えていた。
すると。
「えへへ。実は私ね、〝遊園地〟自体すっごく久しぶりなんだ! 本当に小さかった頃以来だから楽しみでね。気合い、入れ過ぎちゃったかも」
とアリスは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
――……え?
「似合ってるって言ってくれてありがとね!」
と、アリスはにこやかにそう言った。
――気合いを入れたのは〝遊園地が楽しみ〟だったから?
また、情報が俺の頭の中をかき乱す。
――ひょっとして、やっぱりアリスにデートのつもりは無い……?
「まだ時間に余裕あるね。のんびり歩こうか」
「あ、ああ」
うきうきとした様子でアリスが一歩先を歩き出す。
本当に楽しそうだ。俺の格好に不満を見せたり、逆に気を遣ったりする様子は無い。
――わからない!! デートなのかデートじゃ無いのか!?
結局俺の疑問は振り出しに戻っていた。
移動中。
「ほんっとうに楽しみだねぇ。どんなアトラクションがあるんだろう?」
「それなんだけどアリスって絶叫系大丈夫?」
「んー……正直、乗ったこと無いから判らないや。でもちょこっとだけ――興味あるかも?」
と当たり障りの無い会話をしながらも俺の頭の中は大混乱。
アリスは服装こそいつもより大胆だが振る舞いは自然体、相変わらず緊張した様子もない。
よくよく考えたら恋人同士が二人だけで遊びにいくならそれだけでデート確定なのでは?
と思う心もあれば。
アリスと復縁してからは登下校含め、部活の買い出し、素材集めなどで二人っきりで行動する事が少なからずあった。
アリスが今回の事をその延長線上と考えてる可能性も捨てきれないと思ってしまう。
それに、デートかそうじゃないか悩んで色々調べている時、〝遊園には初デートに向かない〟なんて情報を目にもした。そもそも初デートって買い物とか映画とかそういうのが多い感触だったのもある。
だから余計に、悩む。
結局アリスは今日の事をどう扱っているのか?
そんなこんなで到着する遊園地。
流石に都会と言うだけあって、大型連休でもないただの週末だがそれなりに人は多かった。
「わぁ……! 賑やかだね!」
そんな人々を見渡してアリスが楽しそうに言う。それもそうだろう。俺達の故郷なんて田舎そのものだ。
お祭り時ぐらいしか人が大勢集まるような事は無い。アミューズメント施設が無いわけでは無いが比較してしまえばやはり客の数もアトラクションの量も遥かに差がある。
「想像以上だねぇ……」
「ギリギリ夏休みシーズンからズレてるからこんなもんだけど、もう少し遅かったら遊ぶどころじゃ無いくらい人で溢れる……らしいぜ」
感慨にふけるアリス。
数ヶ月前まではこんな光景テレビ越しでしか見れない立場だったのだから、テレビの中にでも入ったような気分かもしれない。
ぶっちゃけ、俺も都会の遊園地なんて初めてなのでニュースなどで聞いた話くらいしができないんだ。
「それで、何処から回ろうか」
「んーそれじゃあまずはアレにしようかな!」
ビシィッとアリスが指差したのは。
シンプルな山なり直線コースをものすごい速度で上下するジェットコースターだった。
「え、マジで?」
「今ならまだ並んでる人少ないね、早く行こ!」
アリスに手を引かれ、景色が流れていく。
「いやでもアリス! あれ確か国内最速最怖とかがうたい文句だった筈――」
「いいね! 挑みがいがあるかな!」
謳い文句に物怖じする事無くアリスは突き進み、あっという間にジェットコースターの列へ。俺の
方は違う意味で不安を覚えていた。
「なぁ、初の絶叫アトラクションなんだろ? いきなり最怖はハードル高すぎ無いか??」
並びながら、アリスに問いかける。
「おやおやぁ? ハル君ひょっとしてビビってるのかな?」
帰ってきたのはニヤニヤした煽り顔。俺は少しだけむっとなって言い返す。
「これくらいじゃビビらねぇよ!」
「おお、頼もしい返事だね」
「ちゃんと安全装置が付いてる時点で、不安要素なんて何処にもない」
「安全装置に対する信頼感半端ないね」
え、そこ? そこ気にするの? みたいに意表を突かれた表情を作るアリスに俺は。
「……布団で簀巻きにされて当人のさじ加減で放り投げられるのと比べたらよっぽど安心出来る」
今まで何度かルクシエラさんに高速もとい拘束移動させられた思い出を振り返ってため息を吐いた。
「あ、ああ……ハル君なかなかにハードな日常送ってるもんね……」
アリスは納得したように苦笑いを浮かべた。
そう。ルクシエラさんに物理的にも振り回されている俺にとって絶叫系アトラクションなんて何も怖いところが無い。
非日常的なスピード感を素直に楽しもうと思える。
でも、アリスは違う。
普通の人間は布団で簀巻きにされて射出される経験は無いはずだ。
だからこそ心配なのだが――。
「あ、前のグループが終わったみたいだね」
一周回ってきたコースターから人が降りていく。暫くして列が動き始め、俺達もコースターの階段を上って。
カツンと金属質の音が小さく聞こえた。
「あっ――」
「おっと!」
咄嗟にアリスの背中に腕を回して、転び落ちそうになった彼女を支える。
「ご、ごめんね。ありがとう、ハル君」
「いや、それは良いんだけど――めちゃくちゃ震えてるじゃないか!?」
アリスの身体を支えた事で、気付いた。
身体も足も判りやすくガクブルしている。そりゃ階段にも蹴躓くだろう。
「アリス! ホントはめちゃくちゃ怖いんだろ!?」
「あ、あはは、バレた?」