ただ見ていたいだけなんてのは嘘です
ライブ当日。
街の小さなハコに、大勢の人が訪れる。
「緊張するね…。」
「あぁ。…でも、俺達は今日までに沢山練習をしてるし、大丈夫だろ。」
「うんうん、私達なら、絶対に成功するね!」
首にまだ残る痣を触りながら、彩羽は二人にそう呼びかけた。
☆★☆
最初は、軽い気持ちで始めた。
私は皆よりお歌が上手いみたいだし、何より友達と歌えるのだから。
でも、現実はそこまで甘いものでは無かった。
「_お前、やる気あんのか?」
「…へ?」
それは、彰人さんが初めて練習に参加してくれた日だった。
「ちょ、彰人!」
「お前だよ、そこの白い髪。」
ベンチに座りながら、物凄い形相で睨みつけてくる彰人さん。
あんな顔、テレビでも見た事ない…。
「私ですか?もちろん、やる気たっぷりです!」
「そうか。なら、もう帰れ。…ガキはいらねぇんだよ。」
「…え。」
「俺たちは遊びでやってるんじゃねぇ。…なぁ、お前、正直どうなんだよ。」
どうなんだよ…?
「どうって…?」
聞き返してみると、彰人さんは心底呆れたような顔をして話を続けた。
「本気で「伝説」目指してんのか?…もしかして、『葵がやってるから私もやる』とかいうクソみてぇな考えが動機か?」
葵ちゃんが目指してるから私もやる。
これは、まぎれもない事実だ。
そう。私は、葵ちゃんとなら_
「…はい。私は、葵ちゃんと全力で、「伝説」を目指すって_」
「そうか。帰れ。」
「…でも、私だって!」
「_聞こえねぇか?」
彰人さんが一瞬溜めてもう一度口を開いた途端、場の空気が一変した。
_あ、まずい。
「帰れぇ!帰らねぇなら殺すぞ!」
「ひぃ!_え、ちょ、きゃ!?」
「あぁ!?このぐらいでビビってんじゃねぇよ!」
彰人さんに胸倉を掴まれ、体が少し浮く。
_この感覚、は。
やばい、やばい…。
こわい…!
「彰人さん、ぐるじい…」
「なんだよ、もう終わりか!?もっと、殺す勢いで来いよ!!」
「彰人、落ち着いて!」
「おい彰人、やり過ぎだ!」
杏さんと冬弥さんが急いで止めに入る。
しかし、彰人さんの力が強すぎて中々離してもらえない。
「彰人さん、彩羽を離して!」
「彰人さん、死んじゃいますって!!!マジで!」
「…。クソが、二度とツラ見せんな。」
「死んじゃう」の言葉に反応したのか、悠馬君の言葉でようやく離してもらえた。
首には薄く痣が出来て、意識も朦朧としてる。
「彩羽、大丈夫!?すぐ手当てするから!悠馬は冷やせる物、葵は…。替えの服と下着、頼める?」
「分かりました。」
「了解です。」
「…彰人!」
彰人さんは、そのまま去って行ってしまった。
「おい彰人、さっきのあれはなんだ!まさか、本当に殺す気だったのか!?」
「んなわけねぇだろ。最終最後は離すつもりだったし。」
「そういう問題ではない、あれは完全にラインを超えている!」
「じゃああいつはあのままで俺達を超えられるか?」
「…そんな話をしている訳では_」
「ハッ、お前も俺と同じ。否定しないじゃねぇか。普通あんなの即通報でもおかしくないぜ?」
「…。」
「ほら、否定出来ない。『伝説』っていうのは、ションベン絞り出して、胃の中のモン全部吐き出してもまだ足りないくらい足掻いて、きったねぇ恰好した奴が掴み取るんだよ。そうだろ?」
「そう…なのかも、な。」
「そう言う事。じゃ、しばらく飲んでくるわ。」
_彰人は変わってしまったのだろうか。
そう思うにはあまりに頼りない後ろ姿の彰人が歩いていくのを、冬弥は黙って見つめていた。
☆★☆
「彩羽」
__おかあ、さん?
「幸せに、生きるのよ」
__どこ?この声、おかあさんの声なのに…。
「あなたは、私の、たからも」
「おい彩羽ぁ!こっちこい!」
__!!
あの、人、は。
「…ここにいたか。さぁ、こっちにおいで?」
や、やだ…。来ないでよぉ…。
「…あ?」
い
嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、彩羽!?」
「…あれ?あの人は?」
目が覚めると、見慣れた天井_がドアの向こうに見えた。
ここ、どこ…?
「ここはバックヤードだよ。普段私達が住むのに使ってる場所。意外と広いんだよ?」
そう言って、笑いかけてくれる杏さん。
その後も、普段は聞けないような部屋の構造、使ってる豆の種類、果てには近所のおじいさんのお手伝いをした話まで聞かせてもらった。
さっきとは打って変わって、平和な時間が30分くらい続いた。
しばらくすると、悠馬君と葵ちゃんも帰ってきた。
そして後ろには、初めて会う人、ビビバス最後のメンバーであるこはねさんもいた。
「あ、おはよう彩羽ちゃん。災難だったね。…ごめんね。彰人君、ああいう人なの。」
「でも、今回はああいう人では済みませんよ。」
悠馬君が、こはねさんに鋭い視線を向ける。
しかし、代わりに応えたのは杏さんだった。
「…本当に、ごめんなさい。大事にはしないように周りに言ってはいるんだけど…。」
「彰人君、なんでそんなに怒ったのかな…?」
「うん、そこが分からないよね。現役時代でもあんなに怒った事そうそうなかったのに。」
二人がうーんと考え込んでいると、「そうでもないぞ」と言いながら冬弥さんが入ってきた。
「あいつは自分を抑え込むのが上手な分、爆発しやすいタイプではあった。…だが、流石に今回程では無かったが。」
「うーん、考えれば考える程分からなくなっちゃうね…。」
少し考えた後、思い出したように冬弥さんが立ち上がった。
「冬弥、どこ行くの?」
「…ちょっとな。」