結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第五話:連日の襲撃

 

 一度目(・・・)のバーテックス侵攻を退け、一先ずの平穏を得た世界。

 

 余談だが、風先輩には割と真剣に説教された。

 そりゃそうだ、皆と違って精霊のバリアとやらが存在しない俺は、一歩間違えれば容易く死ぬ。如何に強力な力を持ってようと、死の危険と引き換えにするには、そもそもリスクリターンが釣り合っていない。

 

 とは言え、それで二の足を踏んで縮こまる訳にもいかないので、説教が効いたかと聞かれれば微妙な所だ。

 

 

 

 

 その夜、俺はベッドに寝転びながら、勇者部専用アプリを見つめていた。

 今は樹海化もしていないので普通の状態だが、システムは既にアンロックされているので隠し機能はいつでも使える。

 そんな中で、俺の端末は皆とは一風変わった様子だった。

 

「『意思を込め、力を願い、魂の輝きを示せ。さすればその手に漆黒の剣が現れ、その身には戦う力が宿る』………何なんだろうな、これ」

 

 通常なら、スマホに花が浮かび、それをアンロックする事で端末から勇者の加護を得て変身できるという。

 それらと比べて、俺のこれ(・・)は丸っきり別物だ。

 このスマホに表示された祝詞を唱えると、まるで体の内側から力が湧き上がるような感覚と共に変身した。試してはいないが、恐らく今も意思一つ示せばあの『夜空の剣』を召喚できる。

 

 精霊にしたって、俺だけに居ないのは不自然だ。

 恐らく、俺の持つ勇者の力ってやつは、他の皆とは違う物なのだろう。

 

 しかし、戦う力は『十分』と言う他にない。

 どういう理屈か分からないが、変身し、剣を握れば、まるで熟練の剣士のような技術を発揮できる。まるで、死と隣り合わせの戦場で何年も(・・・)戦ってきた経験があって、それが当たり前に出来るみたいな……

 

 更に、身体能力と瞬間的な爆発力は、既に他の勇者とは一線を画す。

 極めてハイリスク、かつハイリターンな力だと言えるだろう。

 

 特別な力に、特別な技――その辺も含めて、俺の消えた記憶とも何かしら関係があるのかもしれない。

 

「ヒントはある。これからじっくり調べていこう」

 

 そう今後の方針を固めて、その日は戦闘の疲れもありそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 今朝の起床は思ったよりも早かった。

 着替えてリビングに出ると、今まさに家に来た風先輩や樹と鉢合わせる。

 

「おはよう。今日は早いわね、和人」

 

「はい。昨日は疲れてすぐに寝てしまったので、目覚めはすこぶる良かったです」

 

「和人先輩、昨日は一番頑張ってましたもんね?」

 

 俺はそんな事はないだろうと思いつつも、樹の称賛を素直に受け止めた。

 朝のルーチンをこなし、テーブルでコーヒーを嗜む。台所ではすでに風先輩が手際よく朝食の準備に取り掛かっていて、樹は俺のとなりに座っている。準備は風先輩で、片付けは俺と樹、そんな感じの暗黙の了解がこの食卓にはある。

 だからこうして、俺が早起きすると、樹と揃ってそれなりにまったりとした時間を過ごせた。

 

「……昨日の怪我とかは、大丈夫ですか?」

 

 おずおずと言った様子で樹がそう聞いてきた。

 

「ん?ああ、別に痛む所もないし、この通り問題ないよ。怪我したとは言っても、掠り傷ばっかだったしな」

 

「そう、ですか。流石ですね、そんな風に思えるなんて……」

 

 まるで何かを押さえるように、樹は目を伏せた。

 

「樹?」

 

 どうしたものかと思いチラっと風先輩の方を見ると、目が合う。だが、助け舟を出してくれる様子ではなく、その瞳は暗に「ちゃんと聞いてあげて」と語っていた。俺は困ったように頭をかきながら、口を開く。

 

「えっと、何かあったのか?」

 

 そんな聞き方しか出来ない自分が情けない。

 女子ばかりの部活に属していても、所詮はしがない男子中学生。女性、それも同年代の女子の扱いになんて慣れているはずもなく。

 

「……ちょっと、怖くなっちゃって」

 

 ぽつぽつと樹は自信の気持ちを語りだした。

 

「先輩には、精霊のバリアが無いですよね?」

 

「そうらしいな。詳しい事は調査中って話だけど……」

 

 大赦も史上初の男性勇者に不明な点が多いらしい。

 故にこの問題は一時保留となっている。

 

「私、それが凄く怖いんです。昨日の戦いだって、一歩間違えたら和人先輩は……その……死んじゃってたんですよ?」

 

 そう言われて、ようやく彼女の心中を察する。

 瞳にあるのは、どうしようもない怯え。それは自身が死ぬことよりも、もっと怖い何かを恐れているような色。彼女は優しい、聞けば姉や友達を放っておけないが為に、彼女は早々に戦う意思を固めたという。だからこそ、目の前で仲間が死ぬかもしれない恐怖が、何よりも耐え難い。

 それも、精霊のバリアという安全保証があれば、多少は誤魔化される。

 けれど、それが無い俺に対して、彼女は気が気じゃない。その気持ちは俺にも理解できた。

 

「確かにそうだけど……でも、それは皆だって同じだ。幾ら精霊のバリアがあるとは言っても、命の危険がある事には変わらない。それなのに、俺だけが隅で縮こまってる訳にもいかないだろ?第一、俺にはそんなの無理だ」

 

 これは紛れもない本心だ。

 しかし、それだけ言ったとしても樹を悲しませるだけ。そんな結果を俺は望まない。

 

「安心してくれ、なんて無責任な事は言わない。でも、信じて欲しい。俺は勇者部の皆を置いて死ぬつもりはない。ただ皆を守りたくて、俺自身も含めて、誰一人欠けて欲しくないだけなんだ」

 

 戦うには理由が必要だ。

 それが例え荒唐無稽な絵空事でも、明確な力を持つ事を俺は知っている(・・・・・)。ここに至って神樹に選ばれ、剣を取った事にもきっと意味がある。それを見出し、全員で生き抜く為にも、俺は戦う事を放棄する事はできない。

 

「ごめん、こんな事しか言えなくて」

 

 何度も言うが、無責任な約束は出来ない。

 恐らくだが、戦いはまだ続く。風先輩が昨日そんな事を言っていたし、またあの戦場で強大な敵と戦う事になる。それを退ける為には、どうしても危ない橋を渡らなければならない。俺と言う人間は根っこからそうで、多分これからも沢山心配をかけるのだろう。

 それでも、生きる為に必要な事はなんだってする。

 ――自己犠牲になるつもりはない。

 

 その意図が伝わったのか、樹はそれまでよりも多少表情を緩めて言った。

 

「……先輩らしいですね」

 

「悪いな、先輩がこんなので」

 

「いえ、和人先輩の無茶は今に始まった事じゃないので、もう慣れっこです」

 

「ハハっ、耳が痛いよ」

 

 後輩にここまで言われても一切反論できない。

 だが、俺よりも樹の方がしっかりしているのは事実なので、その辺についての不満はない。むしろ、気持ちを吐き出す先になれたのなら光栄なくらいだ。食卓の雰囲気が明るくなって、いつもの風景が戻ってくる。

 風先輩は正解だと言わんばかりに俺にグッドサインを送ってくれた。

 

 

 

 

 その日の昼休み、風先輩から部員全員に向けて説明がされた。

 バーテックスが攻めてくる周期や、勇者部発足の具体的な理由、そしてバーテックス、神樹、勇者に関する事を全て。話された内容は昨日の樹海での説明に加えてかなり衝撃的な物だったが、友奈や樹はそれに対して困惑や動揺の方が大きかったらしい。

 だがその中で、美森だけは違った反応だった。

 

「友奈ちゃんも、和人くんも、樹ちゃんも……皆、死ぬかもしれなかったんですよ?」

 

 それは彼女が風先輩に対して思う、当然の怒りだった。

 命の危険があるにも関わらず、当事者である俺達に風先輩は勇者について黙っていた。それを責めるつもりは俺には無いが、同時にこの場に居る者には問い詰める権利がある。それ自体は、彼女()がちゃんと背負うべき責任だからだ。

 

「こんな大事な事、ずっと黙ってたんですか……?」

 

 美森が部室を出て行って、友奈もそれを追って部室を後にする。

 部内に流れるのは、何とも言えない重苦しい空気。俯いた風先輩の背中は、いつもより何倍も小さく見える。

 

「お姉ちゃん……」

 

 樹が風先輩に寄り添う。

 

「樹、こっちは任せていいか?ちょっと美森と友奈の事見てくるよ」

 

 そんな彼女に風先輩には聞こえない程度の声量で耳打ちする。

 

「はい、大丈夫です。お姉ちゃんの事は任せてください!」

 

「頼んだ」

 

 言って、俺は部室を後にする。

 車椅子で時間的にもまだこの階に居るはずだと、渡り廊下の方へ向かう。すると、少し歩くと友奈と美森の姿が見えた。

 

「おっと……」

 

 二人に気付かれないように、物陰に隠れた。

 盗み聞きするみたいで格好は悪いが、ここで出て行ってもあまり意味はない。美森の事は友奈が一番よく分かっているし、慰めるにしても彼女が適任だ。部室を出てきたのは、一応美森が一人になっていないか確認する為だったが、この分だと問題ないだろう。

 

「見たところ、二人はこのままでも大丈夫そうだな。先輩の事も気になるし、一度部室に戻るか」

 

 ほっと安堵の息をついて、来た道を戻ろうとする。

 だがそこで、予想外の事態が起きた。

 

「っ、これは?」

 

 風が、道行く生徒が、ある一時を境に停止した。同時にスマホのアラートが鳴り、見覚えのある樹海化警報の文字が表示される。

 それは一瞬の出来事だが、同時に予兆であるのをすでに俺は知っていた。風先輩はバーテックスの襲撃には周期があると言っていたが、ここで起こる凶兆は想定していなかった。

 

「まさか、連日の襲撃……だと?」

 

 困惑に思考が支配される中、再び視界を光を覆い包んだ。

 

 

 

 

 再びの樹海。

 つまりはバーテックスが再びこの世界に攻めてくる。だが、今回は前回とはまた様相が異なる。

 

「三体同時とはな。昨日のはさしずめ肩慣らしって所か」

 

 既に勇者に変身した俺は風先輩や樹、友奈と合流している。

 敵はそれぞれさそり型(スコーピオン)かに型(キャンサー)いて型(サジタリウス)と目される個体。スコーピオンとキャンサーが前衛に出て、サジタリウスが後方に控えるという配置を取っている。

 

「まず後ろのは無視して、前の二体をまとめて封印するわよ!和人、アンタはバリアが無いんだから、前に出過ぎないように!絶対に三人のうち誰かが助けられる範囲で戦って!」

 

「了解。善処するよ」

 

 保証はしかねるが、俺も無謀に孤立するつもりはない。

 だが、戦闘開始を目前にして俺は前方の二体以上に後方の一体を意識していた。ある一定の距離を保ったまま動かないという事は、それ相応の意味がある。自然と警戒レベルは他よりも高くなり、故に、サジタリウスがその大口を開けて、巨大な矢をつがえたのには即座に反応できた。

 

「っ、先輩伏せて!」

 

「和人!?」

 

 声を上げて疾走し、俺が風先輩の前に躍り出たのとサジタリウスが矢を放ったのは同時だった。

 

▽片手剣防御技▽

スピニングシールド

 

 通常の技では防御不可能と判断し、剣を前に突き出し高速回転させる。

 凄まじい速度で飛翔してきた矢が片手剣スキルの守りごしに重苦しい衝撃を与えながら、明後日の方向に逸れた。

 

「狙撃か……中々に腕がいいな」

 

 だが、受けられない程じゃない。

 速度も反応できる範囲で、奴の対処だけならどうにかなる。

 

「ごめん、助かったわ」

 

「いえ、それより今は後ろのアイツです。また何かやって来ますよ」

 

 先に前衛の二体を沈めるプランだったが、狙撃手が居るなら話は変わってくる。誰かが援護に回って、サジタリウスの矢を受けつつ妨害を阻止する必要がある。そして、攻撃手段も矢をチマチマと一本ずつ放つだけとは限らない。

 サジタリウスが二つ目の大口を開き、そこから先程よりも小さく細かい矢を幾つも降らせてきた。

 

「何かいっぱい来たー!?」

 

「今度は範囲攻撃か!」

 

 犬吠埼姉妹は跳躍する事でその範囲外に出て、俺は即座に樹海のつるとの間に滑り込む事で躱す。

 ――狙撃手段は単一の強力な一撃と、飽和攻撃の二種。それもあの距離に居座られたら大分厄介だな。

 降り注ぐ雨のような矢を凌ぎつつ、サジタリウスの懐まで迫る。難易度は非常に戦いが、やるしかない。

 

「俺が打ってくるやつを何とかします!先輩と樹は二体の封印を!」

 

「私も!」

 

「待ちなさい!友奈、和人!」

 

 遮蔽物から出て、一直線にサジタリウスへと向かう。

 それにタイミングを合わせて、友奈も付いてくる。矢の雨を掻い潜りつつ、少しずつ奴との距離を詰めていく。だが、後衛への突貫をみすみす逃がすほど前衛の二体も甘くない。キャンサーの反射が矢の雨の軌道上に動き、俺達に向かって反射してきたのだ。

 

「っ、友奈後ろだ!」

 

「え!?」

 

 俺は逸早くそれに気付き、友奈に警告を叫びながら再び樹海のつるに身を隠す。

 見れば、友奈も寸前で反応して凌ぐ事には成功していた。着地した彼女が安堵した様子で息を吐く。

 

「馬鹿、気を緩めるな!!」

 

 しかし、戦場で胸をなでおろすなど愚か者のする行為だ。

 その一瞬の隙をスコーピオンの尾が捉える。そのまま彼女の体を串刺しにする勢いで突き上げ、力なく落下する彼女を尾が打ち据えて吹き飛ばす。もしも精霊のバリアが無ければそれで彼女は絶命していた。

 

「きゃあああ!!」

 

「友奈!くそ、あっちの方角は……」

 

 美森が居る。

 戦えない彼女と、ダメージを負った友奈。その二人をバーテックスは纏めて始末するつもりなのだろう。そうはさせないとスコーピオンの後を追いかけようとするが、その往く手を無数の矢が阻む。

 それを躱して別の方向からアプローチをかけようとしても、再びキャンサーの反射板で阻害される。

 

「ちっ、やりづらい」

 

 風先輩と樹もこの戦法に苦しめられ、身動きが取れないでいる。

 友奈と美森が危機的状況だが、サジタリウスとキャンサーの二体を放置して援護に行くのは難しい。だとすれば、無茶を通してでもサジタリウスかキャンサー、この二体のうちどちらかを速攻で倒すしかない。

 

「そこを……どけぇ!!」

 

 矢を躱しながらキャンサーに斬撃を加えて、バランスを崩させる。

 その隙にサジタリウスへと猛進する。当然、正面から矢の雨が襲いかかってくるが、それを自身に当たる物だけ弾き、時には身のこなしで躱しながら捌いていく。体の至る所に掠り傷が刻まれるが、顔をしかめるだけで集中力を欠くには至らない。

 

「和人、ダメ!戻りなさい、和人っ!!」

 

 風先輩の叫ぶ声が聞こえるが、それでも俺は止まる事はしない。ここで止まれば、再び接近するのは困難になる。ここで決め切るしかない。

 

 距離は折り返しの位置。

 矢の妨害のせいで上手く接近できないが、確実に距離は詰まっている。

 あと少し、あと少し、そう思考を奮い立たせた。




ゆゆゆ10周年おめでとうございます
これ以降も作者は常に精進してまいります
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