結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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落ち着いたので投稿再開


第十二話:鷲尾須美

 

 剣を鞘に収めると、ふぅっと一息ついた。

 

「今のなにー!?」

 

 僅かに遅れて園子が発したのは、予想外の技に対する疑問だった。

 

「スキルコネクト、ソードスキルを打ち終わった時に別のソードスキルを繋げる事で技後の硬直を消す事が出来る技だよ。まさか、使わされるとは思わなかったけどな」

 

 スキルコネクトは確かに強力な技だが、その分デメリットも存在する。失敗すれば多大な隙を晒す事になり負けがほぼ確実になってしまう上に、その難易度もあって俺でも成功率は五分くらい、最大でも四連携くらいまでしか繋げられない。故にここぞという所以外は使用を控えている。

 元々は二刀流スキルが存在しないALOで満足に戦うために編み出した技なので、片手剣で戦うならどちらにしろ使うことになっていた気もするが……

 

「二刀流と同じで、俺の奥の手の一つだ」

 

「奥の手、か~。それを引き出せたのは嬉しいけど、それでも悔しいよ~」

 

 彼女からして見ればもう少しで勝てるって所だった分、尚更悔しいはずだ。それだけ拮抗した勝負だったし、何らかの形でスキル連携の存在を知っていれば、結果は違ったものになっていたかもしれない。それこそ、二刀流を使わされていた可能性だってある。実際、ほぼ初見でスキル後の硬直に気付いたのは大したものだ。

 

「ふっ、もっと精進したまえよ、そのっちくん」

 

 言いながら、俺が園子の頭に手を置いた。今朝、彼女はそれを心地良さそうにしていたから、俺に奥の手であるスキル連携を出させるまでに追い詰めた、ちょっとしたご褒美だ。

 園子は表情を緩めつつも、俺の言葉に対してこう答えた。

 

「次は絶対に負かすからね~!」

 

 今回は俺の勝ちだったが、次からは分からない。そう思いながら、銀と須美の元へと戻っていく園子の背中を見送った。

 

 

 

 

 模擬戦を終えて戻ってきた乃木さんは、負けたにも関わらずあまり悔しそうにはしていなかった。

 

「あはは~、やっぱり無理だったよ~」

 

 スキルコネクトという新たな技を引き出せただけでも、本人からすれば上出来だったという事だろうか?

 

「ほらな?あたしの言ってる意味、分かっただろ?」

 

「うん、それはもう嫌と言う程ね~」

 

 その会話について、私は二人に聞いた。

 

「それって、さっきの『慣れてる』って言葉の事よね?それって、私達よりも戦闘慣れしてるっていう事?」

 

「まあ、それもあるんだけど~。それだけじゃないって言うか~。何となく、キリトさんは人と戦う(・・・・)のに慣れてる気がするんだよね~」

 

「それ、あたしもそう言いたかったんだよ!」

 

 ――対人戦に慣れている?

 

 私達以上に戦闘慣れしている、というのは分かる。確かに彼の技量は私達の数段上を行っているし、それ以外の細かな小技や戦闘技術に関しても同じことが言える。けれど、対人戦闘そのものに特別慣れているという表現には違和感があった。

 勇者はバーテックスと戦う為の戦闘訓練は受けているが、そこに対人戦の技は含まれない。その理由は、単純に覚える必要がないからだ。勇者はバーテックスと戦う事はあっても、人と戦う機会なんてあるはずがない。

 だとすれば、対人戦に慣れているというのは一体どういう事なのだろう……

 

「須美もやってみれば分かると思うよ」

 

 その言葉に、私はふと桐ヶ谷さんの方を一瞥した。その横顔を見ると、弓を握る手に自然と力が入った。

 

 

 

 

 

 

 須美との戦いが終われば、一先ず今日の戦闘訓練はひと段落だ。

 初戦の銀との戦いも、園子との戦いも、どっちも油断一つが命取りになりかねない紙一重の勝負だった。最後に戦う須美は弓使いで、放つ矢の威力はバーテックスの硬い外皮おも穿つ程の威力がある。速度こそ目で追えるレベルだが、だからといってタンクじゃない俺がまともに受けられるようなものでもない。

 

「……お待たせしました」

 

「最後は須美だな。よし、それじゃあ始めるか」

 

 それまでと同じ調子で始めようと思ったが、そこで俺はある事に思い至った。

 

「いや、待てよ。……須美、この戦いだけ少しルールを変えてもいいかな?」

 

「ルールを?」

 

 訝る須美に俺は頷いた。

 

「ああ、須美はあくまで後衛だ。前衛の俺と一対一で戦うなら、本当ならもっと距離を取ってやりたいだろ?でも、この訓練場は庭まで入れてもそこまでの広さはない。そんなのは、はっきり言ってフェアな戦いとはいえない」

 

 この距離だと、彼女は一回弓を射るよりも早く俺が接近出来てしまう。そんな条件下でやっても実力は見れないし、ましてや訓練になどなるはずがない。

 

「理屈は分かりましたけど、だったらどうするんですか?」

 

「俺と君の間に今よりもう少しだけ距離を空けて――そうだな……」

 

 庭に出て、剣を使って地面に三十メートル程の正方形を書いた。

 

「一分間、俺はこの範囲から出ない。その間、須美はその訓練場の中ならどんな風に動いても良いし、何回でも弓を射て構わないよ。制限時間の一分が過ぎたら、俺はこの範囲から出て接近しても良い事にする。……どうだ?」

 

 俺の話を聞いて、須美はその内容を吟味し始めた。即席で考えた簡単なルールだが、模擬戦としてやる分には十分だと思う。

 

「……分かりました、それで構いません」

 

「オッケー、これで決まりだな!」

 

 ルールが決定したので、俺は早速自身が書いた正方形の中心に立って剣を構える。須美も俺の真正面、訓練場の真ん中あたりで弓を構えた。

 彼女の射手(スナイパー)としての腕は本物だ。直径三十メートル程度の範囲では動き回りながら避けるのは不可能だし、俺はそれら全てをこの剣一本で防ぎ切らなければならない。

 

 一分、自分で定めといてなんだけど結構きつい。

 力が施された矢はソードスキルで、それ以外は全部純粋な剣技のみで防ぐしかない。

 

「それでは……始め!」

 

 開始の合図がかかると、須美は最小限の動作で矢を放った。

 それを剣で叩き落とすと、そこからペースを上げるように次々と矢が飛んでくる。速度は中々のものだが反応できない程じゃない。それに、ここからでも彼女の視線の動きが何処を狙っているのかを事前に教えてくれる。

 

 フルオートのマシンガンのように超高速で連射される訳ではない代わりに、一発の重さはその比じゃない。GGOでは光剣だったというのもあるけど、須美の射る矢を剣で弾いた際に掛かる負荷は中々どうしてこっちの体力と集中力を削ってくる。

 

 思考する間にも、俺は飛来する矢を次々と切り落としていく。

 ここまで約十発の矢を落としたが、経過したのは僅か五秒足らず……彼女との戦いはまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 実戦闘において弓は基本的に、接近されれば終わりの遠距離特化型の武器だ。

 故に、桐ヶ谷さんのように剣を扱う前衛と一対一で戦うとなれば、如何にして距離を詰めさせずこちらが攻撃し続けられるかが勝負に鍵になる。それが一分ものアドバンテージがある上に最短でもたったの五十メートル程度の距離で打ち続けられるというルールを、彼女はフェアな条件だと言い切ったのだ。

 

 それが強さ故の自信なのかを確かめる為に私はその条件を飲んだ。

 

「やっぱり、この程度じゃ当たらないか」

 

 立ち合いが始まって、私はその正体をすぐに目の当たりにする事になった。

 私が射た十本もの矢は、牽制程度の威力ではあるものの速度は一切の加減なしに放ったものだ。当然、普通なら剣で弾くなんて不可能だし、半径十五メートル程度の範囲では満足に躱す事も出来ない。しかし彼女の右手が閃いたと思った時には、既に第一射は撃ち落とされていた。そこから、私が連続して放った合計十本もの矢を、まるで剣の残像が霞む程の速度で尽く防ぎ切る。

 恐ろしい程の反応速度と、集中力、そして剣技の冴えだ。早いだけでなく、恐ろしく正確――高速で飛来する幅数センチ程の矢をもっと細い剣で斬るなんて、人間の出来ることだとは思えない。

 

「真正面からの連射だけじゃ攻め切れない」

 

 序盤の小手調べとは言え、かの剣士の技量を逸早(いちはや)く再確認した私は即座にその身を右に跳ばせる。

 右に動きながら、矢を三本射ると桐ヶ谷さんは軽くステップしながらそれらを弾く。射方を変えても対応されるのは織り込み済み、本命はその後にある。

 

「そこ!」

 

 一際強く引き絞った矢が光り、花弁のような紋様が浮かび上がった。

 放たれた矢が一筋の軌跡を描き、僅かな距離を飛翔して桐ヶ谷さんに向かう。すると、彼女の剣も青い光を纏って右斜め下段から斬り上げるように振り抜かれた。

 

▽片手剣単発技▽

バーチカル

 

 それまでとは比較にならない威力が込められた矢は、桐ヶ谷さんが得意とする技……ソードスキルによって防がれた。

 乃木さんや三ノ輪さんとの立ち合いの時にも見たが、改めてその限界を越えた速度に驚嘆する。振り抜かれた(・・・・・・)と思った時には、既に光が残影を残すのみになっていて目で追う事が出来ない。

 

 ――早すぎて剣筋が見えない。こんなものを三ノ輪さんと乃木さんは真っ向から防いでいたの?

 

 改めてあの二人の技量と度胸には驚かざる得ない。正直言って、あんなのが至近距離から絶え間なく飛んでくるなんて恐怖の他の何でもない。

 それでも、付け入る隙がないのなら作るしかない。更にペースを上げて多方面から攻撃し、矢を三つ同時につがえるとそれぞれ彼が防ぎ辛い位置関係になるように放った。

 

「……っ!」

 

 短く鋭い気迫が迸ったかと思えば、彼の右手が瞬迅して青い光と共に風車のように高速で剣を回した。

 

▽片手剣防御技▽

スピニングシールド

 

 それによって、私の射た矢は全て叩き落されたがここまでは計算の内、本命はこの次だ。私は既に一本の矢を弓にセットしており、円形に展開した花弁のような紋様は全体の三割ほどまでチャージされていた。

 

「セヤァッ!」

 

 ソードスキルが終わるタイミングに合わせて渾身の一射を放つ。するとそれにも、桐ヶ谷さんは驚異的な反応を見せる。

 

▽片手剣2連撃技▽

スネークバイト

 

 目前まで迫った矢に対して、後ろに身体を引きながら剣を左脇に抱えるように持ち、瞬時にソードスキルを発動させた。描いた剣筋は二つ、ほぼ同時とも思える程に速い二連撃が私の本命の一射を穿つ。

 決め切れるかは半々だったが、やはり防がれた。彼女の速さを既に何度も目にしたのもあってもう驚きはしないし、確実に決め切れる保証もない中途半端な攻撃が決まり手になるとも思っていない。考えるべきは残り時間――ここまでのやり取りで既に三十秒程が経過しており、私に残されたのは折り返しの半分だけ。

 

 果てしなく強い、経験や技術と呼べる領域を完全に逸脱している。三ノ輪さんの言っていた『対人戦への慣れ』という言葉の意味もなんとなく分かる。これ程までの強さがあれば、それこそバーテックスを単独で撃破する事も可能なんじゃないだろうか?

 

 ――知りたい。もっと、この人の強さを……

 

 お役目が始まってから感じ続けていた焦燥感。私はそれに突き動かされるように、次の矢をつがえた。

 

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