一乙目、生存
言い表すならば【不自然】。いや、自然の化身たる彼らに【不自然】と表すのもおかしな話。ただ、やはり【不自然】なのは彼らに類さないからなのか?
先程まで陽気なお天気が嘘の様。太陽は突如として姿を消し、青黒い雲を渦巻かせ、光を吸い込む黒き穴なり、空は赤黒く、雷鳴轟く異界の様相を見せてるが、所詮はそんなもの。今目の前に佇むその存在によりその全てが認識から阻害される。
「なぜ?……。」
純白。ただ一つ『純白』として表せるその鱗、その体毛。蛇睨の蛙どころの話では無い。見上げるはまさしく『龍』、紅い筈その瞳は白い神聖と禍々しさを発している。とうに砕けそうなその戦意は文字通り風前の灯……何故【コイツ】が俺の前に居るのか全く以って理解できないが、ただ行える事はただ一つ、ただ言えるのは一つ。
「いや俺レウス装備だから…。」
そして降り注ぐ紅の雷。哀れ、構える狩人の意識は唐突に失われていた……
一つ呼吸をするたびに、10回の落雷が辺りを焦がし、5回の落雷が身を焦がす。
その紅の雷は確実に撃ち下ろされる。
「………」
当たるどころか掠ることさえ許され無い。火竜の鎧はいとも容易く炭となり、その盾はまるで紙のように頼りない。
「…」
一撃は鎧竜より重く、それでいて迅竜の様にしなやかで、その雷は火竜の息吹きより正確。
不遜にもその純白の鱗を赤く染める。その赤は龍かはたまた狩人か。
「…………ッ」
隙は少なく、ただ淡々。焦る事はあるのだろうか?裏をかくとも為せた気がする事はなくまさに手中。露骨に侮る事もなく、驕る事もなく、ただ淡々。弄ぶ様な気すら感じない、極めて冷静、ひょいと蚊でも潰すかの様に…。
故に狙いは確実で分かりやすいが、やっとのことで乗り越えたその更に先を矢継ぎ早に繰り出す、更にそれ全てがほぼほぼ即死。その一撃は狩人の身も心も粉砕する。
「……………クソッ!」
なんど繰り返したのか、数える暇すら有りはしない。一つ潜る死線の次に来るのはまた死線、これはこうか、こうなるのか、次は何だ、これじゃないのか?そうじゃない、…またダメだった。
また予想を超えてきた、また行動が変わってしまう、また練り直し………、いや…、ただでは終われない、もう少し、もう少し、次への勝機を上げる為、だから…
「………………まだだッ」
何度その身を焦がそうと、何度その身を裂かれようと、しかし負ける訳には行かない、諦める理由にはならない。
…
「ッ!見えたッ、次こそは!」
潜り抜けた死線も、潜り抜けられなかった死線も数知れず、それでも諦めず、抗うことを捨てなかったからこそ見つけた千載一遇、小さな勝機、
……
「……ッ!、イャンガルルガの…方が強い!アルビノクソトカゲッ!」
!!!
気の遠くなる数の落雷を避け、轟音でもはや耳は機能せず、しなる純白の尾により鎧は砕け、赤を超えて赫、口内より繰り出されるは雷の奔流、避けきれ無い電流に焼かれても、余波で飛び散る破片がめり込むとしても、激痛に耐え、盾を砕かれても、火竜の息吹を宿したその剣だけは手放さない。不意に降りるその頭。腕も、脚も、腹も、尾も、大した効き目は示さなかった。ならばその頭、その顔ッ、その瞳ッ!文字通り降ってきたその一隅に全てを賭た。
突き立てるのは王の息吹を内包したその武器の名前は『コロナ』。太陽の光、その現象の名前を冠するに相応しく、今は名もなき狩人の意地矜持と、そして王の誇りを燃料に、より赤く、より熱く赤熱する剣を!見つめる先には真紅の瞳、視界に入れるだけで神聖と禍々しさに蝕まれそうになる、それは素材名でのみ知る。祖龍の霊瞳、それこそに!渾身の力を込めて突き立てる!
ッ!?!?
声も出無い、正に予想外、反射で体を持ち上げるも未だ焼かれ続けるような痛み、否、実に焼かれているのだ!狩人は後ろへ伸びる4本の角に手を掛けしがみ付き、更に深くへ突き刺ささんと力を込める。
「ゔゔゔゔッ…、まだ、まだダァ!」
常に雷が纏われたその剛角。故に捕まるだけでもただでは済ま無い。
が、それでも耐える、根性で耐える。
「あっ。」
終わりは早かった。首を一振り、狩人が命を掛けて行った一撃をいとも容易く振り解き、勢いよく吹き飛ばされる狩人、未だ落雷により焼き払われてい無い森へと高く遠くへ飛ばされて行き、木々に全身を引っ掻かれ、落ちた先で斜面を転げ落ち、一つドボンと音を立てて川へ落ちてしまった。
………
呆気ない。実に呆気ない。いかに絶技を持ってして切り抜けようとも、その龍の瞳に一撃を入れようと、それが王の息吹を宿した決死の一撃であろうと、龍からして見ればいつかは治る程度の傷でしかないのだ。
滴る血を舐め狩人が吹き飛んだ方を見続ける純白の龍。龍の預かり知らぬ所では、【祖なる者】と形容されるに相応しき絶対者。残された瞳に宿すは、怒りか、驚きか、はたまた……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【火竜】『リオレウス』より作られる鎧と、その武器、片手剣『コロナ』を装備した狩人。フルフェイス故に表情を窺う事はでき無いが、並々ならぬ予感、それも悪い方での予感を感じている事はその歩き方から見て取れた。
「………」
(おかしい)
なんて事は無かった。商隊の行手を阻む【狗竜】『ドスジャギィ』の狩猟クエストを受け、狩場に向かっている
「………、おかしい。」
(天気は晴れ、雲もいい感じにあるし森の中だが十分明るい。コンディションは良いはずなのに…あ、あとやっぱりかなり圧縮されちゃった。)
そう、おかしいのだ、依頼のドスジャギィは群れで行動する、子分であるジャギィどころか、予想される出現モンスターが軒並み居ない、何なら鳥の囀りですら聞こえ無い。
「?」
(ん?空が急に?、な!なんだ!)
変化は唐突に、そして如実に現れた。太陽は姿を消し、曇る空は明らかに正常ではない、そして何より…
「……」
(おいおいおいおい!、何で【祖龍】がこんな所にいるんだよ!、ラスボスどころか裏ボスなんだから塔で大人しくしてろよ!)
舞い降りるのは伝説。
この世界の厄災たる現象。それも最上級の忌まわしき言葉、『ミラボレアス』を冠するこの世の禁忌たる黒龍の系譜。
そもそも【黒龍】ですらお伽話レベルで有りながら、【紅龍】よりも、【煉黒龍】よりも、果てはその存在を認めることができない者達により意図的に焚書された【煌黒龍】よりも、目の前の存在はそれ以上の幻なのだ。
だが、そんな存在と対峙しても尚、狩人は焦り散らかす事は無く、至って冷静沈着と言った風貌であり、その表情は誰が見ても余裕と言った様子であった。ただフルフェイスではあるのだが……
「………おかしい。」
(俺に言うのも変だがおかしいのはオマエじゃい!おかしい以外の俺の言葉はどこに行ったんですかねぇ!?)
外と内の様相が真逆だが、その後の行動は完全一致。無意識に抜刀、盾を構え、いつでも行動ができる様に姿勢を整える。
「……………。」
(逆に落ち着いて来たぜ……、何でこんな所に居るのかは最早問題じゃない。まず逃げれるのか?絶対無理だ、言い切れる。俺はあいつから逃げられない。なら戦うか?……出来ないんじゃない、出来るまでやるんだ、『俺』にはそれが出来る!)
Guu………
白いオーラを放つ紅瞳に映すは狩人。何を想うかわからない。伝説であり幻。御伽話になることすらない存在だ、生物の規格を超え、自然を超え、理超えたとも言えるこの存在に抗う事を強制された不運な狩人。
「……狩る。」
(何度だってボコされてやる。だが最後に立つのはこの俺だ。現実になったとはいえゲーム内の動作もしっかりしてくるのは履修済み!だが…戦うとは言ったが、『狩る』だなんて啖呵切った覚えないんだが?………てかルーツは雷属性やん。)
GuOOOooooOO!
「いや俺レウス装備だから…。」
(いや俺レウス装備だから…。…何気揃ったの久しぶりだな。)
唸る祖龍。懸念する狩人。
「……。」
(あっ。)
始まりは落雷から始まった。
一乙
「!?」
(いやノータイム落雷即死!?出会って1秒で逝くとか容赦なさすぎ!何処ぞの土星人の事もう一生笑えんてこんなの!)
そして始まる蹂躙の嵐、炭、挽肉、圧死、両断etc…
狙いは確実。行動は緩慢にして高速、『余裕』とでもいうべきか。一挙一動が今までとは次元が違う。
九乙
「………。」
(何で尻尾が掠るだけで逝かないといけないんですか?)
存在する理不尽。術を片端から捲られる。されど諦めることすら許され無い。
二七乙
「………。」
(これもダメ、だがそれをすると隙があるのか?)
行動はメリハリが有り分かりやすい。が、
「グッ……。」
(威力馬鹿すぎ、余波だけで軽く終わるから大きく回避しないといけないのに次の行動への移行が早いから間に合わない!)
五十八乙
だめ、ダメ、駄目、また駄目だった。しかし、逃げる事も許されない。心を壊すことさえ許されない。
「………」
(生き残った!『根性』様々!ただじゃ駄目だ!少しでも長く生き残って次に繋げないと…。)
…七十五乙
フルフェイスにより表情は窺えず、されどもその奥に宿す光は増すばかり、行動を読み、文字通り『死んで』覚えて勝機を掴む。とてもじゃないが正気の沙汰ではない。
「……………。」
(これまで通りだ!相手が祖龍だからなんだ!デスカウントだけならあのガルルガの方がまだ上!抜かれてない!)
何でも良いから自分を奮い立たせ、何度でも立ち上がる。
…八十九乙
「!」
(これだ!ここだ!今はもう無理だ、足が無い。だが待ってろ?『次』決めるからな…)
暗転
……百二乙
対峙、瞬きする間に容赦なく落ちる落雷を避ける。先に落ちる落雷をこれまた避ける、落雷は数本常に追尾してくるが基本ランダムで降り注ぐ為…
(自分の片手剣の間合いまで近付くのに何回乙ったか…。)
接近、まさか潜り抜けられると思わなかったのか行動が遅れる祖龍。素早く右脚元に潜り込むと斬りつける訳でもなく素早く左にずれ込む。すると先ほどまでいた所に紅雷の右前脚による引っ掻きが大地を抉る。
(右腕スラッシュが来るからな…そして左に動くと足踏みがくるが、何故かこっちの方が反応が遅れるんだなぁ、癖かな?。 」
振動、踏み鳴らされる地面を跳んで回避し尻尾の根元へ飛び込む。足踏みから流れる様に発生するしなやかな尾による薙ぎ払い。
(根元だからこそ尻尾の動きがよく見えて範囲も狭くて避けやすい)
起点、適切なタイミングで回避。死線を確実に回避していく狩人。祖龍から繰り出される攻撃はどれも最低限の動きでこちらを消してくる。その為読みやすく、避けやすいのだが、最低限故に回避されても矢継ぎ早に攻撃が可能。だが、狩人からして見れば、やたらめったらに環境を破壊しながら結果全部範囲攻撃なるよりかは遥かにマシ。
(いい意味で落ち着いた戦闘になる。ただ、俺はこいつを一度も怒らせた事もなければ碌なダメージも与えた事がない……まだな。」
攻防、攻め手と守り手は一切反転する事もない一方的な攻防。数分?、数時間?、もしかしたら数秒かもしてない、今回は5秒持った、次は6秒、この1秒にどれだけの努力があるかは計り知れない。
努力は報われる。問題は、その結果に自身が満足するか。彼は……
「……ッ!、イャンガルルガの…方が強い!アルビノクソトカゲッ!」
一瞬、その赫い口内から放たれる息吹、その後の一瞬頭が下がるその一瞬。彼は報いを見出した。
「ゔゔゔゔッ…、まだ、まだダァ!」
(お守り様々!!父ちゃんありがとう!)
突き立てる剣は更に深くへ、角にしがみ付くだけでも全身が痺れて動けなくなる。耐えられているのは彼の持つ護石のお陰。効果は『根性』、本来、一定体力以上で即死ダメージを受けても1耐えるスキルだが、此処では死にそうになってもしぶとく耐える効果になっている様だった。
ッ!?!?!?
突然の激痛に声も出ず、無駄にしぶとくしがみ付く狩人を一振りで吹っ飛ばす。
そして次に聞こえる音は何かが水に落ちる音。
人知れず発生した激戦は、実に気の抜けた音で締められた。
狩猟失敗
…一乙目
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
龍からして見れば全て気まぐれ、何となく。
己の棲家たる塔から出たのも、眼下の森を歩く一人の狩人を見つけたのも、そして姿を現し立ち塞がったのも全て気まぐれだった。
全て、は「そこにいたから」、だ。
「狩る。」
ただ一言。眼下の矮小たる狩人は言い放った。事もなくさも当たり前の様に、この『我』に。大抵のものは何であれ、一つ見るだけで抗う事すらせずに項垂れていく。だが、この狩人は動じる事はなく、極めて自然に武器を出し、あろう事が睨み返して来るではないか!
龍は驚愕していた。唖然としていたのはこれが初めてかも知れない。火竜の鎧を着込むあの狩人、『我』と対峙した者達から比べれば歴戦と言うことでは無い筈だった。そしてあの狩人とは今日初めて会った事は確実だ。しかし奴はその悉くを回避した。まるで己を知り尽くし何百と己と戦ったとでも言う様に、無意識に降り注ぐ落雷で圧力を加えながら逃げ道を無くし、更に狙って落とした雷を然もありなんと完璧に回避し、人間には追いつけまい的確な連撃は気味が悪いほど適切に対処され、あまつさえ我の癖すら把握していたのだ!
「……ッ!、イャンガルルガの…方が強い!アルビノクソトカゲッ!」
更にこれもまた驚愕に値する。対峙したものの多くは我を誰よりも強いと形容こそすれど、誰よりも、よりにもよってこの我を、あの狂い鳥よりも下に位置付けた奴の言葉を。
不快では無い
目からは焦げた匂いがする。流血は止まったが、舌で拭えば未だ血の味は残されている。
……しい
ただ一つ気になる、その行動、言動。明らかに限界である筈なのに、割れ目から見えたあの瞳は光に溢れていた。下手をすれば我に挑んだ【英雄】達にすら縋り、越えるほどまで。
気になる
気にしてしまって仕方が無い
気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる
何者?我を知っている?我は知らない我が忘れているだけ?それはない、もしかして奴等か?いやあいつらはもう生きていない。人と我の時間は違う。
…顕れた?
全く気になって仕方がない。
…だがその在り方は実に好ましい。
生きているだろう、死ぬわけが無い。
アレは間違いなくこの時代の光、【英雄】たらんモノ
そして【証】は『我』に刻まれた。
それは確信であり一種の信頼。【龍】に刻まれし歴史が残す狩人の証明、それ故に…
兎にも角にも、狩人はその厄介な能力故に、厄介な存在に目をつけられてしまった。
そんな不運な狩人が、正直で美しく、過酷で残酷な自然を生き抜く不敗の物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
狩人君
主人公。実は最近リオレウスを倒したばかりの並ハン。なお、前世のPSは自称ベテランハンター。今世における初乙は落下死。
基本無口無表情。しかし人は外見に寄らないゾ、転生のせいか体と心がミスマッチだったのか、入力された言語と表情がちゃんと出力される事は少ない。そのせいで難儀な生活を送っている。本人は体が動いてくれるだけマシと思う様にはしている。明るく無いと死んじゃう病気に罹っている。出ないと発狂しちゃう。
ルーツ
はぇ〜、すっごい(驚愕)、これが未来の英雄ですかぁ…君気になるなぁ、せや!暇だし地の果てまで追いかけちゃお♡
イャンガルルガ
狩人に粘着する謎のガルルガ。負けそうになると逃げる為、遭遇するたびにデスカウントだけが増える(絶望)
ドスジャギィ
………こっわ(小並感)
生き残れば無条件で勝者なのです!