英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~ 作:笹木さくまのファン
「天道寺、ちょっと良いか?」
宗次は英人に話し掛けた事で色んな人間から注目されているにも物怖じしていなかった。
「空知、どうしたんだ?」
「俺と試合をしてくれないか」
(あ、成る程ね。でも、天道寺君と刹那さんは家族だけど別人なんだから、期待しすぎるとダメなんだけどなぁ……)
そう直球で申し込むと、英人は驚いたように目を見開いたが、直ぐ不敵に笑って頷いた。
……その後ろで響は宗次が映助との試合を断った理由を理解するも、彼がやって来た理由も理解してしまった為に心配もしてしまった。
「いいぜ、受けて立つ」
「ちょっと英人!? 貴方の相手は――」
音姫は何故か慌てて止めようとしたが、英人は気にせず教師の元に向かい、宗次もその後に続いた。
「先生、俺達にも試合をさせてくれ」
「了解よ、天道寺英人君と……へぇー、君がね」
京子は宗次の顔を見ると、かなり驚いた顔をしたが、直ぐ真顔に戻って隣の教師を呼んだ。
「木村先生、この子達の試合をちょっと見て貰えますか」
「はい、任せて下さい」
木村と呼ばれた男性教師は、奇妙なほどにこやかに笑って、二人をグラウンドの中央へ招く。
「聞いた、彼って天道寺刹那の弟なんだって」
「マジで!? これは見逃せないわね」
(……不味いよなぁ。みんな、天道寺君に刹那さんと同じくらいの期待を押し付けてる。期待する気持ちはわかるけど……天道寺君だって私達と同じ一年生なんだよ?)
恐る恐る幻想兵器を打ち合わせていた他の生徒達も、それを見守っていた他の教師達も、手を止めて英雄の弟に注目する。
そして、そんな生徒達に響は危機感を抱いていた。
「宗次、頑張れや!」
「あぁ、頑張るよ」
生徒達には見られていなかった宗次だったが彼を応援する映助に手を挙げて応え、蜻蛉切を呼び出す。
「武装化っ!」
英人も幻想兵器を生み出すが、それは一本の両手剣だった。
綺麗な装飾の施された西洋剣だが、どんな伝承の武器か、外見だけでは判断が付かない。
(西洋って、剣型の伝説の武器は多いからな~……エクスカリバーかデュランダル、バルムンク辺りかな?)
響は英人の幻想兵器がなんなのかを予想しながら試合の始まりを待つ。
すると、宗次は槍を半回転させ、石突の方を英人に向けた。
(……空知君って武術の経験者なのかな? 槍の扱いに手慣れている様な……?)
槍を半回転させた動きの滑らかさに響は彼が武術の経験者なのではないかと疑問に思う。
「何あれ? 槍を使うまでもないって事?」
「お前なんて本気を出すまでもないって舐めてんでしょ、サイテー」
「多分だけど……幻子装甲があるからって、いきなり他人に刃物を向けるのを避けようとしたんじゃないかな?」
英人のルックスに惚れた女子達から、心無いヤジが飛んでくるが響はそんな女子達に宗次が何故そうしたのかを説明する。
「音宮の言う通りだ、俺はただ――」
宗次も女子達に説明をしようとして……
「うおおおっ!」
「いや、合図は!?」
審判の合図も待たずに英人は宗次に向けて突っ込み、響は殆ど不意打ちとも言える行動をした事にツッコム。
「せいやっ!」
英人は人間相手だというのに、容赦なく宗次に向けて真剣を振り下ろしてくる。
躊躇いのないその攻撃を、宗次は柄の中程で受け止めな、響は自分が感じていた危機感は正しかったと考えていた。
(やっぱり……)
「うおおっ! はあっ!」
(天道寺君……
英人は雄叫びを上げ、何度も何度も宗次に斬りかかる。
だがそれは、まるで金属バットを振り回すような、力任せで勢いだけの攻撃だった。
とてもではないが、剣術はおろかいかなる武術も納めていない、響の言う通りのド素人の動きである。
「君は、本当に天道寺刹那の弟なのか?」
(やっぱり、空知君も天道寺君と刹那さんを同一視してたんだ……)
響は英人の攻撃を容易く捌きながら、疑問を口に出した宗次に頭を抱える。
「今まで姉さんの活躍を知らなかったくせに、姉さんの名を勝手に呼ぶなっ!」
「えっ?」
(……天道寺君も刹那さんの弟だからって、色眼鏡で見られた事があるのかな? それに、宗次君が刹那さんを知らないって言った時に怒りの表情を見せてたし……それだけ刹那さんが大切だっんだね……)
宗次の質問にいきなりキレた英人を見ながらそう考える。
そして、同時に特高に来るまでの間に色々な人物に姉と比べられてしまった時もあるのだろうかと思う。
「すまなかった」
「何っ!?」
「いきなり謝っても意味がわからないよ!? いや、刹那さんと天道寺君を同一視したのを謝る意味だったんだろうけど!」
いきなり謝罪してきた宗次を、英人は訝しみつつも懲りずに斬りつけてくる。
響は英人に向かって謝った宗次の意図を理解しつつも、いきなり謝っても意味不明だとツッコミをいれた。
そうした後に英人の斬撃を柄で受け止めると、宗次はがら空きになっている英人の腹を蹴り飛ばす。
「ぐふっ!」
「そんな、足を使うなんて卑怯よ!」
「え、武器を使うだけが戦闘じゃないよ!?」
外野の女子から見当違いのヤジに響は目を剥いたが、戦闘態勢に入った宗次の耳にはもう届いていなかった。
距離が離れ、丁度槍の間合いとなった英人に向かって、矢よりも鋭く石突を繰り出す。
「うおっ!?」
「速い!?」
肩を突かれよろめいた英人に、宗次は体勢を立て直す間など与えず、上から頭を殴りつけ、横から足を薙ぎ払い、トドメに胸を突き刺す。
空壱流槍術・全方撃
名前通り、槍で行える『打、払、刺』という全ての方法で、『上、横、前』と全方向から攻撃を放つ連続技である。
「うわぁぁぁ―――っ!?」
「天道寺君!」
怒涛の三連撃を全てまともにくらった英人は、悲鳴を上げて地面に転がるのであった。
「ふぅ……」
宗次は軽く息を吐きながらも、構えを解かず残心を怠らない。
「槍を握れば常在戦場」が彼の祖父の口癖だったからだ。
「「「…………」」」
「ぐ……ま、まだだ!」
思いもよらぬ宗次の強さに観衆が静まり返るなか、英人はふらふらになりながらも剣を支えに立ち上がる。
「俺は、姉さんにずっと守られてきた! 姉さんと同じように強くなりたいと思った矢先に姉さんは死んでしまった! 俺がもっと強ければ、姉さんを助けられたかもしれないのに……!」
「天道寺君……え?」
響は英人の血を吐くような言葉に胸が熱くなり……同時に英人から大事な何かが失われる様な感覚を疑問に感じる。
「強くなる為に此処に来たんだ! だからこそ……こんなところで、敗けられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
英人はそう叫びながら剣を大上段に構えると、剣から黄金の光の刃が出現する。
「シェム・ハ、妨害を!」
「わかってる!」
(あ、ああ……あ? なんで? なんで、あれを見ていたら……怖いの? あれは、あれは……天道寺君を彼で無くさせるの……?)
響は後の方から聴こえてくる会話を気にする余裕もなく、恐怖に震えていた。
その光の刃は凄まじい圧力を放っており、離れていても肌がビリビリと震えるほどであった。
そして、響は光の刃が英人から何かを吸いだしている様な感覚にいてもたってもいられなくなった。
「エクスカリバァァァ―――っ!」
「ダメーーー!」
「な……!?」
「響、戻って!」
英人が宗次に向かって光の刃を振り下ろすのと同時に響は走り出していた。
「武装化ーーーー!」
響は自身の幻想兵器を出現させると、胸の中に浮かぶ歌を歌い上げる。
「Balwisyall!」
その言葉と共に槍を携えたオレンジ色の髪の女性が響に重なる。
「今のは……!?」
「Nescell!」
次に槍を携え、背中にマントを羽織ったピンク色の髪の女性が響に重なる。
「ま、またや……」
「gungnir!」
次に長いマフラーを首に巻いたグレた様な表情の黄色の髪の少女が響に重なる。
「何が……!?」
「こ、この力は一体……!?」
「tron!」
最後に先程の少女に似ていながらも何かが違う少女が重なり……響の左腕は光の刃を
「な……!?」
「バカな……!?」
京子と木村と呼ばれた教師の愕然とした声が上がり……
「ぶっ壊れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「音宮、待て!」
響は右手に握ったオレンジと黒に塗り分けられた槍を展開して光の刃に向けると宗次の言葉を無視し……
HORIZON†SPEAR
そこから砲撃を発射し、光の刃を爆風と共に吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ぐぅ……!?」
英人はその爆風によってゴロゴロと転がり、宗次も蜻蛉切を地面に突き刺して堪えるも体勢を大きく崩し、後ろにいた生徒達も大勢が尻餅をついたり、倒れたりした。
そして、爆心地にいた響は……
「はぁ……はぁ……ああ、良かっ…た」
彼女が纏っていた装備は霧散し、元のペンダントへと戻り、爆風に煽られた事で煤だらけになっていたが……誇らしげに笑っていた。
(あれが……これ、の…真のすが……た)
「音宮さん!」
響は己の幻想兵器の真の姿に驚きながら意識を失い……
「……音宮響。お前は、何者だ?」
それを特徴のない平凡な少女が支えると……何処か、興味深げにかつ警戒をするかの様にそう呟いた。
……此処に、歪んだ英雄譚は噛ませ犬の誕生に失敗し崩壊へと向かって行くのだが……それを知るのは一部の大人達とそれを阻止せんとする者達のみであった。
如何でしたか?
次回も頑張ります!