英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~ 作:笹木さくまのファン
ズガドーンと大きな音が響き渡り、響は校庭の端に植えてあった木をへし折り、その先にあるコンクリートの塀に激突した。
「な、なん…で……!?」
「ひ、響ーーーーーー!?」
「お、音宮ーーーーーー!?」
幻子装甲があっても殺せなかった衝撃でフラフラになった響はそう言いながら倒れ伏し、陽向と誠の悲鳴が校庭に響き渡った。
何故こうなったのか……それは少し前に遡る。
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昼休みの後、D組は再びジャージ姿でグラウンドに集合していた。
一時間目と違うのは、皆が腕に幻想変換器を着けていること。
「この時間は改めて、幻想兵器を使った軽い打ち合いをしてもらう。昨日は結局、実働試験を行えなかった者が多いからな」
担任の大場がそう言うと、生徒達は嬉しそうに顔を輝かせた。
英人の聖剣騒ぎのせいで、その相手であった宗次と聖剣の一撃を防ぐ為に飛び込んだ響以外、まともに幻想兵器を使っておらず、少々フラストレーションが溜まっていたのだ。
「昨日、保科先生が説明したように、変換器を着けた諸君らの体は、幻子装甲という一種のバリアに覆われており、怪我をする危険はない」
キーワードが必要な幻想兵器と違い、幻子装甲の方は自動で起動するらしく、生徒達の体は既に透明の力場をまとっていた。
「しかし、攻撃を受け続ければ、諸君らの幻子干渉能力が限界に達し、幻子装甲も幻想兵器も消えてしまう、という話も聞いているな」
「本当にゲームのMPみたい」
「だなぁ……まあ、俺は格ゲーメインでRPGは勧められたら触れるって感じだったけどな」
響の呟きに誠は自身の幻想変換器を見つめながらそう言った。
(でも、幻子装甲や幻子ってなんなんだろう? 検査をしていた研究者さんとかの話だと、人の精神によって形を変えエネルギーを生み出す謎の物質でそれをどれくらい上手く操れるかが『幻子干渉能力』って感じみたいだけど……)
幻子干渉能力が高い、即ち精神が強いほどより幻子を操れ、強力な特殊能力を何度も放て、幾度も攻撃を防げるという事であろう。
ならばこそ、響の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。
(精神が強いって、なんだろう?)
絶体絶命のピンチでも、決して諦めずに戦う不屈の勇気。
どんな苦境や拷問にも耐え抜く鋼の根性。
パッと思いつくのはそういった強さだ。
(他に思い付くのは……発想力や想像力、後は空想力……かな? それを思い付ける精神力がないと考え付けないから……あれ? だったら……)
響はふと己の手を見つめる。もしも、彼女の考えている通りなのだとしたら……
「幻子装甲が半減すると一度警告のアラームが鳴り、さらに限界寸前になるとアラームが鳴り止まないように設定されいる。しかし、戦いに熱中して音が聞こえず、攻撃を続けてしまったという事もあるだろう」
他にも、悪意を持って攻撃を止めないという可能性もあるが、あえてそこには触れない。
「だから、相手の装甲が半減したら、双方の幻想兵器が自動でロックされるように設定してから試合をしてもらう」
「だろうな……でなけりゃ、怪我人続出だ」
誠の言う通りで、そうする事によって間違っても怪我をしないようにするのだ。
「なので、試合前にはきちんと私に申し出るように。無断で喧嘩紛いの事をした者は……まぁ、覚悟しておくんだな」
「例によって例のごとく……」
「体罰や始末書だろうねぇ……」
罰の内容を明言しない辺りが、逆に恐ろしい。
大馬の脅しに皆身震いしつつ、対戦相手を探し出す。
「つー訳で……」
「兄だ……」
「空知、
「あら?」
映助が話し掛ける前に誠が目をキラキラさせながら宗次の肩に手を置いて模擬戦をしようと提案した。
「俺は別に構わんが」
宗次は突然の事に少し驚きつつ、隣の映助を窺う。
すると、彼はフッとクールな笑みを浮かべ、ゆっくりと背を向けた。
「兄弟、幸せを祈ってるで」
「はぁ?」
「ワテには一樹たんがおるから、「くたばれこの変質者があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」んぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわぁ、凄い理想的なライダーキック……」
映助はそう負け犬の遠吠えを上げて美少年の胸に泣きつかんと走り去ろうとして……その後頭部に向けて誠が放った日本が世界に誇る仮面のヒーロー達の必殺技のごとき飛び蹴りが炸裂し、そのすぐ後で男子達による袋叩きによって悲鳴をあげる羽目になった。
「何だ、あいつは?」
「知るかよ。まあ、変質者は置いといて……とっとと戦おうぜ」
まぁ映助だしなと、奇行を気にしない宗次の側に戻ってきた誠は頭をバリバリと搔きながら大馬に試合を申請し、二人は距離を取り合う。
「「武装化」」
幻想変換器から生み出された光が、互いの手に伝説の武器を生み出す。
宗次は停まったトンボが切れるほど鋭利な槍、蜻蛉切。
対する誠はコの字を描くように折り畳まれている何かを手に持つと、それを展開して薙刀にした。
「それは……?」
「もしかして……烈火の炎の『
「正解。俺の
まさかの漫画作品の武器に驚く響に誠は微笑みながらそう言って薙刀を撫でると、好戦的な笑みを浮かべ……
「おらぁ!」
「!」
そのまま宗次に向かって突きを放つ。それを柄の中央で受け止められると、フェイントを入れつつの左右からの連続切り返しが、雪崩のように襲いかかる。
「らぁぁぁ!」
「っ……!」
それを槍で防がれ、弾かれると誠はバックステップで距離を取る。
宗次はそれに対して突きを放って追撃すると誠は薙刀の柄でそれを払う。すると誠は薙刀の中央を分割し、そこから鎖で繋がれた刃を投擲する。
「鎖鎌か!」
「その通り!」
先程までの直線的な攻撃から一転しての変則的な軌道を描く攻撃に宗次は肩に被弾する。
「自己紹介でも言ってたが……やはり君も武術をやってるのか」
「まあな。つっても、俺の家は凄い雑食でよ……刀や槍、弓みたいなメジャーな武器からバグナウとか寸鉄、後は如意珠なんてマイナーな暗器まで教えてるんだよ。まあ、お陰様で鋼金暗器を自在に扱えるんだけどな」
誠は自身の家の教える武術の節操のなさを思って苦笑いをするも、すぐに気を取り直して鎖鎌を投げ付ける。
「うらぁ!」
「此処だ!」
「やべ……!?」
宗次はわざと蜻蛉切に鎖を巻き付けさせると、即座に反撃に転ずる。
「ぐぅ!?」
宗次から繰り出された瞬きよりも速い突きは、防御の暇も回避の暇も与えず、誠の左肩に突き刺さる。
「くそったれ!」
誠は幻想変換器を操作して鋼金暗器を一度消すと、再び出して反撃をしようとするも、その隙をつかれて鳩尾と右足に突きが突き刺さる。
「大馬先生」
「何だ」
「幻子装甲は当たる箇所によって耐久度が変わったりするんですか?」
「いや、どこに当たろうと変わらん」
響がふと疑問に思った事を大馬に聞くと、そこに気づいた事に感心しつつ、大馬は答えた。
「テレビゲームのHPみたいな物だな。頭に当たろうと指に当たろうと、一の攻撃で一ダメージをくらう」
つまり、急所にくらって一撃で落ちるような心配はない反面、かすっただけでも装甲が削られて、直ぐに限界が訪れてしまう。
「全部避けるか、捌けってことかよ……まあ、やれって言うならやるけどな!」
誠はその言葉に呆れながらも面白いとばかりに薙刀形態の鋼金暗器を構え直す。
「響、暇なら私と試合をしない?」
先程まで神奈と試合をしていた陽向が響に対して試合を申し込んできた。
「うん。良いよ」
「そう」
誠と宗次が激戦を繰り広げている中で申し込まれた響は頷いて大馬に許可を貰うと陽向と向かい合わせになる。
「「武装化」」
(来て、グングニル)
幻想変換器から生み出された光が、互いの手に伝説の武器を生み出す。
響はペンダント……ではなく、響が渾身の思いを込めて祈ったためか穂先がオレンジと黒に塗り分けられたグングニルが現れる。
対する陽向が掴んだのは、鞘に収まった一振の刀。
彼女がゆっくりと引き抜くと、身も凍るような冷気と共に、青白い刀身が現れる。
それはまるで氷かドライアイスのごとく、白い氷煙を常に吐き出していた。
「それって、南総里見八犬伝の村雨?」
「へえ、一目で分かるんだ」
自分は説明されないと分からなかったのに凄いなと、陽向は素直に感心する。
「そう、これは南総里見八犬伝の八犬士・犬塚信乃の刀、抜けば玉散る村雨丸――って、全部ネットで調べたんだけどね」
「でも、陽向ちゃんのイメージにはぴったりだね。女剣士って感じで」
「ありがと」
響の言葉に陽向は照れつつも、正眼の構えを取る。
刀身はぶれる事なく、正中線と真っ直ぐ重なり、肩や腕は無駄に力まずリラックスしながらも、両足は一瞬で間合いを詰められるように力が満ちている。
(剣道の経験者かな? ……全力で頑張らないとね!)
「行くよ!」
響は先手必勝とばかりに一歩踏み出し……目の前にコンクリートの壁が出現し……
「……へ?」
ズガドーンと大きな音が響き渡り、響は校庭の端に植えてあった木をへし折り、その先にあるコンクリートの塀に激突した。
「な、なん…で……!?」
「ひ、響ーーーーーー!?」
「お、音宮ーーーーーー!?」
幻子装甲があっても殺せなかった衝撃でフラフラになった響はそう言いながら倒れ伏し、陽向と誠の悲鳴が校庭に響き渡った。
「何故、アイツは『シンフォギア』に必要な『歌』を歌わない? あれではシンフォギアを十分に使えん」
その光景に遠くから呆れたような声で呟いたのは魔女の様な見た目の幼い少女であった。
彼女は響の幻想兵器の本当の姿を知っており、響が何故壁に激突する事になったのかも理解していた。
「しかし……」
少女はポツリと呟く。
「何故オレは『
少女は自身が死んだ筈だと自問しながら保健室へと運ばれる響を見ていた……
如何でしょうか?
次回も頑張ります!