東郷さんとキリトくんメインで
少しだけ風先輩がはっちゃけます
本編に分かりやすく一か月半もの空白期間があるのに使わないのは勿体ないの精神から出来上がりました
連日の襲撃から一週間ほど経過した。
二日連続での戦闘に、三体のバーテックスが同時に攻めて来た事なども加味して、最初こそまた次の日にでも攻めてくるかも知れないと皆緊張感を持っていた。しかし、それも一週間も音沙汰が無ければ自然と警戒レベルは下がっていく。
少なくとも、今ではもういつも通りな雰囲気の勇者部へと戻りつつある。
本日は金曜日、週末の部室には俺と美森の二人だけが残されていた。
友奈と風先輩はそれぞれ部の助っ人で、樹は猫の里親探し。俺は先日、急遽割り振られたデジタル関連の依頼をこなしたばかりなので、個人で動くような依頼は今のところ来ていない。それは美森も同じで、彼女はホームページの更新に勤しんでいる。
それ自体は、よくある事だ。
頻繁に起こる事象、珍しくもない風景。特に俺と美森は受け持つ分野が似通っているので、こうして一緒になる事は何かと多い。
だが、そんな中で、俺にはある問題が発生していた。
「……どうかした?」
不意に振り返ってそう聞いてきた美森。
「えっ、何がだ?」
質問に質問で返してしまうくらいにはしどろもどろだった。
「だって、さっきからずっと私の方見てたでしょ?もしかしたら、何処かミスしてる所でも見つけたのかなって……」
「あぁ、そういう事……別にそういうんじゃないよ。すまない、集中を乱しちゃったみたいだな」
端的に言うと、美森の事を見ていたのは事実だ。
それが今日だけなら気のせいで済むが、実はそうでもない。具体的には一週間前、勇者として戦うようになってから、こうしてまったり呆けるような時間に美森を無意識に目で追う事が多くなった。
それが、先程も言った『問題』という奴で、
今日に至っては、初めて美森自身から指摘されてしまった。
これはイカン。そう考え、俺はそそくさと自身の荷物を持って立ち上がった。
「今日はもう帰るよ。邪魔しても悪いし」
「別に、そこまでは言ってないわ。そろそろ友奈ちゃんや風先輩も帰ってくるだろうし、ゆっくりして行けば良いのよ?」
「その申し出は嬉しいけど、本当に大丈夫。家でもやりたい事はあるからさ」
「……そう?」
出来るだけ柔らかく笑って返答すると、俺は「じゃあ」と一言残して部室を出る。
廊下に出ると、真っ先に出たのはため息。その次に額を押さえて、独り言を呟いた。
「何やってんだろ、俺」
ままならない現状に呆れる。
以前にも彼女に記憶関して聞いた事があるように、最初に会った時点から美森の事は気になってはいた。他人じゃないような、何処かで会った事があるような、これもまた既視感というやつだ。
そんな感覚は前々からずっとあったのだが、勇者として変身して以降は更にそれが強くなっているように思う。
「うぅ~ん」と唸りながら、廊下を歩く。
だからと言って、他人を、特に女子をじっと見続けるなどマナー違反にも程がある。それが無意識下であろうと、だ。とにかく現状をさっさとどうにかする必要がある。このままの状態が続けば、いずれ友奈達にも気付かれかねないし、そうなるとあらぬ誤解を招く可能性が大いにある。
「無意識にってのが厄介なんだよなぁ」
一番マストなのは、そうなっている原因を探し出す事だ。しかし、この為には俺の過去を再び洗いなおす必要があり、これはハッキリ言って望み薄。大赦に聞いても大した事を教えてくれないのに、俺みたいな一般ピーポーが調べた所で意味があるとは思えない。
それ以外となると、選択肢は一つ。
「いや、でも……これは流石に」
思い付いた案には渋い顔になってしまう。
これ以外に方法は思いつかないが、
「あ、カズくんだ。やっほー!」
むっ、と目線を上げた。
すると、廊下の向こうから手を振って駆け寄ってくる友奈の姿があった。
「よう、友奈。部の助っ人は終わったのか?」
「うん、バッチリこなしてきたよ!カズくんこそ、こんな所でどうしたの?」
その返答に、俺はどう回答したものかと思案する。
「ほら、俺って最近は特にやる事ないし……美森の邪魔になっても悪いから、帰って別の事でもしようかと……」
嘘は言っていない。
まあ全てを包み隠さず語った訳でもないのだが……
しかし、そんな小手先の誤魔化しは天然であるが故に何に対しても率直な友奈には通用しなかった。
「でも、カズくん。さっき凄く悩んだ顔で歩いてたよね?こう顎に手を当てて、うぅーんって感じで」
「それは……」
案の定、見られていたらしい。
そりゃそうだ。俺は彼女が近付いてくるのに気付かず彼女の方から俺に声を掛けたのだから、当然悩みありまくりな俯き姿もバッチリ見られている。
なんて言って誤魔化そうか、そう考えているうちに友奈はこう言った。
「………もしかして、東郷さんと何かあった?」
見事に事の本題を言い当てられて肩一瞬ビクリと震えてしまう。これを見逃す友奈ではなく、彼女は得心いったとばかりに手を叩いた。
「やっぱり!もう、それなら早く言ってくれれば良かったのに……」
「いや、別に何かあったって程じゃないよ。それに、美森と俺の間ってよりは、今回は俺個人の話なんだ」
事情は伏せたまま、何とか引き下がってもらえるように説明する。
しかし、結城友奈という少女が、この程度で引き下がるような性格じゃないのはよく分かっている。友達が悩んでいると知れば、それはもう明確に拒絶されない限りは粘りにねばる。
「勇者部五箇条ひとつ、悩んだら相談!言いにくい事もあるかもしれないけど、私はカズくんの力になりたい。だから、話してくれると嬉しいな?」
しかもそこに、万人を撃ち落とす必殺の上目遣いも併用してくる物だから、突っぱねようにも罪悪感で口が閉口する。
「友奈、お前……」
――どちらにしろ、俺一人じゃ名案なんて無かったし……友奈が相手なら、相談してみるのも悪くないか……
悩みの内容も非常に個人的でしょーもない物だけに、改まって言うのは気恥ずかしいが彼女がここまで言っているのだ。言いずらい事があっても、知らない分だけ互いに手を伸ばす事なら出来る。その大切さを知っているからこそ、俺はこれ以上隠す事はしなかった。
決して、彼女の
「実は―――――」
本当に事実をそのまま話した。
何度でも言うが、これは彼女がわざわざ気にするような深刻な問題じゃない。本当に俺が勝手に悩んで、迷っているだけなのだ。しかし、友奈は笑ったりしなかった、むしろ真剣な表情をして俺の相談に乗ってくれた。
「そんな事があったんだ……大丈夫!私も一緒にカズくんの悩みを解決できるように協力するよ!」
「ありがとう、友奈。それで、まずは原因の方なんだけど……」
「ふむ……それはズバリ、
「そうそう恋。って……は?」
俺と友奈の間に、ひょっこりと音もなく出現した金糸に素で困惑の声がもれた。
「フッフッフ、お困りのようね?我が後輩くん達よ」
「風先輩……こんな所で何してんすか?」
何処から用意したのか分からない伊達メガネをかけて、自信満々のドヤ顔を見せる姿が実に憎たらしい。そもそもこの部長殿は何処から湧いて出たのだろうか、喋るまで気配をまるで感じなかった。
「可愛い後輩の悩みとあれば、部長であるこの
「はあ……」
その結果、開口一番で出た答えが
まあ、そんな心情を口に出そう物なら、どんな獣(女子力)を呼び起こすか分からないので、こっちは黙っているしかない訳だが。
「それで風先輩!さっきの『恋』とはどういう事でしょう?」
そんな俺の心情など露知らず、友奈がハイテンションで質問すると、風先輩はこれまた素晴らしい喜色を含んだ表情でビシッと音の出そうな勢いで言い放った。
「よくぞ聞いてくれたわ。……和人、アンタは言ったわよね?この前の戦いの後から、気が付けば東郷を目で追ってて、その原因が分からないって」
「そうですけど……あの、いったい何処から聞いてたんですか?」
「勿論、最初からよ。そこの物陰で」
指さした方にはちょうどよく柱があって、人一人隠れられそうなスペースがある。それを見て、俺は露骨に顔をしかめた。
「………さいですか。続きをどうぞ」
もう突っ込む気力もなく、とりあえず話だけは聞く姿勢で風先輩に続きを促した。
「特定の異性から目を離せなくて、その少し前に
「おおー!さすが風先輩!」
人の悩みで勝手に盛り上がる二人組を前に頭が痛くなる。
「そんな訳ないでしょう?話が飛躍しすぎです。第一、俺が美森をそんな風に思うなんて……」
「あら、それこそ有り得ない話じゃないでしょ?クラスこそ違うけど……同じ部で、同じ分野が得意で、何かと一緒に居る事が多い。更に東郷は同性のアタシから見ても超美人!そんな相手が間近に居れば、そういう思いを持っても何ら不思議じゃないと思うわ」
「確かに、一般的にはそうかも知れませんけど……でも」
どうにも、この気持ちがそんな浮ついた物だとは思えない。
そもそもこういう誤解をされるのが嫌だから、他の人にはバレたくなかったのだ。それが見事に的中したのは何の因果か、今なら勇者部五箇条を勝手に書き換えても許される気がする。
「まあまあ、恋心なんて自覚する前はそんなものよ。大事なのは、そこからちゃんと育てて行くことなの!」
「風先輩、詳しいですね?」
「そりゃあ伊達に十五年間もアニメ、少女漫画を読み漁ってないわ!」
「実体験は無いのかよ……」
流石は女子力(暴力or男子力、或いはその両方)だ。
『獣』と書いて"女子力"と読むこの先輩をして恋愛経験など当然ある筈もなく、今まで飄々と語った内容は全て当人の想像の範疇に過ぎないというのだから恐れ入る。想像力豊かなのは美徳かもしれないが、一歩間違えれば相手を侮辱する結果になりかねないとはこの事か。
「そうネガティブにならずアタシに任せなさいって、アンタの悩みはこの風様の女子力で丸っと解決してあげるわ」
「…………もう何でもいいです」
好きにして頂こう。どうせ止めても意味はない。
「オッケー、それじゃあ本人もこう言ってる事だし……友奈、まずはセッティングからよ!」
「あいあいさー!」
部室に向かって行く二人の後ろ姿は、前途多難の象徴である。
あの二人に任せた結果、俺の部内でのヒエラルキーが一気に下がらない事を祈るとしよう。
■
翌日、土曜日。
朝の十時頃、人もまばらに過ぎ去るだけの閑静な住宅街。自宅であるマンションから十分ほどの場所、塀のある立派な日本家屋の入口前で俺はスマホを眺めながら意気消沈としていた。
「どうしてこうなった………」
表札には『東郷』の文字。
そう、この日本家屋は美森の自宅だ。因みにその隣には友奈の家がある。
この休日の朝っぱらから、俺が美森の自宅前に居る理由。
それはつい昨日に遡るのだが、もはやあの事は思い出したくもない。俺の意思はどこ吹く風と、風先輩が事を運ぶのは友奈の協力もあって異様に早かった。
気付いた時には既に準備は完了していたと言った方が正しいだろう。
『和人。アンタ明日、朝の十時に東郷の家の前ね』
『えっ、いきなり何です?』
『デートよ、デート!今一度、内にある恋心を自覚するには、やっぱり休日デートが定番じゃない!』
これが一部始終である。
俺、桐ヶ谷和人は激怒した。必ずかの邪知暴虐の部長をしかねばと決意する程には横柄な話である。面白い所がこれら全て、"何一つとして"俺からやってくれと頼んだのではなく、彼女が
今日の朝なんて、飯の少し前に樹から「ごめんなさい」と謝れられたんだ。
――まずこんなしょーもない事で妹に謝らせるなよ、姉よ。
とは言え、決まった以上は俺から「やっぱり無理だ」と美森に言うのも気が引ける。
一応、お出かけの目的はある。
これは断じてデートなどではない。そう、ただ友達と買い物に行くだけだ。
そう自身に言い聞かせていると、不意に家屋の扉が開いた。
「あっ、おはよう。美森」
「おはよう、和人くん。今朝は早いわね、待たせちゃったかしら?」
「いや、俺も今来たところだ」
そんな定型文的なやり取りを交わして、俺は自然な動作で彼女の後ろに回って車椅子のハンドルを握る。
「フフッ、こうして和人くんに車椅子を押してもらうのは、何だか不思議な気分ね」
おかしそうに笑う美森に俺もあえて便乗して言葉を紡ぐ。
「ご所望とあれば、いつでも請け負うぜ?」
「茶化さないの。さあ、時間が勿体ないし、早く行きましょう?」
「ああ、そうだな」
首肯して、車椅子を押し歩き出す。
門をくぐって外に出ると、俺は
やっぱりこの二人のエピソードはしっかりとやっとくべきだと思いました
前作からの繋がりもありますし、より重要な関係性にある二人ですから