英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~   作:笹木さくまのファン

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第1話 邂逅

 西暦二〇二五年、世界は一変した。

 

 地上のいたる所に、巨大な結晶の柱『ピラー』が出現し、そこから現れた謎の結晶体『CE(クリスタル・エネミー)』の攻撃を受けたのである。

 CEは謎の光線を放ち、それを受けた人間は肉体には何の損傷もないのに、昏睡状態に陥ってどんな治療を施そうとも目覚めなかった。

 まるで、魂を抜かれたかのように。

 

 各国は全力をもってCEの殲滅にあたったが、事態は容易に進まなかった。

 

 CEは見えない膜でも張っているかのように、こちらの攻撃を頑強に阻んだからである。

 

 もっとも、そのバリアらしき物も無敵とはいかず、大砲やミサイルを数発当てれば破壊できたのは僥倖といえよう。

 

 戦車を、戦艦を、戦闘機を、陸海空のあらゆる戦力を惜しみなく投入し、無念の死を遂げた大勢の恨みを晴らすため、何千万というCEを破壊して押し返した。

 

 しかし、人類の快進撃はそこで止まってしまう。

 

 まるで無尽蔵のごとく湧いてくるCEに対して、武器弾薬の備蓄が底を突いてしまったのだ。

 

 CE側は高い防御力と増殖力を持っていたが攻め手に欠け、人類側は高い攻撃力を有しながらも継戦能力に欠け、戦争は泥沼の膠着状態に陥っていく。

 

 

 開戦から半年後、戦況を覆すほどの兵器が、東洋の島国で誕生した。

 

 その兵器を手に戦場を駆ける、一人の少女と共に。

 

 だがそれでも、CEとの戦いに決着がつく事はなく、戦争は終わる事なく今も続いていた。

 

 事態が再び動き出したのは開戦から六年後、西暦二〇三一年の春からであった。

 

 群馬県前橋市の駅の前で一人の制服を着た少女が途方にくれていた。

 

「うわーん! パパ~!」

「あわわ……な、泣かないで、ね!?」

 少女……『音宮(おとみや)(ひびき)』は隣で泣いている幼稚園生くらいの少女を必死に宥めていた。

 

 響は前橋市に来た直後に父親とはぐれて泣いていた少女を見つけ、話し掛けたのは良いのだが……そこから先は泣く少女によって話が進まないのである。

 

「ど、どうしよう……? 交番……は、関わった手前無責任だし……かといって、誰だかわからないこの子のお父さんを探しにいくのもなぁ……」

 響はスマホの時計を見て時間を確認しながら頭を抱えてしまう。

 

「ええい! こうなりゃ、入学早々遅刻なんて不名誉を被っても……」

「彼処にいる子ですか!?」

「カナ!」

「あ、パパ~!」

「あら?」

 響は意を決して自分が学校に遅刻する事も厭わずに少女の父親を一緒に探そうとして……直後に少女の父親がやって来た事で転けた。

 

「良かった……怪我はないか!?」

「うん……あのお姉ちゃんがね、私が転んだ時に助けてくれてね、パパも探そうとしてくれたの」

「そうでしたか……娘を助けてくれてありがとうございます!」

「い、いえいえ! 人として出来ることをしただけですから!」

 響はお礼を言ってくる父親に顔を赤くしてわたわたと慌てながらそれを受け入れた。

 

「『天道寺(てんどうじ)』君も一緒に探してくれてありがとう……お陰で助かったよ」

「いえ……娘さんが見付かって良かったです」

 父親は一緒にやって来た少年にそう言うと、少年も照れくさそうにそう言った。

 

「それじゃあ私は此処で。学校がありますので!」

「俺も学校がありますので失礼します」

「お姉ちゃん、お兄ちゃん……バイバ~イ!」

 天道寺と呼ばれた少年と響はそう言って歩きだすと、父親は無言で頭を下げ、少女は笑顔で手を振った。

 

「えっと……天道寺君だっけ? あの子のお父さんを連れてきてくれてありがとう。連れてきてくれなかったら、私は遅刻してでもあの子の父親を探そうと思ったての」

「そっか……俺は、幼い頃から家族が姉さんしかいなかったからさ。だから、必死にあの子を探すあの人を見捨てられなくて……俺も遅刻してでもあの子を探そうと思ってた」

「じゃ、似た者同士だね!」

 響のお礼の言葉に天道寺がそう答えると、響はそう言って笑顔になる。

 

「そう言えば、君の名前は?」

「あ、ごめん。言ってなかったっけ……私の名前は音宮響だよ」

「俺は『英人(あやと)』……天道寺英人だよ。宜しくね、音宮さん」

「うん! 宜しく……って、あれ? そう言えば、天道寺君って……もしかして、『刹那(せつな)』さんの……?」

「え、ああ……確かに俺は姉さんの弟だけど……」

「そっか……私は六年前に刹那さんに救われたんだ」

「え!? そうなのか!?」

 響の言葉に英人は思わず驚いていた。

 

「うん。だからさ……刹那さんみたいに活躍出来るようになろね!」

「……ああ!」

 二人はそう誓い合って……

 

「その前に早よバスに乗らんかい!」

「あ……ご、ごめんなさい!」

「す、すまない!」

 後ろにいた関西弁の少年に怒られたことで二人は慌ててバスに乗り込んだ。

 

 バスに乗った後で彼らは自己紹介を始めた。

 

「さっきはごめんね……私の名前は音宮響。君の名前は?」

「ワテは『遠藤(えんどう)映助(えいすけ)』や宜しくな、音宮さん」

「うん、宜しくね! っで、隣の君は?」

 響は何処か自分に対して格好をつけたような言葉遣いの映助を無視して彼の隣の席にいる何処か武人の様な雰囲気を持つ少年に話し掛けた。

 

「俺は『空知(そらち)宗次(そうじ)』。宜しく頼む」

「うん。宜しくね、空知君」

 宗次や映助の自己紹介が終わった所で英人も自己紹介を始める。

 

「俺は天道寺英人だ。宜しくな」

「……天道寺やと? 自分、刹那ちゃんの家族か?」

「ああ、天道寺刹那は俺の姉だよ」

「……なんやろな、男やと刹那ちゃんと似ている目元が何でこんなに忌々しいんやろな」

「いや、それは八つ当たりの様な……?」

 英人を睨むつける映助に響が呆れていると……

 

「……その天道寺刹那って人はアイドルか何かなのか?」

 宗次の爆弾発言にバス中の人間がずっこけ、映助と響、英人による宗次への刹那という人物の説明会が始まった……

 

『聖剣の英雄』天道寺英人と『無双の槍使い』空知宗次、『絶唱の戦姫』音宮響の出会いは後世の作家によって劇的なものであったとされているのだが……実際はこんな感じであった。

 

 そして……彼らは知らない。この邂逅こそが本来の歪んだ英雄譚を崩壊へと導く切っ掛けになった事を……




如何でしょうか?

次回も頑張ります!
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