英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~ 作:笹木さくまのファン
第6話 幻想兵器と暗躍する者
少女は音楽プレーヤーから流れる歌を聴きながら、最後になった食料を食べていた。
「……いきるのを、あきらめない」
少女は母と父を失い、折れかけた己の心を奮い立たせてくれた言葉を呟きながら食べ終えた後膝を抱えて座る。
「いきるのを、あきらめない……!」
少女は再びその言葉を呟き……
「大丈夫!?」
その言葉と共に閉ざされていたドアが吹き飛んだ。
少女がそこに顔を向けると、そこには大剣を手に持った黒髪の日本人形の様に愛くるしい少女がいて……
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意識を取り戻した響の目に映ったのは、見知らぬ天井と見知った白衣の美女。
「京子、先生?」
「えぇ、どこか痛む所はない?」
微笑み心配してくる美人保健医に、響は起き上がりながら質問をする。
「痛むところはないです。……先生、あれからどうなったんですか? みんなは、天道寺君や空知君は無事なんですか?」
「……君って子は、起きて最初に言うのがそれ?」
自分の事よりも、友人や他人の身を心配する響に、京子は呆れと感心の混じった笑みを浮かべる。
「大丈夫よ、君が頑張ってくれたおかげで、皆直撃は免れたから」
「良かったぁ……」
安堵の息を吐きつつ、響は己のコンバーターを見つめて微笑んだ。
「ありがとう、あなたのお陰だよ。あ、そう言えば京子先生……私の幻想兵器って、なんだったんですか?」
響は自身の幻想兵器が皆を救ってくれたのだと呟いた後で言われていなかった自身の幻想兵器の名前を質問した。
「ああ。あなたの幻想兵器は北欧神話の主神オーディンが振るった槍……『グングニル』だったわ」
「うわぁ、凄いメジャーな武器だったんだ……ん?」
響は京子から告げられた幻想兵器の名前にテンションが上がるが……次の瞬間、疑問が沸き上がった。
「あの、京子先生。中学の友達が幻想兵器を『小説やアニメとかで人が思う『この武器はこうだ!』っていう幻想を当てはめた物だ』って考察した事があるんです。実際に天道寺君のエクスカリバーはFate/シリーズの『
「へえ……中々に鋭いお友達ね。その考察は合っているわ」
響の中学時代の友人の考察に京子は少しばかり感心した後でそれを肯定する。
「だったら、私のグングニルは何の幻想が基になってるんでしょうか? 服装は変わるし、槍は持ってたけど……なんか格闘戦しそうな装備もありましたし……」
響は己の幻想兵器の姿を思い出しながらその疑問を口にする。
ピッチリとしたオレンジと黒が入り雑じった衣服に穂先に黒とオレンジが混じった槍、パワージャッキを装備した小手に足の装備にマントとマフラーという両方身に付けるのはおかしい装備……
「なんか、複数の人間のイメージを無理やり一つに纏めた様な装備だったんですよね」
「う~ん……ちょっと、わからないわね。もう少し詳しく調べられれば良いんだけど……」
響の言葉に京子は考え込むが、響はそれに対して苦笑いをしながらこう言った。
「まあ、ちぐはぐでちょっと身に付けるには恥ずかしい装備だけど……私の幻想兵器なんだから、付き合っていきます」
「そう? そう思っているなら、私も何も言わないわ」
響はそう言って保健室のベッドを降りて……
「あの~……もう行っても良いですか?」
「後日再検査をするけど、今日はもう帰って良いわよ。あ、貴女の寮は十二番棟よ」
「ありがとうございます。今日はご迷惑をおかけしました」
そう言って出ていった響とすれ違う様にして長い黒髪を後ろでまとめ、三角形の眼鏡を光らせた、THE女教師という格好の美女が入ってきた。
「あら、『
美女……京子の友人であり、この学校の教師でもある『
「いや、な。天道寺英人がかませ犬への逆転劇に失敗した事を報告した際に政治家連中が怒るのはまだ良いんだが……阻止した生徒を退学させたり、転校させたり果ては暗殺しろだなんて無理難題を出されてね」
「それはまた……」
京子は綾子から聞かされた要人達の言葉に呆れたような表情になる。そもそも入学したばかりの人間を退学にしたり転校させたりしたら目だって仕方ないし、暗殺なんぞもっての他である。
「それと、本来なら天道寺英人を九番棟に入れなければいけなかったんだが……」
「そっちでも何かあったの?」
「何も知らない一般人を寮母として雇っていたのと、天道寺英人を英雄にしようとする関係上、九番棟に女子しかいなかったのが災いしてな……『女子寮に男子を入れるのは倫理的にどうか』と正論を言われて特例として十二番棟に入れるしかなかった」
「大問題ねぇ……」
綾子の疲れきった様な言葉に京子は初っぱなからつまづいた計画を修正するためにこれからも苦労するであろう友人に同情をする。
「でも……ちょっと嬉しそうね?」
「まあ……な。計画に関わっている人間としては音宮がした事は不味いと思ったが……刹那の願いを知っている身としては『良くやった!』と手放しで誉めたい気持ちがある」
「私もよ」
二人はそんな言葉に笑い合う。何も知らない少年少女を一人の英雄の為の踏み台にする計画利用していることに少なからず罪悪感を抱いている人間達にとっては、響のした事は少しばかり胸が空く思いであった……
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『ほお……そんな事になったのか』
「はい。機械仕掛けの英雄は初っぱなのかませ犬の誕生からイレギュラーが起きてつまづいた上に……フィーネの誘導で雇い入れた寮母さんのファインプレーで天道寺英人を英雄に導く為の
同時刻、モニターの光しかない部屋で若い研究員風の青年が誰かと話をしていた。
『それにしても……暗かったあの少女がそんな元気な少女になっていたとはね……』
「ええ。孤児院に行くまでは刹那さんが物凄く心配してましたたからね……」
青年が思い出すのは音楽プレーヤーを暗い表情で聴く幼い響とそれを共に聴きながら響を励ます刹那の姿だった。
『そう言えば、ピラーとの対話の為の装備の開発の状況はどうだい?』
「ダメですね。試作機から全然発展が出来ません……やっぱりコンバーターを1から作った貴方は偉大ですね」
『フィーネやシェム・ハの手助けもあったとはいえ、特高の中に秘密の部屋を作って研究をしている君も大概だと思うがね』
話をしている人物の発言に青年も苦笑いをする。
「通信を気取られない為にもそろそろ切りますね」
『わかった。君も気を付けたまえ』
「博士こそ」
青年は話していた人物にそう言って通信を切ると、そのまま部屋の真ん中にある装置に向き直る。
「ピラーとの対話の為の装置……これが出来れば、きっと……!」
青年が思い出すのは、人里離れた場所で見付けた小型のピラーの側で出会ったフィーネやシェム・ハから話を聞いて出した結論を大半の人間が笑い飛ばしたり、頭の病気を心配したりする中で「素敵な話ですね!」と微笑んでくれた少女の姿。
「必ず成果を出してみせる。刹那さんの弟に長野ピラーにいる人々を殺戮させない為に……!」
青年はそう言いながら、装置の調整を再開した……
如何でしたか?
次回も頑張ります!