「早川君、神保町に飛んでくれない?」
「は?」
公安に所属している早川アキは、上司のマキマからの突然の辞令を下され思わず素っ頓狂な声を上げた。
「知らない?神保町?古本屋とカレー屋が立ち並ぶ街で、名物はフレッシュムーンっていうお菓子。アパートは公費でもう取ってあるから、もちろんデンジ君とパワーちゃんも連れて。突然の辞令で申し訳ないけど」
「いえ、マキマさんの命令なら断れませんけど・・・何故神保町に?」
公安の仕事をするなら今住んでいるマンションでも十分だろう。その地区に他の部署があるという話も聞かない。自分の上司には珍しいことにいまいち話が見えてこない命令にアキは困惑していた。
「そうだね。先に要点を言おうか」
マキマは手を合わせ、椅子に深く座る。深刻な話題をするという雰囲気は誰にでも見て取れた。
「神保町に、多数の強力な悪魔を従えている人間がいる」
「・・・・・!」
「それも契約も無しで」
「・・・なんですって」
人間が悪魔の力を使うには、自分の何かを捧げる“契約”が必要だ。自分自身も狐の悪魔を使役するために皮膚や髪の一部を捧げ、呪いの悪魔を使う際に至っては自分の大切な寿命を捧げている。ただの人間が悪魔の力を使うとはそういうことだ。
だから流石の自分の上司、マキマの言うことでも信じられなかった。多数の、それも強力な力を持つ悪魔たちを何の代償も無く使う人間など。
「これがその子なんだけど」
そう言ってマキマが差し出してきた写真にはゴシックロリータ調の服を着た女性が映っていた。背は少々低めで顔も童顔気味。髪色は赤みがかっており、片方の目に眼帯をしていた。普通、と片付けるにはいささか恰好がパンクすぎる気もするが、話で聞いたような大量の凶暴な悪魔を従えている顔には見えなかった。
「名前は花園ゆりね。キメラ大学に通ってる大学生で、今は神保町のアパートに下宿してるみたい。早川君には隣人という体で彼女を監視してほしいんだ」
なるほどそれで神保町への辞令へと繋がるわけだ。引っ越すアパートというのも、対象である花園ゆりねが下宿しているアパートなのだろう。
「そしてこれが彼女と行動を共にしている悪魔」
「・・・・・・・・・・」
マキマが差し出した二枚目の写真には金髪の美少女が映っていた。しかし単なる少女ではなく、下半身が蛇の尻尾であり上半身には服などといったものを何も身に着けていない。確かに誰がどう見ても普通の人間ではない。人間に近い姿をしているが、悪魔が人間に憑依した“魔人”の場合は頭部の形状に変化が出るため、彼女はおそらく悪魔であろう。
「この悪魔は、“邪神”って呼ばれてるっていう情報がある」
「邪神・・・?」
邪神。人間に災いや疫病などをもたらす邪なる神。八百万の神々を祀る日本ではあまり馴染みがないが、未だに宗教色の根強い国では日常的に恐怖が根付いているところもあるらしい。
悪魔というものはその名前がどれだけ人間に恐れられているかで力が変わってくる。“銃”などといった世界中で恐れられている名前の悪魔などはすさまじい力を発揮する。
そんな悪魔の中で“邪神”という名を冠する悪魔。どれだけの力を持っているというのか。いずれにせよ単なる悪魔ではないことは確かだ。
「その他にも様々な悪魔の情報があってね」
マキマはくるりと後ろを向き、窓の外を見上げる。
「石の悪魔以上の石化能力を持ち、ギリシャ神話のメデューサと同じ名を冠する悪魔、暴力の魔人以上の怪力と身体能力を持つ牛型の悪魔、冥界の王妃ペルセポネの娘と名乗る悪魔。それら全てが花園ゆりねと繋がっている」
アキは息を飲んだ。
知らない人間がこれを聞けば何をバカな、と一蹴するであろう。だがこれを言っているのは敬愛する自分の上司、マキマである。彼女は噓八百の冗談を並べるような人間ではない。それに話している最中の表情も真剣そのものである。おそらく全て真実なのだろう。
そして真実だとするならば。
この任務は銃の悪魔を追う以上に過酷なものとなる。
「無理にとは言わないよ。早川君の部隊は今でも戦果を挙げてるし、今まで通りの日常を選ぶ、という選択肢もある」
辞令を断る、という選択肢もあるらしい。社交辞令なのだろうが、一部本心で部下の身を案じている様も伝わってきた。
「最終決定は君に任せるよ」
マキマさんが自分を見つめてくる。
その吸い込まれそうな瞳を見て、アキの心は既に決まっていた。
明日から引っ越しの準備だ。デンジとパワーは文句を言うだろうが、ケツを蹴ってでも手伝わせる。
「邪神・・・花園ゆりね・・・・・」
マキマさんから貰った一人と一匹の映っている写真を見つめながら歩く。こんな少女が契約も無しに強大な悪魔たちを従えているとは信じがたい話だ。
だがマキマさんが嘘を言うはずがない。
そうだとするならば、今までの戦いとは違ったものになるだろう。
「関係ない」
血のように紅い夕日が、俺の帰路を照らしていた。
「悪魔なら、狩るまでだ」
どれだけの犠牲を払おうとも、人に仇なす悪魔なら殺す。
たとえどんな血生臭い戦いになろうともだ。
そう考えていたんだが。
「隙ありですのゆりねぇ!!食らえ邪神ちゃんドロップキーック!!!」
「毎回しつこい」
「あ゛あ゛ーーーーーっっっ!!!」
・・・うん、確かにマキマさんからはそう聞いていた。実際見てみても情報に嘘偽りはない。
だが。
「あんた毎回毎回ドロップキックでマンネリなのよ」
「し、しょうがねーだろ・・・。ドロップキックってタイトルに入ってるんだからよ・・・」
「原作でも毎度毎度ドロップキックしてるわけじゃないでしょ」
実際に花園ゆりねという女が、契約も無しに“邪神”の名を冠する悪魔を従えている。その情報は確かなんだが・・・。
「アキさんが来てるなか、見苦しい真似するんじゃないわよ」
「おや~、ゆりね随分あのチョンマゲを気にしますの~。もしかしてお前気があるんじゃ」
ドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッドスッ
「あ゛―――っっっ!やめろーーーっっっ!!脳天を刺してくるなーーーっっっ!!!」
何というか、思ってたのと違う!
花園ゆりね・・・・・。
様々な悪魔を従える謎の女。
「? アキさんどうかしました?」
「いえ、別に・・・」
情報は間違っていないが、何かを企んでいる様子はない。
むしろ敵であるはずの悪魔たちと友好的(殺し殺されだが)な関係を築いている。
「おいおい~、もしかしてチョンマゲの方もゆりねに気が」
ザスザスザスザスザスザスザスザスザスザスザスザス
「ぎゃああーーーーーっっっ!!無表情で頭蓋骨斬ってくるなーーーーーっっっ!!!脳漿が!!脳漿が出ちまうーーーーーーーーっっっ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・。
マキマさんの情報というより、俺の認識が間違っているのかもしれない。
もう少し様子を見てみるか。
そんなことを考えながら、早川アキはゆりねと邪神ちゃん恒例のバイオレンス劇場を眺めていた。
そろそろメデューサやミノスやぺこら様を出したいですね。でもどんな感じでチェンソー組と絡ませるかが悩ましいところです