英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~   作:笹木さくまのファン

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第3話 正体不明

 失恋のショックで抜け殻となった映助を英人と宗次が引っ張り、響達は特高の校舎に辿り着く。

 見た目は普通の学校と変わらないが、実際は爆撃にも耐えられる建材を用いた、強固な砦であった。

 

「新入生の皆さん、まずは上履きに履き替え、教師の指示に従って地下に向かって下さい」

 大声で生徒を誘導している男も、一見すると普通の教師と変わらないが、スーツでは隠し切れないほど胸板や四肢が筋肉で膨らんでいる。

 

「確かに、普通の学校じゃないな」

「だねぇ……流石はCEと戦うための学校だね」

 改めて気を引き締めつつ、響達は昇降口で教師から指定の靴を貰い、それに履き替えて階段を下りる。

 普通の学校と変わらなかった地上部分と違い、地下は無骨なコンクリートの通路に金属の扉が並ぶ、どこか不気味な場所であった。

 教師の案内で通された部屋も、コンクリート打ちっぱなしの壁にパイプ椅子が並べられただけと、殺風景で不安を抱かせる。

 

「まるで悪の秘密基地だな」

「それは失礼じゃないかな?」

「いいえ。その男の子の言う通りで、大体そんな感じよ」

 宗次の独り言に反論した響の言葉に返事がきて、少し驚きながら響と宗次は声の主を探す。

 そこには壁に背を預けてタブレットPCを操作していた、白衣を着た科学者風の美女が軽く手を振っていた。

 

「うほっ、超イケてるお姉様やんっ!」

「おいおい……」

「男って、単純よね……」

 美女を見てあっさり復活した映助に英人や音姫が呆れ、宗次は視線で「貴方は誰ですか?」と問う。

 すると、彼女は妖艶な笑みを浮かべ、集まった生徒達の前に出て名乗った。

 

「皆さん、特高にようこそ。私はここの研究員と養護教諭をしている『保科(ほしな)京子(きょうこ)』よ」

「京子先生か、美人保健医とか最高やな!」

「うわぁ……あのスタイル、どうやって維持してるんだろ……」

 映助に限らず男子生徒のほとんどは、京子の白衣を押し上げる大きな胸や、タイトスカートから伸びる、黒ストッキングに覆われたおみ足に目が釘付けとなっている。

 ……響を中心とする一部の女子もその抜群のスタイルを維持している事に羨望の目を向けていたが。

 

「さて、ここに居る以上、皆さんは既にご存知だと思うけど、改めて特高がどんな所か説明させてもらうわね」

「「「は~いっ!」」」

「「「……ちっ」」

 一部を除いた男子が一斉にふぬけた声で答え、それを見た女子達は心底嫌そうに舌打ちする。

 

「うわぁ……早速空気が悪くなってる……」

「男の子が単純なのが悪いんじゃないかしら?」

 響がそんな男女で別れた空気に冷や汗を垂らしていると、音姫はそんなに心配しなくても良いと答える。

 

「対クリスタル・エネミー特殊隊員養成高等学校の名前通り、本校はCEから日本を守るための隊員を育てる学校よ。そして──」

 一度言葉を切り、集められた生徒一人一人の顔を見てから、大声で宣言する。

 

「皆さんは対CE隊員『Anti Crystal Enemy』、略して『ACE(エース)』の隊員となる素質に恵まれた、約五千人に一人の選ばれた逸材なのです!」

 賞賛の言葉に、生徒達の多くは胸を張り、得意げに鼻を高くする。

 響もまたその言葉に胸を熱くする。

 

(素質かぁ……試験の際に試験官とかに凄い驚かれたなぁ……)

 三年前より全国で行われるようになった、エース隊員を選抜する試験で響は前代未聞の数値を叩き出したらしく、試験を受けてから一週間は家に帰れなかった事を思い出していた。

 

「CEの登場により、我々人類は深い傷を負ってしまいました。ですが、引き換えに発見された物があります。それが『幻子(ファントム・マター)』であり、幻子を用いた新たなる武器『幻想兵器(ファンタズム・ウェポン)』なのよ!」

 その単語を耳にして、生徒達から興奮のどよめきが上がる。

 誰もがネットに上げられた動画で、それを目にしていたからだ。

 選ばれた若者だけが扱える、まさに幻想的な伝説の武器。

 

「私にはどんな武器が出るんだろ……?」

 響はどんな武器が出るかを心配していた。

 

「みんな、早く手にしたいって顔をしているわね。ではリクエストに応じましょうか」

 京子の声に合わせて部屋の扉が開き、台車を押した教師達が入ってくる。

 台車に積まれていたのは、メタリックな輝きを放つ黒い大きな腕輪。

 

「これは『幻想変換器(ファンタズム・コンバーター)』。幻想兵器を生み出す装置であり、貴方達の身を守る盾にもなってくれる、エース隊員の証よ」

 京子は運んできた教師達と共に、幻想変換器を生徒に配っていく。

 

「これがあのコンバーターか」

「凄え、超格好いい!」

「これが、私のコンバーター……」

「姉さんも使ってた物を俺も使えるなんてな……」

 響と英人も周囲の生徒の様にはしゃぎこそしなかったが、感慨深そうに腕に嵌めた幻想変換器を撫でる。

 

 一部を除いてはしゃいで受け取る生徒達を見て、京子は優しく微笑む。

 

「受け取ったら利き腕にはめてね。ただし、ロックがかけてあるから幻想兵器は出せないわよ」

「え~っ!」

「まあ、しょうがないよね……」

 生徒達から不満の声が上がるが、それも予想済みと京子は笑みを崩さない。

 

「慌てないの。直ぐに使わせてあげるけど、一人ずつデータを取りながらね。そういうわけで、一番前の席に座っている子達は私について来て」

 手招きして部屋から出ていく京子の後を、最前列の生徒十数人が追いかける。

 

「うう、緊張してきた……」

「響、大丈夫? 深呼吸をしてみたら?」

 緊張して身体が硬直する響を音姫は背中を擦り、声をかけて響に深呼吸をさせる。

 

「すーはー……大分ましになったよ。ありがとう、音姫ちゃん!」

「どういたしまして。私も緊張してるもの、だったらそれを解すのは当然でしょ?」

「そうだね!」

 音姫と響はそう言って笑い合う。そうこうしている内に響達の番が来た。

 

「三列目に座っている子達、ついて来て下さい」

「はい」

 皆緊張した面持ちで立ち上がり、呼びに来た教師の後を追う。

 案内された部屋の中は、先ほどと同じくコンクリート壁の殺風景な物。

 ただし、壁の片面がガラス張りになっており、その向こうでは京子をはじめ、白衣の学者達が忙しく機械を操作していた。

 

『じゃあ一番右の子からいこうか。名前を言って部屋の中央に立って』

「音宮響です! 宜しくお願いします!」

『元気一杯で何よりだわ』

 スピーカーから響いた京子の指示に、響は元気よく挨拶をして部屋の中央に歩みだす。

 

『ではロックを解除したので、変換器をつけた腕を前に出して、『武装化(アームド)』と唱えて。それで幻想兵器が形成されるわ』

「はい……武装化!」

 気合いを入れた響は言われた通りの単語を叫ぶ。

 すると、幻想変換器から光が迸り、それが響の掌に集まっていく。

 

「凄い……本当に私は、エースになったんだ!」

 歓喜する響の掌の中で光は形を成し……響の頭の中に音が響き渡る。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron

Imyuteus amenohabakiri tron

Killiter Ichaival tron

Seilien coffin airget-lamh tron

Various shul shagana tron

Zeios igalima raizen tron

Rei shen shou jing rei zizzl

 

「ず…あ……!?」

 響は一斉に響き渡る音に膝をつき、頭を抑える。

 

『音宮さん、大丈夫!?』

「い、いえ……だ、大丈夫です。ちょっとふらついただけですので……」

 響は頭を抑えて立ち上がりながら己の手の中に現れたペンダント状のそれを見つめる。

 

「これって、さっきの歌で起動するのかな? それじゃあ……」

『え? これ……どうなってるの?』

 響は頭の中に浮かんだ歌の内の一つを歌おうとして……京子が驚いたような声を出したのでそれを中断してしまう。

 

「京子先生、どうしたんですか?」

『ああ、ちょっと気になる結果が出たから……外に出てて』

「あ、はい。わかりました」

 響は京子の指示に従って部屋から出る。

 

(一体どうしたんだろ?)

 何が気になったのかを疑問に思いながら……

 

「これ、どういうこと?」

 京子は響の幻想兵器の由来を調べた際に出た名前に疑問に思う。何故ならば、その七つの名前は何も繋がりがなかったからだ。

 

 北欧神話の主神オーディンが振るいし神槍『グングニル』

 同じく北欧神話の狩人の神ウルの持つ神弓『イチイバル』

 日本神話において天叢雲剣と双璧をなす知名度を誇る神剣『天羽々斬(あめのはばきり)

 ケルト神話の主神ヌアザの腕に由来する『アガートラム』

 メソポタミア神話の女神ザババの持つ双剣『イガリマ』と『シャルシュガナ』

 銅鏡の一種である『神獣鏡(しんじゅうきょう)

 

 余りにも統一性がなく、無茶苦茶なラインナップに京子は疑問符を浮かべたが……すぐに次の生徒の番になった為に終わってから調べようと考えた。

 

 

 ……彼女がこれらの関連性に知るのは、それからかなり後の事である。

 

 




如何でしょうか?

次回も頑張ります!

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