英雄譚《しゅやくたち》を歌う歌姫《まがいもの》~異聞・英雄《しゅやく》になれない槍使い~ 作:笹木さくまのファン
保健室から退出した響はそのまま校舎を出る。
夕日が赤く染めるグラウンドでは、光の刃と砲撃によって刻まれた巨大なクレーターを、数台のブルドーザーが埋めていた。
響はそれを横目に見ながら、校舎から少し離れた場所に建てられた、十二棟も並ぶ四階建ての建物に向かう。
これから三年間、彼女が暮らす事になるエース隊員の寮である。
「わ~……凄いなぁ。部屋も広いんだろうな……」
響は寮の大きさに感動をしながら自身の寮である十二番棟に足を向けた。
「音宮さん、起きたのか!」
「あ、天道寺君!」
寮の中に入った途端に響は走りよってきた英人に声をかけられた。
「天道寺君も同じ寮だったんだ!」
「天道寺だけやなくて、わいや兄弟も一緒やで」
響がそう言うと映助と宗次も歩み寄ってきた。
「天道寺君……ちょっと言いたかったんだけど、なんで皆がいるのにあんな事をしたの? 空知君が避けたりしたら、私や音姫ちゃん、遠藤君に色んな人が巻き込まれたかもしれないんだよ?」
「う……それは、『
「神凪さん?」
響が英人にエクスカリバーを人が密集している所に向けて放ったことを注意すると、英人はバツの悪そうに顔をそらしながら呟いた名前に響は首を傾げる。
「私だ」
「わひゃらば!?」
後ろからの声に響が悲鳴をあげながら後ろを見ると、そこには『特徴のないのが特徴』を体現したような少女がたっていた。
「あ、貴方は……?」
「私の名前は『神凪
「う、うん……よろしく」
手を差し出してきた零に響はその手を握って握手をしながらもう片方の手をドキドキする胸に当てて落ち着かせる、
「まあ、そんなことよりもこっちの方が重要やで」
映助はそう話を切り替え、横を指さす。
玄関の横は広い談話室となっており、寮生の大部分が集まって、これから共に暮らす仲間達と親睦を深めていた。
「わあ~……私達もこれからの為にも加わらないとね!」
「そうだな」
「ああ」
響はその光景に目を輝かせながら英人と零にそう言い、英人と零はそんな響に苦笑いをしながらもそれに同意する。
「ああ。仲良くしないとな」
「あぁ、仲良うしたい子が沢山おるわ」
宗次が見ていたのは携帯ゲーム機で遊んでいる男子達だったが、映助が見ていたのは談笑する女子達であった。
「ほれ、あのセミロングの子とか、音姫ちゃんには及ばんでも、なかなかイケてるやろ? 隣の黒髪ロングも根暗っぽいけど爆乳やし、向かいの小柄なロリ体型もマニアックでええわ~」
「はぁ……」
「遠藤君……」
「おいおい……」
「…………」
映助の言葉に宗次は溜め息を吐き、響はひきつった顔で映助を見つめ、英人は呆れ顔になり、零に至っては絶対零度の目で映助を睨み付けていた。
「そもそも、どうして女子がここに居るんだ?」
「自分、そっちの気があったんかっ!?」
「あ、そう言えば……なんで男女が同じ寮に住むんだろ?」
「そう言えば俺は危うく女子寮に入れられそうだったんだよな……」
宗次の純粋に疑問に思うような言葉に映助は尻を隠し、響はそう言って首を傾げ、英人は自身がこの寮に来ることになった理由を思い出していた。
「男子と女子が同じ寮に部屋割りされているんだろ、それは問題があるんじゃないか?」
「だよねぇ……」
普通なら男女別々の寮にするものだ。建物の数が足りているならなおさらである。
「言われてみればそうやな」
女子がいる喜びで舞い上がっていた映助も、今更ながら異常に気付く。
「せやけど、これはチャンスやん! 風呂を覗いたり、夜中に押しかけたり、げへへへっ」
「「…………」」
「やったら玉を蹴り潰すわよ」
「何や、怖い事を言わんとお前も――うげっ!」
映助の発言に響と零が無言で映助の近くから離れる中で後ろからの声に映助は振り返り、そして固まった。
そこに青筋を浮かべて立っていたのは、彼が先程まで注目していた、セミロングの美少女だったからだ。
「何かしら、性犯罪者さん?」
「ま、待って、これは違うねん……」
「そうだ、君は誤解している」
「待ってくれ」
「兄弟、天道寺! 助けてくれるんかっ!?」
「まだ実行していないから性犯罪者予備軍だ」
「そうだ! 実行をしていないなら、まだ予備軍だ! ……すぐに予備軍外れそうだけどな」
「ぶふ!?」
「このどアホ共っ!」
宗次と英人の少女への援護射撃を背中に浴びせられ、映助は渾身の裏拳ツッコミを放つ。
だが、英人は裏拳を回避し、宗次は裏拳を容易く受け止め、そのままアームロックに移行した。
「ノーッ! ギブ、ストップや兄弟っ!」
「このように、反省しているから許してやってくれ」
「いや、これは反省って言えるのか!?」
「……ぷっ、あはははっ!」
三人の流れるような漫才に、少女も怒りが吹き飛び爆笑した。
「おかしな奴らね。いいわ、さっきのは聞かなかった事にしておく」
「ありがとう、えーと……」
「『
「空知宗次だ」
「私は音宮響だよ」
「天道寺英人だ」
「神凪零だ」
少女こと陽向は笑顔で右手を差し出し、響達も順にそれを握り返す。
「ワテは遠藤映助や、よろしくな陽向ちゃん!」
「聞いてないわよ」
「聞かれてないぞ?」
「聞いてないって」
「聞かれてないけど……?」
「お前の名は聞いてないぞ」
「皆して冷たすぎやろっ!」
映助は泣いて逃げ去るが、響達は特に追いかけたりもしない。
「しかし、本当に男女が一緒の寮なのか?」
「そのとおりよ。特例の天道寺君を除いて男女の区別なくクラスごとに分けられているわ」
響達が声に振り向くと、そこには眼鏡をかけた平凡な容姿の女性教諭がいた。
「貴方は?」
「ここの寮監で君達のクラスの副担任も務めている『
了子はそう言いながら響達に微笑み……
「クラスを超えて男子同士や女子同士の友情を育むもよし、男女を超えて友情を育むもよし、勿論甘酸っぱい恋愛や咲き乱れる同性愛もよし。一度しかない高校の青春なんだから、楽しみなさいな♪」
了子はそう言って響達の視線を談話室へと向けさせる。
「さあ、そろそろ寮での食事を担当する寮母さんが食事を持ってくるわよ? 食べて、交流をしなさい」
「はい!」
響がそう言っていの一番に談話室へ入ると、宗次達もそれに続いて入っていき……
「…………」
「…………」
零と了子はそんな響達を見ながら意味深に頷きあった……
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「あ~……美味しかった」
部屋へと入った響はベッドに横たわりながらそう呟く。
寮母の作った料理はどれも美味しく、お腹いっぱいになるまで響は大量に食べていた。(そしてそれにクラスメイトはとても驚いていた)
「おっと、日課日課」
響はそう言って持ってきたバッグに向かうと数台の色分けされた音楽プレーヤーを取り出す。
「今日は……これの気分かな?」
響は黄色の音楽プレーヤーにイヤホンを着けると、それを耳に入れて音楽プレーヤーを起動させる。
「~~~♪」
響はそこから流れる音楽を楽しげに聴きながら、自身と一緒に音楽を聴いていた自身を救ってくれた女性と己の友人を思い出す。
(刹那さん、見ててください。天道寺君と一緒に英雄になってみます。
響はそう思いながら音楽を聴きながら目を閉じるのだった。
「……響、どうして来たの?」
そんな事を一人の少女が呟いた事を響はまだ知らなかった……
如何でしょうか?
次回も頑張ります!