今日はデュエルアカデミア高等部の入試試験がある日。
僕は研究対象となっていたり精霊のなんちゃらで……こういう細かい事はわかんないや。
とにかく僕は成績とか関係無しに高等部に行く事が決まっている。
決まってはいるのだけど、デュエルアカデミア高等部への入試試験の1つには実技試験があって、それを見に行こうって明日香に誘われて行くことになった。
「おまたせ。待たせてしまったかしら?」
「ん~ん。さっき来たとこ。ほら」
待ち合わせ場所の駅広場で待っていたのだけど、ちょっと早かったから以前ももえが話してた流行りのカフェで買った変な名前のカプチーノっぽいのを飲んでいたんだけど、見ての通り半分も減ってない。
「ならよかったわ」
「明日香も飲む?飲みかけだけど……」
「良いの?少し貰うわ」
隣に座って受け取ったカプチーノみたいなのを飲んで一息ついた明日香から「美味しいけど、ちょっと甘すぎてビックリするわね」という感想を頂きました。
「ん。僕もそう思ったけど、甘いものは甘くて良いとも思った。甘いものって美味しいよね」
「極端過ぎるのはどうかと……でも甘いのは良いわよね。
……ところでサラ?」
「ん?」
「貴女、高等部では女子用制服なのね。
男性って話はどうしたのかしら?」
「似合わない?」
「むしろ似合い過ぎているわ。
でも急に女子制服だし気になるじゃない」
「う~ん……僕はその、こういうのってあまり言うの良くないんだろうけど………
その、男性の特徴がまだ、ついてるから……
でも、それは今年で完全になくなる。
僕は姉さん達と同じ蟲惑魔として大人になれるんだよね、ティオ姉?」
【…………え?ごめん、聞いてなかった】
振り向けば半透明の姉さんは光合成をしながら鳩を「じっ……」と眺めていた。
僕がここに座ってからずっと眺めていて、たった今明日香に気が付いた姉さんは完全に実体化してキチンと座り直して挨拶を交わした。
「それで、今してたのは僕は蟲惑魔になるから完全な女性になるって話し」
【ん。サラが望めば……1年、かからない】
「初対面の頃から女の子にしか見えないのだけど……」
「蟲惑魔っぽいって事?」
「そうね、蟲惑魔のお姉さん達そっくりな美人さんだわ」
「そっか、ありがとう!」
「どういたしまして。そろそろ行きましょうか」
【ん……行ってらっしゃい】
「ティオさんは来ないの?」
【お見送り……だから………楽しんでくる。……きてね】
「ん。行ってきま~す」
・
ティオ姉に電車に乗るまで見送りしてもらえた。
平日だけど通勤ラッシュと呼ばれるモノからは外れた時間帯だから普通に座ってアカデミア高等部のパンフレットを2人で一緒に眺めて話しをしている。
ちなみにジュンコとももえは家族間での予定があるらしくて来ない。
高等部に入ることが確定しているし、僕と違って島に行ったら家族とはしばらく会えない。
もし僕も同じ立場なら予定なんかなくても高等部に行くその日までは家族と過ごす事を優先していただろうな。
「……あれ?」
「こんな日に……ついてないわね」
会場である海馬ランドの方へと向かう電車に乗っていたのだけど事故が発生したようだ。
すぐ動くだろうと思ってそのまま座っていたのだけど、10分と時間が過ぎてもアナウンスの頻度が増えるばかりで動く気配が無い。
「これは、困ったわね。
受験番号30番台までにはって考えていたけれど、このまま動かなかったら終わってしまうわね……
ちょっとサラ、これを見て」
そう言ってケータイを見せてくれるのだけど僕は路線の名前とかよくわからないなぁ……
なんて思ってたらちゃんと説明してくれる。
「ほらこれ、ここだけじゃなくて他の線も止まって凄い事になっているわ。
私達は運良く駅で止まってるからすぐに出られるけど、閉じ込められるか、最悪線路を歩く事態になっていたかもしれないわね」
「へ~……そんな事もわかるんだ。ハイテクだね~」
「……ずいぶんと呑気ね」
「慌てたって何も変わらないし、何よりさっき海馬ランドが見えてたからあとは自力で行こうよ。
さっきの大きな湖を渡れば近いんだよね?」
「えぇ、確かに見えていたけれど……まだ6駅分よ?
歩くなんてとても………」
「飛ぶから大丈夫!2人には悪いけど明日香1人で良かったよ。
流石にジュンコやももえがいたら僕も飛んでいこうなんてならなかったし」
「飛んでって……ちょっとサラ。
ここらへんは何処もかしこも人だらけなのよ?
そんな事したら大変なことになるわ」
「そうなの?大丈夫だと思うけど……
だってほら、人間界には魔力感知や魔法妨害のセキュリティなんかが殆んど無いでしょ?
だから魔法で姿を消して湖をピューって一直線に飛ぶだけなら別に問題は無いんじゃないかな~って思ったんだけど……駄目だったかな?」
「それなら……大丈夫かしらね?」
・
そんなやり取りをして徒歩10分くらいで湖付近についた。
観光地というだけあって目新しい物が多くてついつい目移りする。
その中でもケバブっていう見たことのない食べ物が売っていたから「あれ食べたい」って我が儘を言って近に売っていたアイスも買って楽しんだ。
我が儘ではあるけど、今回は焦っている様子の明日香に予定通り到着できるから安心してねってアピールしていてる部分の方が強いかな。
最初から目的の駅に着いたら食事をしてカードショップや軽く観光をして時間を潰し、受験番号50番台付近に会場に入れると良いねって話しになってたから場所は違うけど予定通りの行動。
受験番号が1に近付けば近付くほど筆記試験が優秀だったわけで、カードの理解力はデュエルの強さに直結する大切な要素だからね。
そんなわけで積極的に問題無いとアピールするため気になった事を聞いてみたり行動で示し続けた。
おかげで明日香の焦りは完全になくなって一緒ゆっくりと過ごすことができた。
「まだ電車止まっているわね」
「そうだね~。それじゃあそろそろ飛ぼっかぁ~~~~…………う~ん???
あのさ、今思ったんだけどこれ、もしかしなくても受験生も被害あってんじゃないの?」
「まさか。受験生達は皆とっくについているはずよ?」
「え?受付の締め切りって確かまだけっこう時間残ってるよね?」
「実際に受ける訳じゃないから私も詳しくはないのだけど、受付開始時間より少し前には殆んどの受験生は到着しているそうよ?」
「なんで???」
「試験会場内で戦う事になるデッキの内容が公表されるからよ」
「えっと……それだと有利になるカードを入れられて簡単になるんじゃないの?」
「それがそうでもないらしいわよ。
公表されるのは攻撃型、防御型、バランス型の3種をモンスター、魔法、罠のどれかを主体にした計9種類のデッキの中からどれか1つがランダムに選ばれて対戦となるらしいのよ。
だからなるべく早く到着して戦うデッキの内容を知り、短い時間でどれだけ対応できるようデッキを調整できるかというのも試験の内のようね」
「なるほど~。
じゃあ受付時間の締切があんなに長いのって、最後の方にデュエルする事になる受験番号の若い成績優秀者が後々来ても大丈夫なようにって事?」
「そうでしょうね」
「なるほど、そういう………
きっと万丈目みたいな性格の人がいたら絶対時間ギリギリに来るだろうな~。
両手をポッケに入れてさ、余裕綽々なすまし顔で」
「あぁ、そうね。彼ならしそうね」
「そのくせ実はけっこう早くから近くに来ていてさ、時間ギリギリまでカフェかなんかで時間潰してたんだろうね。
それでさ、1人で数分過ごしたくらいじゃ有り得ない長さのレシートをポケットに入れっぱなしにして試験受けてさ、試験開始の時に決め顔でポッケから手を抜く拍子で落としちゃいそう」
「ふ、ふふふふふ」
よし、笑わせる事に成功して満足。
僕も一緒に笑う。
万丈目って意外とだらしないとこあるからさ、レシートをポケットに入れっぱなしにして落とすことが結構あるんだよね。
それを拾って渡すって事があるから簡単にイメージできる。
・
「いくよ~。いっち……にぃ~の……さん!」
魔法で他人から見えなくし、1・2・3の掛け声と共に落下防止の柵を踏み越える。
いつもなら真っ直ぐ垂直に跳躍して葉を大きく広げて気流を捕まえる感じで飛ぶんだけど、今回は乗客がいるから魔法でゆっくりと斜めに飛翔していき、それなりの高度にまで来たら魔法を解除して普段通り葉っぱを使い滑空する。
術式を維持し続けるのって地味に難しいからヘカの消費量に目を瞑ればこっちの方が楽なんだよね。
「どう?乗り心地大丈夫?」
「平気よ。話しには聞いていたけど空を飛ぶの凄く慣れているのね」
「ん?飛ぶの初めてなんだよね?わかるの?」
「えぇ、ぎこちなさを一切感じなかったもの。
……ただ、やっぱり貴女にお姫様抱っこされるされるのは落ち着かないわね」
「それは仕方なくない?種族差身長差はどうあがいても埋められないよ」
蟲惑魔なサラちゃんの身長135センチ。
人間さんの明日香ちゃんの身長170センチで35センチの差は圧倒的だって。
当然いつもは僕が見上げる形になる。
明日香の方は僕のうなじを見ては時々いじってくるくらい仲良い関係だけど、それくらい差がある。
それだけ仲が良くなると自然と距離感も近くなって僕の小ささをより理解してるだろうから、小さい僕に持ち上げられるなんて余計に落ち着かないんだろうな。
「お姫様抱っこしてるのだってさ、おんぶだと葉っぱが上手く広げられなくて滑空できないし、肩車は危険だから我慢してよね」
「肩車?」
「昔さ~、それでラドリーちゃん落としちゃったんだよ」
「あの子見た目に反して凄くヤンチャね」
え?まるでラドリーちゃんが大人しい子に見えるかのような言い方だけど嘘でしょ?
僕を含めてポトリーちゃんだってああ見えてヤンチャだから集まるべきして集まった感じの同類だよ?
まあ思ってもやぶ蛇になりそうだし言わないでおくけど。
「……っ!?ちょ、ちょっとごめん!止まるよ!」
「え?どうしたの?」
水面に着地しヘカの操作で足と水面を磁石の反発のようにして立ち、感じた膨大な量のヘカがどういう種類か見極めようと集中する。
ちなみに水面ギリギリなのは水の魔法で即座に強力な盾を作れるから。
浮遊するのでなく反発する力で浮く事でいざとなったら反発力を高めて弾けるように緊急回避ができる二重の警戒態勢だよ。
「なんか向かう先に僕と遜色ないくらい凄いヘカがあったからビックリしちゃって……」
「えっと……それって凄いことなの?」
「ん。凄いことだけどコントロールがなってないから怖いっていうか……
そうだね、近所のスーパーで新品の包丁を買った人がいたとして、その人が包丁にスーパーのシール貼っただけで抜き身で出歩いてる姿を見てしまった……みたいな?」
「それ……上手くイメージできないけど、怖いわね」
「うん、怖い。以前見た海馬瀬人と同等の質だけど、比較にならない量のヘカが……
でもこの感じ………やっぱり人間界の人なんだね。
こっちもヘカで少し挑発してみたけど気付いてなさそうだし、荒々しさとかも感じないから大丈夫そう」
「挑発って……怖いことは止めてほしいのだけど………」
「ごめんね。でもそれで危なそうだなって思ったら迂回するつもりでつついてみただけだから。
安全確認は大事でしょ?」
「確かに、その通りだわ」
「それでつついてみた感想だけど、この様子なら気にせず遠回りしないで大丈夫そう。
……まあ、この強大ヘカを完全に無視しろっていうのは無茶な話だけど」
「そんなに?」
「ん。昔アトラ姉さんから強大なヘカで神々を従えた人間がいるって話しを聞いたんだけどさ。
もしかしたらこういう人だったのかもねって思うくらいには凄い。
さて、安全確認完了したし移動を再開するね。
僕も気を付けるけど最初だけ揺れるから捕まっててね~」
どれだけ頑張っても移動し始める時は揺れるから捕まったのを確認してから緩やかに速度を上げていく。
「神々を従える……海馬瀬人と同質………
もしかしたら伝説的存在、キングオブデュエリストの武藤遊戯だったりしてね」
「遊戯さん!遊戯さん凄いよね~。
バトルシティのDVDを最近やっと見れたけど、凄く興奮した!
たださ~、さっき海馬瀬人を見たって言ったけど、それ中等部に入る前だったから知らなくて本当勿体ない事しちゃったよ~。
サインの一つでも貰っておけばなぁ~……」
「海馬瀬人はサインとか書かないタイプだと思うけど、気持ちはよくわかるわ」
「うんうん。それでこんなにも楽しめたからペガサス島のDVDも見てみたいなぁ~」
「ペガサス島は入手困難な幻のDVDと化してしまっているものね。それは私も見たいわ……」