結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十五話:連携

 

 合宿二日目――

 早朝のビーチには、すでに勇者四人の姿があった。

 

 昨日同様に訓練用のマシンが設置された前にして、四人――中でもキリトはその表情に脂汗を滲ませて、呆然としていた。その理由は驚愕ゆえか、困惑ゆえか、或いはその両方かも知れない。

 

「いや、改造するとは言ってたけど……」

 

「これ、本当に十個くらい増えてません?」

 

 目の前には昨日よりも明らかに増設されたマシンの量と、涼しげな表情で整備している安芸。パッと数える限り昨日よりもその数は一〇台くらいは増えており、昨夜須美が冗談めかしに口にした内容が早くも現実になってしまった。

 

「あの増えたやつ、全部キリトさんを狙ってきたりとかしないよね~?」

 

「いや、まさか……」

 

 そんな恐ろしい事が起こっていいはずがない。

 

「――さあ、そろそろ始めるわよ!皆、位置について!」

 

 話していると整備が終わったのか、安芸が声をかけた。

 

「まあ、なるようにしかならないか。安芸さんが決めた事なら従うしかないし……」

 

 どちらにしろやってみない事には分からない。

 気合いを入れ直して、昨日同様に各々の配置に付く。訓練が始まると、昨日と同様に打ち出された弾を園子が盾で防ぎ、須美と俺でそれをサポートする。――――という立ち回りは特に変えずに動いていたのだが、ここでとんでもない事が起きた。

 

「――グハッ!」

 

 なんて情けない声を上げながら、俺は地面に叩き付けられた。

 訓練の敗北条件は銀にボールが当たることなので、俺が脱落しても一応続きはするのだが、案の定数秒後には剛速球のボールが衝突する音と共に銀のくぐもった声が聞こえた。

 

「……すまん。またやられた」

 

 後頭部を擦りながら歩いていくと、園子が苦笑いしていた。

 

「しょうがないよ~。だって、あれだもんね~」

 

 視線を向けた先にあるのは悠然と佇むボール射出マシンの数々。園子がそんな表情をするくらいには、俺に叩き付けられた無理難題は理不尽極まりないものだったのだが、それを分かりやすく説明するとんると――時間は一時間程前に遡る。

 

 

 

 

 一時間前――

 二日目の訓練、その一回目が始まって俺はまず出来るだけ銀と園子の周りを動き回りながら、須美の射撃で取り切れない分のボールを叩くという立ち回りを取った。

 

「右側クリア、今なら行ける!」

 

「「了解!」」

 

 一日目を経て対策を詰めたのが功を奏して、訓練は順調に進みクリアまであと一歩という所まで来ていた。

 

 ――行ける。皆の動きも良くなってるし、段々お互いの動きが合ってきたんだ。

 

 なんて、今にして思えば浅はかな考えだったと自分を呪うよ。増設されたマシンが未だに稼働し始めてはいない事に、俺はこの時点で気付きべきだったのだ。

 

「――キリトさん、危ない!」

 

「え?」

 

 須美の声に反応して、俺はその場で急停止すると顔のすぐ傍を剛速球のボールが風を切る音と共に通り過ぎていったのを感じた。視線を向けた先ではどういう訳か、先程までは起動していなかったはずのマシンが物々しい音を立てながらボールを射出口にセットして、その照準をこちらに向けていた。

 その数――役十五台。

 

「は?いや、ちょっ、待――ッ!?」

 

 まさにボールの一斉掃射、逃げ場などあるはずもない弾幕の嵐を前にして出来る事などあるはずもなく……

 

「ズハッ!」

 

 それまで一度も当たっていなかったボールは、俺の顔面にあっさりとクリーンヒットしたのだった。

 

 

 

 

 それからというもの順調だった流れは一気に押し戻され、俺達はまた振り出しに戻っていた。

 主に俺がそれまでよりも自身の回避と迎撃に専念しなければ行けなくなった事が原因だった。数が増えたとは言っても、回避と迎撃に集中すれば回避しきること自体は出来る。しかしそれだと園子と銀へのサポートが疎かになってしまう。

 

 ――いや、それじゃあダメだ。

 

 俺の役目は一人で生き残る事ではなく、アタッカーのサポートだ。

 無理を通して何とかその両立を測ろうとしても……

 

「しまっ――」

 

 途端に意識の外から飛んできたボールに打ち据えられる。

 

「どんまい、キリトさん~」

 

「次いきましょう、次!」

 

 こう何度も失敗すると申し訳ない気持ちになってくるが、ここで焦ったら元も子もない。失敗しながらでも良い、何か打開策を探さないと……

 考えて、あれこれ試すもののそう簡単に行くわけもなく、結局主だった解決法も見つからないまま二日目の訓練は終わってしまった。

 

 昼から夕方にかけて三人は安芸から学校に言っていない分の授業を受けるとの事だったので、俺はその間やる事がないから海岸から潮風に吹かれながら海を見ていた。

 

「はぁ、あれ本当にどうしようかな」

 

 もっと早く動く、反応する、そして斬る。言うのは簡単だが、あの数が一斉にこちらに向かってくるとなれば流石に一人でどうにか出来る量を超えている。

 こういう時、俺はあの世界でどうしていた?

 

 ソロプレイヤーとして駆け抜けたアインクラッドでも、実際の所は自分一人ではどうにもならない事なんて幾らでもあった。それこそ、その代表的な例がフロアボス戦だ。強大なHPにプレイヤーの命など軽く消し飛ばす程の攻撃力、更には通常エネミーとは比較にならない程に複雑化された行動アルゴリズム。SAOではこれに挑む際、十分な装備、レイドメンバーを揃えることを絶対条件としていた。

 

「でないと、勝つことが出来ないから……待てよ」

 

 そもそも、この訓練の目的はなんだ?

 連携の練度を高める事なのは承知しているが、今回の俺に対する過度とも言える程の対策強化は明らかに連携を意図的に分断する行為だ。安芸は厳しい人だが意味のないことはしない。

 

「連携、互いに信頼し合う。そうか、分かったぞ!」

 

 俺はそこで、ようやくこの訓練の中核的な攻略法に気付いたのだった。

 

 

 

 

 日付を跨いで、三日目――

 少し早めにビーチに集まった俺、園子、銀、そして須美は最後の作戦会議を行っていた。

 

「作戦は昨日話した通りだけど、三人共やれそうか?」

 

 昨晩、俺は今回の訓練の切り抜ける為の作戦を三人に提示した。

 反応は様々だったけど、それでもこれといった反対意見が出る事もなく実行に移す方向で固まった。そして、その最終調整を含めた確認に対しても反応にネガティブなものはない。

 

「当たって砕けろって言いますし、やれるだけやってみましょう!」

 

「失敗したらまた考えれば良いだけだしね~」

 

「私も精一杯援護するので、桐ヶ谷さんは安心して任せてください」

 

 純粋な好意と信頼、彼女達から向けられるそれはちょっと俺には眩しいものだけど、同時に心地よくもあった。そんな三人に俺は拳を突き出して言った。

 

「よし、それじゃあ目標は今日中のクリア!皆、全力で行こう!」

 

「「「おー!」」」

 

 四人で拳を突き合わせると、それを天に向かって掲げた。

 

 

 

 

 作戦は言葉にしてみれば単純なものだ。

 これまではサポーターに徹し、常に二人を援護することを考えて動いていた。しかしそれでは何処かで限界が来て、どちらかが先に脱落してしまう。そこで俺は、三人と俺の役割を完全に分断する事を思い付いたのだ。

 具体的には、ボールの弾幕が最も暑くなる位置までの一時的なものだが、これが一番目標達成に近い手段だと俺は睨んでいる。

 

 分断、その言葉は一見すれば連携とはかけ離れているように見えるかも知れない。だが思い返して見ればSAO時代のフロアボス戦においても、俺は似たような役割に徹していたんだ。

 大人数のローテーションには加入せず、取り巻きを倒しつつ最後にはボスへのアタックを行う遊撃手。

 

 話は戻るが、ボールによる弾幕が一番厚くなるのは見たところゴール直前だ。俺は二人がそこまで接近するまで回避に専念し、その弾幕地帯を突破する際に合流、上位ソードスキルで道筋を作る。

 これを実行するには、そもそも三人が俺の手を借りずにそこまで辿り着く必要がある。俺にしてもそれは同じで、無数の集中弾幕の中を三人が所定の位置に付くまで待たなければならない。

 

 

 

 

 お互いが自身の役割を完遂してくれるという絶対的な信頼が必要だ。

 

 

 

 

 配置に付くと四人で目を見合わせる。いつでも行けるという合図として行うアイコンタクト、これも昨晩の内に俺が三人に提案したものだ。

 SAO時代にはよくやっていたサインだが、最小限の動作で最短でかつ機密的に情報を交換できる。バーテックス戦においてもリアルタイムにお互いの現状を確認し合えるし、練習しておくに越したことはない。

 

「――それじゃあ始めるわよ!」

 

 安芸の合図があると同時に疾走する。

 

 ――集中しろ、意識から必要なもの以外を排除するんだ。

 

 超感覚、極限まで集中することで周囲から伝わる微細な音や気配から物体、人物の位置を大まかに特定する事の出来るシステム外スキル。

 過去にはGGO内においてこれを用いる事で潜伏する相手の位置を特定したりと、様々な場面で助けられてきた。――右後方の足音二つ、これは園子と銀、二人の事は須美がどうにか所定の場所まで届けてくれる。

 

 一つずつ意識から排除していき残るのは、ボールが風を切る音だけだ。

 

「シッ!」

 

 短い吐息と共に剣を振り飛んできたボールを二つ叩き切ると、同時に姿勢を低くしてスライディングする事で追撃の三つを躱す。

 

 ――数は多いけど、ちゃんと集中すれば避けられない程じゃない。

 

 GGOでフルオートの銃の連射を捌き切るのに比べれば、このくらいの事なら何てことはない。

 速度を一切落とさず、他の一切を度外視してただ進むことだけ一点を見据える。

 

「早く」

 

 ――もっと早く。

 

 周囲の景色がスローモーションになり、意識が段々と加速していく。

 回避と斬撃を繰り返し、幾重にも重なった弾幕が展開されたところを跳躍して飛び越える。それによって、俺は目的の位置取りまで辿り着く。

 それと殆ど同時に須美の声が響いた。

 

「桐ヶ谷さんッ!!」

 

 俺の後方から放たれた複数の矢が、目前にまで迫った弾幕を撃ち落とす。

 

「ナイスタイミング!」

 

 それによって生まれた僅かな間に銀と園子の位置取りを確認して、そこに殺到する弾幕を見据えて剣を上段に構える。

 

▽片手剣7連撃技▽

デッドリー・シンズ

 

 赤いライトエフェクトが鮮やかな軌跡を描きながら弾幕を切り裂く。

 

「ハアァッ!」

 

 七にも及ぶ神速の斬撃が空気を切り裂き、最後の関門であったゴール前に道を作る。

 

「――今だ!」

 

「どおぉぉりゃああぁぁ!!」

 

 俺のすぐ隣を赤いシルエットが駆け抜けた。

 空気を震わせんばかりの咆哮を迸らせて跳躍する。

 

「ごおぉぉぉる!!」

 

 叫びと共に振り降ろされた銀の刃が遂に届きバスは大破した。これをもって、連携力アップの特訓は無事終了したのだった。

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