蟲惑魔とGX世界   作:メリルメリルメリル

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致命的な見逃し

 

 ~デュエルアカデミア女子寮~

 

 自室で久しぶりに蟲惑魔の服を身に纏った姿を姿見を使って確認をする。

 この格好をしているのはもしかしたら魔術を多用する事があるかもしれないから念のために着ていこうと決めたから。

 

 事の始まりは聖域の作成をする事になったのが始まり。

 特に何の疑いも無く作業をして下準備がある程度完成したのだけど、このタイミングでそもそも何で聖域を展開しようとしているのか知らない事に気が付いてアトラ姉さんに聞いてみる事にしたんだよね。

 

 

【そう言えば話していなかったわね。

 これはエンディミオンでも一部のお偉いのみが入手した情報らしいのだけど……

 サラはアーミ……いえ、三幻魔の存在は知っているかしら?】

 

「ううん。初めて聞いた」

 

【じゃあまずそこからだね。

 三幻魔は一言で言ってしまえば邪神がしっくり来るかしら?

 わりと新しめの若造なのだけど、私と似たように元々1つの体を3つに分けられたのが三幻魔でね、ヤンチャして体を分けられたというのに構わず暴れつづけた結果、逃げる事を知らないお馬鹿さんは無事に封印されたのよ。

 けどね、たとえ分けられようが慢心し続けるのもわかるだけの理由があったのよ。

 それはあの存在が保有する精霊のエネルギーを強制的に吸い取る力】

 

「え?……吸い取る?アトラ姉さんより強いの?」

 

【うん。残念だけど今の私じゃとてもとても……

 多少抵抗はできるでしょうけど、全て吸収される結果は変わらないでしょうね。

 この三幻魔のエネルギー吸収は技や術じゃない。

 物理法則となんら変わらない、ただの自然現象なのよ。

 そこにいるだけで私も例外なく吸われてしまうわ】

 

「まさか聖域の作成って……」 

 

【うん、そのまさか。

 これはハイネがくれた情報なのだけど、三幻魔の封印を解こうとしている存在がこの人間界にいるらしいの。

 だから聖域の作成は念のため。

 長期戦になり封印を解かれた上で打開策を実行するまでの時間が必要な時に使う避難場所なのだけど……必要になるような事がないならそれが1番良いわね】

 

 

 そんな事を話してくれた。

 

 それで今日は鮫島校長先生がいる事を確認していて夜に鮫島校長とだけ話しがしたいと約束をした日。

 

 身支度を終え自室を出て寮から出ようとした時なのだけど……

 

 

「あっ!?」

 

「あれ?翔くん?

 ……え?本当に何があったの???」

 

 

 何故か玄関ホールで翔くんの腕を縛られた状態で座らされていて、明日香、ジュンコ、ももえの3人に囲まれているという本当に意味不明な光景でビックリした。

 

 

「サラさん!良かった!助けてー!」

 

「ば、馬鹿、声が大きい」

 

「皆さんおそろいでなんの騒ぎ~………あら?」

 

 

 階段上から先生の声が響く。

 それと同時にアトラ姉さんが指をパチンと響かせると周囲に薄い霧が発生し声が出せなくなる。

 

 

「……!!!」

 

「!?……!、!!」

 

【一時的に存在を残したまま世界から存在した痕跡を消す魔法を使ったわ。

 先生からは見えないし、ここに私達がいたという事を思い出せないから安心して良いわよ】

 

 

 さ、流石アトラ姉さん。

 さらっととんでもない高等魔法を使ってるよ。

 

 

「はて……何故、私はここに来たのでしたか………少し喉が渇きましたわね」

 

 

 そう言って先生は翻して戻っていった。

 

 一端外に出て事情を聞いてみたのだけど、どうやら翔くんは明日香のふりをしてラブレターを送った人に騙されて約束の場所に来たものの、そこは女湯の近くで覗きに来たという疑惑をかけられてしまったらしい。

 けど翔くんにそんな度胸はたぶん無いと思う。

 

 

「翔くんのエッチ」

 

「そんなー!」

 

 

 ただそれはそれとして、こんな見え見えの罠に引っかかる狩りがいの無い獲物な翔くんには大いに反省してほしかったのでエッチの称号を与えて犯人(仮)になってもらうことにした。

 

 どうやら明日香が本気の遊戯くんとデュエルしたかったらしくてエッチ(翔くん)を使っておびき寄せるんだって。

 

 

「サラ、貴女も来る?」

 

「僕は予定があるからゴメンね」

 

「そうなの?残念だわ。

 そうだ、お礼を言いそびれていたわ。

 アトラさんさっきはありがとうございました」

 

【気にしないで。この子の友達を守るのは保護者の義務だから】

 

「義務、ですか………あの、もしかしたら近いうちにアトラさんに相談しに行くかもしれませんが、良いでしょうか?」

 

【内容によりけりだけど力を貸すよ~】

 

 

 ・

 

 

 ~デュエルアカデミア校長室~

 

 

「よく来てくれましたサラさん」

 

 

 校長室に着くと鮫島校長先生が出迎えてくれて、ソファーに案内すると緑茶とクッキーを用意してくれたから遠慮無く食べてみる。

 クッキーは紅茶と食べる物って固定概念が出来上がりつつあったけど緑茶も美味しいね。

 

 

「それで、私に聞きたい事とは何でしょうか?

 精霊関連の話しだと伺っていますが……」

 

「それなんですけど、僕じゃなくてアトラ姉さんから確認と警告があって……」

 

「アトラさんが、ですか?」

 

【鮫島校長先生。単刀直入に聞きますけど、三幻魔のカードはこの島にありますよね?】

 

「三幻魔……ですと?は、はて?いったい何の話しでしょうかね?】

 

 

 あぁ、この反応、本当にあるんだ。

 僕の反応が見たくていつものように話しを盛っている事を期待していたけど今回は事実なんだ。

 仮に僕の反応が見たいだけだったら聖域の作成よりも先に伝えるだろうし、九割九分実話なんだって思っいてたから僅かでも嘘である事を祈っていた。

 

 けれどこれで100%実話だと確信できてしまった。

 

 

【とぼけなくても良い。あの若造がこの島に封印されている事など何千年も前から知っている】

 

「何千……?いえ、その、あの若造?どういう意味です?」

 

【単純な話し私の方が年上であり、その正体は現在でもエンディミオンなどで空間の旧支配者などと呼ばれる存在であるというだけの話しだよ。

 私という存在はまだ人間が人間として存在する遥か前から存在し、あの若造は人間の後に生まれた支配者の一角に過ぎない。

 そして何千年も前にこの島そのものに封印された三幻魔は、その入れ物を島からカードへ変えて封印をされ直している事も知っている。

 まあ、私が知っていたのは島に封印されていたところまでであって、カードに移ったというのはエンディミオンの上層部と深い関係を持つ者から知らされた情報なのだけれどね。

 ……その三幻魔のカードを狙う人間がいる。という情報と一緒にね】

 

「馬鹿な!?あのカードを狙うような人物がいるですって!?」

 

 

 机を叩いて立ち上がる校長先生。

 本当に、そんな恐ろしいことはあってはならないと全身で物語っていて、僕はまだ三幻魔という存在を甘く見ているのかもと考えを改めるには十分すぎる程に強烈な印象を受けた。

 だって、あのいつもニコニコしてる鮫島校長先生がこんなに息を荒げて取り乱すなんて……

 

 

【ん。これで確認はできた。

 鮫島校長先生、私は貴方が三幻魔とはどんな存在か知っているのか、そして味方として認識していいかを見極めるためにここへ来た。

 その様子から目覚めさせてはならない存在だと良くわかっているようで安心したわ。

 それほどまでに恐ろしさを理解している貴方になら三幻魔の封印に関してはある程度任せられる】

 

「……事実なのですか?封印をとこうとする者が現れるのは」

 

【ええ、事実でしょうね。

 あのエンディミオン上層部がそんな誤報をわざわざ三幻魔同様恐怖の対象でしかない私に流すとは思えない。

 だからこそ警告に来た。

 これから動くのはきっと三幻魔の封印を解こうとする存在だけじゃない。

 三幻魔の解放を阻止しようと精霊界から、あるいは近しい存在が来るかもしれない。

 そしてその人達は………ここからは、サラの前でする話しじゃないわね】

 

「え、えぇ……そうですね。大人がするべき話しです」

 

「え?ちょっとアトラ姉?

 僕も魔法での戦闘訓練だってしてるし蟲惑魔一族で唯一完全実体化している個体だよ?」

 

【それでもよ。それでも、貴女はまだ若すぎる。

 私の愛し子、貴女はまだ子供なの。

 だから、成長するまでもう少しだけ私に貴女を守らせて。

 愛しているわ、サラ】

 

 

 アトラ姉さんが優しく抱きしめそんなことを言う。

 姉さん曰く鮫島校長先生が味方かどうかの確認を僕に見せたかったらしくてこの場にいさせたみたい。

 だけど、ここから先の話しを聞くには僕はまだ純粋過ぎて聞かせられないとのことで追い出されてしまった。

 

 

 

 

 ~デュエルアカデミア筆記テスト会場~

 

 校長室で三幻魔の話をしてから時間が流れたものの、三幻魔を狙う存在は現れる気配がなく毎日が平和に過ぎ去っていく。

 

 そんな平和な日々なのだけれど、今日はアカデミア生全体がピリピリとしていた。

 何故って今日はデュエルアカデミア月1テストの日でブルーは成績悪いとイエローに降格するし、それ以外は上に上がれるかもと皆して張り切るし出し抜く敵として認識しているので自然と空気もピリつく。

 

 

「おっはよ、万丈目」

 

「あぁ、おはよう」

 

「………」

 

「なんだ?俺の顔に何か付いてるか?」

 

「いや、そうじゃないけど……どうしたの?

 なんか、今日の万丈目余裕が無い?」

 

「は?そんなわけないだろ?」

 

「うん……なら、良いけど………」

 

 

 そこまで強く言われてしまえば何も言えなかった。

 

 だけど……

 

 

「うるさいぞオシリスレッド、静かにしろ。

 テストを受ける気がないなら出て行け!」

 

「冗談じゃねーよ、せっかく来たんだ。

 帰ってたまるか!」

 

 

 その万丈目の言葉はこの場にいるほぼ全ての生徒が思っていた言葉の代弁だったと思う。

 遊戯くんはあろう事か筆記テストを30分も遅刻して来て入ってくるなり翔くんと仲良くお喋りをしはじめた。

 僕はこの人間界についてはまだまだ知識が浅いけど、それでも知っている。

 

 皆、本気なんだよ。

 

 僕が昔、本気でヘカを認識して魔法を使えるようになりたいと願ったのと同じように、ここにいる皆は本気で努力して夢を叶えようとしている。

 

 万丈目は確かに傲慢なところもあるのだけど、僕はその努力を知っている。

 その傲慢な態度も実力に裏打ちされたものだと理解している。

 

 なのに……この万丈目の振る舞いは、何?

 

 万丈目の傲慢さは余裕を感じさせるものがあって、ここまですぐに突っかかるようなものじゃない。

 

 僕は万丈目の傲慢さに直結しているその実力を信じている。

 だって僕は明日香にだって勝つ事があるのに万丈目にはまだ1度も勝てた試しがない。

 だからこそ、この様子に驚きを隠せない。

 

 

「よし!筆記テスト終了!」

 

「急ぐぞ!」

 

「早くしないと!!!」

 

 

 次に行われる実技テストの前に今日発売の新パックを購入しようと皆が走って教室を出て行く。

 

 

「万丈目さん売り切れてしまいます!」

 

「急ぎましょう万丈目さん!」

 

「わかっている」

 

 

 言葉ではわかっていると言いながらもまるで席を立つ気配がなく読み込んでいるいつもの万城目の様子を見て、とてもホッとした。

 これだよ。この感じが僕の知っている万丈目だ。

 

 

「ま~んじょ~め!」

 

「うおぉっ!おま!女子が馴れ馴れしく抱きつくな!」

 

「あ~知ってるよそれ!男女差別って言うんでしょ!?

 酷いんだ~!万丈目のバーカ!」

 

「お前なぁ……差別と区別の違いもわからんのか!破廉恥だぞ!」

 

「む~、だってこうでもしないと万丈目動かなかったじゃん。

 ほら、せっかくレアカードが手に入りそうなチャンスなんだよ?行こ?」

 

「……そうだな。行くぞお前達」

 

「「はい!」」

 

 

 こうして購買部へと行ったのは良いのだけど、せっかくのパックを買い占める人が現れてパックを買うことはできなかった。

 

 だけど、

 

「俺のデッキは元々完成されたデッキだ。

 買いに来たのは新たなカードを知るのが主な目的だ。

 必要なカードが本当に収録されているかもわからないしな。

 仮に必要なカードが入っていたとして全面的にそれに依存しなければ戦えないようなデッキであるなら既にソイツは赤点だ」

 

 この言葉に僕の万丈目に対する信頼は強固なモノになった。

 

 だから安心して別れることができた。

 

 実技試験の場所は同じでも女子と男子で別だから、対戦相手の確認やデッキの最終確認なんかの為に購買部で別れたんだ。

 

 

 

 

 ~デュエルアカデミア実技試験用大フィールド~ 

 

 

 今回の実技テストは幸運なことに海野幸子さんが対戦相手だった。

 海野さんは中等部頃から10位近くの実力者でデッキ構築は上手いけど時々プレイングで疑問に思うような事をする事があるくらいで間違いなくアカデミア女子の枠組みでは10位以内の実力者だ。

 

 ただ、僕のことを精霊、モンスターと強く認識している側の人でもあって日常では距離を取られているのを感じてあまり話した事が無い。

 デュエル中は差別したりしないんだけどなぁ~。

 

 

「あ、万丈目……」

 

 

 そしてせっかくまともにデュエルできそうと喜んでいたのに、

 何の偶然か万丈目がデュエルするタイミングと被ってしまって応援してあげられなくて残念だ。

 万丈目が勝つ事に疑いは無いけど、それはそれとして友達の応援はするべきでしょ。

 

 

「私とデュエルなさるのによそ見とは随分余裕ですわね」

 

「ん~?ゆとりを持つのも必要じゃないかな?

 逆に海野さんこそガチガチだからプレイングミスとか気をつけようね?」

 

「……気のせいではありませんの?」

 

「そうだと嬉しいな……いくよ?」

 

「「デュエル!」」

 

「私の先攻、ドロー!

 私はオイスターマイスターを攻撃表示で召喚!」

 

 オイスターマイスター☆3、水、魚族

 攻撃力1600

 守備力200

 

「カードを2枚セットしてターンエンドですわ」

 

「僕のターン、ドロー!

 僕は沼地の魔神王を捨てて融合を手札に加え、強欲な壺を発動!

 カードを2枚ドロー!

 ランカの蟲惑魔を攻撃表示で召喚して効果発動!

 来て、トリオン姉さん!コールゲート!

 この効果によりトリオンの蟲惑魔を手札に加えるね。

 そして手札から融合を発動。

 フィールドのランカの蟲惑魔、手札のジーナの蟲惑魔とトリオンの蟲惑魔で融合召喚!

 アロメルスの蟲惑魔!」

 

 アロメルスの蟲惑魔☆7、地、昆虫族

 攻撃力2200

 守備力600

 

「融合召喚に成功したアロメルスの蟲惑魔は融合の時の数だけ蟲惑カウンターをのせる。

 3つあるカウンターの内2つを取り除いて効果発動!

 墓地からトリオンの蟲惑魔を特殊召喚!」

 

 トリオンの蟲惑魔☆4、地、昆虫

 攻撃力1600

 守備力1200

 

「特殊召喚に成功したトリオン姉さんの効果により相手の魔法、罠を1枚破壊!」

 

「くっ!残念そちらはサイクロンですの」

 

「あちゃ~、本命は逆だったかな~……

 バトル!アロメルスの蟲惑魔で……」

 

「トラップカード、フィッシャーチャージ!

 オイスターマイスターを生け贄に、アロメルスの蟲惑魔を破壊し1枚ドローですわ!」

 

 

 オイスターマイスターが消えると同時に数匹の魚のミサイルがアロメルスの蟲惑魔の射出され爆発を起こす。

 

 

「………あら?どうしてアロメルスの蟲惑魔が?」

 

「そういえば海野さんとのデュエルじゃ融合引けなくて出したの初めてだったね。

 蟲惑魔は落とし穴とホールの罠効果を受けない共通効果があるのだけど、融合すると罠カード全部の効果が効かなくなるんだよ」

 

「何ですって!?

 くっ……まだですわ!

 フィッシャーチャージの生け贄に捧げたオイスターマイスターの効果!

 戦闘破壊以外の方法で墓地に送られた時にトークンを特殊召喚いたします!」

 

「……攻撃表示?」

 

「ッ!?」

 

 

 声には出さなかったもののその表情は『しまった!』という言葉で埋め尽くされているようで、漫画的な表現をするならグルグルお目目になっていそうだった。

 

「続行!アロメルスの蟲惑魔の攻撃!

 中位攻撃魔術、ダークエナジーボール!」

 

「くぅ!」

 

 海野、LP4000→1800

 

「トリオン姉さんでダイレクトアタック!」

 

「きゃああああ!!!」

 

 海野、LP1800→200

 

「永続魔法、悪夢の蜃気楼を発動。

 装備魔法、レアゴールド・アーマーをアロメルスの蟲惑魔に装備」

 

 

 ブカブカの白銀の鎧を唐突に取り付けられてちょっと不機嫌そうな表情を向けてくるけど気にしない。

 

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 サラ、LP4000、手札0

 モンスター×2

 アロメルスの蟲惑魔

 トリオンの蟲惑魔

 魔法、罠×4

 悪夢の蜃気楼

 レアゴールド・アーマー(アロメルスの蟲惑魔)

 伏せ×2

 

 海野、LP200、手札4

 モンスター×0

 魔法、罠×0

 

 

「私のターン……ドロー」

 

「待った」

 

「……なんですの?」

 

「とりあえず悪夢の蜃気楼で4枚ドローするけど良い?

 ドローの後もちょっと待って」

 

「……どうぞ」

 

「じゃあ4枚ドロー……えぇ?

 ……さて、その前に……深呼吸しよっか。

 大きく吸って……吐いて……スゥー……はぁー……スゥー………はぁー……………ほら、海野さんも」

 

「え、えぇ。……スゥー……はぁー……スゥー………」

 

「………どう?落ち着いた?」

 

「……敵に塩を送るとは本当に余裕ですわね」

 

「ありがとう」

 

「誉めてませんわ。……でも、ありがとう。

 私は手札から大嵐を発動!」

 

「トラップカード、アームズ・コールを発動!

 この効果で早すぎた埋葬を手札に……くっ!」

 

 吹き荒れる強風により魔法・罠が全て破壊され、それと同時にアロメルスが装備していた白銀の鎧が煙のように消えて元の姿へと戻る。

 

 

「落とし穴ではありませんでしたか……

 それに、早すぎた埋葬ですって………」

 

「伏せカードはアームズ・コールとライトニング・ボルテックスだったよ」

 

 

 そう告げるも海野さんには全く聞こえている様子がなく、無言で自分の手札を見つめ、やがて首を横に振る。

 

 

「………いえ、関係ありませんわね。

 私は、私の全力で戦わなければ貴女に失礼ですから!

 深海王デビルシャークを攻撃表示で召喚!」

 

 深海王デビルシャーク☆4、水、魚族

 攻撃力1700

 守備力600

 

「深海王デビルシャークでトリオンの蟲惑魔に攻撃しますわ!」

 

「姉さん!?」

 

 

 サラ、LP4000→3900

 

 

「まだですわ!手札から地割れを発動!

 これによりアロメルスの蟲惑魔を破壊ですわ!」

 

「くっ……」

 

「カードを伏せ、手札から光の護封剣を発動!

 ……ふぅ、出し切りましたわ。

 ターンエンドです」

 

 

 サラ、LP3900、手札5

 モンスター×0

 魔法、罠×0

 

 海野、LP200、手札0

 モンスター×1

 深海王デビルシャーク

 魔法、罠×2

 光の護封剣

 伏せ×1

 

 

「僕のターン、ドロー!

 ……うん。ライフを800払い早すぎた埋葬を発動してトリオンの蟲惑魔を特殊召喚するよ。

 効果で光の護封剣を破……」

 

「トラップ発動激流葬!」

 

「ふぇっ!?」

 

 光の護封剣は破壊したけど……

 あ~あ、フィールドが更地になっちゃったよ………

 

 

「手札より、天使の施しを発動するよ。

 3枚ドローして2枚捨てる……」

 

 ここでモンスターを引けば………あ、引いた。

 

 モンスターになる予定の今は白紙の僕のカードをね。

 はいはい、いらない子は墓地にしまっちゃおうね~。

 

「……カードを5枚セット!」

 

「えっ!?」

 

「「…………」」

 

 

 海野さんが信じられないって表情をしてセットカードを見つめ、次に目が合った。

 そして、この瞬間、不思議な事に僕と海野さんの心は通じ合った。

 

 これまで挨拶を交わす程度の仲で、むしろ僕を人ならざるものとして見ていて、デュエル中はともかく日常では他の人と比べて態度には出にくいけど確かに距離を取ってきていた相手だ。

 

 そんな僕と海野さんだけど、この瞬間2人してこの場には無いはずのゴングが鳴る音を耳にした。

 

 

「ターンエンド!」

「私のターンドロー!モンスターをセットしてターンエンドですわ!」

「僕のターンドロー!伏せカードオープンシールドクラッシュ!」

「破壊されたオイスターマスターの効果発動!トークンを守備表示!守備表示で特殊召喚ですわ!」

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

「私のターンドロー!カードを伏せてターンエンドですわ!」

「僕のターンドロー!ターンエンド!」

「私のターンドロー!光鱗のトビウオを攻撃表示で召喚!」

「奈落の落とし穴!」

「知ってましたわ!ターンエンド!」

「僕のターンドロー!伏せカードリロードを発動!

 2枚デッキに戻して2枚ドロー!ドラゴンメイド・ラドリーを攻撃表示で召喚!」

「あらかわいい」

「ラドリーちゃんの効果でデッキの上から3枚墓地へ……ら、ラドリーちゃん?」

 素早いモモンガ、貪欲な壺、同胞の絆

【私のせいじゃないモン!】

「くっ、バトル!ラドリーちゃんで攻撃!

 トークンを撃破!リバースカードオープン!

 1枚目、重力の斧-グラール!

 2枚目、明鏡止水の心をラドリーちゃんに装備!」

「2枚目は許しませんわ!強制脱出装置でラドリーちゃんを手札へ!」

「1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 ……長い、このデュエル凄く長い。

 正直女子のテストってどれだけ成績悪くても女子というだけで問答無用でブルー扱いされるから筆記テストも実技テストも頑張る意味なんてほぼ全女子に存在していない。

 なのに海野さんの本気具合が凄く伝わってくる。

 もうお互い完全に意地になっていてこの泥沼なデュエルから引こうとしない。

 

 

「私のターンドロー!モンスターをセットしターンエンドですわ!」

「僕のターンドロー!手札からアームズ・ホールを発動し巨大化を手札へ!ターンエンド!」

「私のターンドロー!カードを伏せターンエンドですわ!」

「僕のターンドロー!カードを伏せターンエンド!」

「私のターンドロー!フィールド魔法をセット!ターンエンドですわ!」

「僕のターンドロー!再び現れろラドリーちゃん!

 効果は使わず攻撃!」

【ラドリーフィスト!】

 ヒゲアンコウ☆4、水、魚族

 攻撃力1500守備力1500 

【ぐは!】

「未来融合-フューチャー・フュージョンを……」

「サイクロン!」

「ターンエンド!」

「私のターンドロー!強欲な壺を発動し2枚ドローしますわ!

 伏せカードオープン伝説の都アトランティスもとい海を発動!

 水属性は攻守が200アップしレベルが1下がりますわ!

 ヒゲアンコウを攻撃表示に変更し、死者蘇生を発動してオイスターマスターを特殊……」

「底なしの落とし穴!」

「ヒゲアンコウでラドリーちゃんに攻撃ですわ!」

「トラップカードパワーフレーム!ラドリーちゃんの装備カードとなり攻撃力を同じ1700にしつつこの戦闘を無効にするよ!」

「くっ、カードを1枚伏せてターンエンですわ!」

「僕のターンドロー!手札からフュージョン・リカバリーを発動!

 ランカの蟲惑魔と融合を手札に加え、手札より……」

「トラップ発動フィッシャーチャージ!」

【ぎにゃー!】

「ラドリーちゃん!?」

「これでモンスターは手札の1体のみ!融合はさせませんわ!

 フィッシャーチャージの効果で1枚ドローし、墓地より生け贄に捧げたオイスターマイスターの効果を発動いたしますわ!」

「来た!この瞬間を待っていたよ!」

「何ですって!?」

「トラップカード墓穴ホールを発動!!!

 このカードは相手の手札、墓地、除外ゾーンでモンスター効果が発動したらそれを無効にして1000ポイントのダメージを与える!」

「そんな……きゃあああああ!!!」

 

 海野、LP200→0

 

 

 

 

「………ふぅ~、長かったね~」

 

「そうね……私の負けだったわね、

 でも私の勝ちって事にしておいてね」

 

「いやいや無理だよ、記録に残るもん」

 

 

 デュエルが終わり挨拶を済ませた後、僕は自然と幸子さんの隣に並んで一緒に廊下に入る。

 廊下へは2カ所あって、入ってくる時は別々の方向からだったのだけど、戻る時は同じ方向。

 駆け足気味に幸子さんに近づき隣に並んだのだけど、何も言わず受け入れてくれた。

 さらには僕の歩幅に合わせようと歩く速度を遅くしてくれている。

 

 当然と言えば当然なのだけど、僕達2人が1回目グループで最後のデュエルだったらしくて皆からの拍手の中で一緒に廊下へ戻った。

 

 

「この長い試合を記録に残す先生も大変ですわね~」

 

「そうだね~」

 

 

 試合をするずっと前から……それこそ中等部にいた頃からあった僕との距離を見極めるような気配がこれっぽちもしない。

 それどころか奇妙な友情を感じる。

 今まで何度か幸子さんとデュエルした事はあったけど、こんな気持ちになったのは初めてだ。

 

 

「ねえ、幸子ちゃんって呼んでも良い?」

 

「幸子ちゃんは許しませんわ。……けれど幸子なら構いませんわよ?」

 

「うんわかった。幸子、よろしくね」

 

「えぇ、よろしく………ふ、ふふふふふ。

 あ、貴女、見事な事故でしたわね。ふふ。

 ……ふぅ、サラさんのデッキはちょっと装備魔法を入れすぎではなくて?」

 

「やっぱり?」

 

「えぇ。8枚もドローして引けないのは逆に凄いですわ」

 

「い、一応引いたもん……」

 

「上級モンスターだったから捨てたのかしら?」

 

「ちょっと違うけどそんな感じ!

 ……その説明は今度ゆっくりしたいな」

 

「えぇ、そうね。

 ……今度と言わず、今夜暇?夕食の後にでも私の部屋来ます?」

 

「えっ?……うん!行く!絶対に行くね!えへへ」

 

「そう……ところでさっきのデュエルやっぱり私の勝ちってことにしません?」

 

「しませんったらし~ま~せ~ん~!い~だ!

 ……幸子って、もっとおしとやかなお嬢様だと思ってたけどすっごく負けず嫌いなんだね」

 

「そう言うサラさんは思っていた以上に子供っぽくて驚きを隠せませんわ」

 

「んなっ!?」

 

「それよりもさっきのデュエル、落とし穴と装備魔法で喧嘩している印象を受けましたわよ?

 ここはやはり装備魔法を減らして蟲惑魔モンスターをもっと増やすべきですわ」

 

「あ、あはは……そうしたいのは山々なんだけど素早いモモンガ以外全部1枚しか無いんだよね~」

 

「なるほどそういう………以前サラさんのデッキは精霊の力がどうたらこうたらな奇跡のデッキだという話しを聞いた覚えがありますわね」

 

「どうたらこうたらか~。

 うん、間違ってないしそういうことでいっか~……って、あれ?万丈目?」

 

 

 幸子と歩いていると万丈目の姿が目に入り声をかける。

 

 

「……なんだ?」

 

「ッ!?……え?どうしたの万丈目?何があったの?」

 

「……お前は見てないのか?」

 

「何を?……ねえ、本当に何があったの!?」

 

「うるさい!俺に構うな!」

 

「そんなことでき……」

「何なんですの!?せっかくサラが心配して声をかけているというのに!?」

 

「うるさいと言っているだろ!?余計なお世話だ!」

 

「っ!……ええそうですか!行きますわよサラ!」

 

「ちょ、ちょっとまって」

 

「待ちませんわ!」

 

「ま、万丈目!後でね!絶対行くから!落ち着いたら話し合おう!?」

 

 

 幸子に手を引かれながらもこの言葉だけは伝える事ができた。

 

 今日僕は幸子と物凄く仲良くなれた。

 けれど、代わりに僕は何か決定的な瞬間を見逃してしまい、なんとも間が悪いことに3人目の友達の幸子が僕を守ろうとした事によって万丈目の側に居ることを許されなかった。

 

 





 墓穴ホールの2000バーンは4000ルールだと反則なんでダメージ半減のオリカ?になりました。

 海野幸子のデッキは1、1交換のカードが多いので沼るのは必然だった。
 そんな泥沼デュエルをしていればリアルでも変なシンパシーを感じると思うんですよね。
 少なくとも私はその経験があります。
 収縮ブラフでずっとサイクロンをセットしたまま見送り続けるとかそういう事する時代があったんですよ。

 タッグフォース3辺りをやっていればわかるけど、海野幸子は攻撃力0のトークンを攻撃表示にしてターンエンドするとかけっこう気になる事をするのであまりプレイングは上手くないという事にしておきました。
 個人的にお嬢様言葉とそうでない時の切り替えが良くわかんないツンデレキャラだと印象に残っている。

 今回登場した海野幸子は思いついたキャラに番号振って適当にサイコロで決めた結果登場しただけなのにどうして……


 奇妙な友情を感じる
 知ってる人多いでしょうがジョジョの名言です。
 無意識にこんな表現が出てくるくらいには現代社会に馴染んでいます。
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