英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~   作:笹木さくまのファン

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第三章~突然の遭遇、歌が響く時~
第14話 現状の戦線


 それは特高での生活にも少しだけ慣れてきた、入学から三日後の金曜日に起きた。

 教室で数学の授業を行っている時、突如『ウゥーッ!』と不気味なサイレンが鳴り響いたのだ。

 

「なにこれ!?」

「何やっ!?」

「静かに、お前達は座っていろ」

 浮足立つD組の生徒達を、大馬は冷静な声で諫める。

 しかし、サイレンに続いて教室の外から何十人もが一斉に廊下を走る、ドドドッと雪崩のような音が響いてきては、落ち着くなど無理であった。

 

「先生、何やねんこれっ!?」

「だから静かに座っていろ、CEが侵攻してきただけだ」

「えっ、嘘!?」

 その言葉に、映助や響だけでなくほとんどの生徒が顔を青ざめた。

 

「一大事やんかっ!? こうしちゃおられん、今こそワテらが戦う時――」

「そ、そうだよね!? ええっと、変換機は……」

「いいから黙れ(ゴキッ)」

「こぺるっ!」

「音宮さんも落ち着く(ポスン)」

「はにゃ!?」

 急いで教室から飛び出そうとする映助の首に、大馬はまたスリーパーホールドを極め、同じく飛び出そうとした響に良子が苦笑いをしながらその頭を出席簿で軽く叩く。

 大馬のスリーパーホールドは早とちりしたとはいえ、敵と戦おうとした勇気に免じて、普段の映助に対する制裁より二割ほど弱めであった。

 

「いいか、今のがCEの襲撃を知らせるサイレンで、走る音は二年と三年が出撃したものだ。まだ集団戦闘の訓練を終えていないお前達一年は、行ってもお荷物になるから留守番だ」

「出撃しようって勇気は称賛するけど、これは現実(リアル)幻想(アニメ)じゃないわ。『初出撃で大戦果!』なんて、夢幻(フィクション)よ?」

 大馬と良子は反論を許さぬと強く言い切り、鋭い目で生徒達を見回す。

 D組の六割は戦わずに済む事に安堵し、残り三割は戦えない事が不満で口を尖らせている。

 残り一割は冷静に話を聞いており、それを見て大馬と良子は嬉しそうに笑った。

 

「襲撃と言っても、ここ前橋市の近くまで攻めてきたわけではない。防衛ラインである軽井沢の周辺まで来ただけだ」

「みんなの初出撃も軽井沢での戦闘になるだろうから、周辺の地形は頭に叩き込んでおいてね?」

 そう言って大馬は教科書を閉じ、ノートパソコンとプロジェクターの準備を始めた。

 

「丁度良いから、今日はCEの襲撃からその対処までの流れを見学するとしよう」

「みんなは観やすい位置まで席を移動しても良いわよ!」

 プロジェクターの光が黒板を照らし、走る人の群れを映す、妙にグラグラと揺れる映像が流れた。

 

「エース隊員は出撃のさい、カメラと通信機が内蔵されたヘッドセットを着用する。これは出撃準備をしている、とある三年の撮った映像だ」

 大型のヘッドフォンに似た装備を被り、腕には幻想変換器を身に着けた上級生達が、慣れた動きで校舎横の格納庫に走り込み、その中で発進準備を始めていた装甲車に飛び乗っていく。

 

「あの、制服で出撃するんですか?」

「そう言えば、そうだね」

 今、自分達が着ているのと同じ、学生服で装甲車に乗る上級生達に気づいて、陽向が手を挙げて質問し響はそれに同意した。

 

「そうだ、別にジャージでも迷彩戦闘服でも変わらんがな。どうせ幻子装甲が無ければ、何を着ていようとCEの攻撃は防げん」

「逆に言えば、幻子装甲さえあれば裸でも良いんだけど……後世まで恥を曝したくないなら止めきなさい」

「先生、それ誰もやらないような……?」

「現三年の一人が風呂に入ってる最中の襲撃で慌てすぎて裸のまま出撃しようとする事件があってな……」

 大馬が遠い目をしながら言ったその言葉にD組全員が「あったんかい!」と心の中でツッコンだ。

 

「でも、制服だと動きづらくないですか?」

「そのために、装甲車の中に着替えが人数分積んである。移動しながら着替えればいい」

「凄い効率的……」

 響が言ったように全員が着替えるのを待ってから出撃するより、その方が早いから当然の処置であろう。しかし――

 

「男子の目の前で着替えるんですか?」

「――っ!?(ガタッ)」

「落ち着け」

「全然懲りてない……」

 無言で立ち上がった映助の肩を、後ろの宗次が叩いて止める。

 

「ズボンを履いて上着を替えるだけだろ、別に下着姿を見られるわけでもあるまい」

「あぁ、そうですよね」

「……ちっ」

 密かに舌打ちした男子は、映助だけではなかった。

 

「……遠藤君も他の男子達もお仕置きを受けたいのかしら?」

 良子がそう言ってタブレットPCを取り出すと、先日の覗き未遂事件で映助が受けたえげつない制裁を思い出して男子全員が押し黙った。

 

「これは後々決める事だが、クラスを十二人前後の三チームに分けて、それを『分隊』という最小単位とし、一塊となって作戦に当たってもらう」

「軍隊の部隊単位で言うと、分隊が三つの一クラス約四十人で『小隊』、小隊が三つの一学年で『中隊』、中隊が三つの学年全てで『大隊』となるわ。まあ、特高に一年から三年が全て揃ったのは今年が初めてで、ようやくエース大隊が完成するんだけどね」

 大馬の説明に良子は苦笑いをしながらそう補足した。

 

「装甲車に乗り込んでいるのは全員同じ分隊の奴らだ。他にも、今後予定されている集団訓練は分隊単位で行う。今から息の合いそうなメンバーを見繕っておけよ、さもないと……」

 待っているのは地獄だ――と、声には出さず、口の形だけで忠告するのであった。

 

「兄弟、ワテらズッ友やろ!?」

「ずっとも?」

 涙目で宗次にすがる映助だが、田舎者は十数年前の若者語など知らなかった。

 

「須藤さん!」

「りょーかい。他の連中にも声をかけないとな……」

「ひ、陽向ちゃん、私……」

「はいはい、大丈夫、一緒のチームになろうね」

 響が即座に誠に声をかけたり、ボッチは嫌だと泣きつく神奈を、陽向が慰めたりと、クラスの中はちょっとした騒ぎとなるが、担任が手を叩いてそれを鎮める。

 

「静かに、分隊の決定はまだ一ヶ月は先の話だ。今は映像に集中して、戦闘の流れを少しでも掴んでおけ」

 言われて生徒達は黒板に目を戻すが、今は軽井沢方面への移動中であり、退屈な装甲車の内部が映し出されるだけであった。

 

「これみんな三年か、思ったより緩い顔しとんな」

「でも、緊張してるよりは良いかも。安心して見れるし……」

 両側に六人ずつ向かい合って座る、三年生達は楽しげに談笑しており、これから戦場へ向かうという気負いは窺えない。

 しかし、その明るさも兵士に必要な資質であった。

 

「音宮の言う通りだ。毎日気を張っていたら、緊張で押しつぶされて自滅するだけだぞ。抜ける時に抜いておく切り替えも、これからは必要になると思え」

「気を抜きすぎても大変な事態になるから、そこは匙加減を間違えないようにね?」

「抜ける時に抜く……やらしいな」

「お前はずっと気を抜くな」

 大馬の投げたチョークが、必中の槌ミョルニルのごとき精度で映助の額を打ち抜いた。

 

「さて、そろそろ到着だな」

 無駄話をしている間に、装甲車がゆっくりと停止して、上級生達が素早く降車を始めた。

 

 カメラが捉えたのは、避暑地として有名だった軽井沢より少し進んだ先、長野県御代田町の光景。

 有るのは古寺とゴルフ場、そして畑くらいという、さびれた田舎ではあるが、静かで穏やかな空気に包まれた町。

 しかし、それも六年前の話でしかない。

 今の御代田町にあるのは、ただ一面の焼け野原。

 CEとの度重なる戦闘によって刻まれた、鉛玉と炎の破壊跡だけであった。

 

「酷い……」

「…………」

 テレビでも何度か流され、ネットを探せばいくらでも見つかる光景。

 それでも、三年生の視点で見る御代田町の生々しい光景は、生徒達に恐れと怒りを生み出すのに十分であった。

 

「慣れろとは言わん、だが今は上級生達の動きに注目しろ」

「ええ。怒るのは良いけど、怒りすぎは判断のミスを招くわ。今は上級生の闘いを見て学びなさい」

 憤る生徒達に優しい声をかけつつ、大馬と良子はプロジェクターに別の映像を出す。

 それは衛星が捉えた御代田町の写真で、西の方向、ピラーの存在する長野県松本市方面から近付いてくる、光り輝く群れが映っていた。

 

「……CE」

「そう。これが貴方達の戦うCEよ(悲しいな。あの時、人と解り合おうとしていた者達の使者を討つことになるのは……)」

 人類の敵、謎の結晶体、クリスタル・エネミー。

 それが視界に入った瞬間、上級生達は一斉に動き出した。

 

『射撃隊、前へっ』

 伝説の弓矢を、投石器を、投げ槍を持った者達が隊の前列に出る。

 そして、確実に当たる距離まで引き付けてから、号令が上がった。

 

『放てっ!』

 必殺必中の幻想を持つ矢や弾や槍が、まるで生き物のごとく宙を駆け、先頭を進んでいたCEの中心部、赤く光る球体を貫いた。

 

「あの赤い球体が奴らの弱点『コア』だ。あれを破壊しない限りCEは止まらん」

 大馬が解説している間にも、次々と伝説の射撃武器が結晶体を貫いていく。

 しかし、押し寄せるCEの数はあまりにも多く、半数ほど減らした所で、矢の方が先に尽きてしまった。

 

「射撃系の幻想兵器は、使った分だけ幻子干渉能力を消費して、ついには幻子装甲すら維持できなくなる。射撃武器の使い手はよく注意するように」

「はい」

(そういや、鋼金暗器には弓の形態があるが……その場合は射撃系と同じになんのか?)

 宗次の横に座る、投石器使いの一樹が真剣な顔で頷いた。

 

『盾隊、前へっ!』

 号令に合わせて射撃部隊が後ろに下がり、盾を構えた者達が前に出てくる。

 

「盾の幻想兵器は幻子装甲よりも遥かに硬く、CEの攻撃を何十回も防げる。常に最前線に立って味方を守り切る、最も危険で重要なポジションだ。心しておくように」

「あ、うぅ……」

「うへぇ……」

 盾の使い手だが臆病な神奈は、怯えて陽向に抱きつき、同じく盾使いの昴は責任の重さに溜め息を吐いてしまう。

 そんな中、カメラに映る上級生達は、CEが迫ってくるのを無言で待っていた。

 

「前にも話したが、CEの攻撃は射程が約三十mと短い。一部の例外を除いてこちらから飛び出して体力を消耗するより、待ち構えた方が楽だ」

 そう頭で分かっても、ゆっくりと敵が近づいてくるのを、目の前で待つ緊張感はどれほどのものだろうか。

 耐えかねて突撃しかねない味方を『吹き飛ばせ、天叢雲(あめのむらくも)ぉ!』

 

「え、この声って……?」

 響に聞き覚えのある咆哮と共に突撃した青年が風で出来た巨大な斬撃を放ってCEの前衛を壊滅させるとそのままCEの戦列の中に突撃し、一人でCEと戦闘を開始する。

 

『大和!? ああ、もう何時もこれなんだから……』

『だが、奴のお陰でCEの隊列が崩れたのも事実だ! 総員、突っ込め!』

「うん? この声は……」

 宗次が疑問を抱き、考え込もうとしたその時、ついに接近戦の幕が上がった。

 

『『『うおおおぉぉぉ―――っ!』』』

 雄叫びを上げ、上級生達は一斉に駆け出した。

 先頭を走る盾役達が、三十mの距離を切った瞬間、青年の対処をしていないCEが一斉に赤い光線を放つ。

 しかし、CEの中に突撃した青年によって隊列が乱されてるのもあってか所々歯抜けになっており、狙いが正確なのもあって当たるものは伝説の盾によって容易く防がれ、中には光線の合間を縫うように駆ける人間もいた。

 

 そして、次の攻撃が始まる僅かな合間に、エース隊員の花形、近接部隊がCEに躍りかかった。

 伝説の剣が、斧が、槍が、槌が、火を噴き雷を轟かせ、結晶体を両断し、粉砕し、貫いていく。

 人が火薬と銃を手にした事で忘れた、原初の荒々しくも美しい闘争の風景がそこにはあった。

 

「凄い……」

「CEの攻撃は脅威だが、約五秒に一度ほどの頻度でしか発射できないようだ。この間隔を体に刻み込まなければ生き残れないぞ」

「それと、CEは同士討ちを避ける傾向にあるから、いざという時は光線を射ったCEを盾にするのも手よ」

 良子の言う通り、同士打ちを避ける知能はあるのか、後続のCEは前方に味方がいる場合は、攻撃を控えているようだ。

 おかげで、突撃した青年や近接部隊は大した反撃を受ける事なく、目の前の敵を一体ずつ確実に仕留めていく。

 とはいえ、光の速度で放たれる攻撃を全て避けられるはずもない。

 最前線で戦っていた斧使いが、運悪く集中砲火を受け、変換器がけたたましいアラームを響かせた。

 

『藤村、飛ばすぞ!』

『すまん!』

『大和が藤村を避難させる! 河野、替わりに前へ!』

『分かった!』

『藤村を狙う奴は叩き潰せ!』

 突撃した青年が風を操って斧使いを避難させると的確な指示で次の生徒が戦線を支え、斧使いを狙ったCEを他の生徒が討ち取っていく。

 その声を聞いて、宗次と響の疑問はようやく氷解した。

 

「麗華先輩だ」

「やっぱり、風宮先輩だ」

「はぁ?」

「号令を出していた、このカメラの人物、麗華先輩だ。後、真奈先輩も一緒に戦ってる」

「っで、突撃したのは私が話した風宮先輩だよ」

「なんやてぇぇぇ―――っ!?」

 衝撃の真実に、映助は思わず絶叫した。

 食堂で会った時とは少し違う、高めの大声だったので気付くのが遅れてしまったが、その声は確かにあのイケメン女子、先山麗華と侍女子の御劔真奈、問題児の風宮大和のものだった。

 

「なんだ、知っていたのか? 確かにこの映像は先山のものだ」

「いや、それも驚きやけど、なんであのイケメンが指揮してんねんっ!?」

 映助がそう問い詰めると、大馬はむしろ不思議そうな顔をした。

 

「何故って、先山は三年A組の分隊長で、実質的な指揮官だからな。知らなかったのか?」

「知らんわそんなのーっ!」

 映助の絶叫は、響を除いたD組全員の総意であった。

 

「A組って、あのイケメンはワテらと同じ飯食ってたやんっ!?」

「確かにA組は特別な食事を支給されているが、諸君らと同じ物を食べるなとも言われていないぞ」

「しかも三年の分隊長で指揮官って、それこの学校で一番偉い奴やんかっ!」

「いや、大隊長であり生徒会長でもあるトップは別にいるぞ。ただ、生徒会長は幻想兵器の性質上、皆を巻き込まないよう一人で突撃するから、全体の指揮は先山が担当しているだけだ」

 どちらにせよ、校内ヒエラルキーの最上層に位置するのは間違いない。

 

「風宮先輩が突撃するのは……?」

「う~ん、待ちきれないみたいなのよねぇ……」

 生徒会長とは違って大和が突撃する理由を良子は歯切れ悪く話す。

 

「あの人が、A組で指揮官……?」

「強力なライバル登場ですね~?」

(何が?)

(やれやれ……)

 心々杏がからかっても、陽向は青ざめて聞こえていない様子であった。

 

「凄い人だったんですね」

「そうだな」

「戦いてぇ……!」

 宗次の方は驚いた様子もなく、一樹と頷き合って映像を眺める。

 麗華のカメラが映す光景から、CEは見る間に減っていき、ついには最後の一体が打ち取られ、人類の敵は全て粉々の欠片となって地面に散らばった。

 

『状況終了、第二陣がなければこのまま帰投します』

『了解、ご苦労様でした』

 京子らしき声が労い、上級生達は警戒しつつも帰る準備を始めた。

 

「以上で作戦は終了だ。ここ数年、CEは今回のような小部隊を繰り出してくるのみで、こちらから仕掛けない限り、六年前ほどの大部隊を展開してくる事はない。そのため、現在のような睨み合いが続いているというわけだ」

 大馬の説明も、イケメン女子・麗華の正体が衝撃的すぎて、交流のなかった響以外のD組生徒達の大半には聞こえていなかった。

 

「何をそんなに驚いているんだか」

 呆れ顔をしながら、大馬はパソコンを操作して新しい映像を映し出す。

 それは上空からの衛星写真で、群馬から南西に二百㎞以上離れた名古屋周辺を撮ったものだった。

 

「今回、CEは東日本方面にしか進行してこなかったようだが、当然ながら西日本方面へと進行する事もある。これは一ヶ月ほど前、それを撃退した自衛隊の映像だ」

 名古屋より三十㎞ほど東へ進んだ先の岐阜県中津川市。

 御代田町と同様に人の姿が消え、建物すら焼け落ちて荒野と化したそこに、CEが群れをなしてゆっくりと進んでくる。

 だが突然、無数の轟音と土煙が上がり、砕けたCEの結晶が宙を舞った。

 

「すっげぇ……」

「FH70・155㎜りゅう弾砲、および99式自走155㎜りゅう弾砲による間接射撃だ」

 誠の驚きや大馬の説明の間も砲撃は延々と続き、CEを粉々に粉砕していく。

 

「ひぇ~、これならワテら用なしやん」

「だねぇ……」

「そうなら良かったんだがな……」

「そうね……」

 感心する映助達が見守るなか、砲撃は止んで風が土煙を吹き飛ばしていく。

 現れたのは、ガラス片のごとく大地に散らばった結晶と、その中でまだ光を放つ赤い球体。

 

「死んでない?」

「そうだ、CEはコアを破壊しない限り活動を止めない。そして、バリアのような物でコアを厳重に保護しているらしく、並みの砲撃では表面しか破壊できない事が多い」

 とはいえ、割れて光を失ったコアも散見されており、決して砲撃が無駄だったわけではない。

 

「あとは戦車で接近し、外さないよう至近距離からコアを破壊して回るのだが、この時が一番気を使う」

 大馬はパソコンを操作し、地面に半分以上埋まったCEコアの動画を映す。

 

「これは敵を研究分析するため、あえて破壊せず放置しておいたコアの映像だが、見ていろ」

 百倍速で流れる動画の中で、球体のコアしか残っていなかったCEの周りに、キラキラと光を反射する結晶が生まれていった。

 

「再生してるっ!?」

「そう、CEはコアを破壊しない限りは時間はかかるけど再生するわ」

 そして、何度でも人々を襲ってくる。

 

「だから、コアは何としても破壊しなければならない。土砂に紛れていた物を見逃したり、間違って戦車で踏んで地面に埋めたりすれば一大事だ」

「実際、大戦初期ではそれが起きた結果、大勢の犠牲者がでたわ」

 戦車で砲撃跡に向かった自衛官達は、慎重の末に慎重を重ねて地面を精査していた。

 

「もっとよく調べようと戦車から降り、埋まっていたコアに攻撃を受けて、再起不能になった者もいる。辛く危険な任務だ」

「…………」

「それに榴弾は一発で二十万円以上もするし、それを一度の作戦で二百発以上も撃ち込んでいるわ。掃討を行う戦車の弾薬、燃料、それにメンテナンスの費用も考えると……嫌になってくるわね」

「何億万円かかっとるんや……」

「想像するだけで目眩してきた……」

 CEの進行は年に何十回も繰り返されるのだ。

 いったいどれほどの資金と資源が失われているのか、財務大臣でなくとも頭を抱えたくなる話であった。

 

「そら消費税も十二%に上がるわな」

「近々、十五%になるそうだぞ」

「うえっ!?」

「まだ上がるのかよ……」

「仕方がないんだ、輸入している武器弾薬の原料費が右肩上がりだからな」

 映助や響、愚痴る誠をたしなめつつ、大馬も勘弁してくれと溜息を吐く。

 他国もCEとの長い戦争を続けており、慢性的な物資不足に悩まされている。

 自国の分すら不足している物を、売ってくれと頼まれて、はい喜んでと安値で差し出す馬鹿はいない。

 CE登場以前の何倍という値段を吹っ掛けられても、それを黙って買うしかないのが日本の現状であった。

 

「戦うには金が要る、CEに滅ぼされたくなければその金を払い続けるしかない。そして言い方は悪いが、諸君らエースは非常に安上りなんだ」

(……同時に、機械仕掛けの英雄(天道寺英人)を守る肉盾(モブ)としてもな)

(まあ、こいつや一部の人間は罪悪感を抱いてはいるらしいが……)

 全国から適任者を選び出す作業や、幻想変換器の作成費、校舎やその他設備の費用諸々を含めても、自衛隊に掛かっている金額の十分の一もない。

 何より、戦車や自走砲と違って弾薬のような消耗品が要らず、物資不足に悩まされない。

 

「CEの進行が始まって六年、元から資源不足で悩まされてきた日本は、むしろ良くもった方だろう」

「現に自衛隊の装備の劣化は激しいし、弾薬も少ないから今は騙し騙しの状態ね」

 今の所は進行を全て防ぎ切り、都心部まで攻め込まれていないから、市民の多くが余裕を感じているが、それは混乱を避けるために流された偽りの希望でしかない。

 一度どこかが崩れれば、東京、名古屋、大阪といった大都市にまでCEが流れ込み、日本という国は地図から消滅するだろう。

 

「我々は勝ち続けているのに敗北に向かっている。この流れを止められるのは諸君らエースしかいない、それを良く覚えていて欲しい」

 普段厳しい大馬が、珍しく彼らを褒め称えた。

 お世辞や激励の意図も含まれていたのだろうが、それでも嬉しくて、生徒達はむず痒そうに微笑する。

 そこで丁度チャイムが鳴り響き、大馬はプロジェクターを片付けて教室を出て行った。

 だから、宗次は聞く機会を逃してしまった。

 

(そこまで追いつめられて、どうしてピラーを破壊しない――いや、破壊できなかったんだ?)

 無尽蔵のごとくCEを生み出してくる敵の拠点、巨大結晶柱ピラー。

 それさえ破壊できれば、この不毛な防衛戦を終わらせる事ができる。

 誰だってそう考え、実行に移すに決まっている。

 しかし、今なお戦争が続いている以上、その作戦は失敗に終わったのだ。

 その理由が何か、仮に聞いたとしても、大馬は答えてくれたかどうか、宗次には分からなかった。

 

 




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