「おっす」
「ん?」
「ほい」
「は?」
玄関を開けたデンジはいきなり邪神ちゃんにタッパーに入ったカレーを渡された、というのが今の状況である。
「おいなんかあんだろ~美少女があなたのためにカレーを作ってくるなんてシチュエーション全国の日本男児が夢見てんだろ~金一封くらい貰っても」
そこまで言った邪神ちゃんの脳天にゆりねのゲンコツが叩き込まれた。
「この間のすき焼きパーティーの時に迷惑かけたお詫びに来たんでしょうが。あんた何か言うことあるでしょ?」
「この間は誠に申し訳ございませんでした・・・・・」
「・・・・・ああ」
そんなやり取りを見ていて生返事を返すデンジ。残念ながら彼には学がないが、この状況なら例え東大生でも返せるのは生返事くらいであろう。
早速カレーを食べるためにアキが朝炊いた白飯を用意するデンジ。今この家にはデンジ一人だ。同居人のアキもパワーもデビルハンターの仕事で出払っている。
「ああいう男ってのはエロ本の一つや二つ持ってるっていいますの。こういう押し入れの中とか」
「やめなさい」
その代わり、と言っては何だが隣人の邪神ちゃんとゆりねが早川家の自室にいる。大変珍しいことにデンジがついでに昼飯を食べていくように誘ったのだ。
正直、デンジとしてはそのまま帰ってもらいたかった。あの二人が嫌いとか苦手とかいうより単純にめんどくさいのである。だがこのまま返したらアキに礼儀がなっていないとどやされるのは自分だ。というわけで昼食を食べていくように誘ったわけなのだ。といっても自分が用意するのは炊いてある米だけで、メインは隣人が持ってきたカレーだが。
(どうすっかなー)
だが早速デンジは自分の判断を後悔し始めていた。
(俺、あの二人よく知んねーんだよなー)
というのもあの二人と自分ではどうも面識が薄い、ということである。あの邪神とかいう悪魔はよくパワーとつるんでいる。ゆりねとかいう片目の女も保護者という点からかアキと話していることが多い。だがデンジ本人はアキとパワーの二人を仲介にしてゆりねと邪神ちゃんに関わることが多かった。
つまり何を話せばいいか、どうもてなせばいいか分からない。というかそんなこと考えるのが面倒くさい。
(まあ面倒なこと考えなくていっか)
本来考えることが苦手な自分だ。そんなことにエネルギーを使うよりも今目の前にあるもの、カレーを食べるのにエネルギーを使う方が重要だった。
「お詫びに来たのに、すみません。ほらあんたも」
「別に~。元々私が作ったカレーですの」
「頭が高いのよ」
「グヘッ」
バツが悪そうにするゆりねと、強引に頭を床に押し付けられる邪神ちゃん。邪神ちゃんの頭蓋骨から何かが割れたような鈍い音がした。
「カレー食えんなら何でもいいぜ」
一見場を諫めるように言うデンジだが、遠慮でも何でもなく本心である。諫めようなどという気遣いの心はあまりなく、欲求の方を常に優先するようにしていた。
保温状態で温かいご飯の上に、とろりとしたカレーが注がれる。
「んじゃいただきます」
「いただきます」
「いただきますの」
食事の前の礼をしてカレーをスプーンですくう。最近はアキの教育の賜物か、デンジもこういったマナーを守ることが多くなってきた。
すくったカレーを口に運ぶデンジ。
その瞬間、思わず叫んだ。
「うめえ!」
元々口から感情を出すのが常のデンジだが、今回は特にである。それほどに隣人が持ってきたカレーは旨かった。
「ふふん、当然ですの。この私が作ったカレーですの」
「え、お前が作ったの?」
「だからさっきからそう言ってますの。耳クソ詰まってんのか」
驚きを隠せないデンジ。どう見てもパワーとおかしさの方向性が同類なこの女が、こんなうまいカレーを作れるとは。悪魔は見た目によらないものだ。
「アキのカレーよりうまいんじゃねえのか」
デンジは思わずそう呟いた。
「ん?」
「どうした?アキくん?」
「何か急に腹立ちました」
「え?」
「お前、邪神っつったっけ。この女・・・ゆりねと暮らしてんだよな?契約してんのか?」
「契約なんてそんなめんどいことしませんの。あと邪神“ちゃん”な」
「えっ?契約してねーの?」
デンジは再び驚いた。悪魔を従えるには自分の何かを捧げる“契約”が必要なはずだ。それくらい自分にもわかる。現にデンジがそうだからだ。
「契約どころか!私はこの女に一方的に呼び出された被害者ですの!!魔界で悠々自適に暮らしている最中に召喚の呪文で呼び出しやがって!!おかげで家には帰れないし、人間界でこき使われる肩身の狭い毎日ですの、うぅ・・・」
「あんた人のお金でパチンコに競馬にボートのギャンブルダメ悪魔生活満喫してるじゃない」
「てへっ」
どうやら自分やアキとは違うタイプの主従関係らしい。
「そうか」
すっかりカレーも食べ終わり、胃も満足してる。
「人間と悪魔もお前らみたいに仲良くなれんのか」
自分とかつての友、今も自分の中に生きている友のことを思うとバカなりに感慨深かった。
「なっ、仲良くなんてありませんの!私はこいつが死なないと魔界に帰れないんですの!!いわゆる宿敵同士ですの!!」
邪神ちゃんは目を吊り上げながら、だが一方で頬を赤くしながら弁明する。どうやら満更でもないようだ。隣のゆりねも悪い気はしていないようだ。
「照れなくていいのよ邪神ちゃん」
「誰が照れてるだ!!今ここで殺してもいいんだぞ!!」
邪神ちゃんはビシィッとゆりねに指をさす。だがそれがまずかった。
パキィッ
「指ささないでって言ってるでしょ」
「あーーーーーーっ!!!」
「うげえ」
指をさされたとたんに、ゆりねはその邪神ちゃんの指を躊躇なく折った。邪神ちゃんの指は曲がってはいけない方向に曲がっている。さすがのデンジもドン引いた。
「クソーッ!!勝手に呼び出しといて対価払うどころか毎日拷問しやがって!!流石に堪忍袋の緒が切れましたの!!」
邪神ちゃんは飛び上がり、ゆりねに向けて足ならぬ尻尾を向ける。ドロップキックの姿勢である。
「ssの文章でいちいちドロップキックの構え説明するの意外と難しいって悲鳴をあげてる声が聞こえるがそんなの関係ねえ!!私はお前を殺して魔界へ帰り金持ち生活を満喫しますの!!というわけで邪神ちゃんとチェンソーマンのクロスオーバー二次創作は今回で完!!皆様ご愛読ありがとうございましたー!!」
長々とした口上を叫びながら邪神ちゃんドロップキックがゆりねに迫る。
「あんた相変わらず説明長いのよ」
対するゆりねは鉈を構えていた。
「ああーーーーーっっっ!!!」
数秒後、尻尾を輪切りにされ血をブシャーッと噴出しながら居間をのたうち回る邪神ちゃんがいた。
「お騒がせしてすみません。これ蛇肉の輪切りです。よかったらどうぞ」
「・・・・・・・ども」
(部屋汚れたらアキに怒られるの俺なんだけどなー)
そんなことを思ったが口には出さなかった。流石のデンジもゆりねが一番危ない奴だと気づいたからだ。
「それでは失礼します。邪神ちゃん帰るわよ」
「こんな状態で・・・歩けるか・・・・・」
めんどくさそうに邪神ちゃんの髪を引っ張りながら回収するゆりね。そんな光景を見てデンジは先ほどの発言を取り消そうかと心の中で思った。
ドアを開けて帰ろうとするゆりね。だが急にピタリと動きを止め、デンジの方を振り向いた。
「あなたの悪魔も、きっとあなたと仲良くなれてきっと喜んでますよ」
「!」
「じゃあ」
そう言ってゆりねは去って行った。
「あいつ、俺ん中のポチタのこと知ってんのか・・・?」
デンジの体の中にはかつて契約したチェンソーの悪魔、ポチタがいる。そのことは自分の他にはマキマさんくらいしか知らないと思っていたのだが。
「何モンだ?あいつ?」
契約もせずに、“邪神”の名を冠する悪魔を従え、自分の中の存在を見抜いた人間。明らかにただ者ではない。
「ま!シリアスなこと考えなくていっかぁ!」
デンジは考えるのが苦手だった。
部屋に戻り、包帯を巻いて自分の尻尾の処置をする邪神ちゃん。そうしているとふと思い出したことがあった。
「なー、ゆりねー」
「何?」
「デンジの体の中から悪魔の気配がしましたの」
「やっぱりね」
合点がいったような仕草をするゆりね。やはり見抜いていたらしい。
「でもなー、何かなー。何かあの感じ、どこかで会った気がしますの」
「知り合いなの?デンジさんと?」
「知ってたら思い出しますの」
どうも釈然としないまま、尻尾に包帯を巻き続ける邪神ちゃんだった。
「こんなもんでいいか」
一方、早川家の部屋。どうやらデンジが珍しく料理をしているようだ。メニューはアキから教えてもらったレシピのひとつ、生姜焼きである。
「いただきます。おお、意外といける」
その食べている生姜焼きの肉は、先ほどゆりねから貰った邪神ちゃんの尻尾肉である。
「邪神ってこんな味かぁ・・・」
見返してみるとデンジ君、バカそうに見えて意外と大人しい子なので邪神ちゃんと絡ませるの苦労しました。アキ君より扱い難しいかも・・・