俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「それじゃあ次は私の番だね」
「いつの間にかターン制みたいになってるのな」
「次は、アレに入りたいかな!」
選ばれたアトラクションの名は『悲劇の病棟』。
廃病院の中を巡るという設定のお化け屋敷だった。
「アリスはなんでそう怖い系ばっかり選ぶんだ?」
「文字通り、怖い物見たさ――ってヤツかな」
何故かキメ顔で答えられる。
「アリスが楽しいならそれでいいけど」
「因みにハル君はお化け屋敷って大丈夫なのかな?」
「全然平気だな。お化けなんかよりトーラの方がよっぽど怖い」
「そ、それはそうだね」
何処か彼方でトーラが抗議の声を上げている気がした。
「それじゃあ並ぼうか」
そしてお化け屋敷へと向かった。
◇ ◇ ◇
お化け屋敷では、なんというか、案の定及び腰になったアリスが、
「きゃぁっ!!」
と仕掛けに驚き縋り付いてくるなんてお約束の展開が繰り広げられ、
――このイベントってフィクションじゃ無かったのか!?
と、謎の感動を覚えつつもまた俺の心は揺さぶられる。
ただ、仕掛けに逐一びっくりしつつも進み続けるアリスは見ていて微笑ましく、やはりデートかどうかなんて気にするのは水を差すようで悪い気がした。
お化け屋敷の後も、色々なアトラクションを巡った。
俺のお気に入りは大砲を使った射的ゲームだ。
勿論大砲と言っても遊戯用の簡単なモノではあるが普段触るような代物でもなく、豪快な発射音が心地よかった。
そして、いつの間にかデートかどうかの疑惑より〝楽しい〟という気持ちが大きくなっていて。
気がつけばアリスと二人、時間を忘れて遊園地を楽しんでいた。
「あっという間――楽しかったね、ハル君」
空がオレンジ色に染まる中、観覧車の籠に揺られながらアリスが呟く。
男女二人っきりで観覧車。
デートだったら何かしらイベントが起こりそうなシチュエーションだが、アリスは眼下に広がる遊園地を感慨深げに眺めている。
流石にここまでくると俺も落ち着いていて、アリスは全然意識なんてしていないだろうと判断していた。
「ああ、楽しかった。一人で来るような場所じゃないからな、誘ってくれて嬉しかったよ」
と、純粋に遊園地で楽しんだ今日という日を噛みしめて、礼を言う。
「私こそ。案内してくれてありがとうね、ハル君」
眩しい笑顔を返してくれるアリス。けれど、そこまでだ。
それ以上の特別な進展はなく観覧車は頂点を超えて下っていった。
◇ ◇ ◇
名残惜しくも、遊園地を後のした帰り道。
「沢山遊んだからかお腹空いちゃったね。何処かで食べて帰らない?」
と言うアリスの言葉で、フッと頭の中に見慣れた光景が浮かび上がる。
「だったら、この辺に丁度いい喫茶店があるんだ。どうだろう?」
「うん、いいよ! ハル君のオススメなら期待しちゃうね!」
強く頷いてくれたアリスを先導して、俺は最近たまに通う喫茶店へと案内した。
店の名前は〝koka〟そのまま〝こうか〟と読むらしい。
「マスター。今日は二人なんだけど、空いてる?」
店に入るなり、友達に話しかける感覚で俺は確認する。
「いらっしゃい少年。席が埋まっているように見えるか?」
店の主人の方も、軽い口ぶりで返してきて。
「貸し切り状態だ。お好きな席へどうぞ」
との事だった。
「だってさ、アリス。それじゃあこの席にしようぜ」
と、出入り口から近い二人用の席へアリスを案内する。
「わぁ、優しい雰囲気のお店だね」
アリスは目を輝かせながら対面に座った。
「少し前に見つけたお気に入りのお店なんだ」
「そうなんだね。ふむふむ、ハンバーグにオムライス――親しみ易いメニューだね。ハル君のオススメはなにかな?」
「ん? んー季節外れなんだけど――ここのビーフシチューは絶品だぜ。世界一美味いと思う」
「それじゃあそれにしようかな」
「判った。マスター! 〝いつもの〟二人前よろしく」
「かしこまりました」
俺が注文を済ませると、アリスがはにかんでいた。
「ハル君ってばすっかり常連さんなんだね。〝いつもの〟なんて注文できるお店、すこし憧れちゃうなー」
「言ってもホントに最近見つけたお店だけどな。マスターと話が妙に合うもんでドライズが忙しい時はもっぱらここのお世話になるようになったんだ」
「そうなんだね。そう言われてみればマスターさんとハル君の雰囲気が少し似てるね」
言われて、マスターの方を見る。えんじ色の長い髪を料理の邪魔にならないように後頭部で折り重ね、赤いシャツの上に黒のジャケットを羽織った、30代半ばの男性。
「……色だけで判断してないか?」
「いやいや、そんな訳ないって」
なんてくだらない話をしている間に、
「お待たせしました。まだお熱いので気をつけてください」
と、二人分のビーフシチューとパンがテーブルに並べられる。
「それじゃあ、ハル君絶賛のビーフシチュー。いざ、いただきまーす!」
とアリスは大きなスプーンでシチューをすくい上げ口へ運び。
「――ん~! 美味しいっ!!」
ぱぁっと花が咲くエフェクトでも見えそうな明るい表情を作った。
そしてもう一口、もう一口と食べていく。
「お野菜もお肉もほろほろで口の中で溶けてるみたい! コクも深くて口の中に残る余韻も幸せ……ハル君の言うとおり世界一美味しいかもね!」
「よかった、アリスの口にも合って」
「ところでハル君は食べないの?」
スプーンをくわえたまま小首を傾げるアリス。
何故だか少し気まずくなって俺は目を逸らしつつ。
「……猫舌なんだ。まだ熱すぎて食べられない」
と、答えるや否や。
「くふっ」
とアリスが可愛らしく笑った。
「火属性なのに熱いモノが苦手ってなんだか面白いね」
「ほっといてくれ」
他の人間に言われたら小憎たらしく思えそうな言葉も、アリスだと許せてしまう。これが惚れた弱みというものなのか。
◇ ◇ ◇
「あー、美味しかったね! ごちそうさま」
「ごちそうさまでしたっと」
二人でビーフシチューを堪能し、落ち着いたところで不意に。
テーブルの上に大きめのフルーツパフェが置かれる。
「え、あの注文してませんけど」
と、俺が戸惑っていると。
「少年が折角ガールフレンドを連れて来たんだ。少しくらいサービスせねばと思ってな。俺の奢りだ」
とマスターは言い残し。
「ちょ、マスター!?」
俺の声を無視してマスターはカウンターの方へと戻っていった。
「わぁ、サービス精神旺盛でいい人だね!」
アリスは喜んでいるが、大きめのパフェ一つに対してスプーンが二つだ。
――これ、完全にカップルとかで食べる事を想定してるヤツ……ッ!
「あ、桃も乗ってる。ハル君好きだったよね、そっち側あげるね」
アリスの方は何の気なしにパフェのグラスを回して俺の前にカットされた桃を向ける。
折角の好意を無下には出来ないし食べ物を粗末にも出来ない。
俺は消えかけていたデート疑惑が再燃するのを感じながらパフェをすくった。