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神世紀298年10月11日―――
瀬戸大橋跡地の決戦。
両の手に握られた剣を振るう。
「はぁあああ!!」
自由落下から放つ一閃によって、ヴァルゴを一刀のもとに両断する。もう何度、そうして針に糸を通すような撃破を繰り返したのか分からない。
これにまでにない連戦に次ぐ連続は、フラクトライトにも、心身にも計り知れないほどの負荷を与え続けている。体中ズタボロ、決定的な被弾こそないが、それでもダメージは蓄積してくばかり。気合いや根性で立ち続け、機械的にソードスキルを起動する。
まるで、SAOでの長きソロ時代を彷彿させる。
「はぁ…はぁ……くそっ、流石に、冗談キツイぞ?」
息が切れる。仮想世界と違って、生身で戦っているから当たり前だが、このスタミナ切れという事象がこれでもかと足を引っ張る。
だが、純粋な破壊の波はとめどなく押し寄せてくる。
それは、これまで俺が見たどんな絶望よりも高い壁となって立ちはだかった。
「あと何体くらいだ?」
おぼろげな視界で敵を見据える。
残りのバーテックスは五体、無論どれも一筋縄に倒せるような個体じゃない。だが、どんな傷を負っても敗走は許されない。今俺の後ろには、俺が守ると誓った少女達が眠っている。彼女達を平和な現実世界に帰す為には、無茶無謀を張りとおすだけの気合いと根性、そしてありったけの意地を通すしかない。
戦況は絶望的、しかしながら俺は無性の笑みを浮かべた。
「ハハっ……勇者とは、勇み人を助ける者とはよく言ったものだな」
俺なんかには、とてもじゃないが名乗れそうもない。
そういう輝かしい称号よりも剣士というシンプルなジョブの方が性に合っている。
「かかって来いよ。攻めてくるってなら容赦はしない」
ここで膝を付くことくらい当初から織り込み済みで、こちとら
だからこそ、迷わず全力を出せる。徹底的、己も敵も
「俺はお前達を……殺す」
明確な殺意を宿し跳躍する。
死角から切り上げる〈エンドリボルバー〉によって、ライブラを切り裂く。それでも致命的損傷ではあるが、まだ奴らにとっては再生の範囲内だ。もっと決定的な一撃を早く、鋭く、正確に叩き込む必要がある。
「戦力差が何だってんだ!!」
切り返しにライブラの天秤に飛びついて何度も斬撃を浴びせ、最後に〈スラント〉でトドメを指す。
「次は……」
そう呟いた時、俺の目の前にはすでには既に巨大な反射板が迫っていた。
「しまっ――」
咄嗟に反応して身を逸らす。
しかし、それで回避しきれるようなものでもない。気付いた時には既に、右足から先は消失し赤い飛沫を存分にまき散らしていた。右足、切られた、そういった単語が脳髄を刺激した後に、熱い苦しみが溢れる。
「がっ、あぁ゛!?」
筆舌に尽くせない痛み。
右足を失ったショックと痛みで、意識を持っていかれそうになる。
――ダメだ。気を……しっかり持て!痛みに、意識を持っていかれるな!
心中で必死に自身を鼓舞する。
心意がほぼ使用不可な今、欠損した足を即座に再生する事は出来ない。ならば、多少リスキーでも敵を攻め立て早期決着を望むべきだ。
「足一本取ったくらいで、止めたつもりか!?」
そのままキャンサーの反射板すら足場に利用して接近する。
ガードの脆い表皮に渾身の〈ヴォーパルストライク〉を叩き込んで撃破し、とうとう残るは一体のみとなる。中空に投げ出された状態で、その巨体を正面に捉える。最大最強のレオ・バーテックスは仲間が全員やられたにも関わらず、悠然と佇み灼熱の業火を装填していた。
「ああ、そうさ。今の俺が、どれだけ頑張った所で……お前を
夜空の剣の切っ先を向ける。
正真正銘最後の一発。ここが最後だからこそ、後腐れなく放つ事が出来る決死の一閃。
「貫け」
黒い闇が放たれるのと、灼熱が俺に向かって放たれたのはほぼ同時だった。
なけなしの心意による守り幾つもの灼熱に耐え、それが十秒ほど続いたあとにようやく決着する。レオ・バーテックスが崩れるのと、
「まあ、及第点……だよな?」
こっちの犠牲者はゼロ。
被害すら最小限に抑えられた。
パーティーメンバーを誰も死なせなかった。この時点で俺にとっては
「勝ったよ、皆」
手を天に突き出し、勝どきをあげる。
次に目覚める時、守り切った少女達がそこに居てくれると信じて。
「本当に、よろしいのですか?」
鳥居が何本も続く、まるで異空間みたいに不気味な場所で、わたしの背後から仮面を被った女性神官が声を掛けた。
「大丈夫。この人の為なら、これくらい何て事ない」
神官はそれ以上先へは進めない。
ここから先は、神と、それにまつわる者のみに立ち入りが許された神域だ。大赦本部の最奥、本来樹海化の際にしか姿を表さない神樹様の所へ、現世から唯一辿り着ける禁所。神樹結界の内部には、バーテックスはおろか、人間すら入る事は出来ない。純粋無垢な少女、勇者だけが拝謁の栄誉を許される。
準備は整った。
この先へ足を踏み入れれば、もう二度と戻っては来れない。
「ごめんね。こんな方法でしか、あなたを助けられなくて……」
振り返ると、そこに居たのは神官だけではない。
その神官の手で押される形で、車椅子とそこに座った少年が居た。魂を感じさせない虚ろな瞳をしていて、片腕と片足がない痛々しい姿でも確かに生きている。それだけの事実があればわたしにとって必要なものは他になくて、幾らでもこの命を捧げられる。
少年に目線を合わせて、黒く歪んだ瞳を覗き込んだ。
「でもね、今はずっと……ずぅっと、誇らしいんだ~。少しの間だけでも、あなたに綺麗で平和な景色の中で生きて欲しい。その為なら、心でも、魂でも、何だって捧げられる」
触れるだけの優しい抱擁。
「ずっと一緒だよ」
わたし、乃木園子は暗闇の中に消えていく。
これから途方もない苦しみに苛まれながら、生きながらにして、地獄を味わうのだろう。これから起こす奇跡の贄として、この身を捧げる事になる。でも、それでも良かった。大切な人が、好きな人がしてくれた数々の事に、少しでも
その日、一人の青年の目覚めと引き換えに、一人の勇者が現世から消えた。
今回はプロローグという事で短めです
本筋はこれから順次開始していきます
これから勇者達とキリトの物語が何処へ向かうのか……書ききれるように頑張ります
高pt評価とかしていただけると作者がモチベ爆発して死ぬ気になって書きます