俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「〝バレた?〟じゃねぇよ! 怖いなら素直に辞めとこうぜ、折角遊びに来たんだからさ!」
そう諭すが。アリスは首を横に振う。
「え、へへへ……。ダメだよハル君。今更引き返すのは後ろの人の迷惑になっちゃうもんね」
言われて、気付く。
狭いとは言わないが人が二人横に並べる程度の階段にずらりと人が列を成しているのだ。ここを逆行してやっぱり乗らない、なんて出来る雰囲気じゃ無い。
「初めから退路なんてないんだ! 私は乗る、乗るからね!!」
台詞は勇ましいが表情は捨てられた子犬のように怯えていた。
「何が君をそうまでこのアトラクションに固執させているんだ!?」
そこまで自分を追い込む意味が判らなかった。
◇ ◇ ◇
結局流れに身を任せ、俺達はジェットコースターに並んで座った。
程なくして、ゆっくりジェットコースターが動き始める。
「いいかな、ハル君。このコースターが一番怖いって事は他のアトラクションは全部これより怖くないんだよね」
「え、ああ、まぁ、そうなるな」
「つ、つまりこのコースターさえ突破してしまえば後は気軽に楽しめるって寸法なんだよねぇ!」
「絶叫系初めての人が立てる理論じゃねぇよッ!!」
言っている言葉の意味は判るが……。
「大丈夫、大丈夫……だってここは遊園地。楽しむ為の場所だもん――」
安全装置にきゅっとしがみつき全然大丈夫じゃなさそうな様子でアリスが自己暗示をかけるようにつぶやき続けている。
本当に、なんでそこまで無茶な事をしてこのアトラクションを選んだのだろうか。
ジェットコースターは少しずつレールを上っていく。
勢いよく走り出す前のこの穏やかさがドキドキと恐怖を駆り立てると言うが。恐怖を微塵も感じていない俺としてはアリスが心配でドキドキしてしまう。
ゆっくりした時間の中でアリスの行動が思い返される。最初はあんなに勢いよく俺の手を引いてきたのに――。
――……手を引いてッ!!?
不意に、その事を思い出してドクンと心臓が跳ねた。
今まで完全に意識の外にあったが、俺、いつのまにかアリスと〝手を繋いでいた〟!?
それどころかアリスは俺の肩に縋ってきて……あれ!?
なんかめちゃくちゃ恋人っぽくないか!?
さっきまでと違う意味で胸がドキドキしてくる。
――え、デート? やっぱりデートなのか!?
いつの間にか忘れて居た疑問がぶわっと勢いよく湧き上がってきた。
バッと思わずアリスの方を確認するが、相変わらず不安げに自己暗示を続けている。その様子からは、俺との交流よりもアトラクションと真摯に向き合っている様に見える。
――結局どっちだ!?
疑問が膨らみ意識を持って行かれて丁度油断したところで――
強烈な浮遊感と共に猛スピードで景色が流れていく!
「きゃあああああああ!!」「おわぁああああ!?」
流石に不意打ちで急加速されると俺もびっくりして声をあげてしまった。
――数分後
「おつかれさまでしたー」
安全装置さんのお陰で無事生還した俺達。ただ、
「あのー大丈夫ですか?」
と係員さんに声をかけられ。
「ハッ!?」
俺はスピード感と疑問でかき混ぜられ飛んでいた意識を取り戻し。
「アリス! 終わったぞ! 生きてるか!?」
と隣に座るアリスの肩を揺する。
するとアリスは――
「これで――」
ゆっくりとジェットコースターを降りて。
ギュッと握りこぶしを作って。
「これでもう何も怖くないよね……ッ!?」
と、目尻に涙を溜めて笑顔で小さくガッツポーズをとった。
――ジェットコースターに真摯過ぎる!!
その姿はまさに、大きな壁を一つ乗り越えた様子。
「さぁ、次のアトラクションを探そうね!」
そして再び俺の手を引いて前を行く。
――やっぱりアリス、遊園地にガチってないか?
俺としては手を繋いでるという状況を意識してしまってから動悸が収まらないのだがアリスはその辺全く気にしているようには見えない。
――ダメだダメだ! アリスが真面目に楽しもうとしてるのに変な意識して邪魔しちゃいけない!
アリスの気持ちに水を差すわけにはいかない。
俺は雑念を振り払って、事前に調べておいたアトラクションを紹介してみる。
「室内系になるんだけどVRで面白そうなヤツがあったぞ」
「おお、VR! 私経験したこと無い!」
俺はパンフレットの地図を指で示しつつ説明する。
「色んなシチュエーションが楽しめるんだけど、バトル系が良いんじゃないかと思うんだ」
「あーハル君好きそうだねぇ。良いよ、1個目は私が選んじゃったから次はハル君がやりたい事やろう!」
とそのままVRゲームが楽しめる施設へ向かった。
――VRと言えば非現実感が醍醐味……アリス、楽しんでくれるかな?
なんて、密かにある事を計画しながら。
到着した施設で俺はアリスがVRについて簡単な説明を受けている隙にゲームの設定を係員の人に伝える。
そして準備が整い、二人でいざヴァーチャル世界へと。
視界に広がるのはゲームではお約束でも現実では見た事無いレンガ造りにたいまつで照らされたダンジョン。
「わぁ、凄い! 本当にゲームの中に入ったみたい!」
そんな非日常な世界を堪能するアリスは、ダンジョンの床やら壁やらをきょろきょろ興味津々に見渡していて、まだ気付いていない。
「それじゃあアリス、頑張ってくれよ」
俺の言葉にアリスは首を傾げた。
「え、どういう事? 二人で攻略するゲームだよね。ハル君何もしないの?」
「そういう事じゃ無くて――」
その問いかけに俺はパーティの詳細画面を表示させながら、伝えた。
〝1P アリシア 勇者 2P ファルマ 僧侶〟
「今回の主人公はキミだ」