神保町チェンソー   作:岩ノ森

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タイトルの通り、みんな大好きあの子がでます。
あと独自設定とオリジナル悪魔(チェンソーマン側)がちょろっと出てくるのでご注意ください。


頑張るあの娘はマジ天使

 「はぁ・・・疲れた・・・・・」

 そうモヤシのようなか細い声を出し、公園で水くみをする少女。黒を基調とした長袖のワンピースに黒いヘアバンドをつけた幸が薄そうな少女だ。

 「肉体労働の連勤開けはきついですね・・・。明日もバイトだし」

 彼女の名はぺこら。

 天界で天使長の座についていた天使だったが、悪魔たる邪神ちゃん退治の際に天使の象徴たる“天使の輪”を失くしてしまい、同時に天使の力も失った。その結果、今では底辺低賃金バイト生活ホームレスに甘んじているという、聞くも涙語るも涙な少女なのだ。

 そんなぺこらは公園の水道で生活用水を補充しつつ、明日のバイトの確認をしていたようだ。

 

 「明日のバイトは・・・民間のデビルハンターの手伝いですか。ハードだけど時給が高いのはありがたいですね」

 デビルハンターにはデンジたちが所属する公安と、民間が運営している2種類がある。民間は若干賃金等が安いが、公安ほど強力な悪魔と戦わないので殉職率は比較的高くない。それでも人間を襲う凶悪な悪魔を相手にするのは変わらないので、バイトとはいえど賃金は高いようだ。

 

 「悪魔を退治なんて、天使長だったころを思い出しますね」

 ぺこらは住居の段ボールハウスの中で、過去の栄光に思いを馳せていた。

 「天使の力を失おうとも、人間たちを守るぺこらの使命は変わりません。明日はきちんと仕事をこなさなくては」

 ぺこらは天使の中でもひと際天使である自覚が強い。ゆえに天界に帰れず極貧生活を強いられようとも、人間たちを守護しようと日々努力を重ねているのだ。天使の鏡である。

 

 「えへへ~、バイト代入ったら何食べようかな~。焼肉?それとも高いお寿司?」

 前言とは違い、ぺこらの脳内はバイト後のご馳走で溢れていた。涎も垂れていた。

 

 

 

 翌日、ぺこらはバイト先である農家へやってきた。やってきたのはいいのだが。

 「底辺悪魔殺してギャラが入るなんてストレス解消と金儲け兼ねれますの!!一石二鳥とはこのことだなぁおい!」

 「あんまり大きな声出さないでよ。恥ずかしいじゃない」

 「今日は頑張ろうね!邪神ちゃん!」

 (なぜこいつらがいるのです・・・)

 バイト先には邪神ちゃんを始めとして、ゆりね、メデューサといったいつもの悪魔メンツが勢ぞろいしていた。言うまでもないかもしれないがぺこらは邪神ちゃんと一緒にいて、ろくなことになった試しがないのである。

 「おー田尻。お前もバイトですの?」

 「ええ、まぁ・・・」

 「今のお前なら雑魚悪魔に殺されてあの世行きかもなー!いや、その方が天界に帰れていいのか、ぎゃーはははっ!!」

 「邪神ちゃんうるさいのよ」

 

 ズンッ!!

 

 「ぐえっ」

 ゆりねの手で地面に顔を打ち付けられめり込む邪神ちゃん。

 「ごめんなさいねぺこら。またうちの性悪雑魚悪魔が迷惑で」

 「いえ・・・」

 「これ終わったらみんなで焼肉でも食べに行きましょ。奢るわ」

 「ええっ!いいんですか!?」

 (はっ!また魔女の誘いに乗ってしまった・・・!)

 ぺこらはゆりねのことを、邪神ちゃんを呼び出した魔女として敵視している。・・・のだがゆりねの元来の優しさに絆され、ご相伴に預かってしまうこともしばしばである。

 (うう・・・主よ。罪深きぺこらをお許しください・・・・・)

 天使として天界の神に懺悔をするぺこら。原作では3話に一度はある日常風景である。

 (でも焼肉、楽しみだなぁ・・・)

 だがお腹は正直であった。

 

 

 「今回の仕事は害虫の悪魔の退治となりまーす。一匹一匹は小さいので大けがすることはないでしょうが気を付けてくださーい」

 「ええっ!?今回虫退治なの!?」

 「おうメデューサ。バイト終わったらバイト代、私の口座に振り込んどけよ?」

 「で、でも私、虫とか苦手で・・・」

 「あ~ん?」

 「分かりました・・・。頑張ります・・・・・」

 相変わらずのクズっぷりを発揮する邪神ちゃん。縁を切れないメデューサも邪神ちゃんに逆依存してしまっていた。

 

 「えーちなみに、今回の給料は歩合制となりまーす。ですのでなるべくたくさんの悪魔を倒して給料をゲットしてくださーい」

 「しゃあーっ!相手が格下なら怖くねえ!!殺しに殺しまくって大金を儲けますの!!食らえ必殺邪神ちゃんドロップキッーク!!」

 「農家の人の野菜ごと潰す気?」

 

 ザスッ

 

 「ぎゃあーーーーーっ!!」

 (あぁ・・・今回も無事に済みそうにない・・・・・)

 ぺこらは頭の中で神に十字を切った。

 

 

 ぺこらは葉の裏や土の中にいる害虫の悪魔をチマチマと潰していった。死体は再生防止とノルマ確認のため専用のビニール袋に入れていく。

 (こういう単純作業は簡単ですが辛いですね)

 様々なバイトをしているぺこらだが、肉体労働のルーティンワークはそこそこ苦手な方であった。だが文句は言っていられない。働かざる者食うべからず。生きるためにはやりたくないことでもやらねばならない時もあるのだ。

 「うえぇぇ、害虫の悪魔気持ち悪い~・・・」

 (彼女も大変そうですね)

 邪神ちゃんに(無理やり)連れてこられたメデューサも四苦八苦していた。どちらかというと彼女は虫が苦手、という部分ではあるが。

 

 「メデューサ、大丈夫?」

 見かねたゆりねがメデューサの代わりに害虫を潰して駆除する。

 「あ、ありがとうございます」

 「うちの邪神ちゃんがまたごめんなさい。無理しなくて帰っていいのよ」

 「はい、でももう少し頑張ってみます」

 (天使・・・)

 ぺこらはメデューサのその優しい姿に天使の像を重ねていた。悪魔であるはずなのに。

 ゆりねもそうである。邪神ちゃんを儀式で呼び出し多数の悪魔を従えている魔女であるはずなのにこの優しさは何なのか。

 (主の言っていることは正しいのでしょうか)

 悪魔は見つけ次第倒せ。主である神はそう言っていた。

 だがゆりねたちと関わっていく間にその主の言葉に疑問を抱き始めていた。

 あんなにいい人たちを一方的に倒していいものなのか、と

 「あはははっ。見て悪魔どもがどんどん潰れて死んでいくわ。快感ねー」

 「ははは・・・・・」

 (いや、やはり魔女は魔女です・・・)

 害虫の悪魔たちを楽しそうに殺していくゆりねを見て、ぺこらは考えを改めた。

 

 

 (よそ見している場合ではありません。殺した悪魔に応じて給料が支払われるんだから頑張らなくては)

 ぺこらは気を取り直して、悪魔たちを駆除しようとした。その眼先に。

 「ぎゃはははー!血じゃぁー!もっと血を寄越せぇ!!」

 「パワーこらぁ!!それは私の分の悪魔ですの!!」

 

 ギャーッ ギャーッ

 

 (分裂した!?)

 前回も見たような光景である。

 

 

 (あいつが分裂・・・?いや、まさかそっくりな悪魔がもう一人・・・!?)

 ぺこらは絶望に打ちひしがれた。

 (あいつが二人になるなんて・・・。前以上に酷い目に巻き込まれるというわけですか・・・!?)

 邪神ちゃんだけでも手一杯なのに、これ以上厄介悪魔が増えるなどと想像したくもない。恐らくは画面の前の読者の皆様ですらそうなのだから、物語内のぺこらの心中など察するに余りある。

 (なるべく関わらないように・・・遠くへ・・・・・)

 君子危うきに近寄らず。故事に従い二匹のバカ悪魔から離れようとした時だった。

 「む?」「あ」

 一方の角が生えている悪魔と目が合ってしまった。

 

 「でやああああああ!!」

 「ぐへぇえ!!」

 パワーがぺこらに向かってドロップキックしてきた。

 

 

 「い、いきなり何を・・・」

 「うぬを見ていると何故かイラつくのじゃ。生理的嫌悪、とかいうやつじゃ」

 「そんな・・・・・」

 ぺこらはガクリと力尽きた。

 やはり悪魔というだけあって、天使には本能的に敵意を抱くのだろうか。

 いや、恐らくはパワーの性格的なものだろう。

 「おーぺこら。私よりたくさん採ってますの。寄越せ」

 「そ、それはぺこらの給料分・・・」

 パワーにドロップキックされたうえに、邪神ちゃんには頑張って駆除した悪魔まで盗られた。

 これがぺこらの日常である。いや、パワーという邪神ちゃん2号が増えたせいでより悲惨なことになってしまっている。

 

 「パワー珍しく良くやったなー。うっとおしい天使も張り倒せて、私は給料ゲットできて一石二鳥ですの」

 「なるほどのう。あいつが天使とかいう存在じゃったか。道理で見ただけでムカついたわけじゃ」

 「だろー?あいつらこの世界は私たちの物でーす、みたいな顔して人間界に蔓延っててうざったいんですの」

 「ふん!そんな奴ら、最強の悪魔であるワシが一匹残らず駆除してくれるわ」

 「いやー頼もしいなー。お礼にバイト代でハイ〇ュウくらいなら奢ってやってもいいですの」

 「おうおう!ウヌも最強の悪魔の敬い方を分かってきたではないか!」

 「「ぎゃははははははは!!!」」

 

 (悪魔・・・・・)

 これぞまさしく悪魔として相応しい最悪の姿である。というか同族の悪魔にもそっぽ向かれそうなレベルである。

 

 「ところで、ここら一帯には雑魚悪魔どもが大量にいるみたいじゃな。どれ、間食代わりに殺して血を啜ってやろう!」

 「あっ、てめえ!ここらの害虫は私の分の給料だぞコラー!」

 パワーが畑の悪魔たちを付いている野菜ごと、血のナイフで切り裂いていく。

 (ああ・・・今日の給料・・・・・)

 これでは歩合制のバイトである今回の給料は望めないであろう。自分が何をしたというのか。ぺこらは泣かんばかりであった。というか実際泣いていた。

 「むっ!害虫ども!うざったく張り付いてくるではないわ!!」

 害虫の悪魔たちがパワーの血のナイフを中心に食らいつき、血を吸っていた。

 変化が起きたのはその瞬間である。

 「む?」「あん?」「え?」

 害虫の悪魔たちが、一匹一匹寄り集まり巨大な集合体となった。

 

 グチョグチョメチョメチョ

 

 『ウガアアアアアアアアア!!!』

 腐っても上位の悪魔であるパワーの血を吸った害虫の悪魔たちがパワーアップしたのである。

 そうして合体、融合し、巨大な悪魔としてぺこらたちの前に立ちふさがった。

 

 『脆弱な虫けらどもよ!この最強の“害虫の悪魔”様が貴様らを踏みつぶしてくれよう!!』

 害虫の悪魔は身の丈10メートルはあらんばかりの、怪獣のような姿に変貌していた。

 先ほどまでの小さくて弱そうな姿の面影は最早1ミリも無かった。どう見ても強そうである。

 「「・・・・・・・・・・・」」

 邪神ちゃんもパワーも先ほどまでの大口はどこへやら。完全に害虫の前に委縮してしまっていた。

 「悪いのはこのぺこらですの」

 「え?」

 「こいつがウヌらを潰していたんじゃ。ワシらは悪くない」

 「ええっ!?」

 流れるかのごとき見事な責任転嫁である。こういうところの最悪っぷりは一致していた。

 「「じゃ!あとよろしく!!」」

 「ちょっと!!」

 ピューッというオノマトペを響かせながら、二人は足を回転させて遠くへ逃げていった。

 

 『虫こそこの世の中で最も進化した生物なのだ!!その証明として天使のお前を殺して我の角に飾ってくれる!!』

 「あぁ・・・・・」

 ぺこらの絶望パート2であった。

 (短い人生でした・・・)

 ぺこらの今までの人生(天使生?)が走馬灯のように脳内を回っていた。

 天界に帰れもせず、悪魔に貶められ、同僚には裏切られ、空腹のまま死んでいくのだ。

 自分の人生何てつまらなかったのだろう。

 諦めのような達観をしながら、ぺこらは死の間際の時間をゆっくり堪能した。

 

 ヴウウウウウウウウウウンッッッ!!!

 

 そんな中響き渡ったのだ。

 地獄の底から聞こえるような、唸るような音が。

 

 ズシャアアアアアアアアアッ!!!

 

 気が付くと害虫の悪魔は頭から真っ二つにされていた。

 何が起こったのか一瞬理解できなかった。

 「はぁーっ、たくっ。虫けらは汚ねえから苦手だぜ」

 目の前にいたのは、頭と両腕がチェンソーで、血まみれのスーツを着た悪魔。

 「おい、あんた。大丈夫か?」

 「・・・はっ、あ、ありがとうございます!」

 (お、お礼を言ってしまった・・・。悪魔相手に・・・・・)

 

 「全く、何か騒がしいと思ったらまたあんたたちね」

 「公安は民間のハンターの邪魔をしてはいけないんだ。分かってるのかパワー?」

 「ぐうううう」「うええええ」

 一方では保護者であるゆりねとアキにとっちめられ、ボロ雑巾のようになった邪神ちゃんとパワーがつまみあげられていた。

 「ごめんなさいねぺこら。またうちのクソ邪神ちゃんが迷惑かけて」

 「すみませんでした。うちのクソパワーがご迷惑をかけたようで」

 「い、いえ・・・・・」

 (花園ゆりねと・・・悪魔と契約してる人間・・・?)

 腐っても流石は元上級天使。アキが悪魔と契約しているデビルハンターと一発で見抜いたようだ。

 「お詫びと言っちゃなんだけど今回の邪神ちゃんの給料、全部ぺこらにあげるから」

 「おい!私が汗水たらして働いた金」

 「あん?」

 「・・・ナンデモナイデス」

 「民間の人たちへの謝罪金、パワーの口座から差っ引いとくからな」

 「ハイ・・・」

 保護者につまみあげられ、委縮する二匹。恒例の風景である。

 「帰るぞデンジ」

 「へーいへい」

 そう言ってチェーンソーの悪魔もちょんまげの男について行ってしまった。

 「あ、あの・・・」

 「あん?」

 ぺこらは思わずチェーンソーの悪魔に話しかけてしまった。

 「今回はありがとうございます。また改めてお礼に伺います」

 「おー、食い物とかだと嬉しいぜ」

 「デンジ」

 「はいよー」

 そう言ってゆりねと悪魔たちとは別れた。

 

 

 

 「はー、今日は大変でしたね」

 住居の段ボールハウスに帰宅したぺこら。ゆりねの奢りで焼肉も食べ、腹も満たされ睡魔が襲ってきている。

 「まさか悪魔に助けられるとは」

 天使長である自分が悪魔に助けれる。天使にとっては末代までの恥である。

 だがそれはそれ。これはこれ。命を救ってもらった礼は誰に対してもすべきである。それがぺこらの信念であった。

 (あんな凶暴そうな悪魔なのに・・・)

 見るからに人を傷つけそうな悪魔。だが見た目とは裏腹に自分を助けてくれた。

 (悪魔全滅なんて教え・・・本当に正しいんでしょうか)

 最近自分の考えに疑問を持つことが増えた。この神保町に来てから特にそうだ。

 (今考えてもしょうがないです)

 天使ではない自分にはどうすることもできない議題である。いつか天使に戻れたら、その時は向き合わねばならないだろう。

 だが今は明日のバイトのことに向き合うことが先決だった。

 「考え過ぎると眠れません。今日の焼き肉のことでも考えて寝ましょう」

 薄っぺらい布に包まり、拾ってきた本を枕に床に就くぺこら。

 こうして天使の夜は更けていくのであった。

 

 

 

 「ちょ!待って!!あの悪魔って!!!」

 何かを思い出したように飛び起きるぺこら。

 「天界でマークされてた地獄の危険度Sの超危険悪魔ではないですか!!!」

 かつて展開にいた頃に叩き込まれた知識を、よりによって寝る前に思い出したらしい。

 「そんな悪魔が神保町に・・・!そんな悪魔に助けられ・・・!ああ主よ・・・!!」

 頭を抱え、体をねじるぺこら。

 こうして、今日もぺこらはろくに眠れないのであった。

 

 

 




ようやくぺこら様出せたー。もっとチェンソーマン側のキャラたちと絡ませたいですねー。
害虫の悪魔はトリコのパラサイトエンペラーを想像していただければ大体合ってます。オリジナル悪魔、今後もちょろちょろ出てくるかもですが物語に影響出ない範囲で出そうと思ってます(一応タグ付けしときました)


あと描いた後気づいたんですが、害虫退治って多分歩合制じゃないですよね・・・。まあこの世界じゃ悪魔相手なのでそうだってことにしといてください(適当でゴメンナサイ)
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