ここは……僕が姉さん達と育った島だ。
いつも通りアカデミア中等部の私の部屋で寝ている筈なのにここにいるっことはこれは夢か。
【サラちゃん……どうして、泣いてる?】
『……ティオ姉?』
声がしてそちらを向くと、うずくまり泣いている小さなわたしと、どうしたら良いのかわからなくて困っているティオ姉さんの姿があった。
『わたし……できないの、わからないの』
この場所、このやり取り……よく覚えている。
この時わたしは何度教えられても自分の中のヘカを認識できなくて、
いずれできるようになると、みんなが言ってくれていた。
大事にしてくれるみんなができるって信じて期待してくれている事なのに、
どれだけ頑張ってもできなくて、怖くなって、
この孤島という小さな世界で逃げ場なんて無いのに、
それでもみんなに隠れるように逃げて、
その事に1番早く気付いてくれたティオ姉が1人で追ってきてくれていた。
何が原因かはわからないけれど、わたしが逃げるように離れた。
1人にさせて満足するのを見守り、戻るときに出ようと考えていてくれていた。
けれど、わたしが泣き出した事に気が付いて出てきてくれたんだ。
【そう……ヘカがわからない………】
『うん……ごめんなさい………』
【なんで……謝る?】
『だって、沢山できるって言ってくれて、教えてくれてるのに、わたし……』
【………サラちゃん。
私も、サラちゃん、も……植物族………教えてる、アトラ姉……トリオンちゃんも、昆虫族……感覚が違う、から……しょうがない?】
『え?じゃあティオ姉さんが教えてくれればできるの?』
【それは、わからない……】
『どうして!』
【私はティオ、あなたはサラ……同じ植物族でも、私はあなたじゃない。
だから、自分で………見つける。
じゃないと、意味……無いよ?】
『わかんない!』
【うん、私も、わからない。……だからサラを、一緒に探そ?】
『わたしを?でも、わたし、姉さん達みたいに特別な力も無い……』
【なら、いろいろ試す?……言葉に、遊び方、自分の呼び方………】
『自分の呼び方?』
『私、ミー、自分、俺、僕、わらわ……他にも沢山、ある】
『???わたし以外、聞いたこと無い』
【うん……でも、あるよ?
それより……たまには、お絵かき………しない?一緒に、しよ?】
『……うん、する』
この後、いろいろ試してわたしは、私自身の事を僕と呼ぶ事に慣れて、なんとなくそのままになったんだよね。
そしてこのいろいろ試すっていうのがかなり効果的だったんだ。
あの時の僕に必要だったのは自分自身を見直すことだったから。
・
そこまで見て僕は目を覚ます。
「……また、この夢?」
そもそも僕は睡眠を取るの月に4~7回程度と少ない(これでも頑張って増やした)のだけれど、5回連続となれば同じ夢を見ているんだと流石に気付く。
星読み系の魔法には未来視なんかがあって、習得の過程で自分がどこの時間にいるのかわからなくなる危険があるって聞いたことがあるのだけど……
そもそも僕は星に関する魔法の習得をアトラ姉さんに禁じられているからそれは有り得ない。
【また?悪い夢?】
「ん、ティオ姉おはよう」
おそらくずっと同じ体制で僕の寝ている姿を眺めていたティオ姉さんが不思議そうに聞いてくる。
ティオ姉が近くにいたからあの夢を見たわけじゃない。
前一緒にいたのはトリオン姉さんで、偶然今回はティオ姉だった。
そのせいで今日初めて顔を見た気がしない不思議な気分で挨拶をする。
【ん、おはよう】
「悪い夢じゃないよ。なんかさ、最近ティオ姉の夢を見るんだよね。
ほら、覚えてる?僕がさ、僕のヘカを感じ取る事ができなくて逃げちゃって、1人で泣いちゃったのをティオ姉が迎えに来てくれて……」
【逃げて???…………もしかして、サラちゃんが……呼び方、変えた日?】
「そうそれ」
【サラちゃん……ううん、サラムトリフィは、逃げてなんて、いないと思う】
「え~?逃げてないって、逃げたもん。
だって僕はあの時期待されてるのにできなくて、それが嫌で逃げたんだもん」
【ん。わかった。……でも、最後には、ちゃんとできた。
だから、サラムトリフィは偉い。……だから、泣かないで】
「……え?あれ、なんで???」
本当だ。僕、泣いてる???
心配そうに優しく撫でてくれるティオ姉に言われるまで気付かなかった。
【もしかしたら……ヘカによる、肉体の、変質……かも???】
「あ~、そっか。じゃあ僕はまた一つ姉さん達に近づけるんだね」
最後に起きたのがもうずっと前で忘れていたよ。
これがあったから僕は葉を手に入れて弱かった体も頑丈になったんだよね。
楽しみだけどしばらくは不便だなぁ。
「確か、強いから美しい……だったっけ?」
【そう。私達は強いから美しい。強さとは、美しさ。
例え、どれだけ残酷で、グロテスクな見た目の強さがあっても、そのグロテスクさの中に、美しさがある。
だからこそ、神と崇められる。自惚れる。踏み違える………】
「うんそれそれ。前に1度教えてくれたよね」
過去に類を見ない流暢さであのティオ姉が語り始めたもので本当にビックリしたのをよく覚えてる。
でも流暢さに驚きすぎて1度しか聞かされていないから内容はうろ覚えだった。
【よく、覚えてる……偉い。
………パン、コーンフレーク、どっち?】
「パンが良い。ピーナッツクリーム塗りたい」
【ん。少し待って。身支度、してて】
「は~い」
顔を洗い終え、クシに軽く水を付けて髪を撫でると同時にヘカを……
「ん?……んん~???」
【ん?どうしたの?】
「なんかヘカの流れがちょっと変」
【ん……私が、やる】
「え?ちょっと違和感あるだけだから大丈夫だよ。自分でやる」
【うんん……そうじゃない。
聞きたい事、ある……こっち、来て?】
「う、うん………なら、お願い」
【ん、良い子】
なんか真面目な話しの予感がビシビシと感じるから大人しくクシを渡す。
アトラ姉さんとかも時々するけど、こういった雰囲気の話しをするのはもっぱらティオ姉だから来るっていうのが気配でわかるようになっていて自然と背筋が伸びるような感覚になるね。
【ん……やっぱり、変化の兆しを、感じる】
「それって良いことだよね?」
【当然、良いこと。
ただ……サラちゃんの成長、は……少し、早すぎる、から………私、少し不安になる】
「早すぎると体に悪いの?」
【そんなこと、ない………けど、ポトリーに、ラドリー………
2人は変わっていない、けど、サラちゃんだけは……先に進む………寂しく、ない?】
「そっか~……考えた事なかったけど、たぶん2人とは変わんないんじゃない?
今もよく遊ぶし」
【そう……ねえ、サラムトリフィ。
サラムトリフィは、人間と精霊の生活、どっちが好き?】
「どっちも好きだけど……人間って100年もいないんだよね。
なら僕は精霊の方が良いかな。
せっかくだから今は人間の世界を楽しんでるけど、僕は姉さん達と一緒にいるよ」
【……できた】
「ありがとう」
違和感はあるけど最初に比べてあきらかにヘカの流れが良くなっていて気分が良い。
気分に任せ鼻歌混じりに髪を操作し髪型をセットしようとすると……
【サラムトリフィ】
「……どうしたの?姉さん」
急にしゃがんだ姉さんがヘカを操作しうっすらと輝き始める。
その輝きが……なんだろう、今までは感じたどの属性とも異なる不思議な気配で………そうだ、人間界ではこういうのを神秘的って言うんだよね。
僕がこれまで感じてきた気配でこれ以上その言葉が当てはまるような気配を感じたことがないほどだった。
そして、唐突に聞いたことのない言語で何かを告げてきた。
その言葉の中にはサラムトリフィ、僕の名が含まれていた事しかわからなくて、いきなりの事で頭の中が疑問符で埋め尽くされる勢いだった。
「え?……えっと、なんて言ったの?」
【私達の愛し子たるサラムトリフィの選択に祝福が有らんことを……ずっと昔のおまじない、だよ】
「それ僕も覚えられる?」
【何も……効力無いけど、覚えるの?】
「え?嘘?何もないの?本当?」
【ん、本当】
この後普通にパンを食べてすっかり慣れた歯を磨く練習をしてから先日貰った専用に改良された青の制服を着て、すっかりと段ボールばかりになった部屋を見返してから海馬ランドへと向かった。