音・音・音に、踊り狂え。
Ready Steady?
深夜、25時。
草木も眠りの準備を始める時間に、一人憂う勝ち犬がいた。
☆★☆
「…もしもし?」
「あ、瑞希?久しぶりー。」
「うん、久しぶり。…どうしたの?こんな時間に電話してきて。」
「ちょっと聞いてよ瑞希!さっきまで彰人と寝てたんだけど、あいつ酷いんだよ!?」
「はいはい落ち着いて、絵名も寝てるからさ。」
「…ふーーーん???」
「うわ、今絶対ニヤニヤしてるでしょ!」
「べぇつにぃぃぃ???…ブフッ!」
「吹いてるじゃん!…で、弟君がどうしたの?」
「そう、彰人ったら酷いの!私がもうやめてって言っても、あいつは『もう少し』ってねだってくるの!そんなの断れるわけないって分かってて!」
「あーね。じゃ、切るね~」
「待って待って!なんでそんなすぐに切ろうとするの!」
「僕は惚気話を聞くために電話してるんじゃないけど?…あ、絵名待って、後で相手するから。」
「やーい怒られてるー」
「ほんとに切るよ?」
「冗談だって。…お店に、高校生が来たんだ。昔の私達みたいな。」
「…。」
「最初は、いいきっかけになるなって思ったの。私達が、元通りになれるような。」
「…。杏、」
「でもね…。なんか、モヤモヤしてきちゃって。…今の私が、尊敬なんてされていいのかって。」
「…。」
「…。」
二人の間に、しばし沈黙が訪れた。
「…あ、絵名が怒ってる。あ、ちょ_」
電話はここで切れた。
☆★☆
朝の通学路。
夜のビビッドストリートとは対照的に、朝は非常に活気に溢れている。
「おはよう葵ちゃん!また歌いに来てね!」
「あ、おばさん!いつも部屋ありがと!絶対また行くから!」
「お、悠馬じゃねぇか!彼女と一緒に登校か?」
「ひゅー!アツいねぇ!」
「ちょ、やめ、そんなんじゃ_」
「俺と葵はそんな生半可な関係じゃない。…分かったならどいてくれないか?」
「ひぇっ…。」
道を通れば話しかけられ、道を曲がればからかわれる…事は無かったのだが。
とにかく、少し名前が売れるだけでこの始末だ。
「一体杏さん達はどうやって対処してるんだろうな…。おい、聞いてるか?」
「ふぇ!?あぁ、いや、聞いてる、聞いてるよ!あは、あはは!」
「…?」
よく分からない反応をされたが、多分眠いからだろう。
自分も眠いのだから。
_と結論を出したところで何やら後ろから物凄い音が聞こえてきた。
「…なんだこれ、車?」
「いや、違うよ。これは…」
「あ、お、い、ちゃーーん!」
「うわぁ!…もう、急に飛びついてくるとびっくりするじゃん。」
「えへへ~。おはよう、葵ちゃん!」
「おはよ、彩羽。元気?」
「うん、元気だよ!悠馬君は?」
「…眠い。」
「およよ!?元気じゃないのかーー。それなら……。ほりゃーーーー!」
「いや、何する___うぐぉお!?」
刹那、背中に尋常ではない衝撃が走る。
まずい、意識が刈り取られ…る事は無かった。
痛みすら感じず、むしろ体が軽くなっている。
「なんだこれ、どういう仕組みだ…?」
「えへへ、凄いでしょ?私の特技の一つだよ!」
「へ、へー。…おい、この子誰なんだよ。」
「中野彩羽ちゃんだよ。私と同じクラスの子で、最近よくここら辺で一緒に歌ってるの。」
「葵ちゃんは凄いんだよ!こう、フワフワってしてるだけじゃなくて、えっと、えっと…。」
「みなまで言うな。俺も十分分かっている。」
「あ、そっかー!葵ちゃんと悠馬君は仲良しさんだからねー!」
「あぁ、昔からの付き合いだ。俺が一番知っているに決まっている。」
「ちょ、悠馬、スt」
「それ本当!?私、昔の葵ちゃんの話聞きたいなー!」
「いいぞ。…あれは幼稚園の頃の話だ。葵がな_」
「ストップ、ストーーーップ!!!」
「…なんでビンタされたんだろうな。」
「私もなんでうにうにされたのか分かんないよ~!」
「自業自得です!」
☆★☆
「こんにちはー!」
「どうもっす。」
「おはようございます、杏さん。」
「…あれ?増えてるじゃん。」
土曜日の朝。
普段は悠馬と葵以外誰もいないような時間だが、今日はいつもより賑やかだ。
多分、二人の間で笑ってる女の子の事だろう。
葵のショートカットに白い髪色というのに対して、長い黒髪を一つに纏めている。
背はそこまで大きくなく、平均的といった感じだろう。
「あ、そうか。杏さんにはまだ言ってなかったもんね。自己紹介出来る?」
「はいはいはーい!中野彩羽です!趣味はお歌を歌う事!好きな食べ物はメロンパン!えと、他には、えーっと…」
「あはは!いいじゃん可愛い!この子、葵の相棒って事?」
「はい。やっっっと見つけました。」
「そっか。…大事にしてあげてね、お互い。」
「…っ!」
「…ほぇ?」
杏が言った瞬間、目つきが鋭くなった葵。
しかし、それに対して彩羽は何のことか良く分かっていなさそうだった。
「それで、今日は何の用だっけ?」
「今日は、合同練習をしようと思います。いつも練習の内容は決めてても、ライブの前日までやらないのが普通だったので。」
「へぇ~。頑張ってね!」
「あ、いや、今回は杏さん達にも見てもらおうと思って…」
「…え?」
☆★☆
「…それで、俺は今公園にいるのか。」
「はい。突然お願いする形になってしまい、申し訳ないです。」
「いや、大丈夫だ。…久しぶりに、声を出してみたいとも思っていた所だ。」
時刻は午前9時。
ビビッドストリートが動き出すと同時に、悠馬達も練習を始める事にした。
そしてその指南役に選ばれたのが、ご存じ杏とたまたま店に出てきた冬弥だった。
「彰人とこはねは?」
「彰人はもう仕事に行った。小豆沢は…。寝ているはずだ。」
「あ、冬弥もしかしてまたナカヨシした?」
「そんなことはない。それに、小豆沢はいつもこの時間は寝ているだろう?」
「…まぁ、それもそうだよね。」
「杏さん、何の話ですか?」
「あ、いや、何でもないよ。大丈夫。それじゃ、練習始めよっか!まずは声出しから_」
☆★☆
「今日は皆、よく頑張ったね!それじゃ、気を付けてかえってね!」
「夜道には気を付けるんだぞ。寄り道もしないように。では、また明日会おう。」
「はへ~~。今日は一日頑張ったね!」
「うんうん、いつもより沢山練習したから、私疲れちゃった。」
「でも、この調子でいけば、もうすぐある俺たちの初舞台でも十分な実力が出せると思う。」
夕暮れのビビッドストリートに3人の声が響く。
今日は確かライブがあったはずなので、人も少ない。
彩羽と葵は手を繋ぎながら歩き、悠馬は当然の如く歩きスマホだ。
「そっか、来週…だったよね。初ライブ、楽しみだな~!」
「はえ!?で、でも私、入ったばっかりなのに…。」
いきなり告げられた事実に、彩羽が露骨に不安な表情を見せる。
しかし、葵は一切気にしないでと言わんばかりに
「大丈夫だって!彩羽の歌は本当に凄いんだから!」
と言う。
「でもぉ…。」
「心配する事は無いよ。きっと成功するから。」
「そうそう!私と彩羽のコンビなら最強!でしょ?」
「…うん、私、頑張るね!」
☆★☆
「ただいまー。」
「ただいま。」
「あ、お帰り!ケガとかない?何してきたの?」
「心配しないでこはね、何もなかったから。」
「あぁ、今日は一日、常連の高校生達の練習を手伝ってきた。」
「…そっか。」
最近、杏ちゃん達はよく来る二人の高校生達を気に入っているのか分からないけど、
よくかまってあげている。
…やっぱり、元に戻るための『キッカケ』が欲しいのかな。
東雲君と青柳君__彰人君と冬弥君はもう大丈夫そうだし、杏ちゃんも悩みはありそうだけど、
前を向こうとしてる。
…私だけなのかな。
「…寂しかったんだよ?」
「おい、待て、もうすぐ夕ご飯だから__」
「駄目、かな?」
「…。杏、頼み事がある。」
「それ、私も参加しても?」
「もちろん。」
「よしきた。」
…皆、優しいな。
この後、帰ってきた彰人にしこたま怒られる事は言うまでもない。
花粉症で死にそう、ナンダムです。
前提説明もないままとんでもないキャラが誕生してしまいました。
この先、一体どうなるのでしょうか。
よろしければツイッターの方もどうぞ→https://twitter.com/nangokugandamu