可能性の獣達が行くキヴォトス珍道中 作:ハイギガ粒子砲
「バンシィ、頼んだもの買ってきてくれた?」
「ああ、洗剤は駅前のスーパーのでよかったよな?」
「うん。そこの方が、他のところより安いから」
便利屋68の社員になってから数日、私は早速慣れてきていた。
カヨコに頼まれた買い物を済ませた後、冷蔵庫からお茶を取り出しながら話しかける。
「三人は仕事だよな。確か……運搬だったか。謎のアタッシュケースの」
「うん。……そんなに見つめなくても、言いたいことは分かるよ」
「大丈夫か?」
「……まあ、運が良ければ」
運か。
「運か……」
「社長もムツキもハルカも皆腕が悪いわけじゃない。むしろそこら辺の奴より断然いいと思うよ」
「私は今のところどれくらいか知らないんだが、カヨコが言うならそうなのか」
「社長は調子乗るくせに予想外の事があったら慌てまくるし、ムツキはそれ見てもっと事を大きくするし、ハルカは最終的に爆発させちゃうだけだから」
「今からでも向かわないか?」
今更ながらここに入って良かったのだろうかと不安になる。
いや、間違いなくいい奴らの集まりなのは分かる。
アルは悪者ぶっているが、滲み出る善性があるし、ムツキはいたずら好きだが便利屋のことをとても大切にしている。ハルカは少々ぶっ飛んだ事を言うが、それも仲間のことを想って。
そしてカヨコは一見不愛想だが意外と面倒見がいい。新参者の私にもいろいろ教えてくれている。
……やっぱり、ここで良かったと思う。
「ところで、カヨコは居残りなんだな。てっきり着いていくと思っていたが」
「バンシィがいるからね。武器はあるみたいだけど、記憶喪失なんでしょ?私達は職業上襲われることも少なくないから、一人だと危ないし」
「む……悪い、私のせいか」
「気にしないで。人手が増えるのはいいことだし、大切な仲間だしね」
「……優しいな、お前達は」
暖かい優しさが、私を包む。
……まだ子どもだからか、よく分からない。だが……
サイコフレームを介せずとも、暖かさというのは伝わるものだな。
私は笑みを溢しながらお茶を飲む。
そんなことを考えている時に、突然カヨコの携帯が鳴る。
「社長からだ……どうしたんだろう」
カヨコはスピーカーにして通話に出る。
「もしもし、どうしたの―」
『カヨコ!?非常事態だわ!』
「……今日は運が悪かったか」
『何の話!?じゃなくて、急いできてほしいの!』
「何があったの?」
『風紀委員と……ヒナと戦闘中よ!』
私は着ていたと言う『黒い装甲』を装着し、カヨコと共に三人の元へ走っていた。
向かう途中、私はカヨコにいくつか質問をしていた。
「よく分からないが、風紀委員……というのはヤバいのか?」
「正確には、風紀委員長の空崎ヒナがね。ゲヘナの端っこにいたからそうそう会うことは無いと思ってたのに……」
「聞いた話では、ヒナ一人じゃないんだろう?私達二人が助けに行ったところで数は負けているし、大丈夫なのか?」
「数で負けていても逃げることなら容易いよ。……ヒナがいなければ、の話だけど。確かに、二人増えたどころで何とかなるかな……」
空崎ヒナ……まだ掴めていないが、かなり不味い状況なのは分かる。
しかし、助けてもらっている恩がある。投げ出すわけにはいかない。
決意を固めている私に、今度はカヨコから問われる。
「バンシィはその武器、使えるの?記憶喪失だけど」
「ああ、これの扱いなら理解している。多少の戦闘なら大丈夫だろう……多分」
そう言いながら両腕を見せる。
自分で言っておいてなんだが凄い不安だ……
数分後にはアル達がいるはずの場所……多くの廃墟がある場所に着いた。
どこだ……どこにいる……?
探していると、遠くの方から爆発音が聞こえた。
「ムツキの爆弾……!あっちだ、行こう……!」
「ああ」
爆発の方へ向かってみると、同じような服装の奴ら、十数人に囲まれているムツキとハルカがいた。
「……あちゃ~、万事休すかな?」
「う、うぅ……」
遠めだが、どうやらピンチの様に見える。
しかし、この距離なら……
「カヨコ、ここから射撃して隙を作る。カヨコはさらに隙を広げて二人を救出してくれ」
「分かった……けど、出来るの?」
「やるさ、必ず」
カヨコはバレないように隠れながら、だが急いで近づき、位置に着く。
カヨコからの合図が見えた。
私は右手の武装『アームド・アーマーBS』を展開し、射撃する。
「さあ、もう逃げ場はないぞ!大人しく投降―ぐわっ!?」
「なんだっ!?」
放たれた光の線は一人を吹き飛ばし、輪に穴を空ける。
上手くいったみたいで、風紀委員達は混乱していた。
その隙を使い、カヨコは耳をつんざくほどの爆音を鳴らしながら始末していった。ムツキとハルカもそれに続く。
……始末と言ったが、殺してはいない……はずだ。
そういえば私が撃った子も大丈夫だろうか……あ、よく見てみればヘイローが点いている。大丈夫だな。
私はブースターを吹かし、三人の元へ近づく。
近づいた後には、ムツキが話しかけてきた。
「すごいすごい!今のバンシィちゃんがやったの?」
「ああ。と言っても、ほとんどお前達が処理しただろ。凄いのはそっちの方だと思うんだが」
「い、いえ、バンシィさんがあそこで助けてくれなかったら私達、おしまいでしたし……」
凄さの押し合いをカヨコが遮る。
「その話は後にしよう。社長と委員長の姿が見えない、ってことは……」
「うん、今あっちの方で一騎打ちしてるよ」
何だと?かなり強いんじゃなかったのか、ヒナという奴は。
急いで向かおうと言いかけるが、多くの足音が近づいてくるのに気付いた。
「いたぞ!便利屋だ!」
「ちっ、増援か……どうする?」
「……大変だけど、バンシィ、助けに行けれる?私達は適当に足止めして逃げるから」
「大丈夫なの?確かに良い狙撃だったけど……」
「機動力もあるんでしょ、その鎧。さっきちょっと飛んでたし。多分、便利屋の中でもトップクラスに強いでしょ、バンシィ」
よく見ている。さすがはカヨコだな。
私は頷いて了承する。
「戦闘なら任せろ。そこら辺の記憶もある。じゃあ、行ってくる。気を付けろよ」
「そっちもね」
私はブースターを吹かしてムツキが指差した方へ向かっていった。
向かったのはいいが、どこだ……?アルは狙撃ライフルが主兵装だから目立つ戦いはしないだろうが……
そう考えた次の瞬間、爆音を鳴らしながら目の前の廃墟から煙が巻き上がった。
……えぇ。
アームド・アーマーBSを展開しながら近づく。
そこには、赤と黒が戦っていた。
……うーん、ここまで来たら運命か?
状況は黒の方―風紀委員長、ヒナと思われる―が優勢のようだ。
というか頭に直撃喰らって平気なのはどういうことなんだ……キヴォトスは魔境か?
っと、言っている場合じゃない。
私も隙を見て何発か撃ち込む。
「……!?」
アルを追いかけまわしていたからか、当たらなかったがこちらに注意を向けることが出来た。
「バンシィ!」
「アル!」
BSの出力を下げて速射にし、ヒナを牽制しながらアルの元へ飛んでいく。
「大丈夫か、アル」
「平気……と言いたいところだけど、もう弾薬が尽きそう」
「……ふむ」
目の前の小柄の少女……この子が風紀委員長か。
「ムツキとハルカは救出した。少し時間を稼いで逃げるらしい」
「そう……よかったわ……後は私達だけね」
「……提案がある。逃げろ。囮になる」
「はぁ!?私一人で!?」
「私もちゃんと逃げるさ。ほら、行った行った」
「でも……!」
「銃弾無しで戦えるのか?」
「ぐっ……」
会話中も絶えず撃ち続け、牽制するがついに撃ち返される。
何とか左腕で防いだが、とてつもない火力だ。これがあの小柄な子からとは、末恐ろしいな。
「行け!早く!」
「ぅ……社長命令よ!必ず戻ってきなさい!」
「了解した!」
アルが建物から飛び降りるのを確認し、私は目の前の敵に集中する。
「……見ない顔ね」
話しかけられたと気づくのに一秒掛かった。
「新入社員でな。以後お見知りおきを、なんてな」
「ふーん……まあいいわ、やることは変わらない」
その言葉を皮切りに弾丸をばら撒いてくる。
それをバーニアを吹かして避け、当たるものは左腕で防ぐ。
こちらも負けじと撃ち返すが避けられるし倍返される。バルカンがあればな……!
射撃で勝てないなら……!
ブースター全開でヒナに近づく!
「なっ……!」
「悪いが、これも仕事だ……!」
不意を付けたようで、ヒナは驚愕の声を上げる。
その隙を突き、左腕の『アームド・アーマーVN』でぶん殴った―
「っぐぅ……!」
「なぁ!?」
―はずが、なんと受け止められてしまった。
「ぅ……ふんっ!」
「ぐっ、あ”ぁ!」
しかも、そのまま投げ飛ばされる。
……なるほど。
これは最強だ。
私は起き上がり、再び戦闘態勢を取る。
さて……どうするか……
一方その頃。
「アルちゃん!バンシィちゃんは?」
「……信じるしかないわ」
「そっか……」
「……社長、荷物は?」
「あ」