結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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また頑張ります


第六十話:言葉無き戦い

 

 夜風に乗って駆け抜けるが如く、黒と青は闇色に染まる大橋で躍動する。

 勇者同士、それも変身した状態で神器まで持ち出しての決闘。前代未聞の戦いとなったが、この大橋は二人の決戦には丁度いい舞台だった。海峡部十キロメートルの橋上は、勇者の身体能力を用いた戦いを行うにしても十分な長さであり、左右には逃げ場を無くすように瀬戸内海が広がっている。

 

 剣撃の光が、闇を切り裂く。

 開戦と同時にキリトが振り抜いた漆黒の剣と、若葉の生太刀が唸りを上げた。

 

 その一合。

 しかし、たった一合にして達人の領域を優に超える。

 

 波の剣士ならば、その一閃のみで昏倒は免れないがこの二人からすれば挨拶代わりのそれに他ならない。

 

「やるな」

 

「そっちこそ」

 

 鋭い眼光が鍔ぜり越しに互いを射貫く。

 拮抗は一瞬、そこから即座に左手の空いた剣で切り返したキリトに対して、若葉は一旦鍔迫り合いを打ち払って冷静に対処する。そこから透かさず〈ダブルサーキュラー〉を放つが、これを若葉は受け止めるでもなく身のこなしだけで捌きカウンターの居合を放つ。それをキリトは姿勢を低くしながら足払いを放つことで回避する。当然これも若葉は半歩引く事で難なく凌いでいる。

 

 それによって、二人の距離はいったん離れる。

 この数度のやり取りすらおよそ一秒にも満たない。数多のフェイントや搦め手、技術の粋を凝らした攻めと防御、まさに神業と評すべき攻防をこのスピードで平然とやってのける技量。それこそが、まさにこの二人が最強の勇者だと評される所以だ。

 

 ――スピードと手数はこっちが上。でも、パワーや一発の重さは向こうに分がある。

 

 キリトからして、正面からの力比べは得策ではない。

 だが、若葉とて速度に任せた三次元的な戦いを避けたいのは同じだ。

 

 ステータス的な総合値はほぼ互角であり、スピードとパワーの差は決着の直接的な要因にはなり得ない。ならば、最後に物を言うのは技量の一点のみ。

 

「ッ!!」

 

 僅かな吐息からキリトが動く。

 軽やかなステップで左右に何度かフェイントをかけ、一刀の間合いに踏み込む僅かな(きわ)に更に加速しその姿が若葉の正面からかき消える。気配は瞬時に背後へと移動したのを感じて、若葉は視線すら動かさず刀を背中に回した。

 

「っ、嘘だろ?」

 

 急加速によって背後を取り、奇襲によって討ち取る。

 それがこうも簡単に防がれた事にキリトは動揺した。

 

「甘い!」

 

 一度の搦め手に失敗すれば、後に待っているのは若葉の猛烈な反撃だ。

 間合いの外からヒットアンドアウェイを繰り返すキリトを、若葉の脚で追いかけるのは難しい。しかし、こうして一度誘い込み間合いの内にさえ入ってしまえば彼女にとって有利な戦況となる。

 故に、若葉が選んだのは徹底的な待ちの姿勢。カウンター主体の戦法だった。

 無論、受けに回るという事は高いリスクが伴う。

 状況を動かす権利を最初から捨てるという事は、つまりは一度のミスで勝負が決する事を意味するからだ。

 

「斬ッ!!」

 

 気迫と共に振り下ろされる刃が、キリトの頬を掠める。

 何とか距離を離そうと剣術や格闘術を交えながら応戦するものの、一度掴んだチャンスをそう簡単に手放す若葉ではない。なおも二人は一進一退の攻防を繰り広げ、どちらかに天秤が傾くことはない。互いに掠り傷は幾多も負っているが、その程度の痛みが二人の集中を妨げる事はない。

 

 若葉による攻め――斜め上段を剣を滑りこませて受け流し、逆袈裟には足さばきによる回避で回答。

 キリトは潤沢な小技と、スキルによる急加速の連撃を持って近距離の苛烈な読み合いに対応していた。

 

 それだけ熾烈な決闘であるにも関わらず、戦闘はごくごく静かな様相を呈していた。剣と剣が切り結ぶ音も、足捌きの音も、全てが洗練され過ぎているが故に荒々しさは微塵もなく、凪いだ水面に僅かな周波を与えるだけ。

 かと思えば、勝負の一手の際はズダンと大きな踏み込みが響き、大橋のアスファルトに轟く。

 

 ――攻め難く、受け辛い。全く、凄まじい技量に裏付けられた剣技だ。決闘中だと言うのに見惚れてしまいそうだよ、キリト。

 

 純粋な剣の技量だけなら、若葉に軍配が上がる。しかし、咄嗟の機転と急場の凌ぎ方はキリトの方が遥かに上手い。

 戦いの上手さという一点において、若葉はこうも感動した事は今までに一度もない。あらゆる努力と経験によって研ぎ澄まされた戦闘技術は、若葉の血の滲むような研鑽によって生み出された剣技に、決して劣るものじゃない。

 

 ――強いな、若葉。ただその一言でしか語れない。その歳で、俺みたいなズルをせずにそれって、一体どれだけ……

 

 実際、記憶的な意味で言えばキリトが研鑽にかけた時間は若葉の倍近い。

 ……にも関わらず、こうも互角なのだ。

 

 技を高め合う試合ではなく、雌雄を決する為の死合い。勇者同士で私闘を行うなど、それこそ決して許される行為ではない。しかし、これこそ二人の望んでいた形なのだ。誰の目もなく、大義も必要とせず、感じられるのは己と相手のみ。

 二人は無意識のうちに笑っていた。

 あまりにも深く、楽しい時間。

 言葉では交わせない思いまで伝わってくるようだった。

 

 だが、楽しい時間というのは得てしてそう長くは続かない。何十、何百というやり取りに差し掛かった時、勝負は大きく動く。

 

「キリト!!」

 

 若葉が吠えた。

 生太刀が月光を帯びて幻想的一閃が繰り出された。

 

「若葉ッ!!」

 

▽片手剣4連撃技▽

ホリゾンタル・スクエア

 

 剣劇の光と、光が、互いを削り合いながら唸る。

 

▽片手剣7連撃技▽

デッドリー・シンズ

 

 怒涛のスキルコネクトによる連撃に、若葉は全神経を持って相対する。

 このやり取りで勝負が決まる。言葉のない決闘は今ここに結実し、遂に勝者を決めようとしている。

 

「「決める!」」

 

 互いの覇気がそこで重なった。

 

▽片手剣重単発技▽

ヴォーパルストライク

 

 決死の刺突と、神鋭の刃がぶつかり合う。

 大橋を大きく揺らすほどの衝撃が轟き、剣技のもたらす極光が夜闇を照らし出す。削り合う。削り合う。削り合う。

 

 精も根も、自らの命すらも削り合う死闘。

 両者の心中はシンプルにして唯一つ『勝ちたい』。

 

 勇者である以前に純粋な剣士として強者を打ち負かしたい。その闘争心を先に露にしたのは若葉の方だった。

 

「ッ、貰っ…た!!」

 

 やはり正面切っての力比べでは若葉には敵わない。ここに来て如実に現れた『差』が、キリトの渾身の刺突を弾いた。

 ガラ空きの肩口から脇腹にかけて、若葉は容赦なくその一刀を振り下ろした。

 

「ぐあッ……!」

 

 鮮血が散る。

 先に一刀を届かせたのは若葉だった。

 

 ――……なっ、コイツ!?

 

 だが、若葉の脳内を支配したのは勝利への歓喜ではなく、凄まじいまでの驚愕だった。

 

「うおぉぉおおーーーッ!!」

 

 咆哮する。

 黒の剣士は受けた傷を物ともせず、次の一撃をつがえていた。二刀目による追撃、それはキリトが若葉に対して勝っている『手数』という利点の為せる技だ。若葉がキリトに『差』を持って一刀を届かせた様に、キリトもまた自身の持ちうる『差』によって剣を突き出す。

 

▽片手剣重単発技▽

ヴォーパルストライク

 

 二撃目。

 クリムゾンレッドが一層の輝きを見せて、若葉の体へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 私闘は終わった。

 大橋の上には、二人の剣士が転がっていた。

 

「よくも、ここまでやってくれたな……?」

 

「ああ、お互いにな」

 

 片や黒衣の剣士は肩から脇腹にかけて、片や青衣の武士(もののふ)は鳩尾の辺りに穿たれたような傷を残していた。

 しかし、これだけの傷を負っているにも関わらず、二人にとっては致命傷ではない。キリトも、若葉も、深い傷は覚悟の上で受ける時に致命部位を逸らしていたのだ。

 

「これは、どっちの勝利だ?」

 

 若葉が訊く。

 

「どっちでもないだろ。この有様なんだし」

 

 死ぬことはないが、立ち上がる事も出来ない。

 恐らく、もう少しすれば騒ぎを聞きつけた大社の者達が駆け付けてくる事だろう。割とヤバイ事をしでかしこそしたが、二人の顔は憑き物が取れたように満足気だ。……いや、元から互いに吹っ切れてはいたから、ただ良い気晴らしだった程度に考えた方がいいのかもしれない。

 

「言っとくけど、お前の要求は飲まないぞ?負けてないからな」

 

 キリトが念を押す様に言うと、若葉は首肯する。

 

「当然だ。でも甘かったなキリト。私の目的の一つは達成されてしまった」

 

「何だって?」

 

 訝しげな表情をしたキリトに、若葉は心底愉快そうに答える。

 

「お前の意思を変えさせる事は、私には出来なかった。だが、もう一つ、私はこうも言ったはずだ。全てはお前を一人で行かせない為だと……どうだ?これでもまだ、私の手を振り払う事が貴様に出来るか?」

 

 若葉は僅かに腕を動かして、隣に寝転がるキリトの手に自身の手を重ねた。

 それを見て、キリトはおかしそうに笑う。

 

「はははっ……そうだな。この状態じゃあ、確かに出来そうもないよ」

 

 黒い瞳が眼前に広がる夜空を映す。

 明かり一つ存在しない大橋から見る星は、皮肉な事に四国の何処から見上げるよりも綺麗だ。あの星一つひとつが、この世界の人々の絶望であり、そして希望でもある。やがて夜が明ける時を人は待ちわびるものだが、今だけはもう少しこの時間が続いても良いと二人の剣士は思っていた。

 

 あまりにも呆気なく、そしてあっさりとした幕切れによって『言葉無き戦い』は終わった。




今回は刺激的で熱い戦いというよりも、比較的あっさりとした戦いになったのではないかと思います
キリトと若葉の対決は互いに決着なんてつかないでしょうし、そして無駄に言葉を話させたりするのも無粋だと思い
決着の瞬間のみ雰囲気付けに気迫を乗せるという感じになりました

一つ補足として
決闘中に若葉の勇者システムが没収されなかったのは、若葉にもキリトにも明確な殺意がなかったからです
そこは分かってくれると信じてます
だって神樹様ですもの()

こんな風に作者の自分勝手はまだまだ続きます
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