「ん?」
「あん?」
「お?」
早川アキたちはとあるホテルにいた。
そのホテルに悪魔が出たということでアキたちに出動のお達しがあったというわけである。
だがそこには。
「アキさんたち。奇遇ですね」
「何でお前らここにいるんですの?」
悪魔は悪魔でも邪神ちゃんたちがいた。
「そりゃこっちの台詞だ。お前ら何で」
「そうか!ウヌらがこのホテルに蔓延る悪魔か!丁度いい!殺して血を啜ってやるわ!!」
「やめろパワー。ゆりねさん、どうしてここに?」
「ええ、町内の福引でここのホテルのお二人様宿泊チケットが当たったので、せっかくと思って」
「有害な悪魔が発生したというので避難命令が出ていたと思うんですが」
悪魔が発生した際にはまず民間のデビルハンターや警察が周囲の人々の避難を誘導する。ホテル内も避難が徹底されたのか人っ子一人いない状態だ。ゆりねと邪神ちゃんを除き。
「あー、恥ずかしい話ですけど多分そのころ邪神ちゃんも私もぐっすり寝ていたので気づかなかったんだと思います」
なんともご都合主義で予定調和な展開である。
「ホテルの従業員や警察は何も確認しなかったのか・・・?」
「そんなリアリティ求めてちゃギャグssなんて書けませんの。大事なのは理屈より展開の面白さですの」
「メタ発言してんじゃないわよ邪神ちゃん」
悪魔による事件に巻き込まれているというのに普段通りの二人である。随分と肝っ玉が据わってると内心アキは感心していた。
「まあとにかくここにいたら危険です。先に避難をしましょう」
そう言って一同は一先ず下の階に降りようとするのだが。
「ん?」
「おい、さっきも8階だったよな?」
8階から下の階に降りたはずなのに、その下の階も8階なのだ。明らかに異常事態である。
「これは・・・」
「前にもあったな、こんなこと」
そう、デンジたちはこの事態を引き起こしている悪魔を知っている。
『人間・・・愚かな人間たちよ・・・・・』
汚い声がホテル内に響いたと思うと、壁から醜悪な顔をした肉塊がせり出てきた。
「貴様か、永遠の悪魔」
大量の人肉がより集まったような外見をしているこの悪魔は「永遠の悪魔」。かつてデンジたちに倒されたはずの悪魔である。
『かつて私の前身は貴様らに倒された』
ホテル内に女性男性の声色が入り混じった声が響く。デンジは既に胸のスターターに指をかけ臨戦態勢を取っている。
『それはひとえに以前の私が間抜けだっただけのこと』
永遠の悪魔は壁にめり込み姿を消した。だが声だけは未だに響いている。
『私はそんな失敗を起こさない。お前らが日干しになるまで、ここに閉じ込め続けてやる』
その声を最後に、永遠の悪魔の声は消えた。
以前の永遠の悪魔は急所となる心臓だけは別のエリアに置き、デンジを殺そうと姿を現した。だがデンジの機転によって、自殺したくなるまでチェンソーによって殺され続けた果てに自信の心臓を差し出し敗北した。
だが今回の永遠の悪魔は違う。デンジたちが飢え死にするまで閉じ込め続けるという、逆籠城戦を仕掛けるつもりでいるらしい。
「どーすんだ?あいつの姿が見えねーと殺しようがねえぜ?」
「何とか脱出口を探してみる」
「無理じゃな。以前のもどれだけ窓を開こうがドアを開けようが外には出れんかった。今回もそうじゃろう」
「おい!どーしてくれんだ!!お前らのせいで私らここに閉じ込められちまったじゃねーか!!」
「やめなさい邪神ちゃん、アキさんたちのせいじゃないでしょ」
「いえ、我々の責任です。申し訳ない」
「それじゃあ金よこせ!誠意のパチンコ代でも貰わないと気が済みませんの!!」
「貰ったとしてもここじゃ使えないでしょ」
永遠に閉じ込められるかもしれないというのに、安心安定のクズっぷりを見せつける邪神ちゃんである。
「電気と水は・・・前みたいに使えるようだな。渇き死にすることはないだろう」
「飯は?人間どんなにデブでも1か月くらいで腹減って死ぬって土曜日のバラエティー番組で言ってたぜ」
「客が残していった食料があるかもしれない。探してみる」
アキたちはデビルハンターとしての職務を全うしていた。
そんな中で邪神ちゃんは。
(ちくしょー!たまの休日にのんびり休みに来たら悪質な悪魔に遭遇するとは!家帰ったら休みで蓄えたパワーで人生シアターで一発当てようと思ってたのに計画が狂いましたの!!)
相も変わらず自己中心的思考だった。というかお前は年から年中休みだろう。
(くそっ!何とかして私だけでも帰れれば・・・!帰れれば・・・・・?)
その時、邪神ちゃんに電撃走る。
(私、ゆりね殺せば魔界に帰れるじゃねーか!)
(そうでしたの・・・。何も人間界のこんなホテルで燻ってる必要なんてありませんでしたの。ここでゆりねを殺せば魔界に帰れてハッピーで埋め尽くしてレストインピースですの!)
こんな異常事態で協力どころか同居人を殺す算段を立てている邪神ちゃん。あまりにも普段通りだった。
「というわけでいつも通りに死ねゆりねー!邪神ちゃんドロップキックin永遠の悪魔バージョン!!」
あまりにもいつも通りにゆりねに向けて必殺のドロップキックを放つ邪神ちゃん。
一方でゆりねは。
「こんな異常事態で異常なことしてんじゃないわよ」
「へ?」
「この爬虫類が」
こっちもいつも通りだった。
「ああーーーーーっっっ!!!!!」
「蛇肉のスライスでございまーす」
邪神ちゃんの尻尾は切り取られ、さしの入ったピンク色が食欲をそそる切り身となった。
「うわぁ・・・・・」
「デンジ~、早くここから出るんじゃ~。あの女に、わしらあの女に殺される~」
「あ、あのゆりねさん・・・。邪神の方は大丈夫なんですか・・・?」
「あー、大丈夫です。どうせいずれ生えてきます」
「そうですか・・・・・」
永遠の悪魔に閉じ込められているというのに、この二人はどうしてここまでまともにいられるのだろうか。かつては同僚のデビルハンター達ですら正気を失いかけていたのに。
・・・いや、よく考えたらまともじゃない。アキは思い直した。
「それよりも食料ができましたね」
「え?」
「邪神ちゃんの尻尾肉。嫌でしょうけど何にもないよりはマシですから」
「それ食べて大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です。前にも食べましたけど特に何にもなかったし」
(前にも食べたのか・・・)
アキは永遠の悪魔よりも異常事態を引き起こしている二人に半ば引いていた。
ククク、チェンソーマンとその取り巻きらめ。じわじわと迫る飢えの恐怖で怯えるがいい。
その恐怖こそが私を育てるのだ。
どれ、どのように恐怖しているか少し覗いてみるか。
「これ生で食わねえといけねえの?ステーキにしちゃダメ?」
「生で食べないとビタミンが取れないので。邪神ちゃんの肉なので気持ち悪いのは分かりますけど」
「食料提供してるのにこの言われようは何ですの・・・」
「ウヌの肉は臭くてかなわん。もっと日頃から旨くなる努力をしろ」
「んだとテメー!!味の素で窒息させてやろうか!!」
「・・・・・」←無言で生肉を頬張るアキ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あれ?
「おお!泊まってた客が残していったスイッチがありますの!」
「しかもスマブラじゃねーか!対戦しようぜ対戦!」
「ぎゃははは!デンジの奴女キャラ使っておる!エロじゃエロじゃ!!」
「いいだろ!こいつら使いやすいんだよ!!」
「デンジテメー!そいつらは私が使う予定だったキャラですの!!返せ!!」
「ちょっと、ゲームやるのはいいけど静かにしてよ。持ってきた課題やってるんだから」
「・・・・・・・・・」←スマホが通じないか何度も確認してるアキ
こいつら・・・・・。
「今日も邪神の生肉かよー」
「文句言うなら食うな!って言いたいところだけど流石に自分でも飽きてきましたの」
「これしかないんだから仕方ないじゃない」
「わしは血が欲しいんじゃ!血じゃ!血をよこせ!!この際貴様のでも構わん!!」
「やめろこら!!お前を先に殺してやる!!」
「やめろパワー」
「やめなさい邪神ちゃん」
「「はい・・・・・」」
・・・・・・・・。
「うわあっ!部屋が急に傾きましたの!!」
「永遠の悪魔の仕業か。痺れを切らしたな」
「これはゆりねを殺せる大チャーンス!!自由落下で頭を壁にぶつけて死ねゆりね!!」
「あんたが逝きなさい」
グシャ
「ぎゃーーーー!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ここに閉じ込められて体感時間でおおよそ3か月か・・・」
「寝放題だし飯にも困らねーし、一生ここでもいいんじゃね?」
「それにしても暇じゃ!ゲームも飽きた!!邪神!!殺させろ!!」
「テメー上等だ!返り討ちにしてやる!!」
「あら、丁度いいわね。私も暇なのよ」
ズシャァ!!
「「ぎゃーーーーーーーーっっっ!!!!!」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あの・・・・・」
「ん?」
『こちら私の心臓です。もうどうぞ殺しちゃって下さい』
体感時間でおおよそ半年、音を上げた永遠の悪魔が自らの心臓を差し出してきた。
「もうホント殺していいんで。もう帰ってください」
懇願するように自らの心臓を差し出してくる永遠の悪魔。悪魔とはいえ哀れである。
「・・・嫌ですの。せっかくのニート生活を手放したくありませんの」
『え?』
「ここにいればマキマに会わんで済む」
『えっ!?』
「ゲームもし放題だし寝放題だしなー。楽して一生暮らせるぜ」
『ええっ!!?』
「しゃあーっ!!通算108回目のスマブラ大会始めますのー!!」
「「イェェェェーーーイ!!!」」
『エェーーーーーーーーン!!!帰ってーーーーーーーーーーーー!!!!!!!』
永遠の悪魔が泣き叫ぶ声が、虚空にこだました。
その後、流石に見かねたアキが永遠の悪魔の心臓を潰してこの事件は解決したようです。めでたしめでたし。
この世界線の悪魔はチェンソーマン本編よりも弱いです。
理由は人間がヤバすぎるから。
あと今回の話の元ネタは「吸血鬼すぐ死ぬ」です