結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十四話:合宿

 

 合宿――部活動に入らず、修学旅行にも行く事がなかった俺にとってそれは終ぞ縁のない行事だと思っていた。

 だから先日の訓練の後、安芸から『明後日、連携の演習不足解消の為に勇者達で合宿をする』との連絡が入った時にもあまり興奮や感慨と言ったものもなくて、むしろその単語に現実離れすらしていた。

 

 初の訓練から一日空けて、必要な準備を園子と共に巻きで終わらせた俺は当日の朝、未だ寝ぼけている園子を連れて合宿先に向かうためのバスに乗った。集合時間よりも少し早めだったけど、予想通り須美は既に来ていて、後は銀が来ればすぐにでも出発できる。

 

 その筈だったのだが……

 

「遅い!」

 

 そんな須美の声がバスの中に響く。それが誰に対しての言葉なのか何てのは言うまでもない。

 バスの中には須美、園子、そしての俺の三人の姿があって集合時刻から既に十分は過ぎていた。――にも拘らず三ノ輪銀は一向に現れないものだから、俺の方に寄りかかって夢の世界に旅だっている園子はともかくとして、厳格な須美は怒り心頭だ。

 

「まあまあ、もう少し待てば来るって」

 

 そんな風にさっきから彼女を宥めるているものの、銀は今回の合宿を大層楽しみにしていたので余り遅いとなると何かあったのではと心配になる。

 

「何事もないと良いけど……」

 

 そう口にした時、バスの扉が開いて見知ったショートカットの少女が慌てた様子で乗り込んで来たのだった。

 

「悪いわるい、遅くなった!」

 

「三ノ輪さん遅い!昨日はあれだけ張り切っていたのにどういうこと?」

 

 須美の言葉に銀は小さく頭を下げる。

 

「それが色々あって……いや、悪いのは自分なんだけど、とにかくごめんよ。須美ぃ」

 

 銀は心の底から謝っている様子だけど、須美はそれ以上に思うところがあるのか言葉を続ける。

 

「この際だからハッキリと言わせて貰うけど、三ノ輪さんは普段の生活がだらしないように思うわ!」

 

 聞いた話ではあるが、銀は普段から学校に関しても登校時間ギリギリに来る事が多く、こういう事も初めてではないらしい。銀の性格的にそんな事をするようには思えないが、事実としてやってしまっている以上は否定することは出来ない。とは言え、須美の怒りも分かるがこのままでは合宿先に着くまで説教が続きそうなのでこの辺りで助け舟を出すことにした。

 

「まあまあ須美さんや、もうその辺にしてあげてもいいんじゃないか?銀だって、ちゃんと反省しているみたいだし……」

 

「桐ヶ谷さんは甘いです!勇者として選ばれた以上、こういうのはちゃんと――」

 

 更にヒートアップしそうになったその時、寝ていた園子が目を覚ました。寝ぼけまなこで周囲を見回すと、疑問符を頭の上に浮かべて言った。

 

「あれ?お母さん、お姉ちゃん、ここどこ?」

 

 誰がお母さん役で誰がお姉ちゃん役かは敢えてスルーして、そのタイミングでバスが丁度出発したのもあってか奇跡的にその場は有耶無耶になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 場所は讃州サンビーチ、シーズンの休日なんかは人でにぎわうであろう潮騒のビーチに四人と安芸は居た。

 安芸はジャージに笛と言った如何にも体育会教師といった格好で、対して俺達四人は既に勇者装束へと換装していた。安芸が号令をかけ、学校やら家族のことは心配いらないという旨を話して、早速訓練は開始される。

 

「へぇ、結構気合はいってるんだな」

 

 俺が呟くのも、砂浜に用意された十数個の蒼いボックスを見てその本気具合に目を丸くしていた。

 

「本格的にお役目が始まったのに際して、大赦は勇者を全面的にバックアップするわ。世界の命運に比べれば、これくらいは安い物よ」

 

 安芸の言葉に俺は腕を組みつつ考えた。一応、指導役ではあるので訓練内容は把握しているので異論はないのだが、確かにこれは一日やちょっとでは終わらないなと改めて腹を括る。

 園子達の所に行くと早速準備万端といった様子だった。

 

「お待たせ。それじゃあルールを説明するけど、まあ見ての通り弾避けゲームだ。全員で連携しつつメインアタッカーの銀をあのバスの所まで送り届ける。須美はスナイパーだから、あの辺りから動かずにサポートって感じだな」

 

「動いちゃダメ、なんですか?」

 

 問い返す須美に首肯しつつ理由を説明する。

 

「ああ、スナイパーに必要なのは戦場全体を見渡す観察眼と、決して焦らない冷静さだ。故に相当な事がない限りは前に出過ぎちゃいけない。後衛が崩れるのはパーティーの崩壊を意味すると言ってもいいし、責任重大だぞ?」

 

「責任重大……はい、分かりました!それじゃあ私、持ち場に付きますね」

 

 須美は納得してくれたようで自分の持ち場へと移動した。

 

「わたしはボールからミノさんを守ればいいんだよね~。キリトさんはどうするの?」

 

「俺は遊撃手だし、出来るだけ素早く動き回りながら前衛と中衛の突破口を開く感じだな」

 

「え?なんかキリトさんの役割たのしそう!」

 

「いや、言っとくけどこれ結構難しいからな?」

 

 なんて話していると、遠くから安芸の「始めるわよ!」という声が響く。そこで俺達は話を一時中断して、それぞれの持ち場に付いた。園子は先頭で盾を使い銀を守りつつ進む。俺の役割はひたすら走って出来るだけ二人に当たりそうなルートの弾を防ぐ。

 合図と共に、二人が走り出す。それと同時にボールの発射が始まった。

 

「フッ!」

 

 俺は自分に飛んでくる弾を躱しながら、二人に飛んでいくボールを斬り落としていく。須美も遠くから弾を撃ち落としているが、このボールが中々の速度で俺でもたまに当たりそうになる程だ。何とか俺と須美で弾を落としていたものの、やがて流れた弾の一つが園子の守りすらも掻い潜って銀に命中した。

 

「これくらいなら楽しょ――イッテ!?」

 

「あ、ごめん!」

 

 須美がそう言うのも、当たったのが須美の矢が外れたことによって流れたボールだったからだ。

 

「どんまいだよ~、わっしー!」

 

「呼び方も固いんだよ。銀でいいよ、銀で」

 

「わたしの事はそのっちで~、はい呼んでみて~!」

 

 確かに須美だけは俺の事を苗字で呼んでいた。これは彼女の性格的な面もあるだろうから気にしていなかったけど、園子達からしたらもっと友達らしく呼び捨てにして貰いたい気持ちもあるのだろう。

 と、言っている間にも次々とリトライを繰り返して、結局その日は目標地点にたどり着けないまま夕方を迎えたのだった。

 

 大赦が用意した旅館に戻ってからは、四人揃って豪勢な晩御飯を食べる。

 この合宿中は出来るだけ四人で行動することになっており、その理由は安芸曰く『1+1+1を3にするのではなく、その何十倍にもする為』との事だ。

 

 親密さが高くなるのは良い事だし、三人と居るのは楽しいから良いのだが……

 

 そう、そんな非常に楽しい時間の中で問題が一つ、それは――――お風呂だ。

 この通り見た目は見紛う事なき女の子になっている俺だが、精神は間違いなく男であり、当然彼女達と一緒に風呂に入るのなんてダメだし、俺自身も許容できない。よって……

 

「ふぅ、ちょっと狭いけど極楽極楽」

 

 俺だけは皆と同じ露天風呂ではなく、館内の少し狭い室内の浴室を使わせて貰う事になった。

 

「初日の出来はそこまで悪くなかったし、予想よりも早く終わりそうな感じだったな」

 

 今回の合宿はそれなりに時間が掛かる内容だと思っていたのだが、誰かの動きが極端に外れていたり悪かったりする事も無く、クリアまでは時間の問題だと言うのが素直な印象だった。

 

「むしろ、俺の動きにも反省点は多かったし、明日からはまた気を引き締め直さないとな」

 

 いつ何時であろうと油断は命取りだ。

 それはそうと、今頃三人は露天風呂で楽しくワイワイやっているのだろうか。そう考えると、こうして一人で居る事に妙なもの寂しさを感じる気もするけど、寝る場所は一緒なので部屋に戻ればまた楽しく話が出来る。

 

「……のぼせる前に上がるか」

 

 そう一言で区切って、俺は疲れた身に染みる湯船もそこそこに浴室を出た。

 寝巻きに着替えて、さっと長い髪を乾かすと廊下歩いて部屋に戻る。まだ三人共、帰っていないだろうなと辺りを付けて部屋に入ると予想外にそこには三人の姿があった。

 

「キリトさんおかえり~」

 

 俺を見てパッと笑顔になったニワトリのパジャマ姿になった園子に相槌を打ちつつ、座敷に座布団を敷いて座る。

 

「おう、ただいま。三人共、もう上がったのか?まだ三十分くらいだし、ちょっと早い気もするけど……」

 

 時計を見ると、風呂に行ってから経っていたのは精々三十分程で折角の露天風呂にしては少し早い気もした。そんな俺の疑問に対して銀が回答した。

 

「そうなんですけど、露天風呂が予想以上に熱くてすぐにのぼせちゃいそうになったんで早めに上がって来たんです」

 

「それにしても、どうして桐ヶ谷さんだけ別だったんですか?」

 

 須美が出した質問に対して、俺は分かりやすく固まる。本当は男だから、なんて言える訳も言うわけにも行かないし、だとしたらどういう風に誤魔化すのが正解なのだろうか。どう言うかに思考をフル加速させていると園子が答えた。

 

「キリトさん、家でもわたしとは絶対に入らないんだよね~。なんか恥ずかしいみたいでさ、そんなこと気にしなくていいのに~」

 

「そ、そうなんだよ。ちょっと他人に肌見せるのも、見るのも抵抗あって……もうボカンって、恥ずかしさのあまり爆発しちゃうんだよ!ハハハ……」

 

 こんな事で怪しまれることはないだろうけど、万が一にも正体がばれるような事態は避けたい。

 部屋には既に四人分の布団が敷かれており、話もそこそこに俺は空いている布団の一つに座ると大きく伸びをした。

 

「……にしても、対バーテックスを意識してるだけあって結構きついな」

 

「そう言う割に一度も当たってなかったみたいだけどね~」

 

「まあ、まだ初日だったからな。多分明日はそうも行かないと思うよ?安芸さんが俺専用に内容を調整するとか言ってたし」

 

 それ聞いて、三人は分かりやすく表情を引き攣らせた。

 

「先生も容赦ないなぁ、でもキリトさん専用って言うのもちょっと気になるかも」

 

 銀が興味ありそうにそう言うので、俺は不敵に笑って返した。

 

「そんなに興味があるなら銀と俺の役割を一度入れ替えてみるか?」

 

 銀はぎょっとすると首を横に振った。

 

「いやいや、勘弁してくださいよ!そんな所に放り込まれたらあたし本当に訓練で死んじゃいますって!?」

 

「ハハ、冗談だよ。でも、本当にどんなのになるんだろうな」

 

 弾速を上げる、射出のアルゴリズムを改造するなど様々な方法が思い付くが現時点では何とも言えない。

 

「もしかしたら、機械の数を十個くらい増やして全部に桐ヶ谷さんを狙わせる。――とかになるかも知れませんよ?」

 

「あの須美さん、あんまり怖いこと言うのは止めてもらっていいですか?」

 

 今でも回避しきれるギリギリくらいなのに、更に物量が増えたらそれこそ確実に滅多打ちにされてしまう。流石にこれは可能性としては薄いだろうけど、何しても明日になれば分かることだ。合宿はまだ始まったばかり、指導役がこんな所でへこたれる訳には行かない。

 

 しかしこの翌日、俺はこの合宿に対して本当の意味で恐怖することになるのだった。

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