結城友奈は勇者である-黒の章-   作:グランドマスター・リア

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第十八話:信じる

 

 襲来した四本脚のそれは、まるで牛のような見た目の奴だった。

 勇者に変身して樹海に出ると、宙を浮いて大橋を渡ってくるそれを確認する。

 

「おぉ、今回はヴィジュアル系だ」

 

「え、そうか?」

 

 何とも言えない銀の総評に心中では「締まらないな」と苦笑するが、彼女の言う通りバーテックスはどの個体も見た目がかなり違う。

 今回の様に動物を模したような奴も居れば、前回のように道具を連想させるパターンもある。

 共通して言える事はそのどれもが奇怪で、どことなく生物的恐怖感を煽るような不気味さを孕んでいるという事だ

 

 それはSAOボスモンスターのデザインにも活用されていたロジックであり、苦手な人からすると億劫な事この上ないが、倒す側としては遠慮なく戦えるのでやりやすかったりする。

 

「攻撃方法もまだ分からないし、様子を見つつ接近しよう。リーダー、号令頼む!」

 

「え?それじゃあ……突撃ぃーー!」

 

「おー!」

 

 そんな微妙な掛け声で開戦の火蓋は切られる。

 

「まずは私が、遠距離から様子見を……!」

 

 須美は比較的見晴らしの良い高台まで移動すると、矢をつがえ引き絞りその矢先を異形の化物へと向ける。

 牽制の一射を放とうとした瞬間、敵は地面に着地するとその巨体の中心から細長い(つい)のような物を地面に叩き下ろした。

 すると、その場の全員が激しい揺れに襲われる。

 

「これはっ!」

 

「地震?あいつが起こしてるのか!?」

 

 発生のタイミングからしてそれは間違いない。

 思わぬ形での攻撃に完全に不意を突かれる格好になり、体勢を崩した須美に向かってバーテックスは一本の脚の矛先を須美に向ける。

 

「須美ッ!」

 

 激しい揺れの中でも何とか体感を鳴らして跳躍すると、須美の前に立ち二刀を構える。

 

▽二刀流防御技▽

クロスブロック

 

「フッ!」

 

 飛ばしてきた巨大な一本の脚を、交差させた剣で受け止め衝撃を逃がすように弾く。

 背後では須美が安堵の息を付いたが、防ぎ切ったと安心するにはまだ早い。敵は早くも二本目の脚をこちらに向けており、俺は一撃を防いだ反動で動けずにいる。

 二本目の脚が発射される。だが俺は焦る事はない。

 

「残念、うちには優秀なタンクが居るんだよ!」

 

 迫る脚との間に割って入るようにして出現した園子の小さな背中、彼女はその細腕で強かに盾を構え脚を真正面から受け止めた。

 

「うんとこしょッ!」

 

 気の抜けるような掛け声と共に盾を受け止めた敵の脚を払う。

 

「くっ、今度こそ!」

 

 須美が苦い表情で弓をバーテックスに向けるが、俺はそんな彼女の肩に手を置いて言った。

 

「落ち着け須美、闇雲に攻めたって仕方ないよ。ステイクールだ」

 

 須美は視線をこちらに向ける。

 

「桐ヶ谷さん……」

 

 不安そうな表情をした須美に、園子や銀が語りかける。

 

「わたし達と一緒に、四人で倒そう」

 

「合宿の成果を出す。そうだろ?」

 

「乃木さんに、三ノ輪さん……皆」

 

 目の前に居る仲間達を見て、須美はようやく落ち着きを取り戻す。

 その場の全員が凛々しい雰囲気を纏い、再度バーテックスを睨む。

 

「よし、敵に近づくよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 園子の号令にその場の全員が敵に向かって走り出すと、バーテックスは次の行動に出る。

 地面に打ち下ろしていた槌を引き上げると、敵はバネのようにその足を地面に突き立てた。

 

「ッ!そのっち、盾を上に向けてくれ!」

 

「分かった!」

 

 その予備動作から敵の次の行動を予測し叫ぶと、瞬時に意図を察した園子がその槍を盾に変えて上に向ける。

 

「間に合え……!」

 

 右手の剣を背中に担ぐようにすると同時に、疾走の勢いを殺さず跳躍して盾にジャンプ台の要領で飛び乗る。

 

▽片手剣単発技▽

ソニックリープ

 

 漆黒の剣がエメラルドグリーンの輝きを纏うのと、敵が空高く飛び上がったのはそれと殆ど同時だった。

 システムアシストと園子による即席のジャンプ台によって飛距離を伸ばした跳躍、完全に上昇しきる前の敵に対してその剣を振り抜く。

 

「届けぇぇぇえーーーッ!!」

 

 新緑の光の軌跡を描く一閃は、バーテックスの脚の内一つに届いたがその一撃はクリティカルヒットには一歩届かず小さく損傷させるには留まる。浅い手応えに軽く舌打ちすると、推進力を失った体が重力にしたがって落ちていく。

 空中で上手く体勢を整えると、着地と同時に地面を蹴ってパルクールの要領で転がり受け身を取る。

 

「キリトさん!」

 

 駆け付けた三人に一言謝る。

 

「悪い、あと一歩届かなかった」

 

「いやいや、今のだって十分凄いですって!」

 

 銀がそう言ってくれるが、こうしている間にも須美が上空のバーテックスに向かって矢を居るが余りにも高度が高すぎて届かない。

 

「制空権を取られた……」

 

 悔し気に言う須美の言う通り、こうなっては地上からでは手の出しようがない。本当なら今の一撃で大きなダメージの一つでも与えておきたがったが、どちらにしろ無理矢理な賭けだったし仕方がない。

 

「降りてこいゴラァァッ!」

 

 何てまるで昭和のヤクザみたいに凄んで見せる三ノ輪銀であるが、向こうがそれで「はいそうですか」と降りてくる訳もない。それどころか、先ほどのように脚を射出して一方的に攻撃してくる始末だ。

 

「くそ、このままじゃ……」

 

 敵の攻撃にも当たりこそしないが、こっちの攻撃も届かないのならジリ貧で不利なのは確実にこっちだ。

 何せバーテックスからすれば俺達に攻撃が当たらなくても、自身の攻撃が樹海に与えるダメージは現実にフィードバックされてしまう。

 なるべく早期決着を望みたいのはこっち側なのだ。

 

 そんな心情を見透かすように、バーテックスは四本の脚を揃え、引き絞る。

 

「何か、仕掛けてくる」

 

 園子の言葉を肯定するように、バーテックスは揃えた四本の脚をまるでドリルのようにひとまとめにして目一杯捻る。

 そして、これまでとは比にならない速度でそれを打ち出した。

 

「ッ――!!」

 

 その矛先に居たのは銀だった。彼女は寸前で反応して二本の大剣を盾のようすると、巨大なドリル攻撃を受け止めた。

 

「ミノさん!!」

 

「うがぁぁぁぁあああ!!こんじょおぉぉぉぉおおおお!!」

 

 火花を散らして拮抗する矛と盾、その身体を押し潰さんばかりの一撃は尚も止まる事なく銀を襲う。

 

「一分は持つ、その隙にやれ!」

 

 叫ぶ銀。

 本来なら一瞬耐えるだけでも称されるべき一撃に、一分も間耐え続けて見せる言ってのけた。

 上空のバーテックスを睨む。せめて何か、数メートルの足場と推進力さえあれば……

 

「でも、それじゃあ三ノ輪さんが!」

 

 今も尚、身体の至る所から血を流しながらも耐える銀に須美は目を瞑った。

 その拳は震えていて、その葛藤は俺にも痛いほどに分かる。

 確実に広がる現実への浸食と確実に限界が近付く銀の身体……だが、ここで迷っている訳には行かない。今の俺達には一秒だって思考に費やす暇は無いんだ。

 

「須美………」

 

 俺が言おうとした時、遮るように声を張り上げるもう一人の少女が居た。

 

「わたし達で敵を叩くよ!!」

 

 槍を反撃の旗印とするように振り、その形状を変化させて上空のバーテックスへと伸びる階段に変わる。

 

「っ……おう!」

 

 その一声で自分に対しても、気合いを入れる。それから、唖然としている須美に向かって言った。

 

「須美、矢を最大までチャージをしてくれ!そして、あの足場を上り切ったらその矢を俺に向かって打つんだ!」

 

「なっ!?正気ですか!そんな事したら……」

 

「頼む、信じてくれ!」

 

 奴を確実に倒しきるにはこれしかない。

 須美はそれでも一瞬迷ったようだったが、やがて意を決したように頷いた。

 

「分かりました、桐ヶ谷さんを信じます」

 

「ありがとう。よし、行くぞ!」

 

 園子の作り上げた足場を駆け上がる。

 須美も後方から追いかけ、その手には今まさに最大までチャージされようとしている弓矢が握られている。

 チャンスは一度、失敗すれば銀は勿論、園子と須美、俺だって只では済まない。

 成功させる。大丈夫、これくらいの試練、SAO(あの世界)で何度だって乗り越えてきたはずだ。

 

「ワン、ツー……」

 

 カウントを取り、最後の足場に到達すると同時に全力で跳躍。

 

「いま!」

 

 飛び上がったと同時に姿勢を反転させる。

 そこには同じく足場から跳び、最大チャージされた矢をこちらに向ける須美の姿があった。

 その瞳にもはや迷いはなく、自身に課せられた役割を果たすことのみに全ての意識が集中されている。

 

「イッケエェェ!」

 

 特大の力の込められた矢が放たれる。それに合わせて、俺はソードスキルを発動させた。

 

▽片手剣防御技▽

スピニング・シールド

 

 右手に握る漆黒の剣を高速で回転させる。

 高速回転する剣の中心に須美の放った矢が着弾して、コンマ数秒の溜めの後に爆ぜる。

 

「ぐっ……」

 

 四肢がバラバラになってしまうんじゃないかと錯覚する程の衝撃が、体全体を駆け抜ける。

 訓練の時に一度受けて分かってはいたが、やはり凄い威力の矢だ。

 それでも、繋ぐことは出来た。

 駆け抜けた衝撃は激烈な推進力となって体を後押しし、足場を介しても俺一人の跳躍力では届かない高さに居るバーテックスの頭上にまで到達する。

 

「これで決める!」

 

▽二刀流8連撃技▽

ナイトメアレイン

 

 血のようなワインレッドのライトエフェクトが二刀を包み込み、神速の八連撃を牛型の巨体に放つ。

 左右、斜めから二刀を同時に振り、それを四回に渡って叩き込む重攻撃技は、バーテックスの巨体に重大な損傷を刻む。

 

「はああああっ!!」

 

 最後の二刀同時の垂直切り上げを放つと、バーテックスはとうとうバランスを崩して落下し始める。

 

「あと少し……」

 

 鎮火の儀を行うにはもっと弱らせる必要がある。

 無理矢理スキルコネクトで身体を突き動かそうとした時、一閃の流星がバーテックスを貫いた。

 

「ここから、出ていけぇーーーー!!」

 

 それは他ならない俺達の足場を作り出してくれた園子だった。

 その二刀で切り裂いた俺と、槍で貫いた園子はそのまま樹海に落下するとボロボロになりながらも叫んだ。

 

「ミノさん!」

 

「銀!」

 

「砕けえぇぇぇ!!」

 

 バーテックスの巨体が落下していく先に居るのは同じくボロボロになった銀、だがその瞳には有らん限りの闘志が宿っていた。

 

「三倍にして返してやる。釣りは取っとけえぇぇぇえーーーー!!」

 

 炎の如き熱を纏い、赤い花弁を散らしながらその大剣二振りに全死力を込めて放つ。

 敵を屠り切るまで止まる事のない連撃は、バーテックスの体を細切れのようにバラバラに砕いて行く。

 

「お"ッ、りゃあああぁぁぁぁああ!!」

 

 最後の一閃を残ったバーテックスの中枢に叩き込むと、樹海から光が立ち上っていく。

 

「やったな」

 

 それは彼女達の勝利を示す神の祝福。

 

「鎮火の儀……今回も、終わったんだ」

 

 その言葉は事実にその世界からバーテックスを何処へともなく追い出し、樹海は立ち昇る花弁と光によって覆い尽くされた。

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