O³コーポレーション ライダー事業部 活動報告
ライダー事業部部長 古月、先端研究機関トランセンドベース主任研究員 廿九日詩。両名の同意のもと、O³コーポレーションとReVTechnicaの臨時業務提携契約が成立。
二社協同事業の目標は進化系「シープロギア」の討伐。情報・技術を共有し対策を行い、廿九日詩が変身したウェブライダー「リボルト」によってシープロギアの撃破に成功。
戦闘終了直後、未確認の進化系「カメレオンロギア」が出現。
現在は千才、帯刀が戦闘によって負傷。先堂は1週間前から無断での欠勤。
カメレオンロギアの出現に対し、至急ライダー事業部全員で対処にあたる。
__________
進化系の出現とは、本来極めて稀なもの。人口密集地である都心ですらそう頻繁には起こらないというのに、ここは臆病なシープロギアが縄張りとしていた山間部だ。シープロギア撃破の時点で警戒心を解いてしまっても無理はない。
ならば、この不可視の進化系はなんだ。このタイミングにこの能力、まるで何者かが狙って差し向けたような。
(ま、色々気になるとこではあるけれど……)
動揺している余裕は無い。倒れた部下たちと、オービットに帯刀。怒りを静かに懐に仕舞い、ウェブライダー「リボルト」───廿九日詩は思考する。
極彩色の体表を一瞬だけ曝け出したカメレオンロギアは、すぐにその姿を風景に溶け込ませて姿を消した。リボルトは即座にゴーグルのフィルターを切り替えるが、やはりカメレオンロギアを捉えることはできない。
(サーモカメラでも反応なし。完璧な迷彩ね。そもそも、そうでなきゃ視界検索機能を持つオービットが後れを取るなんて在り得ない)
だが、別に視えなくたって攻撃が当たらないわけじゃないのなら対処可能だ。
リボルトはスタンプを2つ選択し、周囲に敷き詰めるように連射を行う。選んだのはまず「拡散」のスタンプ。これにより、弾丸1発が空中で5発に分離。
そして「避けろ!」のスタンプで、銃弾は倒れた仲間や障害物を避けながら縦横無尽に旋回。
「ターゲットも自動で避けちゃうから使いどころなかったけど、敵が不可視なら逆に好都合。やっぱり作ったものは捨てずに取っておくものね」
銃弾を散らしているため威力はお粗末だが、この密度の弾幕から逃れるのは不可能だ。すぐにカメレオンロギアが被弾し、その姿を再び現した。そこにすかさず撃ち込む100%の威力の銃弾。
手応えはあった。今度の一発はカメレオンロギアの表皮を抉り、確実な損傷となって刻まれている。
しかし、次の瞬間にリボルトは瞠目する。まるでページを更新するが如き刹那で、その傷跡が消滅してしまったのだ。ご丁寧に先の連射で与えた僅かな傷すらも消え去っている。
「……なるほどね」
カメレオンロギアが跳ね、地面が爆ぜると同時にリボルトの背後の樹が大きく揺れた。
(───速い)
背後に回られたと認識したリボルトは転身して銃口を向けるが、すると今度は舌を別の樹に巻き付け跳躍。空中で自在に軌道を変えながらリボルトを嘲笑うように動き回る。
動きを追いきれなくなった一瞬を見計らい、カメレオンロギアの舌がリボルトに叩きつけられた。鞭状であるが故の広域の攻撃範囲。それでいて装甲を半壊させる威力はもはや剣戟の域。驚異的な機動力に加えて攻撃能力も侮れない、相当な強敵だ。
しかし何より厄介なのは透明化と再生能力で、対シープロギアにカスタムしたリボルトでは相性が最悪。その2点が勝利を一気に絵空事へと押し上げている。
勝機は絶望的、そうリボルトが判断した瞬間、戦闘は突如として硬直した。
《IGNITION-OVERDRIVE》
負傷しながらも変身を維持し、機を伺い続けたオービットの右腕「ブラウザーシャフト」が、カメレオンロギアを背後から斬りつけたのだ。
「まだ、僕もいるぞ……ッ!」
「いい存在感よ、アラタ」
その隙にリボルトの連射が、カメレオンロギアの装甲の各部を貫く。相変わらず傷は一瞬で消え去るが、カメレオンロギアは背面を気にした様子で跳躍。オービットの頭上の樹に貼り付くと、その姿を透明化させた。
次々と樹が揺れ、その音は遠ざかっていく。逃げたと見て間違いないだろう。
「全員生還……一先ず、修羅場は突破ね」
__________
カメレオンロギアとの戦闘を終え、すぐに気を失ってしまった新歩。そのまま病院に搬送されたのはなんとなく覚えているのだが、いま彼の前には白衣姿の詩がいる状況は一体。
「あのぉ、記憶が曖昧なんですけど」
「無理ないわね。アーマーも酷く損傷してたし、見えない敵にひたすら殴られたんでしょ。まあオービットの方は問題ないわ。ドライバーの自動修復機能で明後日には直る程度よ」
「それはよかったんですが。すいません、一応聞くんですけど、この見覚えない部屋はどこですか?」
「私のラボよ」
「あーですよねやっぱり……って、あの『トランセンドベース』の『主任研究員』の『専用研究室』に部外者を入れちゃ駄目じゃあないですか!!??」
つまりここはReVTechnicaの最重要施設内の最奥。他社の内部であることを承知の上で、新歩は叫ばずにはいられなかった。
しかし、声に出すつもりは無いのだが、まぁ部屋が汚い。
見たことの無いマルチディスプレイコンピューターの両脇には論文や書籍が散らばり、デスクの横の大きいゴミ箱に入り損ねたカップ麺とサプリメントの殻や空いたペットボトルと一緒に上着やら靴下が脱ぎ捨てられている。インテリアや大きいぬいぐるみの女の子らしい色調では到底カバーしきれない有様である。
「ここの所有者は私のママで、責任者は私。実質私の家のようなものね。全く問題ないわ」
「いやいや! 誤魔化されませんよそんな雑な相似条件で! 例えそうでも招かれた僕が心穏やかじゃいられないと言いますか……!」
「そうですよ。もっと言ってあげてください、強めに言わなきゃ聞きませんのでもうガツンと」
「あ、シュージいいところに。私とアラタにカフェオレお願い」
「シュージって……な、楢宮先生!!?」
軽いノックの後に自動スライドドアから入室してきた人物を確認し、新歩の背筋が一瞬にして直立した。つい先ほどまで新歩は彼がここのトップだと思っていて、それに些かの疑念も持たなかった。それほどに彼は新歩にとって神格化された存在。
楢宮修司。Guffの発見で急激に進化した電脳分野における、国内最高権威の筆頭格。システム情報学科を出ている新歩にとっては、まさに天上人と言っても過言ではなかった。
「君が千才君ですね。先日、新入社員にしてオービットに抜擢されたという。楢宮です、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします! 恐れ多いです僕のことをご存じいただけていらしただなんて……」
「敬語がヘンよアラタ」
「いや驚きました、まさかライダー事業部とは。卒論読ませてもらいましたが、ここまで無駄のない見て美しいコードを組める学生がいるのかと驚いたものです。O³に取られてしまうとは惜しいことをした。もっと強く人事に言っておけば……」
「そんな。勿体ないお言葉です! 僕も楢宮先生の著書はもう穴が開くほど読みました! 特に一昨年発表された最新のビッグデータ解析探索アルゴリズムにはもう感銘を受けまくって……!」
「はいそこまで、もういいわ」
退屈そうにしていた詩が手を叩き、強引に会話を断ち切った。楢宮ばかりがチヤホヤされているからか、詩はどこか不機嫌そうに新歩を見る。その機微を察し、機嫌を取るように、楢宮は詩に角砂糖を9つも入れたカフェオレを差し出した。
「だから僕はずっと言っています、むくれるくらいなら主任も論文の一つや二つ発表すればいいんです」
「私、論文って嫌いなのよね。色々まどろっこしくて」
「またそうやって……それを嫌いで押し通せてしまってるのも、主任の実力あってこそなんですが……」
新歩は深々とお辞儀をしながら、楢宮の手からカフェオレを受け取る。楢宮はイメージ通りの人格者だった。誰に対しても腰が低く物腰が柔らかいというのは古月に似ているが、あちらにある胡散臭さや不信感が一切無い。これも古月に対しかなり失礼な評価ではあるのだが。
そして詩と楢宮の関係は、なんとなく娘と父親のようだった。詩の父親、廿九日獅雄が失踪していることからも、楢宮は彼女の父親代わりのようなものなのだろうか。
「ところで僕と一緒にいた帯刀さんは」
「叩き起こして帰らせたわ。ナツキ嫌いだし」
「そ、そうですか……それで廿九日さん、僕をここに残したってことは、あの新しい進化系の話ですよね?」
でなければ他に理由が思いつかない。本来シープロギアの討伐で終わっていたはずの臨時提携だが、詩はこのままカメレオンロギアまで倒してしまおうと考えているのだろう。そんな新歩の考えに基づいた問いかけに答える前に、詩は少し間を開けて言葉を差し込んだ。
「詩」
「はい?」
「詩でいいわ。廿九日だとママと同じで紛らわしいから」
「はぁ……じゃあ詩さん」
詩はカフェオレを口に含み、そこで一呼吸の小休止を入れる。
「そうね。もちろんそのつもりよアラタ。あの進化系との戦闘を分析したところ、身体表面の鱗は鎧にしてキャンバス。テクスチャの状態を自在に変えて擬態することもできれば、更新しリセットすることで損傷すら無かったことにできる。あの鱗に痛覚があるとも思えないし、あそこへの攻撃は完全に無意味ね」
詩は急に饒舌になった。なんだか満足そうな詩のことはよく分からないが、作戦会議だけは完璧に把握しながら追えているので、新歩は落ち着いて自身の意見を返す。
「じゃあ僕の攻撃でカメレオンが撤退したのは、僕の攻撃が『深かった』から、ということなんですかね」
「そう考えていいでしょうね。恐らくカメレオンロギアが再生可能なのは『体表』のみ。鎧を貫通して一撃で仕留めることさえできれば討伐は可能よ」
「それでも十二分に脅威的な能力ですね……見えない上に生半可な攻撃は意味がないなんて」
「で、ここからが本題。さっき耐久値の計算をしてみたけれど、リボルトの火力じゃカメレオンロギアの討伐は“困難”という結論に至ったわ」
鮮やかに淡々と発せられたのは、最強のウェブライダー「リボルト」の敗北宣言。リボルトの戦いぶりを見て、彼女が味方にいるうちは安泰だと勝手に思っていた新歩は、梯子を外されたように狼狽える。
「あくまで仮説だけどね。リボルトはリソースを特殊機能に割いてて火力や身体スペックで劣る。その弱点は分かってたけど、まさかここまで相性の悪い敵が現れるとは思わなかったわ」
「えっ……! あのシープロギアを倒した連続爆撃でも無理なんですか!?」
「あれは連打してるから派手に見えるけど、一発の威力は大したことないの。そしてスタンプ効果の履行は重ね掛けできない仕様になってて、あの技の場合だと爆発と爆発の間に約0.3秒のラグが生じる。もし敵の再生速度がそれを上回るのなら、リボルトに打つ手は無い」
「そんな……!」
「でもオービットなら可能よ」
その一言で、新歩は詩の言いたいことを瞬時に理解した。不意打ちだったがオービットの攻撃はカメレオンロギアの鱗を貫通し、ダメージを与えて見せた。それはリボルト以上の火力水準を証明している。
ウェブライダーが無数に存在する現代、必ずしも一人のヒーローが敵を倒す必要はない。自社じゃどうにもならない状況に陥れば、別の会社に案件を委託する。それはライダー事業において頻繁に起こる場面だ。
しかし、最強と謳われるあのリボルトが白旗を上げた。その事実が、新歩の両肩に重く圧し掛かる。オービットが最後の砦になりかねないこの状況、その責任に乗っているのは会社の命運だけでなく、何十何百という人々の命。
「でも……万全ではなかったとしても、オービットのオーバードライブでもカメレオンは倒せませんでした」
「そうね。でも、上手くチューニングして出力と精度を上げる事さえできれば、リボルトよりも遥かに現実的にアイツを倒せるわ。あぁ、でもO³のエンジニアは不在だったわね。それなら───」
分かっていたつもりでも足が竦む。GFアドバンスの「ギルダー」や、他の有名なウェブライダーの存在が頭に浮かぶ。ReVTechnicaとの協力を経て、強い仲間に甘えることの安心感を知ってしまい、無意識に逃げ道を探そうとする自分が嫌だ。
詩の言葉が自身の卑屈な思考で塗りつぶされそうになった。だが、最後に詩が言ったそれが、新歩の思考を打ち止めた。
「アイツに勝てるよう、私がオービットを改良してあげる」
願ってもない協力の申し出だったはずだ。詩の桁外れの実力はこの目で見たから、信頼なんて烏滸がましいくらいだ。ここで首を縦に振ればオービットは勝てるだろう。
でも、そこで新歩はようやく冷静になった。
何を迷っていたんだ。一人で戦うのが怖くて、仲間が心強いのなんて当然だ。仲間に甘えて何が悪い。
だが、見誤るな。ここは社会で新歩は社会人だ。
甘えるべき仲間はきっと彼女じゃない。
「───いえ、大丈夫です。僕らO³コーポレーションには、優秀なライダーエンジニアがいますから。僕は彼と一緒にカメレオンロギアを倒します」
「……そう」
まだ大して一緒に仕事もしてない。彼がどんなヤツで、どれだけ凄いヤツなのかも知らない。でも新歩は知ってしまった、ライダーエンジニアという存在の頼もしさを。
ReVTechnicaに並ぶ大企業、O³コーポレーションのエンジニア。それが凄くないわけあるか。
もう恐れは微塵も無い。先堂単と共に、必ずこの大仕事をやり遂げる。
__________
『そんなんじゃ社会で通用しないぞ』
いい加減この国は言論統制を導入すべきだ。そしてこの再生数2桁配信者の挨拶フレーズにも劣る使い古された決まり文句を違法にしろ。
これを言う奴は社会をスポーツの全国大会か何かだと思っているのだろうか。社会なんて何も考えず何の努力もしてないような奴でもやっていける『それなり』の場所だ。そんな万人共通の当たり障りのない存在を盾に他人の能力にケチを付け、人格を否定するような、人を貶す正論の語彙すら乏しい馬鹿が世の中には多過ぎる。
青年、先堂単はその言葉が大嫌いだった。
「……」
ネットカフェを出て、今日も彼はマスクをして声を閉ざす。
出勤する会社員の波を逆流し、電車を避けて徒歩で移動する。疲れるが満員電車で圧延加工されるよりは遥かにマシだ。短期間でも自分もあれらと同種だったかと思うと正気を疑う。
『貴方の才能は無二です。その才能、我がO³コーポレーションに買わせていただけませんか?』
楽して稼げると思ったから話に乗ったのに、とんだ詐欺だ。スカウトなんて受けなければよかった。
先堂が仕事に行かなくなって一週間以上が経つ。上司や同期からは毎日しつこく連絡が来るが、目だけ通して無視を貫く。どうせ何言ったって返ってくるのは「会社に来い」だけなのだから、取り合ったって意味が無い。
別に会社に行かなくなったのに理由なんて無い。仕事なんて前提としてやりたくないものだろう。それなのに毎日毎日行くことを義務付けられてる方がおかしいはずだ。
先堂が向かうのは書店。極力外には出たくなかったが、今日はお気に入りの漫画の新刊発売日なのだからやむを得ない。
『電子書籍で買え』などと抜かす奴は趣という感性を乳歯と一緒に投げ捨てたインプラント野郎だ。『手元』に『実物』があるという感動はDNAに刻まれてあるべき真理。どれだけ社会がユビキタス化し電脳に支配されたとしても、紙の書籍が完全に消え去ることは無いと断言できる。
「この人この人! 私の推し! この間一緒にテレビ出てたの見たじゃん! アイドルやっててさ、今度新しいCD出すんだ~」
「えーアンタこんなの好みなの? やめときなって、裏で女殴ってそうな顔してるし」
「そんなことないし。だって確かどっかの雇われでウェブライダーやってるんだよ!? 私たち守ってくれるヒーローなんだから!」
今日は雑音がよく聞こえる。ヘッドフォンを持参するべきだった。
ファッション誌の表紙を見てワーキャー駄弁るJK2人。顔とスタイルが良くて歌って踊れる癖にウェブライダーだなんて、自己承認欲求の規定値を超え過ぎだ。何らかの法に触れればいい。
なによりも、何が『ヒーロー』だ下らない。
目当ての漫画を見つけ、誰とも目を合わせないように先堂は会計に向かう。
「アイツまた来ねぇってよ。最近飛び過ぎ。病んでるだかなんだか知らねぇけど」
「だったらさっさと辞めろって話だよな。正直面倒くさいんだよシフトの組み直しとか穴埋めとかさぁ。俺らだって辛いに決まってんだろ、他人に迷惑かけんなよ」
バイト店員の会話が聞こえ、先堂の足が止まる。
自分が辛いのと他人が辛いのなんて無関係だろ。大体、お前らが金を払うわけじゃないのになんでお前らのために働かなきゃいけないんだ。
違う、落ち着け。これは雑音だ。自分の話じゃない。
「就活してるらしいけどさアイツ───絶対社会でやってけねぇって」
結局先堂は漫画を棚に戻し、逃げるようにその場を去った。
『お前さ、人が話しかけてんのに無視かよ』
『一人でも喋んないヤツいると空気悪くなるやんか。わからん?』
『勉強できても、コミュニケーション取れないんじゃ正直意味ないと思うけどな』
『人と関わりたくないから働かんとか、通用すると思ってんの?』
近くにあったリサイクルショップで安いヘッドフォンを買い、雑音を遮断して、PCを開いて見ているのは転職サイト。働かなければ食っていけないのは残念ながらその通りで、目を向けるか死ぬかの二択だったら流石に選ぶ余地は無い。
しかし、目を向けたところで所詮先堂の目だ。根本的な何かが変わるはずもなく、不向きな求人がページの下から上の逆滝を成す。コミュニケーション不要な職は想像よりもずっと虚構な存在なのだと実感する。
『変わる努力もしてない癖に理解してほしいとか、甘えんなよ』
ヘッドフォンをしたら今度は内側が煩くて仕方がない。
わかってるさ。それらは『正論』だ。でも正論はいつだって誰かを否定するためのものだ。この社会はそんな正論だらけで息が詰まる。
───ムシャクシャする。こういう時は憂さ晴らしに限る。
しかし初任給前に逃げたのだから当然だが、財布の中が酷い有り様。
パチンコは嫌いだ、あんな虚像の生産性に騙されるものか。金が減ると割り切れる分ゲームセンターの方が遥かに上等という信念の下、入店。
昼間からゲームセンターを生息地とする不良学生たちを素通りする。どんな人間でも基本干渉しなければ無害だ。
高校の時からずっとある格闘アーケードゲーム、最新から数えて3世代くらい前のシリーズ。それを見つけ、先堂は反対側に誰もいないのを確認し、筐体の前に座った。
慣れた手つきでコントローラーを操作し、お気に入りのキャラを自在に動かす。
先堂は昔からこのゲームが好きだった。「かなり強い」設定のAIプレイヤーでも言葉ほど手強くなく、適度な手応えの勝利を楽しめるからだ。これで100円取られなければ完璧なのにと思う。
「……?」
いつも通り勝った。勝ち足りないので追加で100円を投入した。
しかし画面の様子が変だ。キャラの動きが見慣れたAIのそれではないし、極めつけに『2P』の文字が表示されている。
しまった。ぼんやりしていて見てなかったが、対戦モードだこれは。ここから見えないが反対側に誰か座っているのだろう。
さっさと帰るべきだろうか。しかし100円を入れたという事実が、先堂を椅子に縛り付ける。大体、対人プレイ中に堂々と逃げるのは流石に気まずいものがある。変に因縁付けられても困るし。
適当にやりすごして席を立とう。そう思ってボタンを叩く先堂だったが、
『YOU LOSE』
───ボロ負けである。
ほぼ完封。尋常じゃない強さだった、ガチ勢に違いない。平日の昼間からこんな古いゲームに本気になりやがって暇人が。憂さ晴らしのつもりが余計にストレスを溜めてしまったと苛立ちつつ、静かに席を離れようとした先堂。
同時に席を立ち、筐体の向こう側から出て来た相手プレイヤーと目が合った。
「やっと見つけたよ……先堂!」
「っ……!?」
スーツ姿の千才新歩の姿が、そこにはあった。
なんで?
先堂は考える前に全力疾走で逃げ出した。何故この場所がバレたのかも気になる限りだが、一先ず逃げなければ。無断欠勤にメール無視の重罪、捕まったら殺される。
しかし、運動神経は皆無の先堂に対し、現役ウェブライダー変身者の新歩。追いかけっこにすらなるはずもなく、ゲームセンターの出口に至る前に先堂は確保された。
__________
ゲームセンター付近の駐車場で、新歩のバイクの前まで連行された先堂。社名の入ったエクステンストライカーから無言の重圧を感じる。
「仕事は帯刀さんと古月部長に任せて、僕が先堂捜索やらせてもらったんだ。で、しばらく実家とか通ってた小学校とか行って色々先堂のこと調べたんだけど上手く行かなくてさ。そこで先堂が今なにしてんだろーって考えた時、この間受けたインタビューがニュースになってたの思い出して、そこにあったコメントがなんか先堂っぽかったからそっからIPアドレス特定して行動シミュレーション計算した」
まだ何も聞いてないのに凄い喋る。
あと特定までの過程が非常に気持ち悪い。
わざわざ地元押し掛けるか? 地元関西だぞ?
確かにコメントしたけど先堂っぽいって何??
総合的に評価して手口が理系ストーカーだ。怖い。
「まぁ計算結果を『
先堂がいた時にはまだ調整中だった、地図アプリのギアだ。完成していたのかと僅かに関心を示す一方で、やはり自分は不要じゃないかと目を逸らす。それに気づいた新歩は、世間話をスキップして本題を切り出した。
「戻ってきてくれないかな先堂。凄く手強いロギアが出た。先堂の力が必要なんだ」
まぁそういう話でなければ新歩が会いに来る理由が無い。対話は避けられないと悟り、先堂は長らく放置していた新歩とのチャットルームを開く。
[なんで怒らない]
それが先堂の声なき第一声だった。
「まぁ……帯刀さんはキレてたけどね。ほら、先堂って初対面の時からなんかサボりそ~って印象だったし、ぶっちゃけ休んだ時は案の定って感じだった。あ、でも先堂がいないから僕宣伝やらされてたのか……」
[甘やかしたって会社には行かない。次の仕事見つけたらすぐ辞める]
「え、先堂本当にやめるの!? 帯刀さん怖いから!? それとも古月部長よく分かんないから!?」
なんとも会話の調子が合わない。強いて個人を原因に挙げるならお前だ。学歴強くて戦闘もできる癖にゲームまで強いのどうなってんだ万能か腹立つ。
「頼むよ先堂。オービットのメンテは君がいないと無理だ。人々を守るためにも、僕と一緒に戦ってくれよ」
[そんなの他のエンジニアに頼めばいい]
「オービットのエンジニアは先堂だ! 社長と部長が認めた、選ばれた逸材が先堂なんだ。君しかいないんだ!」
[だったらO³のライダー事業部はおしまいだ]
先堂はいとも簡単に会社を自身から切り離す。自分のせいで会社の命運も、事業部の皆の人生も狂うことになるというのに。
[オービットなんていなくていい。こんなヒーローだらけの世界で]
「っ……それは……!」
それも一つの正論。さっき新歩が想起したように、この近辺でさえ強豪のリボルトと中堅のギルダーがいて、少し範囲を広げればウェブライダーが在籍する会社なんていくらでもある。
ウェブライダーはその目的と性質上、ロギアに対して後手に回る。Guffを究明する『探索系』ならまだしも、戦闘系のウェブライダーがこれ以上増えたところで減る被害は微々たるもの。
[ウェブライダーはクソだ。お前らの人助けは、自己満足と金稼ぎのエゴでしかない]
新歩はようやく、先堂に対する『理解できなさ』の正体を理解した。根本的に信念が全く違うのだ。先堂には『人の為に何かしたい』とか、『仕事で何かをしたい』とか、そういうのが全くない。彼の中では彼だけが中心で、そこに他人の存在は無い。
だから新歩がどれだけ自身の哲学を語ろうと、それは平行線にしかならない。先堂は他人に関心がなく、決して他人に寄り添わない。
(あぁそっか。いろんな人がいるんだな、社会って)
学び舎から一歩踏み出すことで実感する、世界の広さ。その広さに眩暈を感じると同時に、少し高揚した。
人々はそれぞれ唯一の形を持つ無限の歯車。それらが嚙み合い、作動するのが社会。
新歩の中にあるのは確信。O³コーポレーションの欠けた部分に、先堂が過不足なく合致するという直感。だから詩が自身の会社でそうしたように、変えるべきはその歯車の形じゃなく、装置の構造と、動かし方。
「……僕さ、家族いないんだ」
突然の独白に、先堂は困惑する。逆上するでも見限るでもなく、むしろ距離を詰めて新歩は語りだした。
「親代わりみたいな人はいたんだけどね。僕を育ててくれたし、凄く感謝してる。でも……ずっと距離を感じてたんだ。学校とかで皆の家族に会うたび、『あ、僕は皆と違うんだ』って思った」
[何の話]
「僕の話。でさ、実は僕友達も少なかったんだ。皆にうまく馴染めないから、自分がここにいていいのか不安になって。僕がいてもいいって理由が欲しかった。ヒーローみたいに、皆に必要とされたかった。多分だけどそれが僕の原点」
気味が悪いほどの献身願望の正体がそれかと、先堂は納得した。意外な一面といったところか、生憎恋する女学生でもないので全く心に響かないが。しかし解せないのはその脈絡。
「なんか……ちょっと恥ずいな」
[だから何だよ本当に]
「今のが僕っていう人間の『形』。先堂はさ、昔は凄く優秀で、よく喋る子だったんだってね。誰からも将来を期待された天才だったって、先堂の子供の頃を知ってる人たちに聞いた」
先堂の指が止まる。
追い出されるように離別した親、顔も思い出せない同級生と昔の先生。ただ脳に浮かぶのは、数々の否定の言葉だけ。
もう十分だ。それ以上はいらない。お前らみたいな変われる側の人間が、そうでない人間を理解なんてできるはずがない。それ以上近付くな。歩み寄るな。
踵を返そうとする先堂の手を、新歩は強く握る。
「君が話したくないなら、僕はそれでいいよ」
先堂は思わず顔を上げた。
善人ぶった奴らも、欲が張った奴らも、近づいてくる奴らは『理由』を聞いてきた。しかし聞いた上で同情も理解もできないから、結局は自分が扱い易いように変化を強制してくるのだ。
でも新歩は『理由』を聞かなかった。
その境界線を越える一歩を、彼は踏み出さなかった。
「僕はきっと、君を理解なんてできない。僕らは全く違う人生を歩んだ他人だから。そんな人たちが集まるのが社会なんだ。でも……」
踏み出すことなく、その手を掴んだだけ。強く引き寄せることもせず、ただこの繋がりを放したくないと言わんばかりに。
「それでも……甘いかもしれないけど、社会が成り立つために『形』を揃えなきゃいけないなんて、僕は寂しいと思う。癖も欠点もその人が歩んだ人生で、他人がそれをなんでもかんでも否定するなんて……正しいとは思えない。だからっ!」
久しぶりに他人に触れられた。そして、久しぶりに他人の眼を見る。
その熱意は、真っ直ぐに合わせられた視線は、いつぶりに感じるものだろうか。
『なんで喋らないんだよ』
『なんで普通になれんの』
『変わる気がないなら、社会じゃ通用しな───』
「───君も僕も、変わらなくたっていい!」
声が。光が。分厚い壁を突き破って、先堂の全身を貫いた。
理解されたかったわけでも、理解されたわけでもない。でも、たった一言。『否定』じゃなくて、その『肯定』の言葉が。ずっと。
[意味が分からない]
メッセージだけ見ると冷たく突き放すような言葉だ。だがやはりコミュニケーションは面と向かってやるのに意味があるのだなと、新歩はそう思い、笑う。先堂の間と表情は、そのメッセージの意味を『本気の困惑』であると伝えていた。
[なんでそこまでする]
「別にそんなに苦労してないよ。あ、強いて言うなら……先堂の話を聞くのは大変だったかも。お母さんは泣いてたし、学校から話聞くのも同僚ってだけで大分無理矢理に……いやほんと申し訳ないなぁ」
[そんな目に遭ってまでどうして]
[どうして何も聞かない]
[どうして否定しない]
「逆だよ。先堂が何も言わず会社を離れたってことは、話したくないってことでしょ? だから自分でこっそり調べに行ったんだ。先堂の口から聞けなくても、僕は君のこと知りたかったから」
[だからどうして]
「いや、だって……僕ら同期の同僚でしょ。つまり友達ってことじゃん。友達のこと知りたいのなんて当たり前……だよね?」
友達がいた経験があまり無いらしい新歩は、途中から自信無さげに首を傾げる。その間の抜けた表情と観念に、先堂は目を丸くしてつい顔を引きつらせてしまった。
会社の同期だから友達? 本気で言っているとしたらとんだ幻想だ。学生気分どころの騒ぎじゃない。社会を舐めているとしか思えない。それを純真無垢な顔で言っているのが、どうにも可笑しくて仕方がない。
でも本当に、その幻想が現実なのだとしたら。
互いが互いの居場所になり、互いを否定しない。そんな『仕事』を望んでいいとするのなら、それはきっと───
瞬間。緩んだ空気を一気に圧縮する喧騒。人々の悲鳴。
先堂の呼吸が打ち止められ、震える身体で声の方を振り返る。さっきまでいたゲームセンターから出てくるのは、苦しそうに浮遊する不良学生。
光が屈折し、不良学生の首を掴む怪人の姿が色彩を得る。カメレオンロギアだ。
再出現が早過ぎる。まだ先堂を呼び戻せていない。オービットの強化ができていない。それ即ち、まだヤツを倒す手段が無い。
しかし、新歩は迷うことなく走り出す。近付く新歩を認識したカメレオンロギアは不良学生を放り出すと、跳ね上がって建物の壁面に張り付いてこちらを俯瞰する。
「あの時、アイツは明らかに僕らを狙って現れた。やっぱり狙いは『オービット』か!」
ロギアが特定の目的を持って動くというのは、無いわけではない。しかしこれは明らかに異質。まるで誰かに命令されて動いているような、そんな挙動。
だが、だとしたら何故透明化して直接襲ってこなかった? 一回目の襲撃もそう。これだけ逸脱したステルス機能があり、新歩やオービットを知っているのなら、完全な暗殺だって可能なはず。
「……まさか。駄目だ先堂!
逃げ出そうとしていた先堂を呼び止め、サイファイドライバーを召喚してその反対方向に走り出す新歩。するとカメレオンロギアはその動作をピッタリ追跡して体を動かす。あの時は仲間まで執拗に襲ったのに、今度は先堂に見向きもしない。
「やっぱりだ。コイツは動いてるものしか認識できない! だから動かないで!」
実際のカメレオンが止まったものを認識できないのと同じ。強力過ぎる生態を模倣した影響か、生物の持つ弱点まで再現してしまったようだ。
しかし、動かなければこちらから攻撃もできない。今更止まったところで『そこにいる』ことは割れている。今はただ、動き回って注意を自分に惹き付けることしかできない。
「それでいい。倒せないとしても、僕の友達には指一本触れさせない! それが僕の仕事だ!」
《Connect》
《Ready for Access…》
「変身!」
《Circuit-Open! Trace-On!》
《ORBIT!》
《Can-View!》
《
新歩がオービットに変身すると同時に、カメレオンロギアは姿を消した。見えざる跳躍で建物の壁面が割れ、風を切る音と着地と離陸の衝撃だけが空間に現れては消失する。
発生源不明の広域打撃が四方八方から襲い掛かる。この機動力は予測演算できない。
先堂は必死に息を殺す。今にも崩れそうな体の震えを抑える。そうやってただオービットがやられているのを見ているだけ。動けば見つかるのだから、仕方がない。
いや、きっとそうでなくとも、先堂は動かなかったに決まっている。
先堂が喋らない理由。会社に行かなくなった理由。新歩はそれをきっと重大な何かだと勘違いしているのだろう。理由なんて、本当に無いに等しいものなのに。
『怖い』
ただ、それだけなのだ。語るべきことなんて何も無い。
幼い頃から勉強だけは群を抜いて得意だった。掛け算で苦戦する同級生を横目に量子論を理解し、図画工作で簡単なゲームをプログラムするようなクソガキ。親もそれを誉めてくれた。学校の奴らも先生も自分を無視できなくて、自分は特別な存在なのだと疑わなかった。
でも特別の意味はそうじゃなかった。
他の人間は自分と同じ言葉を喋っているように思えなくて、わけもわからず泣かれたり怒られたり、時には手を上げられることだって何度もあった。何もかもが皆とは違って、誰とも足並みを合わせることができない。そんな奴は当然、孤立する。
次第に怖くなっていった。理解できない奴を見る同級生が、過度に膨れ上がった親の期待が、自分を腫物のように扱う教師が、どうしようもなく怖い。そんな奴らしかいないこの社会が、怖くて仕方がない。
他人と関わりたくなかった。社会との繋がりを断ちたかった。
だから先堂単は、他人と話すのをやめた。
「お待たせ。少しぶりね、昼間からご機嫌そうで何よりだわ」
複数の電子音の銃声と同時に、そのうちの一つがオービットのすぐ傍で弾けた。短い呻き声と同時に右目を射抜かれたカメレオンロギアが姿を現して地を転がる。
幸いなことに、かなり早いタイミングでウェブライダー『リボルト』が現着した。後ろには楢宮、丹乃、東雲と部下の研究員も一緒だ。
「……ご機嫌って、僕ですか。それともロギア?」
「どっちにしても私たちよりは、って意味よ」
「全くよ。午後から半休取って詩ちゃんとお出かけの予定だったのに!」
「この後は皆でスイーツバイキング行くはずだったんですよっ! 楢宮さん以外でっ!」
「はい、女性限定なんで僕はね……」
鬼の剣幕でキレる東雲。両手を上げてぷんすかする丹乃。そんな2人を窘めつつ買い物袋を持って苦笑いする楢宮。ReV本社から少し距離があるのに到着が早かったのはこれが理由らしい。
「それでアラタ。オービットのアップデートは済んだの?」
「まだです……! 先堂、ウチのエンジニアはそこにいるんですけど……」
「へぇ、あの子が。随分怖がってるみたいだけど……まぁそれならもう一回退かせるしかなさそうね。そう簡単には行かなさそうだけれど」
いくら先堂でも知っている。あれは最強と名高いウェブライダー『リボルト』だ。そのリボルトが『倒す』と言わずにその場しのぎを提案したという絶望。
おしまいだ。勝てっこない。文字通り手も足も出ない、あんなムリゲーに立ち向かったって死ぬだけだ。
ウェブライダーはクソだと、つい先日ネットで本音を吐いた。偽善とかそういうのはただの言い訳だ、嘘ではないが本当はどうでもいい。
だって、この現状を見ればそう思うはずだ。生命である以上は命を失うことより『怖い』ことなんて無いはずなのに、それに向き合わなきゃいけない仕事がクソじゃなきゃなんだっていうんだ。
新歩とGFアドバンスに訪問した際、ロギアの攻撃が掠った。
帯刀に言われた通り装備を手配したら、彼の片腕が無くなった。
あの時と同じで、怖くなったんだ。死ぬのが怖くなった。だから会社に行くのをやめた。
「詩さん! アイツの目は……」
「動いてるものしか認識できない、でしょう? わかってるわ。それが大した弱点じゃないこともね」
カメレオンロギアの鞭のような攻撃は範囲が広い。ある程度場所の目星が付いていれば、そのエリアごと薙ぎ払うことができる。遠距離の攻撃手段に乏しいオービットは、もはやリボルトの盾以上の役割を持つことができない。
素人でも見れば分かる。オービットはこのままだと嬲り殺される。
生まれてこの方、ずっとそうだ。先堂は他人のことを理解できない。この窮地でも逃げない新歩のことを全く理解できない。こんな気色悪くて意味が分からなくて、自分の中から追い出してしまいたいような
『君も僕も、変わらなくたっていい!』
新歩は肯定したんだ。
本当はわかってる。社会は『それなり』の場所なんかじゃない。血の滲むような努力をして大人になった人間だけが生きられる、そんな過酷な環境だ。
お前のように人を見下すことでしか自分を認められず、協調性が無く、その癖プライドだけ高くて臆病で要領も悪い社会不適合者に、居場所なんてあるわけが無い。
孤立したのは才能のせいでも、周囲のせいでもない。単に自分がクズ野郎だったからだ。
───それでも
『単はすごいね。物を作るのが好きなんだね』
これは誰に言われたんだったか。言葉だけが記憶に残っている。
そうだ、昔からプログラムや工作が好きだった。それ以外は本当にどうでもよくて、ずっとそれだけをしていたかった。そんな自分を認めてくれたのが嬉しくて、その言葉を嘘にしたくなかった。自分じゃない自分で生きたくなんてなかった。
性格が悪い、変われない、嘘がつけなくて社交性が微塵も無い。
聞き分けの無い子供のまま大人になって、周りの全てに置いて行かれた。
そんな『先堂単』を、新歩は認めてくれたんだ。
友達だと、言ってくれたんだ。
攻撃を何度も正面から喰らったオービットの体勢が揺らぐ。装甲が防御機能を失い始め、限界を示すように火花が散っている。それでも新歩は、誰かの為に戦う自分を諦めようとしない。
なぁもう一度だけ聞くぞ馬鹿野郎。
他人と関わることが怖いか? 死ぬことが怖いか?
今、本当に『怖い』ことはなんだ?
「───っ、千才!!」
マスクを外し、先堂は自分の声で叫んだ。
僅かに震えて余りにか細く、それでも強く響く声が敵も味方もその場の全員を釘付けにする。その幾つもの視線を気にもせず、先堂はカバンから出した自身のPCをアスファルトの上に置いた。
「俺が……! やってやる! 今ここで……俺がオービットを強くしてやる!」
専用の機材は何もなく、あるのは一つのノートPC。エンジニアであるReVTechnicaの一同は『意味がわからない』という表情だ。だが、新歩の中には一切の疑念すら無かった。
「詩さん、時間稼ぎお願いします!」
「正気?」
「今回は随分ReVTechnicaの色々を見せて貰っちゃいましたからね。お返しに見せてあげますよ、O³コーポレーションのエンジニアの力を!」
「……OK、面白いじゃない。ガッカリさせないでちょうだいね」
オービットが戦線離脱するのに合わせ、リボルトが連射した弾丸が透明になったカメレオンに炸裂した。一瞬だけ姿を現して再生するが、透明化せず動きが鈍い。
「電撃のスタンプを付与したわ。ReVTechnicaに『前と同じ』は有り得ない。効率に欠けるけどいい機会よ、色々試させてもらうから覚悟しなさい」
リボルトがカメレオンロギアを引き受ける。透明な相手をどのくらい足止めできるのか分からないが、そう何十分もは無理な事だけは明白。時間が全く足りていない。
その現状を一切意に介さないように、先堂はワイヤレスでサイファイドライバーおよびCan-ViewアプリギアをPCと接続した。
「何言ってるんですかぁっ! 無理無理です! 無理に決まってます! 大体、Guffのテクノロジーをそんなちっちゃいパソコンで処理するなんて!」
「そうね……何するにしたって機材も新しく装備を作る暇も無い。できるとしても精々細かいバグ修正が関の山よ」
ReVTechnicaの2人が何か言ってるが、雑音は気にならない。先堂はただ集中して状況を精査する。手元にあるのは僅かな時間と、愛用の自作PC。サイファイデバイスとドライバーにアプリギアはCan-Viewと新歩が追跡に使った『Geo Senter』の2つ。そして目の前には専用バイクのエクステンストライカー。
「必要なのはステルスを無効にする眼と再生を突破する出力多分再生は表面だけだリボルトがオービットに期待してるのはそういうことだろだから中心まで一発でブチ抜く推進力ざっくり計算して最低値出せいや全然足らんわどうする目の方は検索機能じゃ認識できんゴミ過ぎ別のもん使うアプリギア併用できりゃ楽でも無理に決まってんだろ負荷エグいわ諦めるしかいや待てそれなら───」
聞き取れない速度の言葉、口が頭の回転に追いついていない。呟くこと1分足らずで、凄まじい早口を維持したまま先堂はキーボードを叩き始めた。
「……はは。凄いですね、これは」
真っ先に口を開いたのは楢宮だった。新歩含め、ここにいるのはプログラムの専門ばかりだが、凄まじい速度で組み上げられていくそのコードを理解できたのは彼だけ。
「ちょっと丹乃ちゃん。もう全然さっぱりわかんないんだけど、何やってるのこの子」
「いや、いやいやいやいや分かんないですよ穏香さん!? 見たことないですこんなの! 乱暴で滅茶苦茶で全然読めないし理解できない……これが成り立ってるなんて在り得ない……!」
「平たく言えば簡略化ですかね。本来必要な過程をいくつもスキップし、ノートパソコンでも処理できるように情報量を削ってるんです。独自の言語で繋げられないはずのものを強引に繋げ、時には暗算で出した解を直接入力し……まるで竹串だけで巨大な建築をするように、必要最低限を遥かに下回る要素で成立させています」
楢宮の評価に、丹乃は愕然と口を大きく開けた。先堂の技術は、国内最先端研究機関のナンバー2と、プログラミングのエースすら置き去りにする。
そして先堂は片手をノートPCに残したまま、もう片手でエクステンストライカーの電子ディスプレイを表示させた。各部機能の状態を一目で確認すると、工具と無断で持ち出したO³スマートガンを鞄から取り出し、バイクとスマートガンの分解を始めた。
「ビークルとガジェットの改造までやる気!?」
ガジェット開発の権威、東雲穏香も瞠目する。ギア認識機構と圧縮バッテリーをバイクに組み込んでいるのは理解できた。だがそれをスマートガンから移植するという閃きと、その瞬時の実行が両方できてしまう瞬発の発想力。神がかり的としか言い様が無い。
「楢宮さんアレできますか……?」
「いやぁ無茶言いますね能西さん。残りの一生使っても無理ですよ、主任でも同じでしょう。この技術は独学じゃないと身につかない神域です」
「……一人欠けても成り立つのが会社のあるべき姿。でも、極稀にその『例外』がいる。先堂がそれだって、ウチの部長は言ってました」
帯刀にはいくら聞いても答えてくれなかったので、古月を捕まえて問い質したところそんな答えが帰って来た。その言葉に裏は無く、ただ文字通りの意味だと。
優秀な人材は平凡な人材を束ねれば代用できる。でも『天才』は違う。画家が何人いてもダヴィンチと同じ絵は描けないように、先堂の技術は他の何を以てしても代替できない。
特筆すべきは堅実さの欠片も無い、独りよがりで出たとこ勝負の圧倒的センス。廿九日詩に比肩する異質の才能。それが、
「これがO³コーポレーションのエンジニア。僕の仲間で、同僚で、友達の先堂単です!」
今、切に思う。好きなことを極めてよかった。自分を曲げなくてよかった。
このために生きてたなんて気持ち悪いことを言うつもりはないけれど。俺を肯定してくれる友達のためなら、頑張ってよかったと命を賭けてよかったと、
恐怖を乗り越えられてよかったと、そう思えたんだ。
「ありがとう、千才」
カメレオンロギアとリボルトの対戦は煮詰まっていた。思いつく限りのスタンプの組み合わせ、反射の対応、それらを駆使して判明した事実はただ一つ。やはり現状のリボルトの性能では、カメレオンロギアを撃破することは不可能だということ。
カメレオンロギアもまたそれを察しているが、オービットたちへの進路のガードが固くリボルトに集中せざるを得ない。素の実力はリボルトが遥か上を行っているのもあり、総合的に戦力は完全な拮抗を示していた。
ところが、突然にして戦況は動く。現スペックではリボルトとの一対一に持ち込まれた時点で打倒が非効率であると判断したカメレオンロギアは、リボルトの警戒外の方位への跳躍。即ち逃避の選択を敢行した。
「逃げた? いや、今度は人を襲いに行って強化を図る気ね……!」
透明になって人を襲われたらいよいよ手に負えない。一般人を襲い始める前に戦闘不能にするのが勝利条件だ。リボルトはそのための希望を委託し、
そこにあったのはエクステンストライカーに跨るオービットの姿。どうやら彼らは本当にやってのけたらしい。
「中々やるじゃない」
「お待たせしました。後は僕に……僕たちに任せてください!」
次世代エンジン『O³ジーニエイザー』が起動する。新たに取り付けられたギアスロットに『Geo Senter』アプリギアをセットすると、電子ディスプレイ上に立体マップと光るルートが出現した。
カメレオンロギアが背を向けたまま透明化し、肉眼での追跡は不可能に。しかし、マップ上にはその姿が鮮明に浮かび上がっている。
[『Geo Senter』とデバイスの中にあった『Bat eye』のプログラムを掛け合わせた。一度視認した標的をエコーと電波での非破壊分析で記憶。マップ上に現れた瞬間、オートで接続して捕捉する。追跡する限り絶対に見逃さない]
[だから絶対勝て]
「もちろん!」
マスクの内側に表示される先堂のメッセージに応え、オービットとエクステンストライカーは
走り出しから感じる、圧倒的な速度の向上。そしてあっという間に追いついて、何もない空間にタイヤでのぶちかましを見舞う。見えないはずの敵に攻撃が炸裂した。
「凄い……!」
攻撃の瞬間にエネルギー出力をブーストし、タイヤから強烈な光熱を放出しているようだ。カメレオンロギアはそのダメージを一瞬で無効にしてしまったが、攻撃性能も格段に上がっている。
カメレオンロギアがまたしても姿を消す。そして今度は機敏かつ不規則に建物の壁面や信号機などの障害物に乗り移っていき、上へ上へとオービットとの距離を引き離す。だが、進化したエクステンストライカーはこんなことでは止まらない。
「僕の後ろには先堂がいる。だから負ける気がしない。もう二度と逃がさない! 先堂が作ってくれたこの力で……お前を倒す!」
バット、シープ、そしてカメレオン。ロギアの生存本能は逃走の選択を躊躇わない。逃がしたロギアが襲うのは市民か、ウェブライダーとそれに与する者か。そうはさせないための機能が、エクステンストライカーには追加された。
走行を続けたままオービットが立体マップ上に指で線を引く。すると、現実世界に現れるのは宙を繋ぐ仮想通路。どんな悪路も障害物も、高低差すら関係なく、エクステンストライカーは理論上の最短距離を駆け抜ける。
《Circuit-Full-Open! Can-View!》
ドライバーに備わった歯車型機構『イグニッションサークル』を廻し、必殺シークエンスが起動すると同時にオービットのシステムがエクステンストライカーと接続された。
空を駆け上がるエクステンストライカー。高度と同時に急上昇を続けるエネルギー出力はオービットと直列し、光子はその間を激しく循環しながら加速。それによって生み出される全ての力がオービットの右腕、『ブラウザーシャフト』に集約する。
カメレオンロギアが別の壁に乗り移るため、壁を蹴ったその瞬間。
オービットの加速は限界を超え、天に昇る電子の流星となった。
《IGNITION-OVERDRIVE》
カメレオンロギアが完全に空中にいた一瞬。空間を裂くようなオービットの200%の斬撃が、カメレオンロギアの胴体を烈断。もはや誰の目にも再生の余地など無い、一撃決殺。
軌道を修正し、高層ビルの屋上に着地するオービットとエクステンストライカー。
見えざる敵は派手な大爆発として、衆目の中で完全な消滅を迎えた。
__________
「なるほど、特殊エンジンをエネルギー増幅機構に転用したのね。それにこのプログラム、この機能を発現させるのにこんな簡略化が可能なんて……驚くほど全く参考にならないわね。この技術はどこで? 誰かに教わったもの?」
戦いが終わり、帰還するとすぐに詩による査定タイムが始まった。彼女に限らずReVTechnicaの研究チームは先堂をじろじろと観察しては質問攻め。先堂は大変面倒くさそうな顔で逃げようとしているが、見事に四方を塞がれている。
「あの、すいません。多分先堂困ってます。話すの得意じゃないので」
「あーごめんね。それにしても信じられないですね、このレベルの才能が埋もれてたなんて」
「穏香さんみたいに『女がどうたらー』って言われたんですかね? それともニノみたいにうっかりさん過ぎたとか?」
「こんなだからこの国は遅れてるのよ……詮索はしないけど、社会で色々苦労したみたいね。どうかしら、アナタReVTechnicaに来る気は無い?」
詩はごく自然に躊躇いなく先堂に手を差し伸べた。ヘッドハンティングにしたって堂々とし過ぎていると新歩は大口を開ける。大胆不敵というか、節操がないというか。
でも、ReVTechnicaのトランセンドベースが技術者にとって理想の環境であることは事実。社会人としてはこれを見逃すのは論外だが、もし先堂が行きたいと言ったなら、友人としてそれを強くは止めたくはないのが本音。
しかし、先堂は詩の圧の強い眼差しから顔を逸らすと、タタッとデバイスの画面を叩く。新歩はそうして送信されたメッセージを見て、嬉しそうに笑いながらそれを詩にも見せた。
[コイツは放っとくと死ぬから行かない]
「……だ、そうです」
「そう。またフラれちゃったわ、意外とモテないのね私って」
再びマスクをして、人込みは嫌いだと言わんばかりにその場を離れる先堂。彼は新歩がいるO³コーポレーションを選んでくれたのだ。
「それでは皆さん、今後ともよろしくお願いします!」
「えぇ、よろしく。またねアラタ」
その事実に心を弾ませながら、新歩も礼をすると先堂を追う。
「……羨ましいですか?」
「なによシュージ」
「いや、主任はエンジニアもウェブライダーも両方やっちゃう人ですから。あぁいう互いに支え合う信頼関係というのには憧れるのかな、なんて勝手に。この間も千才君をお部屋に招いてましたし」
「そういうのじゃない……っていうのは嘘ね。でもいいの。私には皆がいるから」
カメレオンロギアを撃退したことで、O³コーポレーションとの提携は終わった。たった今からは競合相手だという事実に少しばかり寂しさを感じながら、ReVTechnicaの研究者たちは残った半休の消費に向かった。
「でもニノはあの子に来てほしかったです! やっと可愛い後輩ちゃんできると思ったのに~! 一緒におやつ食べに行ったりしたかった……」
「丹乃ちゃん……多分勘違いしてるから言っとくけど、たぶん男よあの子」
「ええええええええ!!?? 嘘だぁあんなに可愛いのに!? 詐欺ですううううう!!」
「ニノうるさい」
__________
カメレオンロギアの討伐に成功した、次の日。
「……」
「おはよう、先堂。朝からお疲れ」
先堂は久しぶりの出勤をしていた。相変わらずジャージで。
新歩より一足早く会社に来た先堂は、朝一番で帯刀の大説教を喰らっていたらしい。凄まじく疲弊しているのがよくわかる表情だった。
しかしその疲弊した表情は、大荷物を部屋に運び込んでいる新歩を見て更に歪んだ。
[朝からなにしてんの]
「家の私物を軒並み持って来たんだ。やっと事業部みんな揃ったし、これで本格始動! この職場が僕の居場所ってことでね」
[それはなに]
「家族のノイマン、可愛いでしょ」
新歩が手に置いているのは、どう見てもサボテンである。
名前を付けたサボテンを家族として愛でる正義の味方。闇が深い。なんとなく思っていたが、新歩は中々の変人なのかもしれない。
[怖]
「怖くないよ。トゲトゲだけど話聞いてくれるいい子だし」
「おいいつまでボサっとしてる先堂。早急にカメレオンのデータ解析、後は溜めた仕事の消化だ! お前ならさっさと終わるだろ! それ終わったら始末書書き直しだ、次AIで文章生成したら張り倒すからな!」
帯刀にどやされ、とても嫌そうに仕事に向かう先堂。
先堂は相変わらず進んでは喋らない。でも前に比べると少し楽しそうだから、新歩に不満は無かった。彼が変わりたいと思うまで待てばいいだけの話だ。
「おはよーございます。どうでしたか千才君。ReVTechnicaさんは」
「あ、部長おはようございます。いや、色々大変で凄かったですよ。まさか詩さんが研究主任でリボルトだったなんて……カメレオンも手強かったですけど、こうして先堂も帰って来ましたし、結果としてはいい経験でした」
「そうですか、それはよかった。そういえば廿九日さんから感謝のメールが来てましたよ。『これからも良い関係でいましょう』とのこと。いい関係を築けたみたいで我が社としても大得ですねぇ」
今回何もしてないのに呑気な……と流石の新歩も思ってしまう。しかし何か含みのある言い方が気にかかる。そういえば提携契約の時、こんなことを言っていた。
『講習会や懇親会と同じ、どこまで行っても所詮はお仕事なんですし、気楽に行きましょ』
「……懇親会って、まさか。もしかして部長、こうなるのが最初から分かってたんじゃ……」
「まさか。年も近い同士仲良くなれたらいいな、って老婆心で思っただけですよ」
そう笑って古月はまたグラビア誌を開いた。ようやく全員揃って真の仲間になれたと思ったライダー事業部だが、彼の事は妙に得体が知れないと戦慄する。仲間の全てを理解するまではまだまだ遠いようだ。
__________
「『No.09』に『No.04』、『No.01』までやられちまった。あーコイツは大変だぜ。責任大問題だ、怖ぇ怖ぇ」
男は煙草を吹かしながら冗談めいた口調で独り呟く。シープロギアとカメレオンロギアの戦闘を見届けたGuffからの来訪者、『デバッガー』はこの状況を楽しんでいる様子を隠さない。
「思ったよか強ぇなウェブライダー。潜ってきやがってた奴らは雑魚だったってワケかい。それともテメェら本当はもっと強かったのか? 教えてくれよ」
灰になるまで吸った後、行為の意味が理解できなかったのかデバッガーは口から煙草を吐き捨てる。そして自身の体に腕を刺し、その奥底から引きずり出したのは一枚のアプリギア。
「
地に落ちたアプリギアから電脳空間への穴が波紋のように広がり、そこから吸い出されて成長し、形となって生れ落ちた。
__________
幼い頃から『運命』という存在を教え込まれた。人は生まれた時から義務と役割が定められていて、それを全うすることが幸せであると、レールの定められた自身の境遇に結論を付けた。
『なぁお前、ちょっと俺と天下取りに行かねぇ?』
彼はそんな思考停止を一瞬で見抜き、絶対だと思い込んでいた運命を片手一本でぶち壊して見せた。今まで会ったどんな人間よりも自由で、活力と可能性に満ちていた。
それが五來廉太郎の友人、藤城壮大だった。
『わりぃ、廉太郎……っ!』
藤城壮大は失踪した。ウェブライダー『ギルダー』としてGuffの探索を行っている最中、未知の存在に遭遇して信号が途絶えたのだ。
いや、行方不明なんて現実から逃げた妄言だ。
Guffでの反応消失と、強制送還された『サイファイナックルウォッチ』。それが意味するのは藤城の『死亡』以外に無い。
ライダー事業をやる以上、それは覚悟すべきこと。でも彼はこんな所で死んでいい男じゃなかったはずだ。悲しみと、無念と、怨嗟で、何の意味も成さないまま現実だけが過ぎ去っていく。
ふと目が覚めたように、現実が五來の視界に入った。
呼びつけられた先は栄華を見せつけるような高級料亭。作業的に口に運ぶ料理の味すら分からない中、対面するその人物が放った言葉だけは、聞き流すことができなかった。
「───今、何を言った……?」
「重要な話だ、何度でも言おう。GFアドバンスは捨てろ、廉太郎」
株式会社GFアドバンスに多大な資金援助とライダー事業における装備の提供を行っていた、国内最大級のデジタル・コングロマリット『九十九エンタープライズ』。
その代表取締役社長、
数年ぶりに再会した『父親』は、失意の渦中にいる五來に唯一残った『夢』の廃棄を命じた。
File-07 エクステンストライカー
【挿絵表示】
光量子技術を活用した次世代エンジン「O³ジーニエイザー」及び次世代加速気筒「O³ディスチャージャー」を搭載した、仮面ライダーオービット専用バイク。正面部分及び背部に備わる「ゲイザーオプティクス」に内蔵されたナノレーダーが検知した走行環境を、大型の躯体を覆う光量子知能内蔵装甲「オービカルアイキャッチャー」及び特殊駆動輪「プライアブルチェイサー」へ反映させることで、いかなり悪路や過酷な環境でも安定した運転を可能とする。また、「オービカルアイキャッチャー」にコマーシャルムービーを投影することで、企業の広告車両としても活用される。
File-08 カメレオンロギア
【挿絵表示】
現実世界の情報から「カメレオン」の生態を再現し、写真加工アプリ「Picmagic」のプログラムを発現させた進化系ロギア。しなやかな身のこなしと手足の吸着機構による重力を無視したトリッキーな攻撃を得意とする。胸部から垂れ下がる及び口吻部分・両肩部から出現させる舌状の器官を複腕の如く操り、高速で打ち付けて対象を切り裂く事も可能。体表面を出力する論理コードを書き換える事で外見を自在に変化させられる上に、状態をリセットすることによる実質的な自己再生能力を持つ。