結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十一話:盾と槍

 

 三ノ輪銀という少女に対して、俺はそれなりに余裕を持って勝つつもりでいた。

 確かに彼女の実力は本物だし、瞬間的な火力は上位のソードスキルすらも上回る程だ。それでも、彼女の場合は動きにまだそれなりに無駄があるし、その分付け入る隙は幾らかある。そういう相手に対してミスをせずに勝つ事が俺に求められていたゲーマーとしての技量(スキル)だった。その考えがどれだけ甘いものであったのか、今まさに思い知っていた。

 

 大技の構えを見せる銀を前にして思う。真正面から受ける必要はないかも知れないが、俺は個人的に銀の全力と打ち合ってみたかった。その闘志と、年端も行かない少女とは思えない程の覚悟――

 

「いいぜ、受けて立つ」

 

 剣を正面下段、正眼から相手の技に合わせられる構えを取る。

 相手のメインウェポンは直剣よりも一回りも二回りも大きな大剣で、普通に打ち合えば片手剣(こちら)側が押し負ける。ならば、相手の力を上手く殺す必要がある。一寸でも誤ればこちらが敗北する勝負だが、むしろこっちの方が刺激的で面白い。

 

 下段から剣を少し持ち上げる動作を始動モーションに、ソードスキルを起動する。

 

 銀が踏み込むと同時に俺は駆け出した。お互いが間合いに入ると、銀は凄まじい覇気と共に大剣を振り下ろした。それに合わせるようにして、ディレイさせていたソードスキルを発動させる。

 

▽片手剣2連撃技▽

バーチカル・アーク

 

 意識から無駄な思考が排除され、感覚が極限まで研ぎ澄まされる。周囲の景色がワンフレームずつのコマ割りのようにスローモーションになり、銀の渾身の振り下ろしすらも遅く感じる。狙うは一点、迫る大剣の剣身と刃に存在するミリ単位の脆弱部位。

 それを見分ける技術があったからこそ、俺はあの世界で『黒の剣士』として最後まで戦い抜く事が出来たんだ。

 

「――ここだ!」

 

 まさに斬り上げと振り下ろしが衝突する数瞬前に、か細い糸を掴むようにそれを導き出す。

 バーチカル・アークのシステムアシストが加わったエリュシデータの軌道を僅かに調整し、寸分違わず狙いの位置に当て(ヒット)させる。その瞬間、心地よくすら感じる金属音が響き渡った。狙い通り、銀の大剣に乗っていた勢いは嘘のように漆黒の直剣によって弾かれていた。武器破壊にこそならなかったけど技の威力を殺せただけで目標は達成している。

 

「なっ……!?」

 

 銀は予想外の事態に驚愕の声を上げる。そうなるのも無理はない。何せ自身が渾身の力を込めて放った一撃の威力が、ソードスキルありとは言えたった一撃の斬り上げで相殺されたショックは尋常ではないはずだから。

 

「シッ」

 

 漆黒の剣に纏われたブルーのライトエフェクトが一層に輝き、鋭利な気合いと共にバーチカルアークの二撃目――斜め振り下ろしを放つ。

 

「くっ、このッ!」

 

 それでも諦めず、銀はその大剣を力の限り引き戻す。

 大剣によるガードが間に合い二撃目は防がれこそしたが、それで完全に止められるほどこの剣は軽くない。二度目の澄んだ金属音を響かせて、銀の大剣はその手から離れて宙を舞った。

 鈍い音を立てて、訓練場の床に大剣が落ちる。

 

「片手剣二連撃技――《バーチカル・アーク》」

 

 この世界に来てから初の対人戦は、こうして無事勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 訓練場の床に大剣が落ちたと同時に、安芸先生は言った。

 

「勝負あり、ね」

 

 わたしは言葉を失っていた。

 

 まるでそれは、二本の剣が同時に振られたかのようだった。

 辛うじてその軌跡が目に見えただけだったけど、恐らくキリトさんは斬り上げた剣を瞬時に切り返し、振り下ろしたんだ。

 それは一秒にも満たない刹那の剣技。

 更にあのミノさんが手から武器を取り落とす程の威力。

 見た目のインパクトを遥かに越える程に重い一撃を、これほどの速さで連続して放てる。

 これを成すのに一体どれ程に果てしない研鑽と修練が必要になるのか、わたしには想像もつかない。

 

 そうしてわたしが思考しているうちに、転んでしまったミノさんに、キリトさんは手を差し伸べていた。

 

「グッジョブ、良い勝負だった」

 

 ミノさんもその手を取って立ち上がる。

 

「内容はボロボロでしたけどね。いやぁ、負けたまけた」

 

 そうは言ってはいるけど、ミノさんの顔はむしろ晴れ晴れとしていた。そして、キリトさんと少し話した後、ミノさんはこっちに戻ってきた。

 

「三ノ輪さん、どうだった?」

 

 わっしーがそう聞くと、ミノさんは肩を竦めた。

 

「んー、今のあたしが勝つのはちょっと無理かな。全然隙がないし、向こうの方が何倍も慣れてる感じがする」

 

「慣れてるって?」

 

 わたしが聞くと、ミノさんは悩まし気に唸った。

 

「うーん……いや、これは実際に戦ってみた方が分かると思う。とにかく、あたしから言えるのはこれだけだよ」

 

 笑顔でそんな風に言うもんだから、こっちだって気になる。一秒でも早く、わたしもやってみたい。

 

「次は園子がやるんだったよな?」

 

「そうだよ~、何だかワクワクするね~」

 

「さっきのを見て萎縮してないか心配だったけど、その調子なら大丈夫そうね」

 

 さっきの戦いを見て、わたしは萎縮する所かむしろ興奮していた。

 キリトさんは颯爽と現れた剣士様みたいな人で、その強さは今朝の素振りや先日の戦いからも明らかだった。そして、今の戦いでそれは確信に変わった。

 

「それじゃあ、行ってくるね~」

 

 わたしは三人に手を振って、槍を握る手に力を込めながら漆黒の剣士の前に出た。

 

 

 

 

 

 

 俺の相手として出てきたのはこの世界で最も多くの時間を共に過ごしている少女、乃木園子だった。

 

「次はそのっちか……」

 

 彼女のメインウェポンは一見長柄の槍のように見えるが、その正体は盾など様々な形に変化する変幻自在の武器だ。この前の戦闘では盾を展開して敵の攻撃を防いでいる所を見かけたが、その防御力たるや恐ろしいもので真正面から抜くのは不可能に近いと見ていい。それに、変化出来るのが必ずしも盾だけとも限らない。

 ある意味、シンプルな戦闘スタイルだった銀とは違って今回は頭を使う戦闘になるだろう。

 

「ミノさんとやった時みたいにちゃんと本気でやってよ~?もし手加減したら許さないからね~」

 

 そんな園子の言葉で思考を中断した。

 

「当たり前だろ?お互い、全力でやろう!」

 

 これは相手と自分が対等な条件下で行う手合わせだ。どっちの刃が先に届くか、その一点にのみ集中しろ。

 開始の合図を今かいまかと待つ。初撃決着モードが主流だったSAOでは、開始と同時にどれだけ早く動けるかが勝負の決め手だった。あの時と同じように感覚を研ぎ澄ませて、意識から園子以外の全てを消去する。

 

「――初め!」

 

 それと同時に飛び出す。銀の時はこの一手目で完全に先手を取り、その後の展開を有利に進める事が出来た。

 今回もそのつもりで自身の出来うる最速の踏み込みをした。しかし、この時点で既に前回とは展開が違っていた。目の前には既に堅牢な盾が園子を身を守るように展開されていたからだ。

 

「フッ!」

 

 慧敏(けいびん)な反応によって繰り出した突きは、当然その強固な盾によって止められる。

 こうして打ち込めば分かる、やはりバーテックスの攻撃を防ぎ切る程の硬さは伊達じゃない。ならばと、更に速度のギアを上げて押し切る戦法に移行する。

 

▽片手剣4連撃技▽

ホリゾンタル・スクエア

 

 水平四連撃が盾を凄まじい速度で打ち据える。

 左右から四回に渡って揺さぶるように打ち込んだ四連撃だったが、これでもその守りが崩れる予兆はない。

 

「ちっ、それなら――」

 

 より連撃数の多いソードスキルを発動させようとした瞬間、園子が動いた。

 それまでは盾だったものが傘のように閉じて、鋭利な刃を持つ槍へと変貌したのだ。

 

「ッ!?」

 

 俺は既にソードスキルを発動させる為の予備動作に入っていたのもあって、すぐに回避行動に移る事は出来ない。

 

「やあぁぁあッ!」

 

 猛るような闘志のこもった気合いと共に槍が突き出される。

 盾でそのまま守りに徹して持久戦を仕掛けて来るとばかり思っていた事が仇になった。彼女は最初からその槍で俺を負かすつもりだったんだ。

 

「く、オ"ォ!!」

 

 俺だってこのままやられてやるほど甘くはない。

 予備動作に入っていた体を僅かに逸らし、重心や腕と剣の位置をずらした事によって事前に想定していたものとは別のソードスキルを発動させた。剣にクリムゾンレッドのライトエフェクトが灯り、コンマ数秒の遅れに追いつくように放つ。

 

▽片手剣3連撃技▽

シャープネイル

 

 右下からの斬り上げが突き出された槍の切っ先を正確に捉えて防ぐと、続く左からの薙ぎ払いで槍を完全に間合いの外に弾く。この戦闘において、二回目の逆転が起こる。槍とのリーチ差によって出来た間を体を前に出す事で相殺し、園子を三撃目の斬り下ろしが届く範囲に入れる。

 

「まだっ!」

 

 園子は防御の選択肢を捨てて後方に大きく跳び退く。それによって俺の三撃目は彼女の目前を掠めるに留まり、ソードスキルによる硬直を誤魔化す為に俺も後方に跳んだことで園子との間に試合開始時と同じだけの距離が空いた。

 

「危なかった~。今のでやられちゃう所だったよ~」

 

「それはこっちのセリフだ。まさか守りを捨てて、逆に攻められるなんて思わなかったぞ?」

 

 回避も迎撃も紙一重の攻防と、その絶妙な緊張感に自然と口角が上がってしまう。誰かの守りがここまで硬いと感じたのは、ヒースクリフ(あの男)との戦闘以来いつぶりだろうか?

 園子は恐らく、先程の銀と俺の手合わせから今の戦法を思いついたのだろう。ソードスキルは発動前と後に若干の隙が生じるという特性を見切り、最初は守りに徹してより隙が増える連撃系のソードスキルを一度受けきってから槍に転じて隙をつくように反撃する。

 即興で考えたとは思えない作戦と、更にそれを実行してしまうだけの実力と思い切りの良さ。やはりリーダーなだけあって、瞬間的な頭のキレは三人の中でもトップレベルだ。

 

「こっちも油断できないな」

 

 園子は槍を構えて、注意深く俺の動きを見ている。

 ただの槍使いなら間合いを詰め切ればそのまま押し切れるが、彼女の場合は瞬突の槍であり鉄壁の盾でもある。間合いというアドバンテージのお陰で、さっきのように反撃されても咄嗟に逃げ切る事が出来るので同じ様に無策に突っ込めば次こそ返り討ちにあうのは火を見るよりも明らかだった。

 

 ――何とか、もう一度あの守りをブレイク出来れば……

 

 そこで俺はある方法を思い付く。

 

「やってみる価値はあるか」

 

 短く息を吐く。呼吸を整えて、体を万全の状態に調整すると意を決して疾走した。

 先程と同じ様に、園子は俺が間合いを詰め切る直前に盾を展開した。俺はお構いなしに再びソードスキルを発動させ猛攻を仕掛けた。

 

▽片手剣7連撃技▽

デットリー・シンズ

 

 パープルのライトエフェクトを纏った七回にも渡る連撃が盾に襲い掛かる。

 

「っ!」

 

 流石の園子もこれ程に高速で剣を振られては防御するのに全神経を要する。

 左右、斜め、上段下段から絶え間なく剣を振るい、最後の右斜め振り下ろしまで打ち切る。

 

「いま!」

 

 攻めの手が一瞬休まるその時を待っていたと、盾はまた鋭利な槍へと変化する。このままその槍を突き出されれば、技後硬直によって動けない俺に防ぐ術はない。そう『このまま』であれば――

 

「ここだッ!」

 

 俺の狙いはまさにこの一瞬にあった。技を打ち終わり、動く事のないはずの漆黒の剣が再びを唸りを上げる。

 

▽片手剣4連撃技▽

バーチカル・スクエア

 

 ソードスキルがもたらす絶対的な硬直を自力でキャンセル出来る唯一のシステム外スキル。様々なシビアな条件を全て達成した場合にのみ可能なそれは、文字通り神業と言って等しい程の難易度を誇る。だが、俺にとってこの技術は何度も窮地を救ってきた決まり手だ。

 蒼い輝きを纏った剣が、再度システムアシストによって突き動かされ初撃の斬り上げを放つ。

 

「――ッ!?」

 

 園子もこれは予想外だったようで、驚愕しながらも何とか槍を使って初撃を防ぐ。しかし、続く二撃目の斬り下ろし、切り返し三撃目の薙ぎ払いまではそうも行かず遂にその守りが完全に崩れる。その隙に最後の一撃を叩き込む。

 

「ハァッ!」

 

 エリュシデータの刃にも劣らない気合いと共に、俺はその剣を振り下ろす。園子はそれを無理やり回避しようと後ろに体勢を崩した事で、そのまま訓練場の床に背中から転倒する。

 

「ひゃあっ!?」

 

 それによって最後の四連撃は命中こそしなかったが、当然こうなってはもう反撃も間に合わない。何とか起き上がろうと身を起こした園子の目前に剣をピタリと止めると、彼女の動きもまるで人形のように停止した。

 そこから数秒の間の後、訓練場に安芸の声が響いた。

 

「勝負あり!桐ヶ谷さんの勝利よ!」

 

 その一言を聞いて、俺はようやく安堵の息を付くことができた。

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