結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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※キリト君がTSします


わすゆ編
第一話:少女が英雄に求める願い


 

 勇者御記

 神世紀、297年――

 

 沢山の大切なものと、■■を■■ながら、私達は戦った。

 目の前に広がる幾多もの■■■■■■に、立ち向かう術なんて初めからなかったのかもしれない。

 

 それなのに、膝をついた私の目の前で黒い翼を持った■■は、優しく笑っていった。

 

 ――約束したからな。と……

 

 私達の■■は、一筋の眩い星となって、世界を壊した■■に向かって飛び立った。

 

 

 

◆+結城友奈は勇者である─黒の章─+◆

 

 

 

 

 これはきっと、長い夢なんだと当時の俺は思った事だろう。

 いつも通り学校から帰り、ALOで遊んで、夕飯を食べて―――そう言った当たり前の日常をこなす中で、ふとした時に思う事がある。

 

 俺の生きている現実(リアル)が、実際に戦場になったとして、俺の手にはかの世界で生と死を共にした愛剣が握られているとする。

 だとして、俺は戦えるのか。

 まるで、物語のヒーローみたいに、誰かを助けられるのかって……

 

 ――そういう変な妄想が、頭を過る事がある。

 

「例えば、この世界に(おぞ)ましい化け物の軍団が攻めてきたとして、そうなったら俺は、いつもみたいに戦えるのかな……」

 

 くだらない思考だ。

 あり得るはずのない事に、思考をついやす事は勿体ない。そういった事は大抵、一度寝れば忘れる。

 

 風呂上がりの火照った体で、自室のベッドに寝転がる。心地良い涼と温が瞬く間に意識を夢の世界へと誘う。

 

 やがて、意識が闇に落ちて、1、2、3―――

 

 

 

 

 目を開けると、そこは無限に続く夜空と草原の世界だった。

 

「……は?」

 

 まず、間の抜けた声が漏れた。

 状況に対する疑問と、突発的な事象への困惑が一つの疑問符へと集約される。そりゃそうだろう。いつも通り自室で眠りについたかと思えば、気が付けばこんな事態。

 

 ふむ、訳が分からない。

 次は何処のアンダーワールドかデスゲームかって聞きたいが、どうやらそれを説明してくれるナビゲーターは居ないらしい。

 

 いや、冷静にこんなこと考えてるけどまずもってだ。

 

「何処だよ、ここ」

 

 夜空には無数の星々が浮かび、それが一つ、また一つと流れ星のように落ちていく。

 不思議な印象を受けると同時に、どこか神秘性を感じる世界で、俺はまた(・・)何処か得体の知れない場所に飛ばされたみたいだった。

 

「この服は、SAO時代の……?だとしたら、ここは仮想世界なのか?いや、でも……」

 

 SAO時代の出で立ちにそのままな黒いロングコート、背中に装備しているのは漆黒と白銀をした二本の剣。

 このファンタジーチックな装備は、ある意味では俺の魂が最も親しみ着慣れた洋装でもあった。しかし、俺はこの場所がただの仮想世界だと断定できずにいた。

 

 ――仮想世界にしては、リアル?

 

 STLとも違う、真実味を帯びたリアルさとでも言うのだろうか。

 神秘的で幻想的な風景は、妙な懐かしさと温かさを感じさせる。例えるなら、フカフカのベッドの上で毛布に包まれているような、そんな空気感なのだ。

 

「仮想世界でもなく、かと言ってリアルワールドでもない。夢……でもないと思う」

 

 自問自答を数度繰り返して、可能性と選択肢を幾度か逡巡した後に俺は一つの言葉を口にしていた。

 

「……本物の異世界?」

 

 過去にアンダーワールドにログインした俺は、真っ先にその可能性を抱いては様々な情報を元にそれを否定した。

 非現実的だと頭ではわかっていても、今回ばかりはそれが一番しっくり来てしまう。

 

「いや、まさかな」

 

 頼りなく笑って、俺はもう一度星の流れる空を見た。

 それにしても、恐怖的なほどに綺麗な空だな。なんて思いながら、感慨に浸っていた俺の思考は現実に引き戻される。

 

『そのまさかだよ』

 

「……っ!」

 

 少女の声だった。

 優しくて、それでいて何処かこの世界のような懐かしさを覚える声だった。咄嗟に身構えた俺は、辺りを見渡して声を上げる。

 

「誰か居るのか?」

 

 声は聞こえた、しかし肝心なその主はいない。

 けれど、少女の声が再び聞こえる。

 

『こっちだよ』

 

 俺は声のした方を向いた。

 どうするか一瞬迷ったが、結局の所それ以外に取れる選択肢もなくて声のした方へ向かう。数分か、それくらい歩くと視界の先に一つの人影が見えた。

 

「あれは、人?」

 

 急かされたように歩調が早まり、その人物との距離はあっという間に縮まる。

 

「やっと見つけてくれたね!キリト」

 

 そこに居たのは、赤い髪をした制服姿の少女だった。

 先に言うと、俺はこの人物と面識はない。…はずだ。

 結論が煮え切らないのは、声もそうだが魂がこの少女の事を懐かしいと感じているから。俺の意識は彼女との関係を否定していても、心の奥の部分が彼女は赤の他人などではないと叫んでいる。

 

「君は……どうして、俺の名前を……?」

 

「知ってるよー!何たって、ソードアート・オンラインをクリアに導き、アンダーワールドを救って見せた英雄様だもん!」

 

 理由として、俺の聞きたい部分はそこじゃない。心中で声を上げる違和感の正体、それが知りたいのだ。

 だから、俺は質問の内容を変えた。

 

「すまない、聞き方が悪かったな。君は、俺と会った事があるのか?」

 

 真に迫る聞き方だ。返答はイエスかノーに絞られ、それ以外は有り得ない。

 俺の問いに少女は若干驚いたような表情をしたが、すぐにそれまでと同じ微笑みを浮かべた。

 

「……ううん、初めましてのはずだよ。あ、そーだ!私、高嶋友奈って言うんだ!どう、聞き覚えある?」

 

 天真爛漫に、何処となく嬉しそうに笑って彼女は自身の名前を告げた。

 

「いや、知らないと思う。少なくとも聞き覚えは無い」

 

 高嶋友奈という名前は初耳だし、少なくとも俺の友人や知り合いといった近しい人物ではない。やはり、気のせいだったのだろうか……

 

「そりゃそうだよ。だってここ、あなたの住んでた世界じゃないもん」

 

「……え?」

 

 唐突に告げられた衝撃の事実に、俺は間の抜けたを声を上げた。

 

「『異世界』って聞いたことない?平行世界の方がわかりやすいかな?」

 

「いや、どっちも同じ様な認識だけど……て、そうじゃなくて!」

 

 俺の認識がどうかなんてどうでもいい。

 重要なのは彼女の発した言葉の意味だ。

 

「ここが俺の住んでた世界じゃないって、具体的にはどういう事なんだ?まさか、また知らないうちに、STLで何処かの仮想世界にログインしているとか……」

 

 俺の話した推測に高嶋は首を横に振る。

 

「ううん、そう言うのじゃないよ。ここはあなたの住んでいた世界とは、完全に切り離された別世界。異世界って表現したのは、それが一番分かりやすいかなって」

 

「そうか……」

 

 その説明はシンプルでありつつも、これ以上ないものだった。

 つまり、ここは仮想世界でも現実でもなく、本物の異世界。俺が先程、予感程度に言葉にした可能性がまさか当たっているなんて……

 世の中、もうこれ以上驚く事なんて無いと思っていたが、いつだって起こる事象は俺の予想を遥かに越えてくる。

 

「あんまり驚かないんだね?」

 

「十分に驚いてるよ。少なくとも今年で一番なのは間違いない。でもまあ、有り得ないって否定する程でもないからかな?これまでだって、有り得ないと思える事は色々とあったし……」

 

 事実として、俺は様々な仮想世界を巡りそこで様々な戦いと同じだけの出会いを経験した。

 極めつけはあのアンダーワールドだ。今更本物の異世界が飛び出して来た所で、地団駄を踏んで一蹴したりはしない。

 

「信じるよ。何より、君が嘘をついている様には見えない」

 

 ざっくりとした返答ではあるが、難しく考えても答えが出ないなら思考するリソースも無駄でしかない。

 こういった場合で重要なのは、状況を正しく、かつ早く理解し、的確に情報を手に入れる事だ。その為に、今彼女を疑うのは得策じゃない。

 

「おー、さすが黒の剣士!話が早い!」

 

「……さっきから俺のことを『英雄』とか『黒の剣士』とかって呼んでるけど……何で異世界人を自称する君が、こっちの世界の出来事にそんなに詳しいんだ?」

 

 元の世界でならいざ知らず、別の世界にまで黒の剣士の名が知れ渡っているとは思えない。ジト目で質問すると、高嶋は慌てて手を振った。

 

「え?あー、えっと、それは、ほら?あれだよ!私ってこの世界で言う神様みたいな存在だから……別の世界の事にも少しくらいは詳しいし、何よりそれくらいは知ってないと、あなたと言う人物をここに呼び出せないからね!」

 

 言葉の端が詰まっていて何処となく怪しいが、一応筋は通っている。

 彼女は今自分を神様だと自称したが、確かに身に纏う雰囲気は俺が今までに出会ったカーディナルやユイといったシステム管理者側の人間に大きく酷似している。

 

「まあ、今はそれでいいか。でも……そんな所に俺を呼び出して、一体どういうつもりなんだ?」

 

 これ以上追求しても話が進まないと思い一旦、本題を進める事にした。

 

「それはね……お願いがあるんだ。それこそ、何千何万という命を救ったあなたじゃなければ頼めないような、難しいこと」

 

 それまでとは一転して、真剣な表情で高嶋はそう言った。

 SAOとアンダーワールドを救った英雄の偶像、それほどの者ではなければ頼むことすら出来ないような難題と来れば、自然と身構えてしまう。

 

「それはまた、偉く大それた話だな」

 

「ごめんね。いきなりこんな事言われても、困っちゃうよね?」

 

「まあ、困るかどうかはぶっちゃけ内容次第ではあるけど……」

 

 聞かない事には始まらない。

 何より、この状況で即刻帰宅を所望するほど薄情ではないつもりだ。

 

「えっと……君が言うお願いってやつには、人の命がかかっているのか?」

 

「うん、そうだよ。私達の戦いには、常に多くの人の幸せと命が掛かってる。でもね、あなたに救って欲しいのはそんな『不特定多数の誰か』じゃないんだ」

 

 彼女の言葉には、一言では表せない程の切実な思いが込められていた。多くの罪なき命、それらを救う事以上に彼女が俺に願う事、託したいものとは何だろうか。

 どちらにしたって、彼女にとってそれだけ大切な人だと言うことだけは確かで、それを聞いた時点で俺の返事は決まっていたんだと思う。

 

「いつも……沢山の人の命の為に、小数の生贄が命を燃やしてきた。それ自体は仕方ないし、そうしないと世界が終わっちゃうから戦い続けるしかない。世界は何処までも残酷だから、私に出来る事なんて、こんな小さな抵抗くらい……でもね、キリト。あなたならそんな運命も壊せる」

 

 高嶋がある方向を示唆した。指差した方向を見ると、そこには一枚のホロウウィンドウが出現し、無限に広がる灰色の世界とそこに存在する強大な『何か』が映っていた。

 

「あれが『天の神』。全ての元凶」

 

「…………」

 

 言葉を失う。

 それは世界そのものみたいな、人の力の及ぶはずのない神威その物だった。何処までも大きく、無慈悲に残酷に全てを焼き尽くす。文字通り『神』と呼ぶに相応しい圧迫感だ。

 これまで戦った中で、あのレベルのプレッシャーを内包した存在は覚醒したガブリエル・ミラーをおいて他に居ないと断言できる。つまり、俺一人じゃ倒せない相手という事だ。

 

「……灰色の渦の中に、何か、居る?」

 

 そんな灰色の世界に、白い生物のようなものが幾つも出現する。――全部で一二体居るそれらの外見はどれもが異質かつ奇怪で、それぞれがSAOのフロアボスクラスの威圧感を放っていた。

 

「そう、こいつらが『バーテックス』。私達の住む世界を殺す存在」

 

「バーテックス……」

 

 『頂点』を意味する単語を名付けられたそれらに、不覚にも納得してしまう。一人ひとりは小さな存在に過ぎない人間が、あれを見た瞬間に感じるのは生物としての本能的な恐怖と確定的な敗北だ。

 

「私たち神樹に見初められた勇者はね。三百年もの間、何代にも渡ってバーテックスから世界を守ってきた」

 

「三百年……!?」

 

 途方のなさに絶句する。それは人の尺度で見れば無限にも思える時間で、人の魂の寿命が百五十年前後とされている事から、優にその倍はある。

 星王がアンダーワールドを守護した二百年よりも、遥かに長い時間なのだ。

 それこそ魔法の力でも無ければ、あんな化物に太刀打ち出来るとは思えない。仮に対抗する力が存在したとしても、とても犠牲なしに成り立ってきた戦いだとは思えなかった。

 

「そうか、君は――」

 

 その時、俺は理解してしまった。

 目の前の少女が何者で、どう言った存在なのか。身に纏う果てしない神性と、今の「私たち」という言葉……その意味するところはつまり、彼女こそがバーテックスと戦ってきた『勇者』の一人という事じゃないのか?

 俺が言いかけた単語を、彼女は察したのか優しく微笑んで答えた。

 

「やっぱり、分かっちゃうか……納得して、受け入れて、自分で選んだ道だとしても、殆どの場合で私達の戦いの終着点は決定してる。それでも、私はあきらめるのだけは嫌だ。勇者が『勇み人を助ける者』とするなら……英雄って呼ばれたあなたなら、その勇者すらも助ける事が出来ると思う」

 

 その問いは可能かどうか以上に、俺自身の覚悟への確認だった。

 俺には選択肢があるんだ。過去に俺が言ったように、戦えない人間なんか居ない。――戦うか、戦わないか、その選択肢があるだけなんだ。ここで彼女の願いに背を向けて、元通りの日常に戻る道だってある。けど、そんなのは余りにも残酷な話じゃないか。

 神の遣いとして、同じ神と戦う少女達……唯一、神に救われる事がなく、台風の前の花のように無惨にその花弁を散らしていく。俺が本当に英雄ならば、星王ならば、それ以前に剣士を名乗るのなら……取る行動など一つしかない。

 

「改めて、お願い。私達の世界に渡ってバーテックスと天の神を倒し、勇者を救ってあげて欲しい。もしもそれが達成されたら、私に力の及ぶ範囲でどんなお願いでも一つ叶えるって約束する。だから…………!!」

 

 その言葉には万感の思いが宿っていた。それはもう、俺にとって赤の他人から向けられるそれとは到底思えなくて、不思議なくらいに無視できない。

 ――これもまた、俺の戦いって事か。

 逃れられる戦いも、その逆も、どちらも同じ戦いならば、剣を取るも取らないも結局は俺次第だ。

 ここでどう返答するか。

 過去の俺ならいざ知らず、今はもう最初から決まっていた。

 

「ああ、分かった。やるよ。俺の力が何処まで通用するかは分からないけど、やるだけやってみようと思う」

 

 高嶋は一瞬驚いたような顔をしてから、瞳に薄く涙を浮かべた。

 

「……ありがとう」

 

 どうにか出来る保証なんてない。あれ程に絶対的な力を前にして、黒の剣士の剣が通用するのかも未知数だ。

 死ぬかもしれない、何も出来ずに終わるかもしれない。恐怖はあるが、こんな状況すらも笑えないで何が英雄だ。俺の力がバーテックスや天の神に通用するのか、挑戦するくらいの気持ちでようやくスタートラインだろう。あの日、SAOの大地でデスゲームの宣告を受けた時がそうであったように、俺は生きる意思を否定したくない。

 

「私は本来、現世に干渉できない存在だから、残念だけど向こうに行ったら私の事は忘れちゃうの」

 

「え?そうなのか……」

 

 ――そうなると、情報も何もかも振り出しからか……

 少しくらい持ち出せたら嬉しいが、この際贅沢は言っていられない。納得しようとした所で、高嶋が言葉を補足した。

 

「大丈夫!私の事は忘れても最低限の情報なら、ここで話した内容は何となく覚えてるはずだよ。さっきの光景は、君のフラクトライトに情報を保存する目的もあったから!」

 

 フラクトライトの事についても熟知しているという事に驚きだが、それなら何はともあれ一安心だ。

 

「分かった。色々とありがとう。それで、どうやって向こうの世界には行くんだ?」

 

「目を瞑って、キリトが一言―――――――って告げれば、後は神樹様が飛ばしてくれるから」

 

 その起句を聞いて、俺はつい微笑を浮かべてしまった。その言葉は、俺達が異なる世界に旅立つ時にいつも口にしている言葉で、こんな時だからこそあの言葉と一緒に旅立てるのが少し嬉しかった。

 俺は、言われた通りに目を瞑った。

 

「分かった。……それじゃあ、行ってくる」

 

 辛く厳しい戦いになると思う。今まで以上の絶望が、理不尽が、悲しみが待っているかもしれない。それでも、俺は進むと決めたのだ。

 

「リンクスタート」

 

 起句の発言と共に、俺の意識はここではない別の場所へと送り出された。

 




遂に、《勇者であるシリーズ×ソードアート・オンライン》という禁断の箱に手を出してしまいました
正直いって僕の技量で何処までやれるか分かりませんが、どうしてもこの世界で戦うキリト君が見たかったんです

高pt評価などしていただければ作者のモチベが上がります!
よろしくお願いします!!
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