……
………
「……?」
(知らない天井ですねぇ…。ただ、生き残ったのかぁ…。あと黙らないでいい加減喋ってもろて。)
視界に映るのは温かみのある木の天井。薄暗い部屋を目だけ動かして様子を見、次に首を動かそうとするも、
「いッ!?」
(痛すぎ!、何だこれ!、身体中バキバキで動けねぇ、てか此処どこだ?声は出せる様だな…。)
有刺鉄線で縛られたかの様な痛みが全身を襲い、体を動かす気力は一瞬で失せていく。声帯がやられて声が出せないのかと心配もしたが、ただ単にいつも通りだということがわかり無駄に肝を冷やしただけで済んだ。
「……誰だ。」
(誰か居ますか?……何でそうなるん?誰も居ないから呼んだんやろがい!アホンダラ!)
「……まさかそっちから呼ばれるとは、目を覚ました様ですね、看護婦さん呼びましょうか?」
「…………。」
(は?え?誰?…偉い中性的な声やんね…まっ、まあいいや、此処はお言葉に甘えて……。)
「……いや、それより誰だ?」
(はぁ〜つっかえ。)
「……しがないギルドナイトです。名前は…まぁ会うのはこれくらいでしょうからそのまま『ギルドナイト』と呼んでください。」
「………。」
()
また喋る言葉が誤爆して出てきたと思ったら、突然ギルドナイトが扉から出てきて、更に勝手に看護婦の呼び出し拒否って話が進んでるこの状況。正に言葉も出ないとはこの事。起きたばかりで全身はくまなく動かず、かろうじて目だけしか動かせない所に自称ギルドナイトが入ってくる。…だめだこれ、全然捉えられん。……もういい、上見てよ。
『ギルドナイト』、前世では素行のよろしく無いハンターを血祭りに上げてしまうという、いい設定は聞いてない存在だ。
「早く本題に入れって言いたそうな顔をしてますね、それもそうですですが、その前に此処に来るまでの経緯を………貴方は、二日前川の下流域で漂着されている所を、本当に偶然通りかかったハンターに助けられ、今こうして病院に運ばれて治療を受け今ベッドにいます。発見当時の傷は酷く、防具は防具の程を成していないほどでした、それでも剣だけは治療を受ける寸前まで握っていたと聞きますから、貴方は本当に強い方なのでしょう。」
「………。」
(これお守りの限度超えてね?よく生きてたな、モンハン世界の人の肉体様々だな。)
「………では単刀直入に、貴方は【何】と戦いましたか?あの日あの時、貴方は【誰】と戦いましたか?」
「……。」
(そりゃルーツよ、あのクソトカゲめ…ほんとに強かった……、何で黙る必要があるんですか?)
「…答えられなi「白いトカゲだ」…え?」(え?)
「白い…トカゲだ。」
(ルーツをトカゲ扱いとかこれは大物ですわ…ざけんしゃねぇよ!)
豆鉄砲を喰らった様な声を出すギルドナイト。ギリギリ視界の外で表情は窺えないが、気の抜けた顔をしている事には違いない。少しの間を開いたあたりで初めに部屋に響いたのは堪える様な笑い声だった。
「…ッ、…ッ、貴方はッ、フッ、あの存在と対峙して此処までの傷を負って尚、ククッ、アレをトカゲ扱い?…は〜〜。」
一通り落ち着いたのか大きく息を吸い、呼吸を整えるギルドナイト。
「いやはや、これは大物と言うほかありませんね、個人的に貴方に味方をしたくなった、ここは【幻獣】『キリン』と運悪く鉢合わせたことにしましょう、貴方の今の評価では受けることのできないモンスターですし、天候の件もこれで納得してもらえるでしょう、所詮は籠るだけの世間知らずですし、一応レベルの確認なので、それに人手はいつだって足りてませんからね。」
「…………。」
(もう分からん、成る様になってくれ。あとガチで痛いから看護婦早よ。」
「長居は無用ですね、頑張って下さい『不敗のルーキー』さん?今夜はゆっくりお休み下さい。」
ガチャリ
と、扉を閉めて出ていくギルドナイト。……身長は多分そこまでだな…声質は判断つかんが、口調とかからしてまぁ、男だろうなぁ。いっそ分かりやすくゴリラならいいんだが、そこが見えないタイプは遠慮したい。
いやいやそんなことよりもよ、
「………。」
(だから、看護婦早よ……。)
彼の願いは虚しく、全身の痛みで休まらず、眠れない夜を過ごす羽目になった。
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「それにしてもキリンに出会ったんだって?これは災難だっね?私もジンオウガの落雷に撃たれて運ばれたハンターを治したことはあれど、君の容体はそれよりも酷かった。はい、これ痛み止めと、塗り薬、説明書は読んで置いてね、くれぐれも変な使い方はしないことだ。」
「………わかった。」
(いい医者がこの街にいてくれてよかった。本当にありがとうございます。…何が「わかった」じゃボケっ!感謝の言葉も出せんのか?)
数週間後の昼頃、晴れて退院する事ができ、久しぶりの我が家へと足を運ぶ。道中、壊れた防具の替えはどうしよう、片手剣は盾だけ無くなった場合どうするんだろ?結果あの夜の出来事は何だったのだろうか?と、様々な事が頭に浮かぶものの…
(ま、まずは治療で飛んだ俺のお金をどう挽回するかだな。)
結局はお金だった。前世の様な保険なんてものは無い。治療費に関しては、ギルドの不備による怪我はある程度負担してくれる制度はあるものの(この場合、出現モンスターの不備)、それでもやはり元が無いのでかなりきつい。今までの慎ましい生活の結果、借金なんて事は無いものの、このままでは自分の家まで売り飛ばさなければならなくなる。
(防具の方はレウス以前に使ってたジャギィ防具があるし、レウス盾は余った素材がまだある筈、それを使うべきだな…。)
今後の予定を練りつつも帰路を歩き、いざ我が家のドアノブに手を掛けたその瞬間、彼の有りとあらゆる感覚が激しい警笛を鳴らし始めたのだ!
「……ッ!」
(いる!?予感とかじゃない何がとかは分からんが兎に角「確実に居る」…どうする?開けるのか?)
開けるか、開けないべきか、悩んでいても仕方がない。そもそも此処は自分の家だ、ご先祖様から代々伝わるショボくても立派な俺の『城』。片手剣を構えて入る心の準備をする。武器で人は攻撃してはいけない決まりこそあれど、脅しくらいにはなる。そのうちにステゴロで勝てばいいのだ。
「あの人何で構えたままドアノブ持って固まってるの?」
「見ちゃダメよ、ああ言うのは気にしないほうがいいの。」
「無表情で何してるのかしら…。」
それにそろそろご近所さん達からの目線も痛くなって来た頃だ、何せ彼はその行動(不本意)から人付き合いが壊滅的なのだ、此処まで行って排斥されないのは一重に、彼が実力で示し、彼らも頼れると信用しているからなのだが、それはそれだ。好き好んで話しかけようとするものは今は殆ど居ない。ともあれ勇気を持ってドアを開ける。
「……ッ!だれッ…。」
(泥棒かなんざこの拳でッ!…は?)
ガチャン
言葉は紡がず、ノータイム無言でドアを閉めるハンター。そしてそっと中を確認してまた閉める。
「何をしておるのだ!お前の巣じゃろ!早よ入らんか!」
突然ドアが開き伸びて来た白い細腕。しかしどこにそんな力があるのか抵抗虚しく顔を鷲掴みにされ家に引き摺り込まれてしまった。
「………お前、何故いる。」
(いきなり……何でこんな餓鬼が居るん?てかなんだこの美少女!?)
「ほう、やはり気付いたが、流石我のこの圧倒的存在感は姿を変えようとも絶対的なのだな!」
受け身を取りつつ、侵入者を見据えてみれば、そこにはこんなところにいるはずもない謎の美少女、全体的に絹の様に白い髪と肌、病的なまでに華奢な体の割には、先程身をもって知ったあの怪力、凛とした美しい容姿だが、より目を惹くのはその紅瞳。片目は髪に隠れてよく見えないが、なんとも言えないオーラを放ち、さらには縦に伸びたその瞳孔は、彼女が只者ではないことを表していた。会った事がある的なことを言ったと思えば、話を進め勝手にふんぞりかえる始末。そしてやや興奮気味に畳み掛ける少女。
「『我』の、【英雄】よ、よくぞ帰った。こうして態々人の姿を取ってまで会いに来てやったのだ。人の身では会うことすら叶わないこの『我』が、なんと!2度までも!会いに来てやったのだぞ!」
「………。」
(は?何言ってんだこいつ早よ出てけや……待てよ?人の身?会う?、 白い肌に赤い目?…あっ(察し))
「ん?どうしたのだ?あ〜、我についてだな?どうだこの姿、美しいであろう!お前の『番』として振る舞っても良いのだぞ?。」
やけに『我』を強調させながら畳み掛ける圧倒的美少女系不法侵入型結婚式不審者。コイツじゃなきゃ殺されても文句は言えない。
しかしそれはそれ、地雷が見えているうちに此処は穏便にお引き取り願おうと口を開くと…。
「何を言っている、早く出て行け殺されたいか。」
(は?)
「そうかそうか!感激で言葉もでな……は?」
(何言ってるんですかね?前徹底的にボコされたやろがい!古龍ミラルーツであらせられるお方に一撃かましたからって勘違いすんな!耄碌するにはまだ早いぞ俺!)
「勘違いするな、耄碌しすぎだフルフルめ。『次』は一撃だ。」
(あっ、死んだ。何やねんフルフルって…あっ、この空気のことか。)
………ッ!
「……。」
(表情は分からないが赤みを帯びた頬、小刻みに震える体、これは相当頭に来てますね(名推理)、ゲームでも無理だよ?裸ルーツとか、俺は自称ベテランハンターであってプロハンでは無いからな。)
先程まで絹の様に美しかった肌は紅潮し、先程まで無かった頭部からは記憶に覚えしかない4本の角が生え、さらには少女の背丈以上の長さの純白の尾まで生やしていた。
……ダメ
無駄だとわかっていながらも剣を構えた、いつでも反応できる様に神経を張り巡らせる。
(前の様には絶対に行かない、いかに被害を抑えられるか、今回は死ぬが、せめて人のままで居てくれるか判れば……。)
張り詰めた空気、嫌と言うほど見て感じた紅雷が空間を迸る、先程の空気は何処はやら、正に一触即発の様相を醸し出す。
「ダメだ。いい、我は部屋に戻る。それよりも腹が減った、何が飯を持ってこい!いいな!」
「……?」
(え?許されたの?てか部屋ってここ俺ん家……。)
あの雰囲気は何処えやら、早々に家の奥へと姿を消してしまった彼女の後を見つめながら唖然とししばらく固まってしまうハンター。
「……わかった。」
(はっ、はぃぃ。)
これ以上の揉め事はもう経験したく無かった様で、半ば放心状態で台所を目指して歩いて行った。
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「あぁ…なんて好ましいのだ…。」
一人寝具の上、毛布を掴み息を吸い込む。
「すべてが好ましい…今までとは違うのだ…。」
悩ましい声をあげ、美しい髪を乱し、凛とした顔をだらけさせ、左眼と腹に手を当て火照る体を蹲せる。お世辞にも行儀が良いとは言えないその行動、しかし世の異性を、同性ですら目を惹き虜にしてしまうほど、彼女は扇情的であり、魅力的であるのだ。
「あぁ…あぁ…、このままでは変身が解けてしまうぞ………だが素晴らしい…それでこそ『我』を相手取るに相応しい…疼いて疼いて仕方が無い、その行動表情その言動!、逆境に抗い自然に挑み続けるその精神!、なんて美しく…なんて…愛おしい……。」
龍は人にあらず、人が龍理解する事は真に無く、それ故に龍が人を理解する事もまた真に無い。
日輪月蝕、瞳の紅はより澱む、正気を焚べて狂気を産み、光を浴びてヤミに沈む
「我は知らない、楽しみともまた違う、切なくもあるこの疼きは何なのだ?この感情を宥める方法を、我は知らない…『我』の狩人よ、お前ならばコレを抑えられるのか?あぁ…その目は我だけを捉えておくれ、でないと何をするのか分からない…あぁ、分からない。自分ですら分からないが、これが執着というものか…。」
彼は正しく凡の者、そうならざるおえないからこそそうなっただけであり、【英雄】などとは比べる事も烏滸がましい。
「我の世界を彩る【英雄】よ、我がその世界を彩れるならばそれは何とも……我に刻まれし我だけの【証】、狩人よ、我に【英雄】を…………。」
であれば相応しくなればいい、凡を天にするモノを持つ、持ってしまった。捨てること叶わず、活かすほかない。正しく理を超えたこの力、生きる為には死んで覚える他道は無い。
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「おい、飯だ。」
(おい、飯だ。…こいつの扱いに関しては激しく同意しているらしいな。あと何で俺の部屋にいるんですかねえ?)
珍しく外と内が合致したが、こんな事で、こんな所で会うくらいならもっと他の場所があっただろうと溜め息をつく。
「ようやく来たか『我』の【英雄】よ!どれどれ、これはなかなか良い匂いではないか!」
(俺が英雄とか目でも腐ってるんじゃねこいつ。)
そんな事を思っていいのだろうか?
「その目は飾りか、英雄ではない。」
(…は?こいつ出力するタイミング終わってね?)
……ッ!
残念ながら死なないと学べない様だ…。寄ってくる途中ぴたりと止まるといきなり紅雷を迸らせ、再び角と尾生やすも、すぐにそれら全てを引っ込める。
「そんな事よりも飯じゃ、それを寄越せ!」
ハンターの手に持つ料理は簡単なスープ。買い出しに行けてないので有り合わせの保存食で何とか作ったのだ。
「……美味いのか?」
(なんか、美味そうに食べるなぁ……いや俺が作ったんだからケチなんて言われたくはないけどな。)
「ッ!ごほんっ…、人の体はよく腹が減るからな、それに味覚も鋭い、お前、『生活力』が高い人間なのだな!」
「………。」
(結果殺されかけた奴に飯うまいって言われるこの状況って何?…いやまぁ殺されてんだけど。)
片や視界に入ったからという理不尽な理由で殺されかけた狩人。
片や視界の片方を突き刺され更に焼かれた人の形を取る龍。
それが今では同じ屋根の下で貧乏臭いスープを呑んでいる。狩人にはもちろんな事、龍にとっても経験した事のない異常事態。
「………。」
「…………。」
(いや喋るなら喋ってくれ。こっちから起点作りなんて出来ないからな?オートで無差別に短い定形文しか送れない、圧倒的なコミュ力弱者だから!)
スープに夢中な祖龍様、無意識に無言になり話を切り出す事ができない狩人、早々にこの静寂に耐えられなくなって来たが、此処で待望の次の話題が出される。喋るだけ面倒を起こすので会話は苦手だが、この状況での無言も堪えるものがあるのだろう。
「そうじゃ!名前じゃ!お前の名は何じゃ?」
「………。」
(おっ話題きた…名前か、喋ってくれる?俺はカナクだ、名も無きハンタームーブはもういいから早く言ってくれ頼むから。)
「どうした?早よ名のらぬか。」
「ハンターだ。」
(ハァ“ア"?何をッ、よりにも寄ってそこを出力するん?頭おかしいんか?(疑問))
「………ッ!落ち着くのだ………名乗る名前もないとな?まぁよかろう、ハンターよ、お前にはこれからも数々の脅威が降りかかるであろう、だが心配する事はないお前の最後は『我』であるからな。」
「………お前は『途中』だ。」
(最後?なんか途中死刑宣告された気がする。あれ?今受諾しなかった?。」
〜〜〜〜ッ!!!
「………。」
(拙者死んだ?。拙者ルーツ様に無限なぶり殺し編始まっちゃう?)
「お前は本当にッ!「ルーツ。」…へ?」
「ルーツ。」
(何勝手にルーツ出力してんの?。)
「『ルーツ』、我の名か?どういう意味じゃ?」
(お、なんかいい感じに反らせた?なら乗るしかない、このビッグウェーブに!)
正に天からの救済、自分から蒔いた種ではあるが、自身の破滅から逃げる道が見えた事に勢いづくハンター君。
「祖先、根源。」
(確か祖先だとか根源だったか?)
「ほ〜、我を見てそう感じたのじゃな?やはり我から出る『オーラ』は隠しきれないようじゃな、…気に入った!意味は兎も角、知らない言葉だが…うむ、とてもしっくり来ぞ、『ルーツ』コレからはそう呼ぶのだ!」
「………。」
(一緒に暮らす事確定してない?はぁ、もういいや。抗うだけじゃ進まないからな、柔軟に生きねばな。)
諦めが肝心という言葉もある通りこれ以上の面倒ごとは避けたい様で、外を見ればもう斜陽に傾きもう一日が終わろうとしていた。
「…もういい、此処にいろ、ベッドは好きに使え、他は触るな、下に居る。」
(もういいや、俺はコレからは下で生活するか、ベッドは使ってもいいけど防具は触らないでね……え?どうしたんめっちゃ喋るやん。)
その夜お風呂に乱入して来たルーツに発狂(当社比)し、それを面白がったルーツが更に暴れ、正に阿鼻叫喚の様になった模様。
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ハンター君
名前を決めていないわけじゃないよ本当だよ!今と前がごっちゃになっている事に気づいていないだけだよ!(重症)
ルーツ
少女の姿をしてるせいで精神が引っ張られ、性格などが軟化している。
お気にの英雄の卵が孵化する瞬間が見れてその英雄が自分に立ち向かう姿を想像して悶々としている。ただしよくわかっていないので発散方法は物理的にぶつかるしか知らない模様
ギルドナイト
禁忌を知ってる時点でかなり上。知った上で恐ろしさも知っており、それ故に対峙したハンターの啖呵に心奪われた。あとで何とか誤魔化した模様。
医師
凄腕、もっと中央でいい暮らしできるのにできるだけ安く地方で活動している。
住民
別に腫れ物扱いはしてないし、むしろ気にかけてはいる…。
でもね?不審者は不審者なんだ。
次回!ハンター君!死す!(いつものこと)