俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「甘くて、冷たくて、美味し~! 最高のデザートだね!」
アリスは嬉しそうにパフェを食べ進めて行く。
一方俺はと言えば、〝一つのパフェを食べ合っている以上どうやっても間接キスになる部分が生まれるのでは〟とか〝遊園地の事がデートでなかったとしてもこのパフェ一つでデート案件なのでは!?〟とかなんとか考えつつ、我ながらギクシャクした動きでパフェを食べる。
アリスが食べる場所を予測して出来るだけ触れないように、なんて考えていると爆弾を解体している気分だ。
――って、俺はこんなに意識してるのにアリスの方は全然気にしてないんだよな……。
今日一日ずっとそんな調子だった。
デートか? デートじゃ無いのか?
変に意識して、考え込んで、ドギマギしてるのは俺だけで。
アリスはただ、何事も純粋に楽しんでいるように見えた。
今更パフェ一つで悩むことでは無いと、自分に言い聞かせる。
――……でも、やっぱり意識しないなんて無理だよ、思春期男子には。
と、どれだけ頭の中で結論を出しても胸の鼓動は高鳴る一方だった。
結局、何事も無いままパフェも食べ終わる。
「ごちそうさまでした~!」
「ごちそうさま。また来るよ、マスター」
「ああ。いつでも歓迎するぞ、少年」
マスターに別れを告げて帰路に戻る。
日はすっかり落ちて星が夜空を飾っていた。
そして学園の敷地に入って、俺はホッとした。
「ねーねーハル君。少し疲れちゃったからあそこで休憩して良いかな?」
とアリスが指さすそれは、学園の所々に設置されているベンチの一つ。
時間も時間で周囲に他の学生の姿は無い。
あともう少し歩けば寮に着くのだが、色々なことがあった。
「判った。少し休もうか」
俺はアリスと共にベンチに座る。
電灯が薄く俺達を照らす。
アリスと俺の間には、少しだけ距離があった。
慣れたカップルならもっと寄り添ったりするモノなのかもしれない。
――そうだ、これくらいで丁度良い。まだ、始まったばっかりなんだから。
今日という一日が終わる。アリスは終始楽しそうだった。
俺はデートかどうかなんて気持ちに振り回され続けたが、この距離感が最後に答えを教えてくれた気がした。
――余計な熱が、引いていく。
デートじゃなかったとしても。
楽しそうなアリスと過ごせて久しぶりに充実した一日だった気がする。
「楽しかった」
言葉が零れ落ちる。
「良かった。私も楽しかったからね」
アリスも満足してくれたみたいだ。
終わり良ければ全て良し。
そう考えて居たところで。
ふと。
「月が綺麗だね」
アリスがそう囁いた。
言われて視線を上げれば大きな満月が優しく煌めいていて。
思わず見蕩れてしまった。
その瞬間。
頬に暖かな感覚があった。
頭が真っ白になる。
少し遅れて振り向くが、既にアリスはベンチに居ない。
いつの間にか、寮の方へと進む背中が見えた。
何が起こったのか理解できず熱を感じた頬に手を当てて呆然とアリスの背中を見つめ。
少ししたところでアリスは立ち止まり。
すぅーっと深呼吸をしてから、くるりとこちらを向く。
距離を取りつつも俺達はしっかりと目と目を合わせて。
「今日はありがとね」
彼女は桜色に染まった笑顔を見せて。
「また、〝デート〟しようねっ!」
ハッキリそう言い残すと、逃げるように寮の方へ駆けていった。
取り残された俺は。
最後の最後で突きつけられた決定的な現実を前に。
震え、思わず顔を隠して。
――やっぱりデートだったぁあああ!!?
心の中で絶叫した。
冷めた筈の熱が、何倍にも膨れ上がって全身に巡る。
心臓が高鳴り、緊張感や気恥ずかしさが後払いのように襲ってくる。
――デートだった? デートだった!? デートだった!!
今更取り繕うことは出来ない。
俺はただ、混沌とした感情の暴走を受け入れるしか無い。
――全然そんな素振り見せなかったのにッ! こんな、不意打ちにッ!
完全に一本取られた。
きっとアリスには判っていたんだ。俺が、〝デート〟を意識してしまえばこうやって緊張して、ともすれば空回ったりして、上手く楽しめなくなるかもしれないと。
だからそんな気は無さそうな素振りを見せ続けて、俺に余計な力を抜かせた。
「ズルいぜ、アリス……」
したたかな少女が仕掛けたささやかな駆け引きは俺の心をよりいっそう強く惹き付けて。
満月の輝きが、より一層強く目映く感じられた。