閲覧注意!!
今回はとんでもない事になります!!
キリトと千景の失踪から早くも一週間が経過し、季節は六月から七月へと移り変わろうとしていた。
そんな梅雨の暮れごろ、黄昏の空の下で若葉は集まった人々の前に立っていた。勇者から民に向けた演説、一時は延期の方向で話が進められていたが予定通りの決行を上里ひなたが強く志願した事によって、今この様になされている。
民は今、数々の疑念の抱いている。
情報規制はされていても、世間ではまことしやかに囁かれているのだ。前回の戦いで苦戦を強いられたのは、勇者の一人が暴走したせいだと――――
火のない所に煙は立たないと言うし、一度口火を切れば『否定材料のない噂』などあっという間に真実として広まるのだ。
――あんな事を、本当に私は言わなければならないのか?
大社の立てた筋書きはこうだ。
前回の戦いにおいて勇者が暴走した事実は肯定し、その上で全責任を千景に押し付ける。民に対して、彼女の精神性や価値観は勇者に相応しくなかったと説明し、残った勇者はそうではないと伝えるのだ。人とは比較対象をよういた表現に騙されやすい。それを利用した演説内容だと言えるだろう。
しかし、若葉はこの暴走の責が千景にはない事を知っている。
その上で、今もどこかで中継などを見ているであろう彼女に対して、重大な裏切り行為を若葉はしなければならない。
「郡、千景は……っ」
最初の方は大社の指示していた通りに出来ていた。しかし、千景の話題に移った瞬間に若葉は重大な岐路に立たされた。
今ここで勝手な事をすれば、勇者の評判は地に落ち、民からの信用を失うかもしれない。だが、若葉にはもうそんな大義名分だけで友を悪く言うような事は出来なかった。
「郡千景は、紛れもなく勇者だった!」
その上で、若葉は全てをかなぐり捨てる道を選んだ。
「確かに、彼女は心のバランスを崩していた。だが、千景は、血を流しボロボロになってでも仲間を守った。自らの身を挺してでも人を守ろうとする、それを勇者と言わずして何というんだ!例え全ての人に否定されても、千景の友である私達は彼女を勇者だと言い続ける。球子も、杏も、千景も……私達は六人で勇者だったんだ!」
人々の間で走るどよめき。
「でも、千景って勇者は民間人まで傷つけようとしたって……」「幾ら情緒が不安定になってたとしても、擁護できねぇよ」と、なおも否定的な言葉を口にする者。
「だけど、命をかけてまで戦っているのも事実なんだよな」「乃木様もああ言ってるみたいだし……」と、その言葉を信じて肯定的な者。それぞれ意見は二分しているが、どちらも真実であり、またその判断材料を持って物事をどう判断するかは民次第だ。
しかし、現時点では若葉がそうは言っても、天秤は前者の否定的な意見の方へと傾く。その理由が、勇者の起こしたもう一つの問題行動だった。
「じゃあ、郡千景とは別に、桐ヶ谷和葉に関してはどう説明するんだよ?あいつが民間人を相手に口汚く罵ってる様は、全部ネットに上がってんだぞ?まさか、あいつまで心のバランスを崩してたから仕方なかったって言うのかよ?」
大勢居る中の一人の言葉にも関わらず、妙にそれは群衆に浸透した。
千景の暴走が仕方のないものだったとして、キリトがあの村で村人達を罵った動画はすでにネット上で拡散されている。それも、彼女が千景の攻撃から村人達を守っていた姿は映さず、罵っている部分だけを悪意的に切り抜いた状態で……
「キリトは……あいつは、仲間を傷つけられたのが許せなかったんだ。あの言動は、誰よりも仲間を思っているからこそ出たものだ!」
だが、今度は人々も懐疑的だった。
一人ならまだしも、二人も不祥事を起こした者が居れば勇者そのものに懐疑的な目を向けるものが居てもおかしくはない。それなら、大社の言う通りにあんな奴は勇者に相応しくなかったと言って切り捨ててしまえば、勇者という神聖的存在の面子は保たれる。
大社は、勇者が『神の使い』として民から神格化される状況を望んでいる。
救世主であるはずの存在が、民を傷つけ、暴走し、罵る。
形だけ見れば、それは許されざる事なのだろう。
だが、若葉には出来ない。
それだけは言えない。
何故なら、若葉は自分も含め、勇者が神聖な使徒などではなく、ただ力を得ただけの人間のを知っているからだ。
一方その頃、若葉の演説の裏で、ひなたはある人物を迎え入れていた。
「人払いはしておきました。ですが、本当にやるつもりですか?」
目線のすぐ先には、もう演説する若葉の後ろ姿が見えている。そんな場所で、ひなたはその人物に最後の確認をした。そして、黒衣に包まれたその人物は薄く笑って首肯した。
「これが最善手だとは俺も思ってない。むしろ、下の下、とんでもない悪手なんだろうさ。でも、重要なのは話す中身じゃなくて結果だ。それさえ得られるなら、俺は何だってやるよ」
キリトはそう言って歩を進める。
これからやろうとしている事は、ひょっとすれば意味のない事なのかもしれない。人々の反感を買い、仲間まで失望させる。そんな類い案を実行しようとし、それを本人も自覚していても尚、その歩みは毅然としていた。
□
壇上に上がった時、誰も彼も視線は俺に向いていた。
どんな風にしよう。
まずは高笑いでもしてみるか?
SAO第一層ボス攻略の時みたいに、悪辣に他者を馬鹿にして、自身を引き立てるがごとく言葉を並べ立てれば思い通りの結果が得られるんじゃないか?
ストーリーは何でもいい。バックグラウンドは既に出来ている。幸いな事に、民からの俺への評価はすでに懐疑的だ。それを薄氷の上で保っているのは、勇者としての箔とこれまで戦ってきた実績に基づくものだと自覚している。
これまで、俺は進化体バーテックスの複数討伐や小型バーテックスの大量撃破によって、勇者の中では実力において若葉と同等の評価を得ている。
ならば―――――――これを使わない手はない。
「フッ、ハハハ……ハハハハハハっ!!」
それによって全ての視線は俺へと釘付けになる。
第一の印象付けはクリア。これによって、これから放つ言葉はより皆の記憶に深く印象づく事になる。
「……キリト?」
若葉が戸惑いを隠せない様子で固まっている。
心中でそんな彼女に謝りつつ俺は口を開いた。
「本当に、どうしようもない連中だ」
目標は一つ。
民のヘイトをコントロールし、俺が一役に担う事。これによって千景への批難も、勇者への懐疑心も、全て引き受ければいい。
だが、この為に気を付けるべき事は二つある。
まず俺の発言によって、他の勇者にまで批判が飛び火しないようにする。そして二つ目は、大社のシナリオに出来るだけ形を似せる事。俺の思い通りに事を進めるだけでは、大社の反感まで買ってこの先、自由に動けなくなる事が考えられる。
故に、勇者を立てつつ、大社を頷かせる方向に導く必要がある。
「俺をこんな
これによりまず勇者と、俺の立場を明確に分ける。
しかし、これではまだ足りない。このまま言葉を続けたのでは、大社の内情を知らない民は事情がわからず、勇者全体に良くない印象を持つかもしれない。ただ仲が悪いだけ、下手をすれば暴走した勇者が勝手な事を言っているだけだと、状況をさらに悪くする可能性がある。
それでは、こんな所まで出てきた意味がない。
民の視線に乗る感情を読み取りつつ、的確に言葉を選ぶ必要がある。
「不思議そうにしているな。『こいつは何を言っているんだ?』『勇者がまた暴走した』とでも思ってるんだろ?生憎と俺の精神はまともだし、勇者の加護に流された事も一度もない」
かの茅場明彦のスピーチは良い参考になる。
相手の気持ちをこちらが代弁する事で、こちらがあくまで理性的である事を理解させるんだ。
「まあ、いきなりこんな事言われても意味が分からないのは当然だよ。だから、一からちゃんと説明してやる」
あまり長々と時間はかけられない。
最速で内容を纏め、組み立てた文節に基づき用意してきた文言を並べろ。
「勇者は神聖な存在、人々を守る守護者って大社はもてはやしてるけど、そもそも最初の戦いの時点でまともに戦えた奴がどれくらい居たと思う?俺達六人のうち、半分は殆ど使い物にならなかったよ。訓練は長いこと受けてたみたいだったけど、実戦を積まなさ過ぎて死の恐怖に足がすくんでしまったんだ」
民の間に走る驚愕。
中には難しい顔で頷いている奴も居る。なるほど、これくらいの事は予想の範疇だった奴も居る訳だ。実際、あれだけ討伐数に差が出てたら察する奴は居てもおかしくない。乃木若葉のカリスマと、それを引き立てる大社の印象操作が素直に上手かったんだ。
「と、まあ、それでも頑張ってた方だとは思うよ。そこは俺も素直に称賛してる。でも、俺はそんな中で誰よりも多くのバーテックスを倒した。それが出来たのは、三年間外の世界で見たこともない様な強力な個体と散々戦ったからだ。もう一度言うぞ、俺は"こいつら"とは違う」
自身があくまで孤高であり、仲間意識などない事を理解してもらえればそれでいい。
これは前座、本題はこれからだ。
「お前達は、俺が村人を蔑んだ事に随分と怒ってるみたいだが、逆に聞くぞ?何でここまで活躍をしているのに、俺まで『役立たずだ』って馬鹿にされなきゃいけないんだ?」
それを言うと、反応は二分化される。
『役立たず』という言葉に対して、心当たりのありそうな反応をしている者達と、そうでない者達だ。よし、畳みかけよう。
「あの村の連中は『勇者は役立たず』だと、郡千景の実家に悪口を言ってたらしい。ネットにも同じ様な書き込みがあったな?まあ実際、現実に被害が出てるのは『確か』だし、皆の言いたい事も分かる。でも、俺にとっては不愉快極まりない訳だ。何せ、他人に足を引っ張られて皆から悪口を言われるんだからな」
そろそろ若葉辺りが力づくで止めに来かねない。
動揺している間にさっさと終わらせてしまおう。
「フッ、本当に馬鹿な話だよ。そんな風に言われても、若葉達は常々、
これを語るのも嘲笑うかのようにする。
そうすれば、こんな奴らでも少しは勇者に同情的な目を向けるはずだ。そして、批判してた奴らもいざ指をさされると戸惑うのは確実。内情を少しばかり明るみに出し、実際の所なにがあったのかの判断材料を与え、そこに加えて俺がヘイト発言をする。
ああ、こんな事ならもっと効果的な演説方法とか勉強しとけばよかった。
「……話が逸れたな。別に勇者が批判される事に関しては、俺自身どうでもいいんだよ。でも、ちゃんと戦えてる俺まで批判されるのは耐えられないから、こうしてお前らに言ってるんだ」
背を向けて、最後の一言を演じる。
これで締めだ。
「何度でも言うぞ。命を守られてる分際で、俺をこいつらと同じ様に批判するのはやめろ。――以上だ」
そうして、さっさと壇上から退散する。
これがいい方向に進むのかは分からないが、少なくとも若葉達が連帯責任に問われる事はないだろう。皆からすれば、俺は自分勝手に仲間を貶め、批判に対して痛烈に言い返すような、勇者とは真逆の人間性に見えているはずだ。
他者を叩く連中ってのは言い返してくる奴に敏感だし、そいつらは勝手に叩き棒を変えて好き勝手やる事だろう。
世間的な印象も、若葉達は批判されてもなお誠実に戦う乙女であり、俺はそれを蔑む者として固まる。
全部が上手くいくとは思っていない。
これが悪い方向に向かってしまう可能性もある。
ただそうなった時に、責任を取るのが俺や大社の連中だけで良いならそれがベスト。
何せ、彼女達には何の罪もないのだから―――――
本当にすみませんでした
批判はキリト君ではなく僕にしてください
作者が不甲斐ないばかりにすまないキリト君
こんな風にしか書けない僕を許してくれ