再びこのタイトルを使ったという事はもう完結は間近という事です
和解というにはどっちつかずで、勝敗すら決まらなかった決闘の末……確かな形で二人の勝負は決着した。
七月の初夏から、八月の猛暑へと。季節は本格的な夏の色へと移ろい往く。
久方ぶりの朝のジョギング。
若葉と友奈と俺の三人で、早朝の若干生温い空気の中を走る。今は俺の顔も悪い意味で目立っているから、白昼堂々って訳には行かないが、それも諏訪の人達の居住地域なら石を投げられる様な事はない。むしろ、あんな最悪の演説があったにも関わらず、彼らは何の気もなく接してくれた。
故に、俺自身は現状をそこまで憂いてはいない。
遅かれ早かれという言葉があるが、結局俺にとって世間や周りからの評価ってのはどうでも良くて、仲間さえ無事ならそれで良かった。……とは言え、その悪評も若葉達のお陰で緩和されつつあるのは嬉しい所ではある。
そんな八月も中旬にさしかかろうという朝の事だった――
「あっつー……八月も中旬となると、早朝でも灼熱地獄だな」
丸亀城の本丸城郭にて一息つく一向の中でも、俺は流れる汗に憂鬱な思いを告げていた。
体力の方は特に問題ないが、ゲーマーの俺にこの猛暑は少々辛い所がある。
「
言って視線を向けた先の若葉と友奈。
二人共かなり汗をかいているものの、ひなた特性のスポーツドリンクをごくごくと飲んで爽やかに笑顔を浮かべている。この何とも言えない敗北感はなんだろうか……
「勇者たる者、この程度の暑さに負けていられないからな」
「私も、だいぶ調子が戻ってきた感じ!今なら徒競走したってキリちゃんには負けないよ!」
「ははっ、そりゃ結構な事で」
そもそも俺の強みは身体的な体力や足の速さとかではなく、長時間に渡って集中を持続する力とかそういった部分だとだけ言っておく。
ついこの前まで入院生活だったのにも関わらず、既に本調子に近いフィジカルお化けと一緒にしないで欲しい。今はただこの特性スポーツドリンクの程良い塩分の甘みと酸味が愛おしいばかりだ。
「そう言えば、神樹様の結界強化の話って聞いた?」
「ああ、一応は……大社が今、そういう計画を進めてるらしいな」
何でも今回の結界の強化が成功すれば、もうバーテックスが結界内に侵入してくる事はなくなると大社の神官からは聞かされた。
それが本当なら凄い事だとは思う。何せ、それが為されれば勇者が命をかけて戦う必要も、命をかける危険を侵す事も無い。今まで通りとまでは行かなくても、永遠に思えた戦いの日々にも一先ず区切りつくって事だし、何しろ勇者はもう全員がボロボロだ。
これからも今の調子で戦い続けるのは、どう考えたって不可能に近い。
そう考えれば、この救済には藁にも縋る思いを俺も持っていた。
「その為に様々な儀式を急ピッチで進めているという話だ。結界の完成までは残り数ヶ月……その期間四国を守り切るのが、私達の最後の役目になるかもしれない」
若葉の言葉に、俺と友奈は力強く頷いた。
「うん。でも……『もう一つの対策』って何なんだろ?」
そう、これが最も気になる点なのだ。
大社は今回の儀式に際して、二つの異なるプランを用意している事を明かした。まず一つ目は結界の強化の事で、その完了までは数ヶ月……これを大前提とした話ではあるが、何事にも不測の事態というのは付き物である。結界の強化が失敗したりとか、大規模な計画であるからこそ様々な事が懸念される訳だ。
故に大社は、これに加えてもう一つ起死回生の手段を用意していると言っていた。
そして、この対策の内容は俺達勇者にも秘匿されているのだ。
これまでの傾向からして、それがロクでもない手段なのは火を見るよりも明らか。
「とにかく、その為にも絶対に次の戦いに勝たないと!そうすれば、もうバーテックスは来なくなるし、平和になる」
友奈はこう言っているが、俺は正直そこまで気楽にはなれない。
いや、もしかしたら友奈も若葉も、心の何処かでは不安には思っているのだろう。それを表に出さないだけで、抱えている物の重さはそう変わらない。
「……そうだな」
この夏を越えた景色を彼女達に見せてやりたい。今の俺にはそれだけが戦う意味として残っていた。
■
一か月。
一か月もの間、バーテックスの侵攻は無く、奴らの脅威は鳴りを潜めていた。結界の外には過去最大の星屑が結集しつつあり、次が最後の戦いになる。これを乗り越えれば神樹の結界は完成し、晴れて俺達はお役御免になる。
故にこの一か月は集中的な訓練の強化や、出来る限りの施策が行われている。
だが、そんな勇者達にも休日は必要な訳で――
その翌日、丸亀城の大手一の門前に俺とひなたは立っていた。
「……あの二人、遅いな」
「おかしいですね。若葉ちゃんは待ち合わせでしたら、必ず時間十分前行動厳守なのに……」
何故こんな朝、こんな休日に俺達はここに居るのか。
それは昨日のある一幕に遡る。
訓練終わり、友奈が俺、若葉、ひなたの三人と自身の計四人を指定して休日に町へのお出かけを提案した。当然、俺は例の通り、休日の真っ昼間に外を出歩けるような身でもないので断ったが、すると友奈がそれはもうこっちが可哀想になるくらいに意気消沈としてしまったのだ。
若葉とひなたの視線が突き刺さり、もはや断れるような雰囲気ではなく仕方なくオーケーしたのだが……
その発案者は未だやって来ない。いつもは時間厳守の若葉でさえ、その姿は待てど暮らせど見えてこない。
「まさか今日の事忘れてるんじゃ……」
「あの二人に限って、そんな事はないと思いますけど」
そんな事を話していると、ようやく若葉が姿を表した。
「すまない!待たせてしまったな、二人共」
「いえ、まだ集合時間前ですからって……若葉ちゃん?」
若葉の姿を見て、二人は怪訝な顔をした。
「えっと、若葉……その格好は?」
サングラスをかけ、野球帽を被り、ジャージに刀を携えているという意味不明な格好をした若葉に、俺は心底微妙な顔をしながら訊ねる。なお、ひなたに至っては呆れ全開のジト目で彼女の事を見ていた。
「変装だ。あまり勇者が町中をうろついていては目立つだろうからな!有事の為に刀は手放せないが、これなら心配あるまい」
「…若葉、お前……」
これはツッコんだ方がいいのだろうか?
因みに俺は黒を基調とした薄手の上着にズボンといったシンプルな格好で、ひなたもシャツにスカートと無難な感じに纏めてきていた。そう、これが普通のはずだ。変装するにしたって、これでは逆に目立って正体を隠す以前の問題だ。そもそも格好からして何処のわんぱく少年だよって感じだし、むしろよくそんな服あったなって不覚にも関心してしまった。
だが、若葉は俺達の反応を見ても尚、不思議そうに首を傾げるばかり。
――普段からちょっとズレてるとは思ってたけど……
「折角の美人もこれじゃあな……」
「仰る通りですよ。本当に……」
若葉は口調や性格から厳戒毅然とした武士のような印象を受けるものの、外見に関して言えばかなりの美人さんだ。
ひなたの血の滲むような努力のお陰で、お肌も髪も艶があるし、眉目秀麗でシルエットも細い。鍛え込んでいる体付きがより映えてイイ感じなのに、何故本人はこうも頓着がないのか……まあ俺もその点に関しては人の事は言えないけど、それでもこれは無いと断言できる。
「あのな、若葉――」
「お待たせー!皆早いね」
おっと、提案者が最後のご到着だ。
俺が若葉に苦言を呈そうとすると、それを遮るようにして現れた友奈。時間通りではあるのでそれは良いのだが……
「おう、友奈。って……え?」
「何ですか、それ」
本日二度目の驚愕が俺とひなたを襲った。
今回の『デート』の発案者、高嶋友奈はお面を被っていた。祭りの屋台で売られているような戦隊モノのお面だ。
「変装だよ!」
ダメだこいつら、早く何とかしないと……
どうやら残念美人はここにも居たようだ。見てみろひなたの何とも言えない表情、もはや形容しがたいといって差し支えない。少なくとも今の彼女を表現する適切な語彙を持ち合わせてはいなかった。
ひなたはそっと若葉と友奈の肩に手を置いた。
「二人とも……デートにその格好は『却下』です」
まあ、そうだよな。
結局、ひなたが若葉と友奈の服装をコーディネートし直して出発した。
なお有事の為にと言って、一向に刀を手放そうとしないと若葉と取っ組み合いになりかけたのはここだけの話。
最近は町への外出を自粛していたので、ちょっと新鮮な気分を味わえている。相変わらず住民達の視線は痛いものの、全員が全員そうって訳じゃない。こんな状況になっても優しくしてくれる人は居るし、気にせず接してくれる人、感謝してくれる人はちゃんと居る。
それを分かっているから、別に向けられる侮蔑や悪感情をキツイとは思わない。
「ところで友奈。今日は行きたい場所とか、目的地はあるのか?」
若葉が聞くと友奈は首を横に振った。
「ううん、そういうのは別にないんだけど……何となく、皆で町を歩きたくなったんだ。ダメかな」
「いや、
訓練に、戦いに、訓練――
友奈も最近までは入院していたし、俺達四人以外は怪我や事情で散り散りになってしまった。もう以前のように、全員が揃って遊ぶことも出来ないかもしれない。だからこそ、こういった時間は今のうちに取っておくべきなんだ。
それに、今は八月中旬。この時期になれば町にもそれなりの変化が現れる。
「もう少しでお祭りの時期ですね」
「ああ、今回も盛大に行われるらしい」
二人の会話通り、周囲には至る所に祭りの宣伝ポスターが貼られている。
まるがめ婆娑羅まつりは、市内でも最大規模の夏まつりだ。当日は多くの屋台が並び、花火大会も行われる。その気合いの入りようは町の様相からして見ての通りだろう。市外からも多くの人が訪れると聞くし、まさに地元自慢の伝統行事って感じだ。
「去年は色々と忙しくて行けなかったし、今年は皆で行きたいね」
「そうだな。戦いさえ終われば、また全員で集まるって言うのも夢じゃない」
バーテックスとの戦いを乗り越えれば、それも現実味を帯びてくる。
球子や杏は必死にリハビリをして退院も間近って聞くし、バーテックスとの戦いに区切りが付けば千景をこっちに呼び戻す事も出来る。その再会を敢えて夏まつりに計画するって言うのも悪くない。
そうして歩いていると、友奈がある物を商店に見つけて目を輝かせた。
「あ、手作り
雑貨屋に並ぶ団扇。
熟練の職人が作る団扇は名物ブランドの一つとも目される。夏まつりシーズンともなればその生産量は凄まじいの一言で、今は彼らにとっての書き入れ時なのだろう。それぞれで好きな団扇を購入して散歩を再開すると、心なしか先程までより風情が出る。
「むむ、こうして団扇を持って歩いていると何かが足りない気がします」
眉をよせたひなたに待ったをかける。
「待て、それなら当てれられる自信があるぞ。……ズバリ『浴衣』だろ?」
「正解です!よく分かりましたね?」
「まあ、夏の風物詩だからな。何となく予想がつくよ」
ちょっと得意気に言って見せると、ひなたは嬉々とした様子で言う。
「その通り、団扇と夏が揃ったら浴衣です!若葉ちゃん、友奈さん、桐ヶ谷さん、今から買って行きましょう!何なら着替えて行きましょう!」
「い、いや、祭りでもないのに浴衣を着て歩くのは変だろう」
「そうだよ。また今度にしよう」
一度スイッチの入ったひなたの入れ込み様はよく知る所なので、丁重にお断りする。
こんな昼間から勇者様御一行が浴衣なんて着て町中をうろついてたら、それこそ何か特別な行事でもあるのだと誤解されかねない。
「むう、仕方ないですね。その代わり、祭り当日は皆さんに一番似合う浴衣を私が選びます。あぁ、祭りの日が楽しみです」
心底楽しそうにそう語るひなたを見ていると、俄然やる気が湧いてくるって物だ。
今までも変わらずにそう思っていたけど、こんな風に未来を思う友達が居てくれるなら、何に変えてでも守りたいって思う。特別な事なんて一つもない。それはきっと健やかに過ごして行きたいって言う、純粋な願いなんだ。
□
丸亀駅を過ぎて海の方に向かう。
この辺りから海へと向かう道は一つの街道の一部であり、本州から渡ってきた人達が金比羅宮へと至るのに広く使われていた。今やそれも形を残すばかりだが、本質的な在り方は損なわれてないと思うのだ。
何故なら、今こうして俺達がそうして道を辿っているから――
「金比羅宮か。そう言えば友奈って、昔は神社によく行ってたんじゃなかったか?」
ふと、思い至った事を口に出した。
「ほう、それは初耳だな」
「そうなんですか?」
俺の言葉に、若葉とひなたが友奈に視線を向けた。
当時の事はもう思い出せないが、過去の自身が書いた日記にはしっかりと書かれていたから、よく覚えている。
「うん、金比羅宮みたいな大きな所じゃないけど……でも私、その話キリちゃんに言ってたっけ?」
「言ってただろ?ほら、チカっちと三人で高知に行った時のバスの中で」
「あー!思い出した」
どうやら本当に忘れていたらしい。
――その時は何となく千景の雰囲気が暗く感じて、それを賑やかす為にあれこれ適当に話題を上げてただけだった。その過程で友奈が自身の昔話についてちょっとだけ話した、ただそれだけの事を……あの後、誕生日に日記を贈られた時、ちゃんと『記憶』として残していたのだ。
まるで、それが大切な事だと分かっていたように。
「そういえば、友奈さんが丸亀城に来る前の話はあまり聞いた事がありませんね」
「友奈はいつも周りを優先して、聞き手に回る事が多いからな。究極の聞き上手というやつだ」
「確かにな。神社について話してくれた時だって、チカっちを和ます為の流れでって感じだった」
俺と若葉が喧嘩した時も、友奈は一番に止めようとしてくれた。
一緒に高知に行った時、千景について調べた時、それ以外にも様々あった全ての時間。そうして幾らかの出来事を共にした『実際の記憶』はなくとも、残された物は多い。それらのお陰で、自然と彼女の本質的な部分は少しずつ見えてきたと思っている。
だから、今は彼女の返答を待った。
「ありがとう……でも……」
少し間を置いてから、友奈は話し出した。
「そんな、褒められるような事じゃないんだ」
躊躇いも、少しは感じられた。
けれど、それ以上に強い意思が言葉には宿っていた。
「気遣い屋さんとか、よく言われるけど……本当はね、嫌なんだ。気まずくなったり、喧嘩したりするのが……だからあまり自分を出せなくて、相手の話を聞くばかりになっちゃう」
恐れ、怯えている。
他人から悪感情を向けられる事、もっと言えばそうして他人との間に距離が生まれる事を……
その気持ちは、きっと人間なら誰しも持っている感情だとは思うが、友奈の場合はそれが人一倍強くて上手く自分を表現できなくなる。常に他人の事を気遣って、周りに目を配っている姿は大人びて見えるかもしないが、そこにあるのは幼さ故の不安定さだった。
「でも、今はちょっとずつ、そんな自分も変えていきたいって思ってるんだよ?タマちゃん、アンちゃん、ぐんちゃん……皆とあまり会えなくなって、それなのに私は自分の事あまり話せて無くて、このままじゃ嫌だって……」
離れて初めて知る事が、図らずとも彼女を成長させた。
それは、決して美談なんかじゃない。数多の痛みと、苦しみの上に紡がれた彼女達の道筋そのものだ。
繋がりは消えずとも、それが実体を持って存在する時間は永遠じゃない。
いつ終わるか分からないって知ってるから、過ちを経験するからこそ、人は前に進もうって努力できる。
それは何にも勝る『人』の強さだ。
「知ってほしい事が、沢山あるんだ。全部を一気には無理だけど、それでも……聞いてほしい」
それ一つ言う事に、どれだけの勇気をふり絞ったのか。
不安に揺れる瞳、震えそうな手に片方の手を添える姿を前にして、首を横に振れる奴なんて居る訳がない。
「幾らでも聞くさ。少しずつでもいい、もっと教えて欲しい」
「ああ、聞かせてくれ。友奈の事を」
「もっと友奈さんの事が知りたいです」
ここに居る俺達だけじゃない。
皆が揃った時、彼女が屈託なく笑って自身の言いたい事を言えるようになって欲しい。少し喧嘩したって良い、それが友達ってもんだと俺は思っている。
海のせせらぎが通り過ぎていく。
高嶋友奈は夕日を背にして振り返る。少し寂し気な、でもそれ以上に万感の決心を秘めた乙女の表情で、彼女は一つひとつぽつぽつと語った。年齢、出身、血液型とかから始まって、昔は神社でかくれんぼしたりしてた事とか――
「神社ってね、かくれんぼにぴったりなんだよ?でも、入っちゃいけない場所に入ったりして神主さんに怒られる事もあった」
「へぇ、そりゃいいな。どうせなら今度、金比羅宮にでも忍び込んで盛大に……」
「ほう?その時は私が鬼になって、お前を折檻する必要があるかもな。友奈、こいつの戯言には耳を貸すんじゃないぞ」
「ふふっ、大丈夫!そうなった時は、私も若葉ちゃんと一緒に鬼役やるから!」
「それは……分かっているような、分かってないような……」
そんな、ちょっとやんちゃだった幼少期の一面が知れたり。
勇者になった経緯とか、そんな風に少し聞いただけでも知らなかった事が無数にあった。今話したあれこれでさえも、高嶋友奈という少女のほんの一部分でしかない。本当はあれが好きだったとか、嫌いな物はこれだったとか、話しているうちに思い出す事だって少なくない。
「私は、タマちゃんみたいにアウトドアが得意な訳でも、アンちゃんみたいに頭が良い訳でもなかったから、ずっと不思議だった。『何で私なんだろう?』って思ったし、戦うのだって怖かった。でも、同じくらい家族や友達を失うのも怖くて……怖いもだらけな中で戦ってた。本当は私『臆病者』なんだ」
友奈は――自身が勇者になった理由は分からないと『臆病者』なんだと言った。
でも、と、俺は思う。
思った事を、口にした。
「いや、それは違う。本当の臆病者は、今の友奈みたいに他人に自分をさらけ出したりできない。誰かの為に戦って、あんなでっかい化け物を殴って、それがどれだけ痛くて怖い事なのか、俺達は知ってる。失うのも、死ぬのも、怖いのなんて当たり前だ。俺だって同じだ。若葉も――そうだろ?」
聞くと、若葉は頷く。
「ああ、私だって『怖いものだらけ』だ。自分の命が消えてしまう事、それによって皆を守れない事、友を泣かせてしまう事……どれだけ繕ってもな、それは人として当たり前の事だ。恐怖心が一つもない
誰よりも前に出て戦ってきたからこそ、肩を並べて戦ってきたからこそ、あの景色の凄惨さは嫌と言うほど知っている。
その一点において、俺達が共有している物は同じだ。ひなただって、友が帰らないかも知れない恐怖心とずっと戦っている。『臆病者』なんてこの場には一人としていない。
それからも沢山の事を話した。元々通っていた学校の事とか、家族の事とか、幼い頃の話になった時はどうしようかと悩んだけど……出来るだけ過去の自分の日記から『知る』限りの事を話した。
腹を割って話す。
俺には出来ない事を、友奈はやってのけた。
彼女は強い子だ。
過ぎていく何度憂いても帰ってこないし、それを捧げたのも全部自分の意思なのにちょっと寂しいなんて思ってしまった。大丈夫、過去の俺が残した物が今は記憶となって繋ぎとめてくれている。感触も、景色も、何もかも思い出せなくても構わない。
今まだこうして、同じ様に笑って話せるのなら―――――
「また話そう。色んな事を、今度は皆で」
八月が暮れ始める。
約束の夏まつりを目前にして、最後の戦いは幕を開ける。
残り3話でのわゆ編終わりです
思い切って決戦前は1話にまとめちゃいました
だいぶ遅れちゃったけど何とか10周年までには終わりそうで安心
これで10月の勇者部満開31にも気兼ねなく行けます