仮面ライダーオービット   作:壱肆陸

4 / 9
task.3 指向性トラブルシューター

 O³コーポレーション ライダー事業部 活動報告

 

 ウェブライダーシステム使用者として千才新歩を正式に登録。

 負傷で療養謹慎中だった帯刀夏樹が、病院を脱走。および無許可で事業部の装備を持ち出したが、結果としてバットロギアの討伐に貢献したため、厳重注意と半年の減給の処分で職務復帰。

 

 また、Guffに逃走したロギアをオービットが追跡し戦闘を継続した件について、『Can-View』およびウェブライダーシステムに異常は無し。

 

 飛行するロギアの出現に伴い、オービットの機動力不足について帯刀が言及。バイク型専用ビークル『エクステンストライカー』のアップデートを検討。

 

 

__________

 

 

 『O³コーポレーションの新ウェブライダー“オービット”の秘密に迫る!本邦初、独占インタビュー!』

 

 

 ──本日はインタビューよろしくお願いします。

 

 千才:よろしくお願いします。

 

 ──お若いですね。新入社員さんとのことですが、ウェブライダーに抜擢された経緯は?

 

 千才:それが僕にもわからないんですよね……入社すぐに指名されたと言うか、恥ずかしながら、ライダー事業部ができるってことも知らなかったです。

 

 ──そんなことがあるんですね。そうなると、やはりいきなり大企業のウェブライダーというのは重責でしょうか。

 

 千才:正直かなり荷が重いです。戦闘は素人ですし……でも新人なりにやりがいは感じてます。頼れる先輩もいますし、この仕事に不満は無いです。

 

 ──やる気満々ということですか。そういえば千才さんは独自に『仮面ライダー』という名前を使っていますが、それだけライダー事業に懸ける思いが強い、ということなのでしょうか?

 

 千才:そうですね。その『仮面ライダー』って名前は自然に出てきた名前なんですけど、子供の頃見てたヒーロー番組の名前から取ってるんですよ。かなり昔の記憶なんですけど、やっぱり僕の人生というか人格というか、ルーツがそこにあると再確認したんです。見返すと意外としっかり覚えてて、19話から登場する2人目の戦士は当時かなりハマってましたね。気弱な主人公とは最初対立するんですけど、それぞれ抱える正義とか、内包するヒーロー像が違うからこその対立が今見るとかなりドラマ性に富んでて見ごたえがあって、あとその2人の隠された因縁とかを知ったうえで見ると更に───

 

 

 

「なんだこれは」

 

「……あれぇ、ちゃんと『仮面闘士』って名前出したんですけど。おっかしいなぁー、なんて……?」

 

「馬鹿かお前は!! 誰が10年以上前の番組の話を聞きたいんだ!? そもそもインタビューで他所の版権を出すな!」

 

「レイバードは16年前の……すいませんなんでもないです」

 

 

 記事になる前のインタビュー記録を見た帯刀の怒号が、事業部を揺らす。新歩は言い返すこともなく、おずおずと身を縮めていた。全くもって仰る通りなので言い返せないが正しいのだが。

 

 

「いいか千才、お前はもう我が社の顔だ。世間がお前の一言一句、一挙一動に注目してると自覚しろ。ライダー事業の要は『イメージ戦略』、いい歳こいたヒーローオタクなんて出せると思うか!?」

 

「オタ……!? 別にヒーロー好きがヒーローやってるんだし、悪いことは……」

 

「お前はそれなりに顔が良くて、年齢以上に若く見える。もっとあざとい路線で行け。ペットよろしく笑顔で媚びろ。アイドルらしい仕草で女性ファンの頭数を稼げ!」

 

「イメージ悪いですよ帯刀さん!?」

 

 

 先日のバットロギア戦、新歩は市街地で変身して敵に応戦した。その結果として当然ながら、その変身シーンは民衆のカメラやスマホに記録されまくってしまい、動画投稿アプリ『Be-Cast』でオービットは一躍トレンドの存在となった。

 

 「ヒーローの正体は秘密がよかったんですが……」という新歩の声は完全に無視し、この好機に乗ってライダー事業部はプロモーション活動に全力を注いでいた。明らかにIT企業から逸脱した業務だが、文句は言えないのが実状。何故なら、今のライダー事業部にはそれ以外に舵を切れないからだ。

 

 

「ふあああ……おはようございますぅ~」

 

「眠そうにしてますが30分の遅刻です古月さん。上司の自覚無いなら自分が代わりますが?」

 

「朝一番でキツいですね帯刀君。で、おっと……今日も先堂君はいないんですね」

 

 

 ライダー事業部を襲っている一大事。それは古月が言ったように、開発担当の先堂単の無断欠勤である。今日でちょうど1週間。電話にも出ず自宅にも不在。

 

 彼が普段使いしている『Bubble Talk』のメッセージは既読スルーなので、辛うじて生存確認ができている状態。それはそれで神経を疑う挙動ではあるのだが。

 

 

「先堂がいないせいでオービットの強化や新装備の設計、加えてGuff解析からアプリギアの開発まで滞りまくっている……警察に協力を要請しろ千才。今日こそヤツを拿捕する」

 

「拿捕て……部長は仕事なくて嬉しそうだし。そうだ、僕が先堂の仕事やりますよ! 元々は商品開発部内定、プログラムにはそこそこ自信あります。プロモーションよりよっぽど……」

 

「確かにそうだろうな。お前なら我が社のプログラマー陣でも即戦力だ。でも、この話はそういう次元じゃない」

 

「え……?」

 

「お前は(ウチ)が一人の穴も埋められない欠陥企業だと、そう思ってるのか?」

 

 

 厳しい物言いだが、相変わらず帯刀の言葉は核心を突いている。いくらライダー事業部が少数精鋭の試験的な部署といえど、たった一人欠くだけで機能停止する組織はそもそも破綻している。

 

 

「じゃあこの状況はどういう……」

 

「……先堂が戻れば済む話だ。暇なら自分の売り出し方を考察しておけ」

 

「えぇ……」

 

 

 肝心なところは乱暴に濁す帯刀に困惑しつつも、どうやらプログラムの仕事はさせてもらえないようで新歩は肩を落とす。考えろと言われても、自己アピールなんて面接でも苦労したのに頭が痛い。

 

 

「他のウェブライダー参考にするか。この辺だとまずGFアドバンスさんの『ギルダー』だけど……最近話聞かないなぁ、どうしたんだろう。後はやっぱり……」

 

 

 ウェブライダーを語るならまず外せない。Guff出現から始まったライダー事業に最初期から参戦し、最新型『リボルト』の実装によってこの都心エリアで一強体制を築いた大企業。

 

 ウェブライダー業界最高の技術を持つ、電脳部品メーカー『ReVTechnica』。

 

 国内で知らない者はいない、そのマゼンタのイメージカラーとロゴマークが大都会の喧騒を駆け抜ける。

 

 

[なんだアレ]

[通勤中に凄いのとすれ違ったんだけど]

[水の上なんか走ってる!]

 

 

 人で敷き詰められた空間を、重力を無視して滑走。障害物を浮かんで躱し、水面すら道路とするホバーボーダーの姿は、写真と映像付きで瞬く間にネットの世界に知れ渡る。

 

 道なき最短ルートをなぞって行き着いたのはO³コーポレーション。乱暴に蹴り上げられたボードは円盤状に畳まれ、ホバーボーダーがReVTechnicaのアクションスーツとメットをデバイス操作で解除すると、外気に晒される艶やかな黒髪と白衣のコントラスト。

 

 

「『オービット』、千才(チトセ)新歩(アラタ)……ね」

 

 

____________

 

 

 新歩たちは午前の業務を終え、昼休憩に。しかし中々に虚無な時間だった。全国のウェブライダーの宣伝を見て考えたが、自分に合いそうなものが全く見つからないのだから。

 

 

「わざわざ外に食べに行くなんて、新しいカツ丼屋でもできたんですか?」

 

「別に俺の主食はカツ丼じゃない。俺が食いたいのは、そこのファミレスの期間限定春野菜のかき揚げ丼だ」

 

「変わんないじゃないですか、僕としてはあんま外に出たくないんですけど……この間動画クリエイターに捕まりましたし。あーもう、やっぱプロモーションはしんどいですよ! ほらReVさんの『リボルト』なんか変身者非公開ですしウチもその方向で」

 

「分を弁えろ、ウチは大企業でもライダー事業じゃ新参だ。そもそもReVは……」

 

 

 エントランスの近くまで来た新歩と帯刀は、そこで一旦会話を中断した。普段から人が多く隅から隅まで騒がしい会社だが、なにやら色の異なる喧騒でエントランスがごちゃついている。

 

 

「何があった? トラブルか」

 

「あっいえ、そういうわけでは。ただ白衣の女性が会社に入れろと騒いでまして」

 

「白衣の女性……?」

 

「はい、なんでも『ライダー事業部に会わせろ』と」

 

 

 迂闊に近づく前に警備員を捕まえ、事情を聴きだした帯刀。そして新歩の肩を掴み、一瞬で社員食堂に方向転換。面倒ごとに貴重な時間を割きたくないという硬い意志を感じる。

 

 しかし、そんな彼らに喧騒の方から歩み寄る、否、駆け寄ってくる。それも爆速で。警備員もセキュリティゲートも無視し、警報音が反響するエントランスを突破し、彼女は新歩の腕を掴んだ。

 

 

「チトセアラタね。新型ウェブライダー『オービット』、新入社員のヒーローオタク、『Guff』内でロギアを撃破した特異点」

 

「ひっ……!? だ、誰ですか!? また配信者(キャスター)の人ぉ!?」

 

「うーん、まぁ遠からずかな。じゃあアラタ、バイタルデータを取るから服脱いで。あとはゲノムデータも欲しいから血も取らせて」

 

「帯刀さん助けてっ!!」

 

「チッ、まさかとは思ったが……相変わらずの常識知らずだな。ウチの広告塔に気易く触るな廿九日(ひずめ)の令嬢」

 

 

 帯刀が新歩の身体に貼り付いていた女性を引っ剥がし、呼吸を挟むと同時に新歩はようやくその容貌を冷静に拝むことができた。

 

 短く断たれた黒髪が映える、あどけなさの残った美人。身長はそれなりにあり気品も感じるが、美女というより美少女と呼んだ方がしっくりくる。首から下は赤いクラシカルロリータのワンピース、の上になぜか白衣。自分の魅力を理解しているのかしていないのか、判断に困るミスマッチ具合だ。

 

 そんな彼女のことを帯刀は知っているようで、しかも何やら気に入らないようで、顔をしかめて新歩に説明をする。

 

 

廿九日(ひずめ)(うた)。ご存じReVTechnicaの社長、廿九日(ひずめ)琴乃(ことの)の娘。いわゆる社長令嬢ってやつだ」

 

 

___________

 

 

 ReVTechnicaの女社長、廿九日琴乃。前CEOにして夫である廿九日(ひずめ)獅雄(ししお)の失踪で崩壊寸前まで追い詰められた会社を、他企業との積極的なアライアンスや徹底したコスト管理、自ら広告塔となってメディア露出をするイメージ戦略等、あらゆる方策を駆使して瞬く間に立て直したという経歴は余りに有名。

 

 O³コーポレーション社長の三廻部界人と評判を二分する、この国で最も優れた経営者の一人。経営の世界の者なら誰もが尊敬し、畏怖する女傑だ。

 

 

「僕もよく知ってますよ。で、その娘さんが……彼女」

 

「苦いわ。コーヒーは苦手なの、私をもてなすならホットミルクにして」

 

「たはぁー、それは失礼しました。すぐに最高級のミルク用意するんで、その……お母様にはよろしく伝えてくれますかね?」

 

「ReVはウチの敵対企業です、みっともない真似はやめてください古月さん」

 

 

 詩は古月に出されたブラックコーヒーにケチを付けると、ライダー事業部の設備をジロジロと観察する。敵対企業とはいえ重役の娘だ、乱雑には扱えないと社内に迎え入れたのだが、帯刀の我慢は思ったより早く切れた。

 

 

「帰れ廿九日の令嬢。母親と喧嘩して家出なら他所当たれ」

 

「ママとの喧嘩はしょっちゅうだけど、今はアラタとオービットのデータを貰いに来たって言ったでしょ。私も暇じゃないのよナツキ」

 

「それを渡せるわけがないとも言ったがな!?」

 

「落ち着いてください帯刀さん! というか、お知り合いなんですか?」

 

「営業で何度か会って、払う敬意がその何度かで尽きただけだ」

 

「相変わらずね。いい? Guff内のロギアをウェブライダーが倒す、これは水泳で人間がマグロを追い抜くようなものよ。Guff内での行動すら不自由な現状で、戦闘を行い勝利するなんて在り得ない。このメカニズムが再現できればGuff完全踏破すら実現できる大発見。研究者として見過ごせるわけない状況が今なの、OK?」

 

「研究者……?」

 

 

 頭上に疑問符を浮かべる新歩だが、詩の白衣はその肩書に合致している。それを根拠づけるように、詩は白衣に縫い込まれたエンブレムを見せつけた。

 

 

「そのマークって、あの『トランセンドベース』!? ReV社といえばだし、まさかとは思ったけど……『リボルト』を全面的にサポートする、ライダー事業において国内最高の技術と叡智を誇る研究機関、廿九日さんはそこの研究員ってこと……!?」

 

「それは正しいが、真に受けるな千才。彼女はまだ20歳だぞ」

 

「え、20歳!? てことは……年下じゃないですか!?」

 

「大学も出てないような小娘が真っ当に入れる場所じゃない。要は母親のコネで研究ごっこやってるだけの七光りだ」

 

 

 他所の人間相手でも帯刀の物言いは厳しい。というよりは、多分個人的な好みも関係しているのだろう。「親の七光り」とか「ボンボン」とか、いかにも彼が嫌いそうな肩書だと新歩は納得した。

 

 詩もその無礼な評価に言い返さず、改めて出されたホットミルクに口を付けると、「ふぅ」とマイペースな吐息を漏らす。帯刀のことは完全に眼中に無いようだ。

 

 

「とにかく分かってくれた? 優れた人材、優れた環境、それら全ては優れた会社に集まるべき。アラタ、貴方はウチで研究されるべき特異な検体よ。こんな開発職の一人もいないライダー事業部ではなくてね」

 

「えっ!? 廿九日さん、なんで先堂のこと───」

「黙れ馬鹿。なんのことだ廿九日の令嬢、ウチには優秀なプログラマー兼エンジニアが在籍している。O³を舐めるのも大概にしてもらいたい」

 

「とぼけても無駄。そこのPC、1週間近くは使ってないのなんて見ればわかる」

 

 

 新歩がボロを出しそうになったのは関係なく、詩は親指で先堂のデスクを指してそう言った。

 

 

「舐めてるつもりはないわ。ただ、あれだけの結果を何週間も放置した挙句、プロモーションばかりにお熱な国内最上位企業の無様な現状を見て、私たちより劣っているという正当な評価(ジャッジ)を下したまでよ」

 

 

 そして、彼女はこのライダー事業部の事を完全に見下しているし、新歩のことを実験材料としか見ていない。無理もない話だ。母親のおかげとは言えど、彼女が所属するのは最強のライダー『リボルト』と最高の技術『トランセンドベース』を擁するReVTechnica。圧倒的強者の座にいるのは事実なのだから。

 

 しかし、ライバル企業に乗り込んでこの発言は、新歩の目から見てもいただけない。よりにもよって社長令嬢の発言力だ、場合によってはO³とReVが事を構える事態になりかねない。

 

 

「いやぁ、お母様に似て手厳しい。耳が痛いですよ」

 

 

 そんな殺気立った雰囲気に割って入ったのは古月だった。へらへらとしつつ腰の低い、詩の機嫌を取るような態度。

 

 

「ご存じの通り、あの一件以来大した成果を出せてないんですウチは。何せこの近辺はReV社さんのお膝元……ルーキーは宣伝で地固めするしかなくてですねぇ。元々実験的な取り組みですし、このままじゃ潰すぞって上にも脅されてるんですよ」

 

「まぁ、それはお気の毒ね。O³が急にライダー事業をやるのも変だとは思ってたけど」

 

「不甲斐ないもんで、スカウトしたプログラマーちゃんにも逃げられちゃいましてね。もう大ピンチなんです。そこでどうです? 折角の縁ですし、ここで『業務提携』に出るというのは」

 

 

 古月が息を吐くように発した言葉に、新歩は思わず破裂するような声を出した。業務提携、つまりO³とReVの協力だ。

 

 もちろんあり得ない。元々ライバル企業で、しかもこんな喧嘩を売ってきたような相手に、仮にもO³コーポレーションが手を差し出すなんて。しかし、帯刀は意外にも反抗せず、古月の交渉を黙って見守っていた。

 

 

「千才君やオービットの情報……社会の発展のためです、僕も喜んで差し上げたいのは山々なんですが……流石にタダっていうのは僕の首が飛んじゃうんで。そこで対価として、我が社にReVTechnicaの頭脳と仕事を分けて欲しいんです」

 

「……利害は一致してる、ように見えるわね。でもこの話、ママもそっちの社長さんも許さないと思うけど」

 

「そこはもちろんコッソリですよー。ので、協力するのは少しの間。その間はそちらもオービットと千才君を使い放題、データも取り放題。悪い話じゃないと思いますが?」

 

 

 悪いどころかとんでもない話だ。O³とReVの提携なんて、明るみになった瞬間ネットニュースのトレンドを染め上げるレベルの一大事。それを秘密裏に行うなんて正気じゃないし、そもそも先堂不在とはいえ新歩たちはそこまで追い詰められてない。デメリットの方が大き過ぎる。

 

 

「いいわね、それ採用。ちょうど今、ウチじゃどん詰まりのロギア案件があるの。オービットが欲しかった理由の一つがそれだから、これを基盤にしましょ」

 

「2日か3日なら、社長にもギリギリバレないですかねぇ」

 

冗談(ジョーク)ね、私たちなら24時間で済ます」

 

「それは頼もしい。となれば……そちらも『リボルト』が出るんですよね。お手柔らかにお願いしますよ」

 

 

 徹底的にへりくだった、接待にも似た相手有利の契約。故に詩が断る理由が無い。O³とReVの秘密提携がここに成立してしまった。

 

 準備の為に一度退席する詩。それを区切りに、堰き止められていた新歩の呼吸と感情が一気に決壊した。

 

 

「ど、どど、どういうことなんですか部長!? いいんですかあんな勝手に!? こんなのどう見たってウチが不利じゃないですかっ!」

 

「ちょっと冒険し過ぎましたかねぇ。でも、考え無しにウチに突撃してくるお転婆お嬢様ですよ。そう簡単に諦めてくれるタマじゃないでしょう。そのまま帰らせた時の方が怖いまであります」

 

「それはそうですけど……でも……!」

 

「まぁ困ったことになったらそのときです。講習会や懇親会と同じ、どこまで行っても所詮はお仕事なんですし、気楽に行きましょ」

 

「なんですかそれぇ……」

 

 

 涙目の新歩から目を逸らし、古月は欠伸をしてグラビア雑誌を読み始めた。二重で泣きそうになる新歩が帯刀に助けを求めるが、その表情は新歩が思っていたものとは違った。てっきり怒り狂っているかと思いきや、以外にも落ち着いていて気味が悪い。

 

 

「……なるほどな、お前はベストを尽くせ千才。あの生意気娘に吠え面かかせてやれ」

 

 

 帯刀は古月の行動に何か納得したようだが、声にはしっかりと怒気が籠っており、弱気になっていた新歩の背筋は一瞬で凍り付いた。

 

 

__________

 

 

 流石にどちらかの会社に集まっては秘密提携がバレるので、O³が所有する空きの建物に最低限の機材を運び込むことにした。今から24時間、ここがO³とReVの共同戦線の拠点だ。

 

 

「トランセンドベースで装備開発をやってます、東雲(しののめ)穏香(しずか)です。よろしくお願いしますね」

 

「ニノは能西(のにし)丹乃(にの)と申します! えっと……データをカチャカチャやるのが得意です。よろしくお願いひますっ! あぁ嚙んじゃった……」

 

「紹介するわ。ウチのエース研究員。ママやシュージにバレちゃダメだし、2人だけ」

 

 

 恐らく落ち着いている方は30歳くらいで、落ち着きのない眼鏡の方は新歩と同世代くらいだろう。どちらも女性だ。社長の雇用方針なのか、ReVTechnicaには優秀な女性社員が多いと聞く。

 

 

「帯刀さん、『シュージ』ってまさか」

 

「トランセンドベースの主任研究員で電脳分野の天才、日本学術界の至宝、楢宮(ならみや)修司(しゅうじ)のことだろうな」

 

「ひぇ~……僕、大学で楢宮先生の研究論文や教科書読んでましたよ。すごい世界だぁ」

 

「で、そっちも2人なわけね」

 

「社長にバレちゃマズいのは同じだからな、よろしく頼むReVTechnicaさん」

 

 

 全然よろしくする気の無い顔で帯刀が軽く会釈をする。バレちゃマズいから少数というのは半分本当で半分嘘だ。ただでさえ少数精鋭のライダー事業部が出せるのは現状帯刀と新歩だけ。古月は意味深な雰囲気だけ残してどこかに行ってしまった。

 

 

「早速取り掛かるわ。ニノ、データとお菓子」

 

「は、はいっ! 今回我々は共同で、進化系『シープロギア』の討伐を行います!」

 

「シープロギアは我々ReVTechnicaが数月前から追っている標的です。でも丹乃ちゃん、配る資料違う。これあなたのスィーツファイルだし」

 

「はえっ!? ご、ごめんなさい間違えました回収しますぅっ!」

 

 

 新歩の手に渡った甘味に関する資料は一瞬で取り上げられ、代わりに正しいロギアの資料が渡される。ギチギチの情報量が大変よく纏まっていたので、読み始めるまで気付かなかった。新歩もライダー事業部の面子の尖り具合に打ちのめされたが、ReVTechnicaも大概なようだ。

 

 

「なるほど。進化系とはいえ、ReVが数か月も手間取っている案件。何か裏があるとは思っていたが……『逃避に特化したロギア』か」

 

「はい! 行動データ解析の結果、シープロギアは『気象予測アプリ』のプログラムを発現させているんじゃないかと」

 

「360°の視界は気流・気圧・気温・湿度の視認が可能で、体毛で空気の振動を感知し、嗅覚や聴力も驚異的なデータを示しています。それに加えて運動能力、特に脚力が異常に高く、走り出されると『リボルト』では追跡が不可能です」

 

「包囲網、遠距離からの射撃、地下もしくは上空からの接近……いずれも失敗と。確かに、『オービット』と『Can-View』の性能に泣きつくのも理解できる」

 

 

 癖のように煽る帯刀に、東雲の表情が僅かに苛立ちを纏うが、流石に大人同士。その場で言い争ったりはせず、即座に仕事に向き直る。

 

 

「すいません質問が」

 

「千才さん、でしたよね。なんです?」

 

「廿九日さんは作戦会議に不参加で……?」

 

 

 一方で一応は大人である20歳のお嬢様だが、丹乃のドーナツを食べるだけ食べると、わざわざ持って来たハンモックで睡眠をかましていた。このお嬢、余りにも自由過ぎる。

 

 

「詩ちゃんはいいんです。3徹しててお疲れなので、少しでも寝かせてあげたいから」

 

「はっ。スケジュール管理ができてないのは歴とした落ち度だ。大体、あのお子様が職場でやることがあるのか?」

 

「……詩ちゃんへの侮辱は許さないわよ。表出なさい」

 

「わーっ! 穏香さんストップ! ストップですよー!」

「帯刀さんも座ってください! さっきから協力する気あるんですか!?」

 

 

 前言撤回、この2人も大して大人ではなかった。この同盟が果たして24時間も保つのだろうかと、新歩はもう不安でしかない。

 

 

__________

 

 

 紆余曲折あって、なんとか作戦は定まった。

 接近させてさえくれないシープロギアのデータは余りに不足している。まず最優先はオービットの検索機能を使った、敵のデータ収集だ。

 

 

「本社から持って来た立体映像投影機で、シープロギアの出現した()()()現場を再現します」

 

「現場は合計で14か所、アラタは検索でなるべく多く情報を拾って。シズカは操作と同時にオービットのデータも吸い出して」

 

 

 詩が東雲に指示を出すが、目覚め一番で堂々とした強奪宣言だ。もとよりそういう契約ではあるのだが。

 

 投影が始まり、オービットに変身した新歩の目の前に住宅街の風景が出現した。身体の側面を婉曲した緑の角で、それ以外を白い体毛で防護するロギアが道路の中央で静止している。先の会議で見た通りの容貌、こいつがシープロギアだ。

 

 

「それにしても、これ本当に再現立体映像(ホログラム)? 飛んでる虫とか砂粒まで見える……解像度が変態すぎる。空も見えるんだけど」

 

 

 O³コーポレーションにもホログラム装置はあるが、ここまで高性能ではないし、大掛かり過ぎて持ち出せるような代物じゃない。しかもオービットのシステムとリンクさせたことで、新歩の意志で拡大・回転が可能。

 

 

「逆戻しやスロー再生、文字の書き込みや映像のコピペ、ムービーやミュージックのバックグラウンド再生もできますよ。希望があれば流しますけど?」

 

「いや流石に大丈夫です……でも、すっごい。なんだかえらく多機能ですね」

 

「『効率的な自由とロマン』がReVTechnicaのポリシーですので。詩ちゃんはそれを体現する私たちのアイドルなんですよ」

 

 

 東雲とオービットによる情報検索が進む中、詩はPCと睨めっこしている丹乃と帯刀の方に目をやる。2人の役割は対シープロギア用の新規システムの構築だ。

 

 

「貴方プログラムは専門外よね。ニノの邪魔する気?」

 

「サポート兼監視だ。ウチの所有データを使わせるわけだからな……この間の蝙蝠の進化系のデータ、社外秘の極みだが、ここまでして無駄骨が一番論外だ。背に腹は代えられない」

 

「心配しなくても盗まないし、模倣できるような代物じゃないのも知ってるでしょ? ニノ、時間内にできそう?」

 

「うへぇ。いや、それがそのぉ……これもう誰か触ってます?」

 

「あぁ、ウチのプログラマーが解析途中だったはずだ。半日ばかり触ったっきりだがな……!」

 

「あ、顔怖。でもやっぱ……そっか、そういう……よし、頑張ります。やってみます!」

 

「それならOKね。じゃあ私はあっちで寝てるから終わったら呼んで」

 

「っ、オイ待て廿九日の……クソ、何しに来たんだアイツは……!」

 

 

 帯刀が詩から丹乃に視線を移す。それと同時に、帯刀は瞠目した。

 

 空気中に注意力を置きっぱなしにしているようだった丹乃は、その集中を全てPCの画面、更にその中の文字列に注ぎこんで猛スピードで解析を進めていた。きっと地震が起きようと彼女は手を止めない、そう確信できるほどの脅威の没頭。

 

 

(ウチの開発部にはこれほどのプログラマーはいない。このレベルの人材を拾ってくるアンテナと手腕、流石はReVTechnicaだな)

 

 

 そうなるといよいよ解せないのが、詩の存在。丹乃は見た通りで、ガジェット開発の東雲穏香の名前は帯刀も認知していた。それほどの人材が彼女を慕っている理由だけが謎だった。

 

 

__________

 

 

 ReV社の2人は優秀を極め、想定よりも遥かに迅速に準備が終わってしまった。オービットの検索で得た情報から、シープロギアの詳細な行動パターンを予測・シミュレーション。その結果、正確な時間と座標が導き出される。

 

 

「こんなにピンポイントな予測がここまで絞れるなんて……」

 

『ReVが数か月集めたデータありきだがな。そこにO³の情報処理システムと予測演算システムが合わさったんだ、このくらい出来なければ困る』

 

 

 通信で会話を行う新歩と帯刀。二社共同戦線は複数に分かれた。

 技術屋集団のReV組とは違い、O³組は完全な実働部隊。新歩と帯刀がそれぞれ指定の地点付近に向かい、シープロギアを迎え撃つ。

 

 ちなみに『リボルト』だが、今回は不参加と聞いている。シミュレーションが示した地点は山間部で悪路が多い。身体能力のスペック値が高く、ロギアの走力に対処可能なオービットが適任と判断されたからだ。

 

 新歩と帯刀はO³スマートガンで、それぞれ丹乃が完成させた『Bat eye』のプログラムを起動する。まだアプリギアにはなっていないが、バットロギアのステルス機能を再現したものだ。これでシープロギアのセンサーを騙すことが可能。

 

 それでも1対1なら逃げられる可能性が高いため、まずは発見した者が発信機を撃ち込む。そうやって仕切り直した後、最終的に万全な状態で全方位から叩くというのが作戦である。

 

 

「それにしても、関心しました。というか感動しました僕」

 

『何がだ』

 

「だって凄くないですか? 僕らが欲しいものを作って、僕らが動きやすいように支えてくれる。正直、あの人たちが後ろにいたら負ける気がしないんです」

 

『ライダー事業に関わる三河さんのようなアナリストや、あの2人のような開発者は、俺たちの世界では総括して“ライダーエンジニア”と呼ばれている』

 

「ライダーエンジニア……なんかいいですね」

 

『ライダーとエンジニアの信頼関係は仕事の出来に如実に表れるものだ。ロギアに負ける気がしないのなら上等、ReVの連中に『オービット』は『リボルト』なんか超えると見せつけてやれ』

 

 

 唐突にとんでもなく重い期待が襲い掛かり、眩暈がした。

 

 新歩に理由はわからないが、『オービット』はリボルトを超えるポテンシャルがあると、帯刀はそう確信しているようだ。しかし、新歩の中には不安が残っていた。エンジニアとライダーの関係が強さに直結するというのなら、先堂と会えてすらいない新歩はウェブライダー失格だ。

 

 そもそも、あれだけのエンジニア達をバックに持ったうえで、最強と評判のリボルト。自分の会社を悪く言いたくはないが、信頼関係という意味ではO³コーポレーションは惨敗しているに違いない。そう思うと気が滅入る。

 

 

「終わった顔してるわね。仕事が嫌いなタイプ?」

 

『……おい、その声まさか』

 

「なっ、廿九日さん……!? ってちょっと!?」

 

 

 思い悩む新歩の前に現れた詩は、彼が付けていたインカムを奪って放り投げた。明らかに不機嫌そうな詩だが、理由は聞くまでも無い。

 

 

「で、私の知らない間に事が進んでいるのはどういう了見?」

 

「だって廿九日さん寝てたので……」

 

 

 開発や解析には一切参加せず、ハンモック上で自分のPCを弄っていた詩。本格的に作戦を決定する時には再び寝ていたので、帯刀の「放っとけ!」の一声に新歩の判断は押し負けてしまった。

 

 で、起きてすぐ現場に急行してきたと。会社に突撃してきた事と言い、行動力のパラメータが振り切れている。

 

 

「まぁどーせナツキの判断でしょ。まったく、初対面では頭も下げてくれたものなのに」

 

「すいません。帯刀さんだって、廿九日さんが優秀な人だってこと分かってるはずなんですけど……」

 

 

 なんの気なしに語られた新歩の評価に、詩は目を丸くした。世辞をまだ覚えていないような顔で、新歩は他意無く純粋にそう語っている。

 

 

「……意外な評価ね」

 

「そうですか? 東雲さんや能西さんにあんなに頼りにされてて、ウチに開発担当が不在なの一発で見抜いて……何より、Guffの研究に対する行動力は、そのまま情熱ってことだと僕は思ってます。しかも、あの楢宮先生の下で働いてるんですし、やっぱり凄い人だと」

 

「貴方の言葉は綺麗ね。皮肉じゃないわ、素直に褒めてる」

 

「でも、だからこそなんですけど……どうして廿九日さんは、そんな誤解されるような態度を取るんです?」

 

 

 詩は自分が世間からどう見られているかくらいは、当然把握していた。親の威光に胡坐をかいたボンボン、社会常識すら知らない温室育ち。加えて、『女』である詩が社会で良く見られることは滅多に無い。

 

 

「私の夢は、余りに欲深く、遠く、時間が足りることはない。私は常に最短距離を走らなければいけないの。この社会への迎合や適応は、少し効率が悪過ぎる」

 

 

 技術が進歩しても、人間や社会は大した進化をしなかった。性別や容姿で差別される時代は続き、規格に合わない存在は排斥され、どんな優れた才能であっても容易く埋没してしまう。

 

 詩はそんな社会のことをよく知っている。だからこそ、そこに可能性を見出した。人智の領域外にある深海、Guffの最奥へ彼女を導く鍵は、この社会の底に埋もれているに違いないと。

 

 

「ニノもシズカも、私が権力に物を言わせて見つけた優秀な人材よ。今回の件は私の出る幕は無いと判断した、それだけ。これが最効率の選択でしょ?」

 

「確かに、そう言われると。でも……普段からそうなら、廿九日さんは評価されたいとは思わないんですか?」

 

「そうね、思わないわ。私の仲間を見捨てた社会の評価なんて、今更いらない」

 

「それは東雲さんや能西さん……『リボルト』の変身者さんも、そうなんですか?」

 

「え……?」

 

 

 新歩の口から出た質問の意味が、詩には分からなかった。

 詩は夢の為に社会との絶縁を覚悟した。それが話の趣旨だったはずだが、彼女たちの名前がここで出る理由が分からない。

 

 

「帯刀さんは僕の先輩で、少し厳しいけど頼りになって、仕事が凄く出来る人です。仕事に賭ける情熱と覚悟が誰よりも強くて、それをちゃんと仕事の心掛けとして僕に教えてくれます。営業部だとトップだったらしくて、会社の中にも外にも沢山コネクションが……」

 

「もういいわ、知ってる。けど、ここでナツキの話が出るのはもっと意味が分からない」

 

「僕は自分のプロモーションは苦手です。でも、僕の好きなヒーロー番組や、帯刀さんの好きなところならいくらでも言えます。だって自分の好きなものが認められるって、自分のこと以上に誇らしくて嬉しいじゃないですか。帯刀さんは廿九日さんと似てて周囲に誤解されがちだから、勘違いされてると訂正したくなっちゃうんです」

 

 

 その心理は分からないでもない。社会に評価されてなかった彼女たちを、詩は探し出して環境を用意したのだから。

 

 

「僕はウェブライダーとして、自分じゃなくて自分が自分でいられる理由を認めて欲しい。廿九日さんのお仲間さんたちも、同じなんだと思います。廿九日さんのことが大好きなお二人はきっと、廿九日さんが正当に評価されて欲しいって……廿九日さんのことを自慢したいって、そう思ってるんじゃないですか」

 

 

 たった今、新歩に指摘されるまで、そんなこと考えたことも無かった。

 身内には何も言われないし、外部の人間の話なんて聞くに値しないと思っていた。実際、新歩の言い分は根拠に欠けた単なる想像に過ぎない。

 

 

「僕は見たいです。廿九日さんが、どんな風に凄いエンジニアなのか」

 

 

 ただ、不思議だ。彼の言葉はきっと核心を突いている。

 穏香に丹乃、同僚たち、そして『リボルト』。効率を求めるあまり、詩は仲間の想いを無視し過ぎたのかもしれない。

 

 

「……話は終わりよ。来たわ」

 

 

 詩から見て正面、新歩の背後。シミュレーション通りそいつは現れた。慎重な足取りで木々の間を縫って進む綿雲のような身体、シープロギアだ。

 

 山ならば人が消えても不審に思われにくく、何より見つかりにくい。臆病な風をして狡猾で、その本質は獰猛。そんな害獣に対し、新歩はスマートガンの銃口を向けた。シープロギアはこちらに気付いていない。

 

 

「さっきまで喋ってても気付かれてない。つまりニノのプログラムは正常に機能してるわ」

 

「有効範囲は僕の半径3メートル、廿九日さんにも気付いてない。今のうちに発信機を……!」

 

 

 東雲がカスタムしたスマートガンの弾は当然ステルス対応で、ターゲットに衝撃ゼロで着弾して体組織と一体化する。当たっても気付かれず、気付かれたとしても簡単には取り外せない。そして、この距離であれば新歩ならまず外さない。

 

 

(風……?)

 

 

 それぞれの適性が嚙み合った完璧な仕事だった。新歩は引鉄を引く。

 瞬間、吹いたのは少し強い「風」。それは些細な不確定要素。

 

 詩は気付いた。閃きと言うのは遅すぎたものほど、一瞬だ。

 

 

「───見つかった。逃げられる!」

 

「えっ?」

 

 

 シープロギアは銃弾を避け、見えないはずの新歩と詩に視線を重ねた。そして、自分のセンサーを欺く存在を敵と判断したシープロギアは、即座に逃走を始めた。

 

 

「ッ……なんでバレて……!」

 

 

 新歩も一手遅れて気付く。

 決して感知されない半径3メートルの空間、そこに風が吹き、木の葉が侵入してきたとしたら? さっきまで感知していた存在が突如消える「不自然」が、そこに生まれてしまう。

 

 とんだケアレスミスだ。あれだけ優秀なエンジニアがいて、帯刀と自分もいて、誰一人事前に気付けなかった。不甲斐なく遣る瀬無いが、人間の仕事とはそういうもの。

 

 どれだけ優れた人間が集まろうと、どれだけ技術を極めようと、未来を予知できない人類の備えに「万全」は無い。

 

 

「追います! このまま逃がすかっ!」

 

《Connect》

《Ready for Access…》

 

「変身!」

 

《Circuit-Open! Trace-On!》

《ORBIT!》

《Can-View!》

 

Find yourself(あなた自身をみつけよう).》

 

 

 だからこそ必要なのは迅速な後手の対応。ミスを悔やんでいる暇など無いと、新歩は即座にオービットへと変身。

 

 すぐ傍に待機させていた専用バイク『エクステンストライカー』のエンジンを起動させ、オービットが出力できる最高速度でシープロギアを追跡する。

 

 足元の悪い地形を物ともせず駆け抜ける健脚。シープロギアの動きは相当素早い。バイクでの追跡であるため悪路の影響は少なからず受けざるを得ないが、それでもエクステンストライカーの走行補正と新歩の運転センスで、シープロギアの背中を放さない。

 

 それに対応するように、シープロギアの体毛が剥離しはじめ、それに伴って速度が上昇した。身軽になったということだろうと判断し、その毛玉を避けて通り過ぎようとした途端に、オービットを強烈な電流が貫く。

 

 

「ッ……! この毛玉……電撃を放出する浮遊ユニットなのか……! あぁくそ、こんなの処理してたら逃げられる!」

 

 

 シープロギアは奥の手を残していたが、それ自体は何も不思議じゃない。ロギアの強さは吸収したデータの量、つまり外界にいた期間と襲った人間の数にほぼ正比例するのだから。

 

 ただ悔やまれるのは見積もりの甘さ。このままでは全てが水泡に帰してしまう。曇る新歩の思考回路の、狭窄する視界の、その隅を瞬いたのは赤い光の尾。

 

 悪路の少しだけ上を浮かび、毛玉の無いルートを流れるように、ホバーボードに乗った詩はオービットを追い越した。

 

 

「廿九日さん!?」

 

 

 突風を巻き起こすほどの凄まじい速度。シープロギアの頭上を飛び越え、着地する前にホバーボードが機能停止して詩が反動で地面を転がる。しかし、その白衣を土で汚しながら、詩はシープロギアの正面を立ち塞いだ。

 

 

「……ボーダレイザーの速度上限を弄っといて正解だったわ。まぁ機体は保って20秒ってとこだし、それ以上は私の体がぶっ壊れるけど」

 

 

 体毛を分離したことでセンサーの機能が落ちていたこともあり、詩がシープロギアに追いついた。だがこれはどう見ても好機ではなく、危機だ。シープロギアからすれば一般人相手に足を止める理由が無い。

 

 確かに新歩は、エンジニアとしての詩の本気を見たいとは言った。でもこういう事を望んでいたわけじゃない。止めなければ。正当な評価も何も無い、このままでは新歩のせいで詩が死んでしまう。

 

 

「……っでぇ!? なんだこれ! バリア!? っ、廿九日さん逃げ……!」

 

 

 オービットを阻む赤光の防壁。その内側にいるのは詩とシープロギアのみで、獲物が来たと言わんばかりに襲い掛かるシープロギアが───

 

 

 美しい軌道を描き、詩の細い腕に投げ飛ばされていた。

 

 

「───あれぇ!?」

 

「合気道、まぁ今時の女子なら誰でもできる護身術よ。それと、この閉鎖空間システムの定員は2で固定。通称『プライベートチャットバリア』、外から誰も干渉できない代わりに脱出は不可能。適当に作ったから作りはアレだけど、ここまで近付けたなら使わない手は無いわ」

 

 

 新歩は目を疑った。どう見ても護身術じゃ説明のつかない体捌きだし、そもそもホバーボード運転技術と身体能力が並みの女性のそれじゃない。

 

 しかもなんだその聞いたことも無い反則システムは。言い方からして、まるで詩が自分でシステムを作ったように聞こえるのだが。

 

 これは親の七光りでもなければ、優秀なんて言葉でも形容できない。

 新歩は、何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。

 

 

__________

 

 

「ふぅー、さてと……帯刀君たちは上手い事やってますかねぇ」

 

 

 ReVTechnicaとの共同作戦から逃れ、会社に留まっていた古月。部署に誰もおらず暇なため、散歩でもしようと呑気な態度で会社から出たのだが、ふと目に入ったのは怪しい人影。

 

 怪しいというか、挙動不審。会社の目の前、その木の裏に隠れているつもりであろうサングラスと帽子の人物。人を見る目は自負している古月、その正体を悩むこともなく看破する。

 

 

「あらら、どうもこんにちは。ReVTechnicaの楢宮さんですよね? 初めまして」

 

「へっ!? いえ僕はその……人違いで! ……すいません、初めまして。私、ReVTechnicaで研究員をやってます。楢宮修司と申します……」

 

「あぁよかった、やっぱり合ってました。私、こういう者です。サングラスじゃ足りないんじゃないですかね? 有名人オーラ凄いですよ」

 

 

 『トランセンドベース』の研究主任でIT界の権威、楢宮修司が変装らしき恰好でO³コーポレーションの前でうろついていた。少し気弱かつ真面目そうで、威張った雰囲気は全く無く、それでいて理知を感じさせる立ち振る舞いの男性。その界隈にいるなら誰だって知っている顔だ。

 

 そんな楢宮は肩書に似合わず、居心地が悪そうな委縮した態度だったが、古月の名刺を見て顔色を変えた。

 

 

「ライダー事業部……!? すいません、お尋ねしてもいいですか!? 今日そちらにウチの研究員の廿九日がお邪魔したのでは!? 今朝から姿を消してて、まさかとは思ってこちらに伺ったのですが」

 

「あー……なるほど、でも正面から入るわけにはいかずと。しかし、申し訳ないですが知りませんねぇ」

 

 

 古月は流れるように偽った。両社に内緒で業務提携をしてロギア討伐をしています、だなんてとても言えるはずがない。

 

 

「そう……ですか。彼女なら這ってでも来ていると踏んだんですが……あぁ一体どこに行ってしまったのか……!」

 

「しかし、いくら社長令嬢とはいえ、平の研究員のために研究主任が自ら出向くとは。まぁ彼女は年齢的にも教え子や娘のようなものですし、後継者としてよほど大事になされてるんですねぇ」

 

 

 調子を合わせるように、相槌を打つように、古月がそれとなく示した関心。楢宮はそれに対し、返す言葉を詰まらせる。理論にせよ研究成果にせよ、誤解は訂正しなければ気が済まないのが学者の性。それが「過小評価」であるなら猶更だ。

 

 

「教え子、後継者ですか……やはりそう見えますよね。僕としては、それが少し不本意なんです。天才と呼ばれるべきも、至宝と呼ばれるべきも、本当は僕なんかじゃないと言うのに」

 

 

 楢宮が帽子を深く被りながら呟いた言葉の意味は、もはや確かめるまでも無い。古月は聞き流すふりをして、「あぁやはりそうだったのか」と心の中で頷いた。

 

 

___________

 

 

 シープロギアの出現報告を聞き、別の予測ポイントにいた帯刀、東雲、丹乃の3人も駆け付けた。そこで3人が目の当たりにしたのは、詩が一人でシープロギアと相対している状況。

 

 

「えぇっ!? 今回はオービットさんに戦わせて、戦闘データを貰うっていう話じゃなかったんですか主任!?」

 

 

 帯刀が新歩に問い質す前に、パニックになった丹乃がそんなことを口走った。東雲が大きく呆れて天を仰ぐが、新歩と帯刀の聞き間違いでなければ、彼女は確かに言った。「主任」と。

 

 

「やっぱり……廿九日さんってもしかして、とんでもないエンジニアなんじゃ……!?」

 

「あ、はいモチロンですよ! アメリカの大学に飛び級して、15歳で電脳工学の博士号を取得したIQ209の大天才!! 入社後すぐに新型ウェブライダー『リボルト』を開発した、私たちトランセンドベースの研究主任なんですから!」

 

「はぁ!!???」

 

「はーいストップよ丹乃ちゃん。色々言いすぎ、それ世間には内緒って話だから!」

 

「え、あぁっ!? そうでした主任は楢宮さんって……あぁ主任ごめんなさいぃぃぃぃ! ついうっかり主任の凄いところを……!」

 

「気にしないでニノ。我がままで我慢させてたのは私の方、謝らなきゃいけないのは私よ」

 

 

 呑気に驚いている場合ではない。シープロギアが立ち上がり、閉じ込められたという状況を把握した。逃げられないのなら選択肢は一つ、目の前の障害───つまり無防備な詩を抹消するのみ。

 

 

「───なるほど、失業してもスカウトになるのは避けた方がよさそうだ。自意識を改める必要があるな。俺はどうやら、人を見る目というヤツが無いらしい」

 

 

 シープロギアが逃走を意志から排除した数秒後、悔しさを噛み締めて帯刀は呟いた。不可侵不可脱の領域の内側で、詩が白衣から取り出したのは『サイファイデバイス』。

 

 つまり、エンジニアとライダーの関係の優劣どうこうで悩んでいた進歩は、完全に的外れだったわけだ。

 

 

「そんなのアリ!?」

 

「非礼を詫びるわアラタ。これは貴方の誠意と、有意義なデータと、価値ある発見への対価よ。釣りはいらないから敬意と一緒に受け取って」

 

《Sci-fi-Driver Boot up》

 

 

 セントラルギアを回すことで、マゼンタ色の銃型換装システム『ReVサイファイドライバー』が召喚された。そしてサイファイデバイスにアプリギアを装填。新歩にとって見覚えしかない手順を、詩はなぞる。

 

 

《Connect》

《Ready for Access Ready for Access…》

 

 

 中折れ式の銃身にサイファイデバイスをセットし、詩の左手がドライバーの撃鉄部の歯車に置かれる。そして勢いよく歯車を回転させるのとほぼ同時に、詩はトリガーを引いた。

 

 

「変身」

 

《Circuit-Open! Trace-On!》

《REVOLT!》

《Bubble Talk!》

 

Enjoy, popping life(弾ける毎日を楽しもう).》

 

 

 光弾が光の板となって通り過ぎ、詩の体がダイバーフォームへと変化。その上半身を覆うのはマゼンタの装甲。ゴーグルに表示されるロゴが示すのは、ReVTechnicaが運営する無料チャットアプリ『Bubble Talk』。

 

 ReVTechnicaにエンジニアとライダーの信頼なんて定義は存在しない。彼女は規格外の天才、エンジニアでありウェブライダー。

 

 

 ウェブライダー『リボルト』バブルウェア

 所属:『ReVTechnica』

 変身者:トランセンドベース研究主任 廿九日詩

 

 

「魅せてあげるわ。これが私の『リボルト』よ」

 

 

 仮面ライダーリボルトの顕現に、彼女のフォロワーらしい丹乃と東雲が激しく歓声を上げた。気分はここだけライブ会場だ。そんな2人とオービット、そして帯刀に向けてリボルトが指を鳴らすと、大きな泡がバリアを透過して弾けた。

 

 それによって現れたのは、リボルトを映すホログラムモニター。リボルトは次に左手を振るうと、更に巨大な泡が自身とシープロギアを包み込み、バリアと共に消失した。

 

 

「消えた!?」

 

「丹乃ちゃんヤバいわ、これってもしかして!」

 

 

 ホログラムモニターには依然、リボルトとシープロギアが映っている。しかしその背景はシャボン玉が浮かぶ幻想的な空間。その詳細を、ReVTechnicaの2人は知っているようだ。

 

 

「詩主任のGuff研究の最先端、疑似的にGuffを再現した半仮想電脳空間『バブルバース』!? 完成してます!」

 

「まさかオービットのGuff内戦闘データ使って、さっき形にしてたってこと!? 詩ちゃんヤバ過ぎ……一生ついてくわ」

 

「すいません、僕何もわからないんですけど……まさか」

 

 

 Guffを再現したという『バブルバース』。以前バットロギアがGuffに逃げ込んだときは、水中の魚の如く活性化していた。詩が敵に地の利を与えたわけじゃないとするなら、もしこれが『リボルトの領域』だとするのなら、つまり───

 

 

「はい。『バブルバース』内でのリボルトは……無敵ですっ!」

 

 

 廿九日詩が『天才エンジニア』であるのを知ると同時に、新歩は思い出す。リボルトは『最強のウェブライダー』であると。

 

 

_________

 

 

 バブルバースに転送されたシープロギアが、全身で空間の概要を分析する。足場も重力もあるように感じるが、温度も湿度も存在しない非実在的な空間。

 

 

「残念ながら出入口は未実装なの。逃げ場は無い、ここが貴方の棺桶よ」

 

 

 逃げ場が無いのなら生存戦略は一つに絞られる。リボルトを殺し、この世界を破壊するだけ。怪物は草食動物の体裁を投げ捨て、闘争本能を発露した。

 

 集約される全身の強靭なバネが異常な初速を産み出す。前に角を伸ばした状態で繰り出す豪速の突進は、弓矢の速度と槍の威力を併せ持つ凶器だ。

 

 しかし、シープロギアの体躯は空を貫いた。リボルトの体が泡になって消え、次に存在を感じたのは背後。

 

 

「───ッ!!」

 

「デコイは流石に気付くわね。まぁいいわ、『Bubble Talk』はコミュニケーションツール。イカした罵倒(リリック)で語り合いましょう?」

 

 

 笑いを含んだリボルトの挑発に応じるように、シープロギアの体毛が蓄えた膨大な電流が、角を起点として放出された。

 

 電撃を防いだリボルトの盾。それは左腕のテンキーで入力し、表示された密度の高い正方形の「鬱」の文字。

 

 

変換(コンバート)適応(エンター)

 

 

 リボルトが「鬱」に銃口を重ねると、文字が切り替わる。

 同音異字の「撃」がドライバーに吸い込まれ、発砲。ちなみにだが、弓矢の速度と槍の威力を併せ持つ凶器を、人間は「銃」と呼ぶ。

 

 文字(メッセージ)で強化された銃撃の速度に反射できず、シープロギアの左肩が爆裂した。

 

 

「『@シープロギア 敵の10m手前で4つに分裂。うち1発は1m手前で下降───』」

 

 

 『バブルウェア』の能力は多岐に渡るが、基本は『伝達』である。例えばリボルトは放つ銃弾にメッセージを送ることで、その挙動を細かく指定することが可能。

 

 シープロギアをメンション、つまり追尾命令が下された銃弾は、入力した通りの軌道を成す。当たらない攻撃を避けることはできず、シープロギアの足元が射抜かれた。その瞬間、外れた銃弾に新たなメッセージが送信される。

 

 

「忘れてないと思うけど、ここは私のエリアだから」

 

 

 リボルトが手書き入力で描く「上」の文字。銃弾を媒介し、今度は『バブルバース』そのものに命令が下され、下向きに設定されていた重力が反転。シープロギアは「上向き」に落ちていく。

 

 更にリボルトは、今度は「上」に一角足して「止」に。命令が上書きされ、シープロギアの体が空中で止まり、そこを狙い撃つのはさっき分裂した残り3発の弾丸。

 

 

「書き順とか文句はお断りよ。私、帰国子女だし」

 

 

 連続で被弾したシープロギアに対し、リボルトは跳躍。敵が静止しているのをいいことに更に銃弾を乱射し、反作用で吹っ飛んだ自身の体を泡を足場にして軌道修正。

 

 回避不可能の銃撃と、シープロギアの頭上にまで到達したリボルトの踵落としが炸裂。土埃の代わりに虹色の泡を舞い散らせ、シープロギアは墜落した。

 

 リボルトはメッセージの送信によって、自身の装備や攻撃に留まらず、この『バブルバース』そのものに命令を下せる。時間を与えればそれだけ複雑なメッセージを打つことができ、強力な戦略を組み立てることが可能。

 

 そこまで解析したシープロギアの取った行動は、加速だった。更に跳躍を行うことで接地時間を最小にして『バブルバース』の影響を削減。リボルトの周囲を跳ね回りながら複数方向から放電し続けることで、リボルトにメッセージ入力の暇を与えない。

 

 

「翻弄と妨害……なるほど効率的で合理的ね。リボルト対策としては及第点。でもユーモアに欠けるわ」

 

《Circuit-Full-Open! Bubble Talk!》

 

「ユーモアとセンスで自由とロマンを創造する、それがReVTechnicaよ」

 

 

 ドライバーに搭載された歯車型機構「イグニッションハンマー」を再び回し、高速移動するシープロギアをリボルトのゴーグルが追う。電撃の檻の内側で、銃口と視線を水平に重ねた。

 

 次の瞬間、開眼する闘志。その転身と同時に、一点に絞ったシープロギアの視線とリボルトの照準が、直線を結ぶ。狙撃手は動き回る標的の影を完全に捕捉した。

 

 遠い銃口が、眉間に突き付けられているかのような錯覚。攻勢にシフトしていたシープロギアの意識が、刹那で「逃走」に引き戻される。

 

 

《IGNITION-OVERDRIVE》

 

 

 破裂する電子音、火花が閃く。逃げるという判断は余りに遅く、光弾はシープロギアの鳩尾を正確に撃ち抜いた。

 

 しかし、メッセージを入力する暇の無かったリボルトの攻撃は、出力を上げたところで火力不足。シープロギアの体を破壊するに至らない。

 

 

「───これで勝ち確ね」

 

 

 銃撃に耐えたという事実を覆す、二度目の衝撃波。ポップな画像が現れると同時に、シープロギアの右半身が爆炎に包まれた。その後も三度目、四度目と爆発の追撃が続く。シープロギアはこの状況を解析できない。

 

 

「“スタンプ”って便利よね。ママの説教やシュージのウザ絡みに、()()()()()()()()()指先一つでリアクションできる。でも何て言うんだったかしら、日本のスラングでこういう話の締め方。あぁそう、『爆発オチ』……だっけ」

 

 

 『Bubble Talk』のスタンプ機能。その中の1つである、爆発のスタンプ『BOMB!』、それを合計15発。文字通りのスタンプ爆撃をリボルトは必殺攻撃として組み込んだ。

 

 一度被弾してしまえば最後だ。既読を取り消すことはできないように、付与されたスタンプは既に命中してしまっている。

 

 リボルトの指先が送った小さな泡が、爆発の連鎖に囚われたシープロギアの傍を漂う。そして15回目の爆発と同時に弾け、大爆炎の中に表示された短いメッセージが、戦いの終わりを飾った。

 

 

R.I.P.(ご愁傷さま)

 

 

__________

 

 

 シープロギアのデータを回収したリボルトは、バブルバースから退出。作ったばかりのテストもしてない新機能を使っての戦闘だったが、結果としては有意義なデータを取れた。

 

 しかし結果論もいいところだ。O³にこの技術を見せたのは得策とは言えないし、秘匿にしていた変身者の件もバレた。

 

 

(そこだけは効率的とは言えないわね。でも……)

 

 

 一人でなんでもできる詩は、一人でなんでもするのが効率じゃないことを知っている。知っているからこそ、自分がどこまでやっていいのか計りかねている。

 

 自分が出しゃばり過ぎたら、仲間の居場所を奪ってしまうのではないか。社会が彼女たちにそうしたように、その才能を殺してしまうのではないか。どれだけ言葉を交わしてもそれが不安だった。

 

 しかし、それは忖度の入ったコミュニケーションで、自由もロマンもあったものじゃないと気付いた。本当に詩が仲間を必要としているのなら、きっと仲間は一人で走る自分の背中を追ってくれるはずだ。

 

 それどころか秘密を共有した相手、新歩ならもしかしたら───

 

 

「───廿九日さん!」

 

「……アラタ?」

 

 

 バブルバースから離脱したリボルトは、新歩の声を聞いた。

 だが想像とは違い、それは掠れて張り詰めた、切迫感を突き付けるような叫び。

 

 それに続いてようやくリボルトは、『ここにいたはずの全員が、負傷して倒れている』という状況を認識した。

 

 

「ッ……後ろです! ()()1()()()()()ッ!!」

 

 

 何者かに仲間が襲われた。その事実だけを脳に通すと、リボルトは反射的な感情で銃口を背後に向け、躊躇なく発砲した。手応えを感じ、何も無いはずだった空間に出現した極彩色の『進化系』。

 

 

「未確認の進化系……この短期間に、このエリアに2体目……!?」

 

 

 脈絡もなく突如現れ、明確な意図でウェブライダーを襲った、小馬鹿にするように長い舌を出す不可視の伏兵『カメレオンロギア』。その背中に刻印された「No.01」の識別記号。

 

 そのイレギュラーはGuffと人間世界に起こる異変を、雄弁に物語っていた。

 

 

__________

 

 

 世間の動向を知るにはネットニュースを見ればいい。人間を知りたければ匿名SNSを見ればいい。外に出る必要も、言葉を話す必要もない。青年は閉め切られたネットカフェの個室で、目と指だけを忙しく動かす。

 

 それでも「ネットじゃ社会を知れない」とのたまうヤツが多いのは、誰も語りたがらないほど現実の社会は陰険で、下らないものだという証拠じゃないのか。

 

 莫大なインプレッションを集めるネットニュースの大見出し。そこでは見覚えのある顔が、緊張してるのかニヤけてるのか分からない顔で、ヒーロー番組について語っていた。

 

 青年───先堂単は盛り上がるコメント欄に飛ぶと、一息で文章を打ち込んで、自身の音無き声をネットに放流する。

 

 

[ウェブライダーはクソ]

 




File-05 仮面ライダーリボルト バブルウェア
ダイバーフォーム
【挿絵表示】

バブルウェア
【挿絵表示】

ReVTechnica製「ReVサイファイデバイス」と「ReVサイファイドライバー」で変身するウェブライダー。変身者はOトランセンドベース研究主任 廿九日詩。チャットアプリ「Babble Talk」のアプリギアから生成されたライドアプリギアーマーを纏い、左腕の「フリックジェクター」で装備や攻撃に命令を与える機能を基本戦術とする。その他、アプリ機能に由来する能力を多数有しているようだが、戦闘の度に実装と廃止を繰り返しているため正確な戦力は未知数。

File-06 シープロギア

【挿絵表示】

現実世界の情報から「ヒツジ」の生態を再現し、天気予報アプリ「CLOUD REPORT」のプログラムを発現させた進化系ロギア。眼にあたる部位は頭部を一周しているため死角はなく、体毛は超強力なセンサーとなっており、それらで収集した周辺環境の情報から超高精度の予測を算出する。身体能力は走力、特に瞬発力に極端に秀でる。頭部・肩・腕部に存在する3対の角は形状可変の特殊金属で構成されており、体毛同様に電気を蓄蔵する性質を持ち、軽い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。