英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~   作:笹木さくまのファン

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それでは始まり~!


第一章~歌姫の誕生~
プロローグ


 普段はのどかな町の中が、今や悲鳴と怒号で埋め尽くされていた。

 

「走れ! とにかく走るんだ!」

「荷物なんて捨てろ、もたもたするな!」

「頼む、俺も車に乗せてくれ!」

 老若男女の区別なく、誰もが押し合い必死に逃げる。

 立ち止まってしまえば、背後から迫るモノに追いつかれてしまう。

 そうなれば、待っているのは死しかない。

 

「SAT及び機動隊、現着!」

『急げ! 『奴等』はすぐ近くだ!』

「しかし……許可も取らずに出撃して良かったんですか?」

『市民の命に比べれば上からの出撃許可なんぞ糞食らえだ!』

「違いないですね!」

 駆け付けた警察車両から現れた機動隊とSATの隊員がそんなことを言いながら機動隊は無秩序に逃げる市民達の逃走を妨げないようにしつつ流れを整え、SATは機動隊が持ってきた盾を地面に壁のように置き、銃を構える。

 

『来たぞ!』

 SATの隊員達はその言葉を聞いて周囲を見渡し……隊員の一人に赤い光線が突き刺さった。

 

「が……!?」

「赤羽……!? くっそおぉぉぉぉぉ! 水晶の化け物がぁ!」

「撃て、撃ちまくれ!」

 SATは糸の切れた人形のごとく倒れこんだ隊員を心配する暇もなく現れた『それ』に向かって銃を撃ち込む。

 

 撃ち込まれているのはポツンと浮かぶ透明の六角柱結晶。

 

 大人の身長ほどもある巨大な結晶の中心では、赤い球体がうっすらと光を放っている。

 出来の悪い合成写真のような、非現実的な物体。

 だが、それは間違いなくSAT隊員の精神を殺した存在であり、世界に滅びをもたらす人類の敵。

 

「ダメです、有効打を確認出来ません!」

「泣き言を言うな! 我々が少しでも奴の攻撃を……あが!?」

 SATの一斉射撃をまるで受け付けていない物体に泣き言を言う隊員を叱った隊員が物体から放たれた赤い光を受けてもんどりをうって倒れた。

 

「く、くそ……! くそおぉぉぉぉぉ……げふ!?」

「足止めもでき……ぎゃあ!?」

「怯むな! 体当たりをしてでも……がばふ!?」

「援軍が来るまで……あぎゃあ!?」

 物体に市民を攻撃させまいと必死に応戦しているSAT隊員を嘲笑うかの様に無傷の物体は雑草でも刈るかの様に光線でSATを駆逐していく。

 

「逃げ遅れた市民が!」

「なんだと!?」

 その様子に焦りながら避難を誘導していた機動隊の隊員がそれに気付く。

 

 それは必死に逃げる市民に押されて倒れた少女であった。

 

「あ、あぁ……」

「く……! うおぉぉぉぉぉ!」

「止せ、池谷!」

 怯えて逃げられない少女に若い機動隊員が走りより、少女を抱えるが……物体は無情にもその隊員に向けて光を放とうとする。

 

(神様……どうか、どうか俺が死んでも、この子は……この子と市民達、それから機動隊やSATのみんなは助けてください……!)

 青年は己の死を確信しながらも、受験の時にしかしたことのない神頼みをして……

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 次の瞬間……轟音と共に『何か』が激突し、物体を吹き飛ばした。

 

「な、何が……!?」

「な、何……?」

 いきなりの展開に機動隊員と少女は目を白黒させ……現れたのは、『ちぐはぐ』な装備を身につけた少女だった。

 

 頭には音楽プレイヤーが装備された黒とオレンジの角の様な物が着いたヘッドホンを着け、首には長いマフラーを巻き、背中には表が黒、裏地は赤のマントを身に付け右手には穂先を黒とオレンジで塗られた槍を左手にはパワージャッキの装備された籠手を装備しており、足にもパワージャッキを装備していた。

 

 少女の装備はまるで複数の人物の装備を無理やり一つに纏めたような歪で奇妙な装備だった。

 

「あ、貴方は……英雄?」

「ううん。私『だけが』英雄じゃないよ」

 少女はその質問に微笑みながらそう答えた。

 

「え……?」

「貴方を助ける為に走ってきた人や命令違反をしてでも駆け付けた警察の人達もそうだし……ほら、周りを見て?」

 少女にそう言われて周りを見渡すと……

 

「大丈夫ですか? 今、助けます!」

 倒れた老人を助け起こす学生……

 

「大人でしょうが! そんなに押さないの!」

「ACEが来たんだからそんなに急がないでください!」

「此方です、早く!」

 慌てて逃げる人々を必死に誘導する小学生と中学生の少年少女達……

 

 他にも様々な人々が自分達に出来ることをしながら避難をしていた。

 

「私達みたいに表には出なくても、あんな風に誰かの為に頑張る人……それが英雄なんだよ! だから……貴方もそんな英雄になれるように頑張ってね!」

 そう言って少女は音楽プレイヤーを操作すると、歌を歌い始め……まだ残っている物体を蹴散らしながら結晶の本体が残っている、町の外側に向かって走っていった。

 

「みんなが、英雄……」

「俺も頑張らないとな……」

 残された少女と機動隊員はその言葉に笑顔になると、仲間のもとへと走り出した……

 

 ……なお、彼らを励ました少女はこの騒動が終わった後に命令違反兼ミサイルをサーフィンして現場に急行するという非常識な行動を取ったことで友人や教師にコッテリと絞られる事になるのだが……それは、別の話である。

 

 これは、地球の危機を救った一人の英雄の物語――ではなく、英雄の陰に隠れて、後世の歴史書には記される事のなかった、一人の槍使いの物語……でもなく、異世界の英傑(装者)シンフォギア()を歪に担い、仲間達を結束させて歪んだ英雄譚を破綻させた一人の歌姫の物語である。




如何でしたか?

次回も頑張ります!
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